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<目次>
1. 経緯等
(1) 現状の問題点・目的等
(2) 審議の経緯等
2. 概要
(1) 担保権の効力
(2) 担保権の対抗要件及び優劣関係
(3) その他

1.経緯等

2021年2月、動産や債権等を担保の目的とする資金調達の利用の拡大、取引事情等に鑑み、法律関係の明確化、安定性の確保等の観点から、担保に関する法制の見直しについて諮問された。その後、昨年12月6日に「担保法制の見直しに関する中間試案」の取りまとめが行われ、今年3月に、パブリック・コメントの手続きが実施された。

(1)現状の問題点・目的等

日本の企業の資金調達においては銀行貸出しを中心とした間接金融の役割が大きく、その際の担保としては不動産担保(抵当権)や個人保証が多用されてきた。他方で、不動産を有しない中小企業やスタートアップ企業による資金調達の必要性があり、個人保証の場合に過大な責任を負うおそれもあること等などから、多様な資金調達手段を整備する必要性が指摘されている(注1)。
取引実務上は、在庫や事業継続に必要な機械等、融資を受ける者が引き続き占有する必要がある動産については動産譲渡担保や所有権留保売買等の取引が、また債権については債権譲渡担保の取引が広く利用されている。もっともこれらについては明文の規定がなく、判例法理によるものの判例の射程が明確でなく法的安定性にかける面があり、判例がルールを示していない論点もあることから、その明文化が求められていた(注2)。
これらの社会情勢を踏まえ、2021年2月、動産や債権等を担保の目的とする資金調達の利用の拡大、取引事情等に鑑み、法律関係の明確化、安定性の確保等の観点から、担保に関する法制の見直しについて諮問された。

(注1)法務省:「担保法制の見直しに関する中間試案」(令和4年12月6日)の取りまとめ (moj.go.jp)。自由と正義「担保法制の見直しに関する中間試案について」vol.74 No6、2023年6月号有吉尚哉、阪口彰洋、大澤加奈子、粟田口太郎8頁以下。朝日新聞社Website「法と経済のジャーナル Asahi Judiciary」『集合動産・集合債権・事業担保 担保法改正の最新動向と倒産手続き』紺田哲司。
(注2)2003年1月:経済産業省企業法制研究会(担保制度研究会)「『不動産担保』から『事業の収益性に着目した資金調達』へ」報告書。2018年6月:「骨太の方針2018」閣議決定-「経営支援を強化するため、金融機関による担保・保証に依存しない融資の促進を通じて金融仲介機能を一層発揮させる」。2019年6月:「成長戦略フォローアップ」閣議決定-動産担保に関する法的枠組みや登記制度の整備の検討の必要性を具体的に明記。

(2)審議の経緯等

2021年2月10日、法務省法制審議会総会で、担保法制の見直しに関する諮問→担保法制部会設置
2022年6月7日、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」閣議決定、「…スタートアップ等が事業全体を担保に金融機関から成長資金を調達できる制度を創設するため、関連法案を早期に国会に提出することを目指す。」との指針
2022年9月30日、金融審議会「事業性に着目した融資実務を支える制度のあり方等に関するワーキング・グループ」(金融審WG)設置、
2022年12月6日、「担保法制の見直しに関する中間試案」の取りまとめ
パブリック・コメント手続き(~2023年3月20日)

なお、中間試案では「新たな規定に係る担保権」という用語が使用されているが、これは改正の法律構成については議論を先送りにして、①債務を担保する目的でされた一定の類型の契約について効力を定める方法(担保目的取引規律型)と、②質権、抵当権等と並ぶ担保物権を新たに創設する方法(担保物権創設型)という、2つのアプローチのいずれによるかをまだ明確にしないため、中立的な表現が採用されたことによる。以下、単に「新担保権」、「新動産担保権」等と記載する。

