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*本ニューズレターは、日本知的財産協会『知財管理』(Vol.71 No.8(No.848)8月20日発行)に掲載された同タイトルの論文を転載したものである。
 
抄 録 近時、新型コロナウイルスの蔓延に伴う緊急事態宣言の発令やテレワークの広がり等の要因により、電子契約の導入ないしその検討が急速に進みつつある。もっとも、一言に電子契約と言っても、署名方法等の違いにより様々なものがあるほか、事業者が提供する電子署名サービスも複数存在する。しかも、電子契約においても、なりすましや無権限者により利用されるリスクを完全には排除することはできないことからすれば、電子契約の導入は単純な問題とは言えないように思われる。本稿では、電子契約の導入やその検討に際して考慮すべき事項について、電子契約の特徴や導入の意義、また導入に伴うメリットやデメリットを踏まえて検討すべきポイントを説明する。
 
目 次
1 はじめに
2 書面契約と電子契約
2.1 契約書を作成する意義
2.2 署名・押印の意義
2.3 電子契約とは
2.4 タイムスタンプ
3 電子契約に関連する法律
3.1 電子署名法
3.2 電子帳簿保存法
4 電子契約の種類と証拠力
4.1 電子署名と電子サイン
4.2 本人型電子署名
4.3 事業者型電子署名
4.4 形式的証拠力と実質的証拠力
5 電子契約の導入検討と留意点
5.1 導入のメリット
5.2 デメリットと留意点
5.3 検討すべきポイント
6 海外取引と電子契約
7 おわりに
 
1 はじめに

 

本稿においては、新型コロナウイルスの蔓延に伴う緊急事態宣言の発令やリモートワークの広がり等をきっかけとして電子契約の導入が進みつつある現状に鑑みて、電子契約を導入するメリットとデメリット、及び導入に当たって検討しておくべき留意点を述べる。

 

2 書面契約と電子契約

 

2.1 契約書を作成する意義

 

契約は、契約当事者間で「申込み」と「承諾」の意思表示が合致することによって成立するため、法令に特別の定めがある場合を除いて、書面(契約書)の作成は必要とされていない(民法522条2項)。また、契約当事者による契約書への署名(記名)や押印も契約を有効に成立させるための要件とはされていない。

それにもかかわらず、契約書を作成することの重要な意義の1つは、当該書面が合意内容を証明する証拠となることにある。契約当事者の一方が合意内容を任意に履行せず、裁判所等の公的紛争解決手段を通じて債務の履行を求める必要が生じた場合、契約書は債務の存在を証明する最も有力な証拠として機能する。

 

2.2 署名・押印の意義

 

文書上になされた署名・押印は、当該文書が民事訴訟に証拠として提出された場合にとりわけ重要な役割を有する。

特定の事実を証明するために文書を証拠として提出する場合には、まず当該文書が作成名義人の意思に基づいて作成されたものであることを証明しなければならない(形式的証拠力。民事訴訟法228条1項)。形式的証拠力が欠ける場合、文書上の表現(記載内容)の効果を作成名義人に帰属させることができなくなるから、文書の記載内容が真実であることや証拠力を有することを主張する前提として、まず上記を証明することが求められる。文書が作成名義人の意思に基づいて作成されていることは、「文書の成立が真正である」と表現される。

一般的には、民事訴訟において形式的証拠力が争いとなる場面は比較的少なく、訴訟の相手方が文書の成立の真正を争わない限りは、積極的に形式的証拠力を立証する必要も生じない。しかしながら、成立の真正が争いとなった場合において、挙証者(その文書によって特定の事実を証明しようとしている者)が文書の作成に関与していない場合などは、成立の真正を立証することは困難である。

そこで、民事訴訟法228条4項は、「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する」と定め、本人又はその代理人がその意思に基づいて署名又は押印を行ったことが証明された場合は、当該書面が作成者の意思に基づいて作成された(文書が真正に成立した)ものと推定する推定規定を置いている。

