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2023.09.13

企業法務の観点から注目される最近の主な裁判例(2023年8月号)

牛島総合法律事務所 訴訟実務研究会

<目次>
1. 商事法
2. 民事法・民事手続法
3. 労働法
4. 知的財産法

裁判所ウェブサイトや法務雑誌等で公表された最近の裁判例の中で、企業法務の観点から注目される主な裁判例を紹介します(2023年8月)。

下記1(1)(東京高決令和4617日)は、株式併合に係る株主総会決議後に株式を譲り受けた者について、買取価格決定の申立てが認められるか否かが問題となった事案です。本決定は、期限までに株式買取請求権を行うことができるように検討及び準備をしておくことが十分に可能であったとして、買取価格決定の申立てを認めるのを相当とする特段の事情の存在を否定し、申立てを却下した原審の判断を是認しました。

下記1(2)(大阪地判令和4520日)は、大手ハウスメーカーが地面師グループに土地の架空取引で約55億円をだまし取られた詐欺事件として社会的耳目を集めた事件につき、同社の株主が、経営判断に誤りがあったなどとして、当時の代表取締役社長及び取締役副社長(経理財務部門の最高責任者)を被告として提訴した株主代表訴訟の第一審判決です。本判決は、いわゆる経営判断原則及び信頼の権利を認め、被告らの責任を否定しました。なお、その後の控訴審判決(大阪高判令和4年12月8日)も本判決を支持し、株主の控訴を棄却した旨が報じられています。

下記2(1)(大阪地判令和5年3月2日)は、大学運動部の監督(X)がコーチ(Y)からモラルハラスメント行為を受けたことにより精神的苦痛を被ったとしてYに対する損害賠償請求を行ったのに対し、Yが反訴としてXの記者会見における発言等が名誉毀損に当たるとして損害賠償請求を行った事案です。本判決は、Yのモラルハラスメント行為が認められないとしてXの本訴請求を棄却し、Yの反訴請求を一部認容しました。セクシャルハラスメントやパワーハラスメントの違法性については相当数の裁判例があるものの、モラルハラスメントの違法性について判断した先例は乏しく、本判決の判断が参考になります。

1. 商事法

(1) 東京高決令和4年6月17日(判例タイムズ1509号94頁)

株式併合に係る株主総会決議後に株式を譲り受けた者は、会社法182条の4第2項2号所定の「当該株主総会において議決権を行使することができない株主」には当たらないとされた事例

(2) 大阪地判令和4年5月20日(判例タイムズ1509号189頁)〔積水ハウス株主代表訴訟〕

第三者による詐欺行為によって会社が不動産の売買代金名下に金銭をだまし取られた取引に関する取締役の判断について、善管注意義務ないし忠実義務に違反する任務懈怠があるとは認められなかった事例

(3) 名古屋高判令和4224日(判例時報255842頁)

証券会社の従業員による勧誘行為につき説明義務ないし情報提供義務違反、実質的一任売買の違法があるとして、証券会社と当該従業員に対する損害賠償請求が一部認容された事例(過失相殺7割)

2. 民事法・民事手続法
(1) 大阪地判令和5年3月2日(判例タイムズ1509号148頁)

本訴被告からモラルハラスメント行為を受けた旨の本訴原告の発言等について名誉毀損を理由とする不法行為責任を認めた事例

(2) 東京地判令和4年12月8日(判例タイムズ1510号229頁)

芸能事務所が専属契約終了後においても無期限に芸能人自身による芸名の使用を当該事務所の承諾に係らしめる条項が公序良俗に反し無効であるとされた事例

(3) 東京高決令和4119日(判例タイムズ1510173頁)

プロバイダ責任制限法及び非訟事件手続法における民事訴訟法7条の準用の可否

(4) 宮崎地判令和4322日(判例時報255735頁)

不動産売買の仲介等を業とする者から、土地を取得して事業用借地権を設定することにより収益を得ることを提案され、前記仲介業者らの仲介により、土地所有者から土地を購入する契約及び事業者を借地権者とする事業用借地権設定契約の覚書を締結した者が、前記事業者が地代の支払を開始する時期に関して前記仲介業者が誤った情報を提供したために前記覚書の解約を余儀なくされ、これにより損害を被ったなどと主張して前記仲介業者らに求めた損害賠償が認容された事例

(5) 東京高決令和4114日(判例タイムズ150986頁)

管理組合法人の理事会決議無効確認の訴えについて、土地及び事物の管轄に関して専属管轄が認められるのは、法が特にその公益上の必要性を認めて専属管轄とする旨を明文で規定している場合に限られ、安易に類似する法令を類推適用して専属管轄の対象となる事件を拡張することは許されないとして、専属管轄であることを否定した事例

3. 労働法

(1) 東京地判令和5年3月27日(労働判例1288号18頁)〔JR東海(年休)事件〕

年休取得申請に対する時季変更権行使の違法性

(2) 大阪高判令和5119日(労働判例128910頁)〔エヌアイケイほか事件〕

未払賃金と法人格否認の法理の適否・役員らの賠償責任等

(3) 横浜地判令和5117日(労働判例128862頁)〔学校法人横浜山手中華学園事件〕

育児休業延長申請後の普通解雇の適法性

(4) 東京高判令和41116日(労働判例128881頁)〔セルトリオン・ヘルスケア・ジャパン事件〕

MRに対する事業場外みなし労働時間制適用の可否

(5) 京都地判令和4年9月21日(労働判例1289号38頁)〔コード事件〕

雇用調整助成金受給中のコロナ禍等を理由とした雇止めの適法性

4. 知的財産法

(1) 東京地判令和4年12月23日(判例時報2557号70頁)

1 商品の形態が取引の際に出所表示機能を有するものではない場合における不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」該当性
2 独占的に約20年以上販売されたガスバルブが前記の商品等表示に該当しないとされた事例

(2) 東京地判令和4年7月29日(判例タイムズ1509号221頁)

1 脚本の翻案物である映画が、脚本の著作者又はその許諾を得た者によって上映の方法で公衆に提示された場合
2 試写会で上映された映画の脚本を無断で週刊誌に掲載する行為が、当該脚本に係る公表権を侵害するとされた事例

以 上

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