2.概要

(1)担保権の効力

①個別動産を目的とする新担保権の実体的効力

(ア)新動産担保権の効力の及ぶ範囲、果実に対する担保権の効力、被担保債権の範囲等について提案されている。

(イ)設定者の権限

  • 動産質権の場合、質権者が継続占有することが必要であるが、新動産担保権では、設定者は、目的物の使用収益をすることができ、また、同一の目的物に重複して担保権を設定できる。
  • 担保目的物の真正譲渡の可否が問題とされている。新動産担保権が設定された場合に、設定者が、担保権者の同意なく目的物を真正に譲渡できるか(担保権を存続させたまま所有権等設定者の有する権利を譲渡できるか。)という点である。なお、担保権者の同意を得て担保権を消滅させて、目的物の所有権を譲渡することができることは当然の前提とされている。
    現行法の下で譲渡担保権について、質権、抵当権と同様、設定者が、担保権の負担付きで、目的物を真正に譲渡することができるとされていることと整合させ、譲渡できるという意見が提案されている。他方、担保目的物である動産を第三者に譲渡することができるとすると、動産が担保権者の把握していない場所に移動される等して目的物の管理に支障を生じるという観点から真正譲渡できない(譲渡は無効)とする意見も提案されている(但し、別途、即時取得による保護を受ける)。両案併記されており、設定者の動産利用の便宜、担保権者の保護、動産取引の安全等のバランスをどう図るかによる。

(ウ)担保権者の権限

  • 担保権者は、被担保債権について不履行があるまでは、目的物を第三者に譲渡(目的物の完全な所有権を第三者に移転)できない。更に、転担保や担保権又はその順位の譲渡・放棄、順位の変更、それらの対抗要件等については継続して検討されている。
  • 物上代位
    新動産担保権について、物上代位を認めることが提案されている。その上で、新動産担保権に基づく物上代位と物上代位の対象となるべき債権(目的債権)に対して設定された担保権の優劣について2案併記されている(注3)。
    1つの案は、物上代位を生じさせた目的物に設定された担保権が対抗要件を具備した時点と、目的債権に対して設定された担保権が対抗要件を具備した時点の前後によるとの案である。抵当権に基づく物上代位とその目的債権の債権譲渡の優劣については、抵当権設定登記が債権譲渡の対抗要件具備よりも先であれば物上代位が優先するとする判例(最判平成10年1月30日民集52-1-1)があり、また、設定者が担保設定された目的物を第三者に譲渡した場合、担保権者は(即時取得されない限り)当該第三者に対して担保権を対抗することができることから、この点では抵当権と共通しているとして対抗要件具備の前後によるとする案である。
    他方、物上代位のための差押えがされた時点と、目的債権に対して設定された担保権が対抗要件を具備した時点との前後によるとの案もある。抵当権とは異なり、物的に編成された公示制度のない新動産担保権の公示が不十分である点を強調する案である。なお、動産譲渡登記が可能であることから、動産譲渡登記がされた場合に対抗要件具備の前後によるとの見解もあるが、現行の動産譲渡登記においては、利害関係人以外の者はどのような動産について譲渡されたか知ることができず(動産・債権譲渡特例法11条1項)(注4)、公示の程度は抵当権設定登記より劣ることから動産譲渡登記では不十分との見解もある。

(注3)商品を目的とする譲渡担保権に基づく物上代位権の行使として、転売された商品の売買代金債権の差押えが可能であり(最判平29年5月10日民集71-5-789)、また流動集合動産譲渡担保権の効力は、その目的である集合動産を構成する動産が滅失した場合に、その損害を填補するために設定者に対して支払われる損害保険金請求権に及ぶ(最判平5年2月26日民集47-2-1653)。
(注4)譲渡人の営業秘密や事業戦略、個人のプライバシー等に関するものであるため、動産又は債権を特定するための事項(動産の種類や所在場所、債務者の氏名や住所、債権の発生原因及び種類等)は、利害関係人にしか開示されない(特例法11条2項等)。

②個別債権を目的とする譲渡担保権の実体的効力

(ア)おおむね、個別動産を目的とする新動産担保権の実体的効力と平仄をとった規律とすることが提案されている。

(イ)債権を目的とする担保権の特有の効力として、①債務者対抗要件が具備されたときは、第三債務者は設定者に対し弁済をすることが制限され、②設定者は、担保権の目的財産である債権について、放棄、免除、相殺、更改等当該債権を消滅させる行為をすることができない(債権質に関する最判平成18年12月21日民60-10-3964)とすることが提案されている。