このような民事訴訟法による推定に加えて、判例は、我が国における実印その他の印章の管理に関する社会実態を踏まえて、書面上の印影が本人(作成名義人)の印章によって作出(押捺)されたものである場合、当該印影は本人が自ら印章を押捺して作出されたと考えられるとして、本人又はその代理人がその意思に基づいて押捺を行ったと事実上推定できるとする(最判昭39・5・12)。

これらの2つの推定は、合わせて「二段の推定」と呼ばれ、書面上の印影が実印によるものである場合は、印鑑登録証の印影と照合することによりそれが本人の意思に基づき押捺されたものであること(上記判例で判示される一段目の推定の問題)、また、当該文書が本人の意思に基づいて作成されたものであること(上記民事訴訟法で規定される「二段目の推定」の問題)が推定され、これらを比較的容易に立証することが可能となる。

他方で、これらはあくまでも「推定」に過ぎないため、書面に本人の印章による印影が認められる場合であっても、推定を覆す事情(例えば、一段目の推定に対しては、印章の紛失・盗用・目的外使用などによって他人が自由に印章を使用できる状況であった場合や印章が複数人で共用されていた場合、「二段目の推定」に対しては、本人の押捺後に第三者が文書の内容を加筆・訂正した場合など)が認められる場合は、推定が覆り、文書の成立の真正は認められないことになる。

 

2.3 電子契約とは

 

電子契約とは、一般に、紙ではなく電磁的記録により作成された「契約書」をいう。

紙で作成された「契約書」との大きな違いは、契約書に施される「署名」の方式である。電磁的記録である電子契約に対して行われる「署名」の方式は多様であり、紙で作成された契約書に対して行われる署名・押印に類似したもの(例えば、タッチパネル上に指やペンを用いて署名を行う方法や作成名義人の署名や印影の画像データを貼り付ける方法など)のほか、「ディジタル署名」を用いた方法も存在する。

ディジタル署名は、暗号化とその復号(暗号化の解除)に別々の鍵(公開鍵と秘密鍵)を用いる「公開鍵暗号方式」と認証局(Certification Authority。CA)が発行する「電子証明書」を利用して行われるものであり、ディジタル署名が付された電磁的記録の本人性(その電磁的記録がディジタル署名を行った者の作成に係るものであること)と非改ざん性(その電磁的記録について改変が行われていないこと)を確保することが可能となる。

この点について補足して説明すると、「公開鍵暗号方式」における公開鍵と秘密鍵の間には、公開鍵で暗号化した暗号文はペアである秘密鍵でしか復号できず、反対に、秘密鍵で暗号化した暗号文はペアである公開鍵でしか復号できないという関係にある。ディジタル署名は、このような「公開鍵暗号方式」の関係のうち、「秘密鍵で暗号化した暗号文はペアである公開鍵でしか復号できない」という特徴を利用して、以下のような手順で行われる(後記図1参照)。
①文書の送信者が、自身の公開鍵を認証局に登録して、当該公開鍵が文書の送信者の公開鍵であることを証明するための電子証明書の発行を受ける(印章と印鑑証明書の関係を想定されたい。)。
なお、電子証明書には送信者の公開鍵が格納されている。
②文書の送信者が、送信する文書をハッシュ化(ハッシュ関数という計算手法を用いて、固定長の疑似乱数(ハッシュ値)を生成すること。同じデータからは同じハッシュ値が得られるが、少しでもデータが異なると全く別のハッシュ値が生成される。)した上で、自身の公開鍵に対応する秘密鍵を用いて暗号化する(ディジタル署名の生成)。
③文書の送信者が、文書、ディジタル署名及び電子証明書を受信者に対して送信する。
④文書の受信者が、(i)受信した文書をハッシュ化した値と、(ii)ディジタル署名を電子証明書に格納されている公開鍵を用いて復号して得られるハッシュ値を比較して、同じ内容であることを確認する。

 

1 ディジタル署名の流れ【PDFをご参照下さい】

 
このような「署名」方法の違いは、どのような要件を満たせば成立の真正を立証することができるかという点の違いとなって現れる。

 

2.4 タイムスタンプ

 

電子契約と関連する技術的措置として、タイムスタンプが存在する。タイムスタンプは、信頼される第三者機関である時刻認証局(Time Stamp Authority。TSA)が電磁的記録に対して付す時刻情報を含んだ電子データであり、ある時刻に当該電磁的記録が存在していたこと、及び当該時刻より後に改ざんされていないことを保証するものである。知的財産分野では、知的財産権情報の存在証明を行う等の目的で利用されることが多い。

ディジタル署名とタイムスタンプを併用することにより、電子文書について、誰がいつ作成したものであるか、及び当該時点以降に改ざんされていないことを確保することが可能となる。また、タイムスタンプを利用することにより、後述する電子帳簿保存法施行規則が定める電子取引の保存要件を満たすことが可能となる。

 

3 電子契約に関連する法律

 

電子契約に関連する法律には、電子署名及び認証業務に関する法律(平成12年法律第102号、以下「電子署名法」という。)と電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(平成10年法律第25号、以下「電子帳簿保存法」という。)の2つがある。

 

3.1 電子署名法

 

電子署名法は、電子契約の観点から考えると、電子契約について成立の真正が推定される要件を定めた法律といえる。

 

電子署名法2条は、同法にいう「電子署名」は、以下の3つの要件を満たすものであると定義する。

①電磁的記録に記録することができる情報について行われる措置であること

②当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること

③当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるためのものであること

 

その上で、電子署名法3条は、電磁的記録(ただし、公務員が職務上作成したものを除く。)に対して「本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)」が行われている場合に、当該電磁的記録の成立の真正が推定されると定めている(以下「電子署名法3条の推定効」という。2.2で説明した「二段目の推定」にあたる)。

「電子署名法3条の推定効」が働くための要件を整理すると、以下のとおりとなる。

① 電子文書に電子署名法3条に規定する電子署名が付されていること

ア 電子署名法2条における「電子署名」に該当すること

イ 当該電子署名が「これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるもの」であること

② 当該電子署名が本人(電子文書の作成名義人)の意思に基づき行われたものであること

 

我が国において展開されている「電子契約」は様々存在するが、各電子契約(電子署名)サービスにおいて、具体的にどのような要件が満たされれば推定効が働くのかについては、後記で説明する。

 

3.2 電子帳簿保存法

 

電子帳簿保存法には、電子取引に係る取引情報を電磁的記録として保存する必要が生じる場合の要件が定められている。

電子帳簿保存法10条は、所得税(源泉徴収に係る所得税を除く。)及び法人税に係る保存義務者が「電子取引」を行った場合は、「財務省令の定め」に従って当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならないと定めている。

「電子取引」とは、取引情報(取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項をいう。)の授受を電磁的方式により行う取引をいい(法2条6号)、電子契約もこれに含まれる。

また、電子帳簿保存法10条にいう「財務省令」とは、電子帳簿保存法施行規則8条1項各号を指しており、「財務省令の定め」に従うためには、次の4つの措置のうち、いずれかを講じる必要がある。

①当該電磁的記録の記録事項にタイムスタンプが付された後、当該取引情報の授受を行うこと

②当該取引情報の授受後遅滞なく、当該電磁的記録の記録事項にタイムスタンプを付すとともに、当該電磁的記録の保存を行う者若しくはその者を直接監督する者に関する情報を確認することができるようにしておくこと

③当該電磁的記録の記録事項について、(i)訂正又は削除を行った場合にはその事実及び内容を確認することができるか、若しくは、(ii)訂正又は削除を行うことができない電子計算機処理システムを使用して当該取引情報の授受及び当該電磁的記録の保存を行うこと

④当該電磁的記録の記録事項について正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規程を定め、当該規程に沿った運用を行い、当該電磁的記録の保存に併せて当該規程の備付けを行うこと

 