③集合動産・集合債権を目的とする担保権の実体的効力

(ア)中間試案は、現行法の下での集合動産譲渡担保や将来債権譲渡に関する判例を踏まえて、集合動産・集合債権を目的とする担保権を明文化することを提案している。

(イ)集合動産譲渡担保

  • 新動産担保権は、種類、所在場所、量的範囲の指定その他の方法により特定された範囲(「特定範囲」)に属する動産の集合体(設定後に新たに動産がその集合体に加入することが予定されているものを含む。)を一括して目的とすることができるとすることが提案されている。「動産の集合体」に担保権設定を可能とする規定を設ける意義は、設定後に構成部分が変動した場合でも、新たな設定行為を要せずに新たに構成部分となった動産に担保権が及び、また、初めに対抗要件を具備しておけば、以後集合動産に加入した個別動産にもその効力を及ぼすことができる点にある。
  • 設定者の権限:設定者は、原則として、「通常の事業の範囲」(注5)内で、集合動産の構成部分である動産について、担保権の負担のないものとしての処分をし、又は集合動産から逸出(特定範囲に含まれていた個別動産が、特定範囲から出ること)させる権限を有するとすることが提案されている。但し、設定行為に別段の定めがあればその定めに従う(注6)。
  • 担保権者が権利を保全するための権限:設定者が権限の範囲を超えて集合動産の構成部分である動産について、担保権の負担のないものとしての処分をし、又は逸出させるおそれがあるときは、担保権者は、その予防を請求することができるとすることが提案されている。
  • 処分を受けた者の保護:設定者が権限の範囲を超えて、集合動産の構成部分である動産について、担保権の負担のないものとして処分をした場合において処分を受けた者の保護を図るための規律も提案されている。(ⅰ)(設定者の処分権限について別段の定めがない場合)当該処分を受けた者が、その動産が担保権の目的物であることについて善意無過失のときは、即時取得の規律の適用によって保護される。(ⅱ)加えて、設定者が、集合動産の構成部分である動産について、通常の事業の範囲を超えて、担保権の負担のないものとしての処分をした場合には、当該処分を受けた者は、その処分が設定者の通常の事業の範囲に含まれると信じるについて正当な理由があるときは、その動産について担保権の負担のない権利を取得するものとされている。(ⅲ)設定者の処分権限の制約について別段の定めがある場合には、それに応じて処分を受けた者が保護を受けるための要件を調整することが提案されている。

(ウ)集合債権譲渡担保

  • 譲渡担保の目的物が集合債権(債権発生年月日の始期及び終期並びに債権発生原因等によって特定され、特定された範囲に現に発生していない債権を含むもの)(注7)である場合においては、設定者は、原則として、通常の事業の範囲内で、その特定された範囲に含まれる債権の取立てをする権限を有するものとすることが提案されている。この場合の「取立てをする権限」には取立てをした金銭を自己の営業等に使用できる権限が含まれるが、「飽くまで当事者間で許容されるのは通常の事業の範囲内での利用であると考えられる」と説明されている(注8)。更に設定者に、取立てに加えて、譲渡及び相殺、免除その他の債権を消滅させる行為を認めるかどうかは、通常の事業の範囲内といえるか自体が問題となることから検討を要する。但し、設定行為に別段の定めがあればそれによる。
  • 権限の範囲を超えて債権が譲渡された場合、善意の譲受人を保護する規定は設けないことを提案している。動産について即時取得制度が設けられているのに対して債権譲渡についてはこのような規定はなく、動産と債権の流通性の保護には差があり、債権譲渡の譲受人が保護されなくても不合理ではないと考えられることによる。

(エ)なお、集合動産や集合債権を目的とする担保権について、担保価値維持義務や補充義務(特定された範囲に含まれる動産又は債権について担保権の負担のないものとしての処分がされ、又は逸出をさせたときに動産又は債権を補充する義務)に関する規定を設けるか否かは、引き続き検討するとされている。

(注5)「通常の事業の範囲」は、その事業の具体的な内容や設定者の規模、性質などの事情を考慮して、取引上の社会通念から客観的に定まるものと考えられる。
(注6)最判平成18年7月20日判タ1220号90頁参照(集合動産に対し対抗要件を具備した譲渡担保設定者が、通常の営業の範囲を超える売却処分をした場合、当該譲渡担保の目的である集合物から離脱したと認められない限り、当該処分の相手方は目的物の所有権を承継取得できない。)。
(注7)最判平成11年1月29日民集53-1-151参照
(注8)担保権の目的である債権の取立てではなく、金銭を対価として債権譲渡が行われる場合、通常の事業の範囲内といえるかが問題になる。

(2)担保権の対抗要件及び優劣関係

①新動産担保権の対抗要件等(注9)

(ア)個別動産・集合動産のいずれを目的とする新動産担保権も、占有改定を含む引渡しを対抗要件とすること、その順位も対抗要件の具備の前後によることが提案されている。更に、これらの担保権の設定について登記をすることができるようにし、登記されたときは目的物の引渡しがあったものとみなすことも提案されている。なお、対抗要件を登記に一元化することについては、公示性を高める観点からは有効であるが、対抗要件具備のコストが大きくなり、利便性が低下するとして支持されていない 。