これらの4つの措置のうち、①と③は、令和2年(2020年)10月1日から施行されている改正後の電子帳簿保存法施行規則によって利用可能となったものである。

 

4 電子契約の種類と証拠力

 

我が国で展開されている「電子契約」は様々存在するが、これらを分類する観点としては、①電子契約に付される「署名」が電子署名法2条の定義する「電子署名」に該当するか(加えて、「電子署名法3条の推定効」が及ぶか)という観点と、②「電子署名」が誰によって行われるか(契約当事者本人による「本人型」か、契約当事者以外の電子契約サービス事業者等の第三者による「事業者型」か)という2つの軸から分析されることが多い。

 

4.1 電子署名と電子サイン

 

前述したとおり、電磁的記録である電子契約に対して行われる「署名」の方式は多様であるが、一般には、電子署名法2条における「電子署名」の要件を明確に満たすもの(典型的には、認証局が発行する電子証明書を用いた「ディジタル署名」)を「電子署名」と呼称し、これに当たらないもの(例えば、文書上に作成名義人の署名の画像データを貼付するなどして、本人性の確認を電子証明書には依拠せずに、メール認証や多段階認証のみによって行うもの)は「電子サイン」と呼称することが多いように見受けられる。したがって、以下では本稿も当該呼称に従う。

「電子署名法3条の推定効」が働き得る「電子署名」がなされた電子契約は以下で説明するとおりであるが、これに対して、「電子サイン」がなされた電子契約には基本的には電子署名法の適用がない。そのため、「電子署名法3条の推定効」も働かない。しかしながら、この場合であっても成立の真正を立証すること自体は可能であるとされている1)

例えば、既に継続的な取引関係がある相手方と電子契約を締結する場合であれば、取引先責任者との間で送受信された電子メールのメールアドレス・電子メール本文及び日時や送受信記録等によって、新規に取引関係に入る相手方と電子契約を締結する場合であれば、契約締結前段階での本人確認情報(氏名・住所等及びその根拠資料としての運転免許証など)、及び本人確認情報の入手過程でやりとりをした資料(郵送物や電子メールに添付したPDF等)に加えて、契約締結に至るまでにやりとりがなされた文書や電子メール(契約交渉や成立過程について記載されたもの)等によって、成立の真正を立証することは可能である。

裁判例上も、相互極度貸付契約に基づく貸金債権を目的とする準消費貸借契約に基づく貸金返還請求に関して、相互極度貸付契約上の電子署名は貸主が借主に無断で行ったものであるとして契約の成立の真正が争いとなった事案において、借主が準消費貸借契約の締結に応じていた事実などから、相互極度貸付契約における借主名義の電子署名は借主の意思に基づくものであると認めた裁判例が存在する(東京地判令1・7・102))。

以上のとおり、電子署名法2条において定義される「電子署名」が付されることは、成立の真正を立証するための必要条件ではないことには注意を要する。

 

4.2 本人型電子署名

 

電子署名には、契約当事者本人による「本人型」電子署名、契約当事者以外の電子契約サービス事業者等の第三者による「事業者型」電子署名(立会人型電子署名とも呼ばれる)があり、前者については、「ローカル型」と「リモート型」という分類がなされることがある。以下それぞれについて、簡単に説明する。

 

(1)ローカル型

 

本人型電子署名(ローカル型)は、電子署名を行う本人が秘密鍵(署名鍵)や認証局へ登録を行って発行を受けた電子証明書を用いたディジタル署名を行うことで、電子契約の本人性と非改ざん性を確保することが可能となる。このようなディジタル署名は、電子署名法2条における①電磁的記録に記録することができる情報について行われる措置であること、②当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること、及び③当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるためのものであることの各要件を満たし、電子署名法2条の「電子署名」に該当する。

そのため、秘密鍵が適切に管理されており、電子署名を当該契約当事者のみが行うことができると認められるのであれば、「これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができること」(要件①イ)、「当該電子署名が本人(電子文書の作成名義人)の意思に基づき行われたものであること」(要件②)という要件を満たし、「電子署名法3条の推定効」が及ぶこととなる。

秘密鍵は通常、ICカード等の「物件」に格納された上で、手許で管理されることが想定されるため、そのような物件の管理状況が重要となる。

 

(2)リモート型

 

本人の秘密鍵を用いて行う電子署名に関しては、契約当事者が秘密鍵の管理を第三者に委託し、必要に応じて契約当事者が当該第三者に指示して電子署名を行わせるという形態も観念できる(リモート型)。

このようなリモート型電子署名の場合、物理的に電子署名を行っているのは、契約当事者ではなく契約当事者の指示を受けた第三者であるため、「当該情報(注:電子契約)が当該措置(注:電子署名)を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること」(要件②)という電子署名法2条の要件を満たすかが問題となる。

この点に関しては、総務省、法務省及び経済産業省が令和2年7月17日に公表した「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法2条1項に関するQ&A)」3)(以下「2条Q&A」という。)により、一定の要件を満たす場合は、電子署名法2条の「電子署名」の要件を満たすとの見解が示された。

具体的に言えば、2条Q&Aでは、電子署名法2条1項1号の「当該措置を行った者」に該当するためには、必ずしも物理的に当該措置を自ら行うことが必要となるわけではなく、契約当事者の意思のみに基づいて第三者の意思が介在することなく電子署名が行われる仕組みが取られている限りでは、電子署名法2条の「電子署名」に該当すると考えることは可能であるとされている。

その上で、物理的に電子署名を行う第三者が、本人から預かった電子証明書等を管理するサーバを安全に管理運営しており、「これを行う為に必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるもの」(要件①イ)という要件を満たすと認められる限り、「電子署名法3条の推定効」も及ぶこととなる。

 

4.3 事業者型電子署名

 

(1)電子署名該当性と推定効

 

事業者型電子署名とは、電子契約に契約当事者の電子署名ではなく、サービス提供事業者の電子署名を行うものである。事業者型は、近時その利用が拡大しており、上記の本人型電子署名のように利用者自身が認証局から電子証明書の発行を受ける必要がないことから、容易に電子契約の利用を開始することができるという利点がある。

事業者型では、契約当事者の電子証明書が用いられず、かつ電子署名を行う主体も契約当事者ではないことから、リモート型署名と同様に、そのような「署名」が電子署名法2条の「電子署名」の要件を満たすかについて議論があった。しかし、上述した2条Q&Aにより、一定の要件を満たすことでこれに該当する場合があるとの見解が示されている。

具体的には、「技術的・機能的に見て、サービス提供事業者の意思が介在する余地がなく、利用者の意思のみに基づいて機械的に暗号化されたものであることが担保されていると認められる場合」であれば、契約当事者が電子署名法2条1項1号における「当該措置を行った者」であると評価可能であるとされている。さらに「例えば、サービス提供事業者に対して電子文書の送信を行った利用者やその日時等の情報を付随情報として確認することができるものになっているなど、当該電子文書に付された当該情報を含めての全体を1つの措置と捉え直すことによって、電子文書について行われた当該措置が利用者の意思に基づいていることが明らかになる場合」であれば、「当該措置を行った者(=当該利用者)の作成に係るものであることを示すためのものであること」という要件(電子署名法2条1項1号)全体を満たすとの考えが示されている。

上記の見解によれば、電子契約サービスの内容によっては当該要件を満たさないものもあり得ることになるため注意を要する。

また、事業者型電子署名を用いた場合であっても、一定の場合には「電子署名法3条の推定効」(「二段目の推定」)を受けることが可能であると考えられている。

この点に関しては、総務省、法務省及び経済産業省が令和2年9月4日に公表した「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法3条に関するQ&A)」4)(以下「3条Q&A」という。)により、十分な暗号強度を備えているなどによって、他人が容易に同一のものを作成することができないという「固有性の要件」を満たすことが必要であるとされている。