(イ)新動産担保権相互の優劣:同一の動産に関して、個別動産を目的とする新動産担保権と、集合動産を目的とする新動産担保権が競合した場合の優劣について2案併記されている。
1つの案は、集合動産の新動産担保権と、個別動産の新動産担保権について、各対抗要件を備えた時の前後による案である(対抗要件具備時説)。現行法では、動産質権等、対抗要件の具備の前後によることに従う案である。
他方の案は、個別動産の新動産担保権について対抗要件を備えた時と、当該個別動産が集合動産に加入した時の前後による案である(加入時説)。集合動産への加入という事実行為の介在により個別動産に新集合動産担保権の効力が及ぶことを評価する立場である。加入時説は、対抗要件具備時説によれば、集合動産に係る新動産担保権について対抗要件を具備すれば、その後に集合動産に加入した動産については加入前に対抗要件を具備しても、常に集合動産の新動産担保権が優先することになり不自然であると批判する。
しかし、加入時説によると、新たな規定に係る集合動産担保権が設定された集合動産の構成部分の入れ替わりに際して、加入前の個別動産に新動産担保権が設定されていた場合など、担保権者が予期せぬリスクを負うとして、対抗要件具備説から批判されている。
対抗要件を備えた集合動産担保権にどの程度、強い効力を認めるかに関わる論点である。

(ウ)同一の目的物に関して、登記により対抗要件を備えた新たな担保権は、占有改定により対抗要件を備えた新たな担保権に優先するという「登記優先ルール」も提案されている。公示性の高い担保権に優先的な効力を認めることで、動産を担保として利用しやすくすることを企図した提案である。

(注9)同一の個別動産に複数の新担保権が設定された場合、順位は原則として、当該担保権について対抗要件を備えた時の前後による。また、同一の集合動産に複数の新担保権が設定された場合も、順位は原則として、当該担保権について対抗要件を備えた時の前後による。
(注10)最判昭62年11月10日民集41-8-1559は、集合物を目的とする譲渡担保権についての対抗要件具備の効力は、新たに構成部分となった動産を包含する集合物について及ぶとするが、新たに構成部分となった動産に及んだ集合動産譲渡担保権の効力についての優劣について立場を明らかにしていない。

②債権譲渡担保権の対抗要件

(ア)債権譲渡担保権の設定の対抗要件は債権譲渡と同様の規律が提案されている。債権譲渡担保権の設定は、設定者から第三債務者に対する通知又は第三債務者の承諾がなければ、第三債務者に対抗することができず、また、確定日付のある証書によって行わないと第三債務者以外の第三者に対抗できないとすることが提案されている(民法467条参照)。
加えて、債権譲渡担保権の設定については登記をすることができるとし、登記がされたときは、第三債務者以外の第三者との関係では確定日付のある証書による通知があったものとみなすこと、債権譲渡担保権の設定の登記がされたことについて設定者又は担保権者が第三債務者に登記事項証明書を交付して通知をし、又は第三債務者が承諾をしたときは、当該第三債務者との関係についても、確定日付のある証書による通知があったものとみなすことが提案されている(特例法4条参照)。

(イ)ところで、同一の債権について複数の債権譲渡担保権が設定されたときは、新動産担保権のように登記優先ルールを適用するとはされておらず、その順位は、対抗要件の具備方法を問わず、第三者に対抗することができるようになった時の前後によることが提案されている。このように新動産担保権と異なる点については、「民法上、債権譲渡担保権の設定について第三者対抗要件を具備するためには、第三債務者に対する確定日付のある証書による通知又は承諾が必要とされ、債権を担保として融資しようとする者は第三債務者に対して問い合わせることによって先行する担保権の存否を確認し得るから、動産の占有改定のように担保権設定の事実が外形上明らかにならないという問題は相対的に大きくなく、むしろ、事実上登記を強制させる結果になることによるコストの増加等の弊害が大きいと考えられることによる」と説明されている。

③動産・債権譲渡登記制度の見直し

(ア) 同一の動産又は債権を目的とする新担保権に関する権利関係を一覧的に公示する仕組(関連担保目録制度)みの導入の要否について意見が問われている。この点は、新たに関連担保目録制度を導入し、同一の動産又は債権を目的とする新担保権に関する権利関係を関連担保目録にできる限り一覧的に公示させるとの案と、そのような仕組みを設けない(関連担保目録制度の導入によって公示制度が複雑になり、現行の動産・債権譲渡登記制度の見直しにとどめる。)との案が併記されている。