この「固有性の要件」を満たすには、①利用者とサービス提供事業者の間で行われるプロセス、及び、②前記①における利用者の行為を受けてサービス提供事業者内部で行われるプロセスのいずれにおいても十分な水準の固有性が満たされている必要があり、これらは「システムやサービス全体のセキュリティを評価して判断される」とされている。

3条Q&Aは、上記の各プロセスにおいていかなる場合に十分な水準の固有性が満たされているといえるかに関して、以下①②のような要素を示している。

①利用者とサービス提供事業者の間で行われるプロセス

利用者が2要素による認証を受けなければ措置を行うことができない仕組みが備わっているような場合(例えば、利用者が、あらかじめ登録されたメールアドレス及びログインパスワードの入力に加え、スマートフォンへのSMS送信や手元にあるトークンの利用等当該メールアドレスの利用以外の手段により取得したワンタイム・パスワードの入力を行うことにより認証するものなど)

②前記①における利用者の行為を受けてサービス提供事業者内部で行われるプロセス

サービス提供事業者が当該事業者自身の秘密鍵により暗号化等を行う措置について、暗号の強度や利用者毎の個別性を担保する仕組み(例えばシステム処理が当該利用者に紐付いて適切に行われること)等に照らし、電子文書が利用者の作成に係るものであることを示すための措置として十分な水準の固有性が満たされていると評価できるものである場合

 

上記の見解によれば、電子契約サービスであればいかなる場合であっても「固有性の要件」を満たすとは限らない点には注意が必要である。

 

これに対し、二段の推定のうち、一段目の推定(前記最判昭39・5・12参照)が電子契約にも及ぶかどうかについては、現段階では確定的な考えは定まっていない。もっとも、秘密鍵等が適正に管理され、本人のみがこれを行うことができるということが担保されていれば、一段目の推定を認めるという考えはあり得るものであり、無権限者による秘密鍵の目的外使用がなされた事実やハッキングや暗号解読等による流出等の事実は、かかる推定に対する反証となる。

 

(2)身元確認

 

以上のとおり、「電子署名法3条の推定効」が及ぶ場合は、成立の真正が推定されることとなる。しかしながら、事業者型電子署名の場合、身元確認を経た上で認証局から発行される電子証明書を用いた本人型とは異なり、そもそも契約当事者以外の者(契約権限を有しない者)が契約当事者を騙って電子署名を行っているという「なりすまし」リスクがあり得る。

このようななりすましリスクを回避するためには、契約の相手方について適切な身元確認がなされていることが重要であり、当該電子署名サービスにおいてどのような水準での身元確認が要求されているのか(例えば、対面での公的身分証明書を用いた身元確認を行うのか、自己申告を基にした身元確認に留まるのか等)については十分に検討しておく必要がある。なお、想定できる身元確認方法としては、経済産業省が令和2年4月17日に公表した「オンラインサービスにおける身元確認手法の整理に関する検討報告書」5)が参考になると思われる。

 

4.4 形式的証拠力と実質的証拠力

 

なお、以上で説明したように、文書が作成者の意思に基づいて作成されたものであると認められることを形式的証拠力というが、これにより、文書の記載内容が真実であるかどうかは全く別の問題である(文書の記載内容が真実であると認められることを実質的証拠力という)。二段の推定によって、文書の記載内容が真実であることまでが推定されるわけではないことから、注意が必要である。

 

5 電子契約の導入検討と留意点

 

5.1 導入のメリット

 

電子契約を導入するメリットとしては、以下のようなものが指摘されている。

まず、紙で作成された契約書の場合、一定の類型の契約書については、定められた額の収入印紙を貼付する必要があるが(印紙税法2条)、電子契約については、現時点では収入印紙の貼付は不要とされている。その意味で一定のコストを省くことはできる。ただし、秘密保持契約や共同研究開発契約、ライセンス契約等の契約は、紙の契約であっても収入印紙の貼付は不要とされているから、この点において電子契約を導入するメリットはさほど大きくないように考えられる。

また、印刷・製本、相手方への交付・郵送等のオペレーションを削減することによる生産性や効率性の向上が期待できる。この点は、リモートワークが主流となる状況においては導入に向けての一定の動機となり得る。

加えて、前述した電子帳簿保存法施行規則において求められているタイムスタンプを付しておくことにより、成立した契約書をバインダーやキャビネットなどで保管する必要がなくなり、物理的設備が不要となる。

さらに、組織内における契約書や契約内容の一元管理が可能となるという利点もある。

 

5.2 デメリットと留意点

 

他方で、電子契約のデメリットとしては、以下のようなものが指摘されている。

まず、本人型電子契約の場合、認証局への登録や電子証明書の発行手続が必要となるなど、導入に相当のコストが必要となる。また、契約当事者双方が電子契約に本人型電子署名を行うことが前提とされている場合は、相手方が認証局への登録や電子証明書の発行を受けていない場合には利用が困難となる。

他方で、本人型と比較した場合、事業者型電子署名は、煩雑な手続を経ることなく電子契約の利用を開始することができるという点に利点がある。しかしながら、「電子署名法3条の推定効」の有無については上記で説明したとおりであるが、確立した見解が存在するわけではない点に注意を要する。

なお、ディジタル署名に用いられる電子証明書には一定の有効期限(通常は1年から3年程度であることが多く、最長でも5年である)が存在するため、その有効期限が過ぎた後は、ディジタル署名の有効性も失われることとなる。タイムスタンプがディジタル署名方式を用いたものである場合も同様である。なお、ディジタル署名に用いられるハッシュ関数や暗号技術が危殆化した場合にも、当該ディジタル署名の有効性が失われることがある。

このような事態を回避し、長期に渡って本人性と非改ざん性を保ちながら電子契約ファイルを保存しておくためには、過去のある時点における電子署名の有効性を検証するための措置を別途講じておかなければならない(なお、これに対しては、いわゆる長期署名6)によって、事実上有効期限を延長することが考えられる。)。

また、事業者型の場合、当該電子契約サービス事業者が提供する電子契約サービスが終了した場合の対応についても検討しておく必要がある。

 

5.3 検討すべきポイント

 

以上に加えて、電子契約の導入を検討する際に重要となるのが、リスクベースでの検討である。

すなわち、紙の契約書を締結する場合であっても、電子契約を導入する場合であっても同様であるが、契約に係る文書や電磁的記録についての成立の真正が争いとなる可能性や、なりすまし、あるいは無権限者による署名・押印がなされるリスクを完全には排除することはできない。むしろ、電子契約の利便性故にかかるリスクが高まることも考えられるのではないだろうか。

つまり、上述のように、利用者が2要素による認証を受けなければ電子署名に係る措置を行うことができない仕組みが備わっているような場合であっても、それのみでは、直ちに当該措置を行う者が会社内において契約締結権限を有していることが担保されているとはいえない。そのため、契約の相手方の契約締結権限や必要な社内手続きを確認する必要も生じてくる(代表者名義で、契約締結権限を有する者の氏名・メールアドレス等について別途書面での提出を求めるほか、基本契約書等に契約締結権限を有する者の氏名・メールアドレス等を記載する方法等様々な方法が考えられる。)。

他方で、自社内においても、電子契約に係る措置を濫用できないような仕組みとすることが必要となる。これはいわばコンプライアンス体制をどのように見直すかという問題でもあり、現状における紙の契約書を前提とした契約締結のための社内稟議の手続や印章の管理及びこれらについての社内体制・規程の整備に関する枠組みを、電子契約の導入を前提として改定する必要があることを意味する。

一般的には、既に紙で締結している契約書の一部を電子契約に置き換えることが検討されることが多いと考えられるため、基本的には紙の契約書と同等のリスク対応を行うことを目標として電子契約サービスの導入や選択を行うことを基本的な方針とすることが望ましいように考えられる。