(イ) 新動産担保権の処分等及び債権譲渡担保権の処分等(担保権の譲渡、順位変更等)を登記できるようにすることの要否及びその範囲について、実務上のニーズや公示の分かりやすさの観点等を踏まえて、引き続き検討するとされている。その上で、登記できるとされた新担保権の処分等の公示方法については、(ア)における各案に沿い、関連担保目録において新担保権の処分等に関する登記をする案、関連担保目録制度を設けず、新担保権の処分等に関する登記を、例えば個々の動産・債権譲渡登記に付記できるような形でできるとする案がある。

(ウ) 現行の動産譲渡登記及び債権譲渡登記は譲渡人が法人であることが必要とされているが、登記をすることができる動産若しくは債権の譲渡人又は新担保権の設定者の範囲を、商号の登記をした商人にも拡大することについて、引き続き検討するとされている。

(3)その他

①事業担保制度の概要等(注11)

(ア) 中間試案では、「事業のために一体として活用される財産全体を包括的に目的財産とする担保制度」として「事業担保権」が提案されている。
民法が定める担保物権は、基本的には目的物に特定性が必要とされ、その換価価値を弁済に充てることが予定され、非典型担保も基本的には同様である。ところで、日本の担保法制においては、「事業」それ自体を担保目的財産とする制度は存在しない。もっとも、「総財産」を目的とする法定担保物件としては一般先取特権があり、約定担保物権としては企業担保権(企業担保法(昭和33年法律第106号))、財団抵当等があるが、これらの担保権者は倒産手続においては別除権者や更生担保権者として扱われておらず、質権や抵当権のように担保目的財産上の強い効力は与えられていない。また、企業担保制度は、株式会社が発行する社債のみを被担保債権とする等利用できる場面が少ない(注12)。他方、各種財団抵当制度は、制度を利用することができる主体(業種)や目的財産の種類が限定されており、また、財団目録の作成やその変更にコストがかかることが指摘されている。

(イ) 今日、証券化・流動化取引の増加、プロジェクト・ファイナンスの発達等により、企業の財産を包括的に担保に取り、その交換価値ではなく収益を担保価値として把握する重要性がより高まっている。また、工場等の有形資産を持たないスタートアップ等にとっては、不動産担保や個人保証なしに融資を受けることが難しい中、金融機関には、不動産担保等によらず、事業価値やその将来性といった事業そのものを評価し、融資することが求められており、事業全体を担保に金融機関から成長資金を調達できる制度は、このような金融機関の融資の在り方を促進することに資するとの指摘がある。このような問題意識から、事業を構成する財産全体を目的とする担保権の設定を可能とする制度を導入するという立法提案が示されている。

(ウ) 中間試案で示された事業担保権は、「総財産」を広く担保目的財産と捉えながらも、別除権又は更生担保権の基礎となる担保権としての効力が承認されるものとして構想されており、その意味で、これまでの担保法制の在り方とは一線を画する。なお、法務省において担保法制の見直しに向けた検討が開始された時期において、ほぼ同時期に中小企業庁や金融庁でも、同様の事業担保制度の検討が始まっている。特に金融庁が提唱する「事業成長担保権」(注13)は、明確に「事業性に着目した融資実務を支える制度」と位置付けられ、事業の一体性を維持した事業の継続・再生を可能とするための制度として構想されている。

(注11) 2003年1月、経済産業省企業法制研究会(担保制度研究会)「『不動産担保』から『事業の収益性に着目した資金調達』へ」報告書
(注12) 企業担保法1条。
(注13) 金融審議会「事業性に着目した融資実務を支える制度のあり方等に関するワーキング・グループ 報告」2023年2月10日参照

②利用者

(ア) 担保権者

事業担保権では、適切なモニタリングや経営支援の知見等が必要であることから担保権者は金融機関に限定する方向である。
事業成長担保権においても担保権者を限定する(金融庁WG報告書10頁)。事業成長担保権の設定は、担保権者と設定者の信託契約によらなければならないとされ(設定者を委託者、担保権者を受託者、被担保債権者を受益者とする)、また、新たに「事業担保信託業」を創設し、事業担保信託業免許を有しない者は事業成長担保権者になれないとして、行為規制を課す。具体的には、兼営法1条1項の認可を受けた金融機関、信託業法3条の免許を受けた信託会社等に事業担保信託業免許を付与する等である。なお、貸付人が事業担保信託業の免許を有しないと、別途当該免許を有する金融機関等を事業成長担保権者とする必要がある(担保付社債信託法やセキュリティ・トラストと同様の仕組み)。

(イ) 担保権設定者

事業担保権では、個人を除外して法人等(投資事業有限責任組合、有限責任事業組合、限定責任信託についても検討)に限定する(注14)。
事業成長担保権の場合も、営利法人であって商業登記簿で公示される者に限定されることが構想されている。

③ 対象となる財産の範囲

事業担保権では、「原則として、のれん、契約上の地位、事実上の利益などを含む、設定者の有する全ての財産に及ぶ」とする。
事業成長担保権についても、担保目的財産は「事業」それ自体ではなく、企業担保法と同様「総財産」とすることが構想されており、事業活動から生まれる将来キャッシュフローや不動産、預金等も含まれる。

④ 設定・効力

(ア) 担保権の設定

事業担保権では、設定に必要な手続的要件について検討。例えば株式会社における株主総会決議、労働者や労働組合への説明等が必要かについて問題とされている。
事業成長担保権において、設定については取締役会決議で足りるとされる。

(イ) 対抗要件及び他の担保権との優劣関係

(i)事業担保権では、商業登記簿の登記を対第三者対抗要件とするが、不動産に関し不動産登記を要するかについては検討中である。事業成長担保権も商業登記簿の登記を対第三者対抗要件とし、不動産についても不動産登記は要しないと整理する。
(ii)他の約定担保権との優劣について、いずれも、対抗要件具備の先後とする。

(ウ) 実行前の設定者の処分権限

事業担保権では検討中である。
事業成長担保権においては、通常の事業活動の範囲であれば可能だが、これを超える取引について原則無効とし、担保権者の同意があれば例外的に有効とする。

(エ) 一般債権者が差し押さえた場合の担保権者の保護

事業担保権では検討中である。
事業成長担保権では担保権者の配当参加は認めず、設定者の事業継続に支障をきたす場合に限って第三者異議の訴えを認める方向である(注15)。

(注14) 個人事業者については、事業用財産と私生活用財産との区別が困難であるとの懸念が示されている。
(注15) 強制執行等を認めると事業の解体を余儀なくされかねないことから、配当参加はあらゆる強制執行等についてできないこととしつつ、第三者異議の訴えは認める。他の債権者との適切な利害調整と、事業の継続及び成長を支える取組を動機づけるという制度趣旨との調和を考慮する。

⑤ 担保権の実行

事業担保権、事業成長担保権とも、実行開始決定時に、目的財産の管理処分権は裁判所の選任する管財人に専属し、実行後の強制執行、仮差押え、劣後担保権の実行等の手続きは失効し、優先する担保権は実行手続によらずに行使できるとされる。

被担保債権以外の債権(一般債権等)のうち、特に事業の継続のために必要な債権については、事業担保権、事業成長担保権とも、一定の債権を共益債権とする等随時弁済する選択肢等が検討されている。なお、事業譲渡について、管財人は裁判所の許可を得る必要がある(株主総会決議は不要とするが、これに代替する手続きの要否及び内容について要検討とされている。)。

⑥ 倒産法上の取扱い

事業担保権、事業成長担保権とも、破産手続及び再生手続において別除権、更生手続において更生担保権として扱う。倒産手続開始後に生じ、又は取得した財産に対しても担保権の効力が及ぶとする。更に、DIPファイナンス(事業再生のための運転資金融資)に係る債権を優先させるかについていずれも検討中である。ただ、全財産に事業担保権が設定され、無担保の財産は存在しないにもかかわらず、債務者がDIPファイナンスを受ける場合、DIPファイナンスの重要性に鑑み、その被担保債権については、無担保であるものの、最優先の共益債権とし、あるいは事業担保権に優先する順位を付与することが検討されている。

⑦ 活用例:以下の可能性が指摘されている。

  • 担保なくして十分な資金調達を得られない需要者において、事業を維持・存続・再生させるための「生かす担保」として活用できる。
  • 個別担保の積み上げによらずに全資産担保を達成するための手法として活用できる。
  • 事業性に着目した融資手法の普及・定着や、資本市場を持たない非上場会社におけるデットガバナンスの向上に役立ち得る。
  • 経営者保証を外すためのツールとしての活用。

以 上

 

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