具体的には、無権限者による契約締結が行われたとしても比較的インパクトが小さい類型・金額の契約については電子サインによる締結を可能とするが、一定程度以上の重要度が高い契約や金額の大きい契約については電子署名やタイムスタンプを付与することを必須とするなどの使い分けを行うことも指摘されている(もっとも、このような使い分け自体が工数を増やすことになる場合がある。)。なお、一般的には印章については印章管理規程を定めて適切な管理を行っている例が多いと思われるが、電子契約を導入する場合も同様に、電子契約の利用に関する社内規程(印章管理規程のほか文書管理規程、業務分掌規程など)を整備する必要がある。

 

 

6 海外取引と電子契約

 

海外においては、我が国のような押印文化が主流でないこともあり、相対的に我が国よりも電子契約が普及している状況にあるといえる。実際、EUや米国、中国といった主要国に限らず、多くの国において電子契約に関する法律が制定されている(例えば、EUの“electronic Identification, Authentication and trust Services(eIDAS)”、米国の“Electronic Signatures in Global and National Commerce Act(E-SIGN)”、中国の“Electronic Signature Law of the People’s Republic of China”、台湾の“Electronic Signature Act”など。なお、米国においてはかかる連邦法の他に、州ごとの規制が存在する。)。

各国の規制においては、電子署名の要件や法的効果(有効性や証明力等)等が定められているが、日本と同様に、一定の契約類型については書面による契約を行うことが必要条件として定められていることが多い。また、法制度は整備されているものの、実務上の取扱いに不透明な部分があることも想定されるため、特定の国の法律の下で締結する電子契約に有効性が認められるか、意図したとおりの法的効果を実現できるかなどの点については、あらかじめ検討しておく必要がある。

とりわけ外国企業が提供する電子契約サービスには、海外との契約に利用可能であることを特色とするものが存在する。特に、メールの送信元のなりすましのリスクは海外の方がより高く、その他のトラブルも多いということも指摘されているところであり、海外取引を行う機会が多いということであれば、そのような電子契約ソリューションを選んで導入することも十分検討に値するであろう。しかしながら、その場合であっても、外国企業が提供する電子契約サービスが我が国の電子署名法や電子帳簿保存法が求める要件を満たしているかについては慎重に検討しておく必要がある。反対に、国内企業が提供する電子契約サービスを導入する場合も、当該サービスが契約締結を予定している国の法令において有効な電子契約ソリューションとされているかについて十分に検討しておく必要がある。

 

7 おわりに

 

 

以上のとおり、本稿では、電子契約の概念やこれに関連する技術、法令等を概観してきた。電子契約を導入することには、生産性や効率性の向上などのメリットが存在していることは確かである。もっとも、電子契約の導入に伴うデメリットや紙の契約書を締結する場合と比べたリスク等を適切に把握・整理した上で、社内コンプライアンス体制も含めてどのように電子契約を導入するのが適切かを検討することが望まれる。

 

1) 内閣府・法務省・経済産業省、押印に関するQ&A
https://www.meti.go.jp/covid-19/ouin_qa.html

2) 平成29年(ワ)第11641号貸金等返還請求事件

3) 総務省・法務省・経済産業省、利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法2条1項に関するQ&A)
https://www.meti.go.jp/covid-19/denshishomei_qa.html

4) 総務省・法務省・経済産業省、利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法3条に関するQ&A)

https://www.meti.go.jp/covid-19/denshishomei3_qa.html

5) 経済産業省、オンラインサービスにおける身元確認手法の整理に関する検討報告書を取りまとめました。https://www.meti.go.jp/press/2020/04/20200417002/20200417002.html

6) 過去の特定時点におけるディジタル署名が有効であったことを検証できる情報と併せてタイムスタンプを付与しておき(アーカイブタイムスタンプ)、暗号アルゴリズムが危殆化する前に、その時点での最新の暗号技術を用いた次のアーカイブタイムスタンプを付与し暗号化をし直すことで、電子署名の効果を延長することをいう。

(URL参照日は全て2021年5月6日)