〒100-6114
東京都千代田区永田町2丁目11番1号
山王パークタワー12階(お客さま受付)・14階
東京メトロ 銀座線:溜池山王駅 7番出口(地下直結)
東京メトロ 南北線:溜池山王駅 7番出口(地下直結)
東京メトロ 千代田線:国会議事堂前駅 5番出口 徒歩3分
東京メトロ 丸の内線:国会議事堂前駅 5番出口
徒歩10分(千代田線ホーム経由)
セミナー
事務所概要・アクセス
事務所概要・アクセス
<目次>
1. マネロン対策等に関する対応期限
2. 金融庁による検査・監督の状況
(1) 検査・監督の手法
(2) 金融機関等の課題
3. 対応のポイント
(1) リスクの特定・評価
(2) 継続的な顧客管理
(3) 経営陣の主導的役割
4. 結語
金融機関等をはじめとした犯罪収益移転防止法上の特定事業者において、そのマネロン対策等(マネー・ローンダリング・テロ資金供与・拡散金融対策)に取り組むに際しては、監督当局が公表しているマネロン対策等に関するガイドラインを踏まえることが重要である。マネロン対策等に関する当局のガイドラインとしては、例えば以下のものがある。
例えば金融庁は、2021年4月に、マネロン対策等に係る態勢整備について、以下のとおり、2024年3月末を対応期限とすることを各金融機関等に要請している(2021年4月28日付け金融庁総合政策局長及び監督局長「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に係る態勢整備の期限設定について」)。
同様に、クレジットカード事業者及び商品先物取引業者についても、それぞれの監督当局(経済産業省及び農林水産省)は、適用されるガイドライン(上記参照)で対応を求めている事項について2024年3月末までに対応を完了させ、体制を整備することを求めている。外国為替検査ガイドラインについても同ガイドラインが対応を求めている事項に対する対応の完了期限が2024年3月とされている(以上につき、警察庁「犯罪収益移転防止に関する年次報告」(2022年)53頁)
このように、マネロン対策等が求められる民間事業者のうち、金融機関等、クレジットカード事業者及び商品先物取引業者については、マネロン対策等の対応期限が明示されており、対応期限までに態勢整備を進めて対応を完了させることが喫緊の課題である。この点について、金融庁は、対応期限の経過後はマネロン等リスク管理態勢の整備が完了していることを前提に検査・監督を行い、金融機関等の態勢に問題があると認められた場合には、必要に応じ「法令に基づく行政対応」を行うと説明している(金融庁「マネー・ローンダリング・テロ資金供与・拡散金融対策の現状と課題」(2023年6月)(以下「現状と課題」という。)62頁)。
また、対応期限が明示されていない上記以外の業態についても、2024年3月末を一つの目安として態勢整備を進めることは有益であると考えられる。
本稿では、2024年3月末の対応期限に向けたマネロン対策等について、金融庁の監督及び金融機関等の取組を中心にそのポイントを説明するが、言及する取組例等については他の業態においても参考になるものと考えられる。
金融庁は、これまで、マネロン等リスクが相対的に高い業態(預金取扱金融機関、資金移動業者、暗号資産交換業者など)から優先的にマネロンターゲット検査を実施してきた。2023事務年度は、2024年3月末の対応期限に向けて、特に、態勢整備が遅れている金融機関等を中心に、関係規程の整備等に係る監督・指導を中心とした検証をすると説明している(金融庁「2023事務年度 金融行政方針」の「実績と作業計画」41頁)。
マネロンターゲット検査のほか、金融庁は、2018年2月の金融庁ガイドライン公表以降、金融機関等に対し、マネロン対策等に関する定量・定性情報の提出や、金融庁ガイドラインの「対応が求められる事項」と金融機関の態勢整備状況とのギャップを分析し、当該ギャップを埋めるための行動計画の策定・実施(「ギャップ分析」)等の提出を求めている。
これらの手法により金融機関等から収集した情報に基づき、金融庁は、各業態のリスク及び各金融機関等のリスクを特定・評価(Corporate Risk Rating: CRR)するなどして、リスクに応じた検査・監督を実施している。
上記のような検査・監督の結果を踏まえ、金融庁は、金融機関等の自己評価として提出されたギャップ分析とマネロンターゲット検査の結果を比較すると、「金融機関が報告徴求で態勢整備ができていると申告した項目でも、実際に検査では態勢整備が不十分と判断される項目がかなりの数に上っており、金融機関の自己評価と実際の態勢整備状況に差が出ている状況にある」と評価している(金融庁「業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点(令和5年3月15日開催 全国地方銀行協会/令和5年3月16日開催 第二地方銀行協会)」など)。
具体的には、金融庁は、その公表資料において、金融機関等のマネロン対策等について以下の課題を指摘している(金融庁「現状と課題」61頁)。
【リスクの特定については洗い出しが不十分】
【リスク評価の手法が策定されていない、規程化されていない】
【顧客管理は犯収法対応が中心でリスクに応じた対応でない】
【方針・手続・計画等の見直しがされておらずPDCAが回せていない】
【取引モニタリングシステムはシナリオ・敷居値の見直しが不十分】
また、マネロン対策等においては、経営陣がこれを経営戦略における重要な課題の一つとして組織内外に浸透させ、実効性を確保するための各種施策を講じていく必要があるところ、経営陣の主導的関与が不足している旨の指摘もある(萬場大輔「第4次対日相互審査後の金融行政と金融機関に求められる対応」金融財政事情3482号16頁(2023))。
上記の指摘を踏まえると、金融機関等(及びこれを参考にする他の特定事業者)においては、例えば以下のポイントについて態勢整備を進めることが重要であると考えられる。
金融機関等は、国によるリスク評価の結果(犯罪収益移転危険度調査書)等を勘案しながら、自らが提供している商品・サービスや、取引形態、取引に係る国・地域、顧客の属性等のリスクを包括的かつ具体的に特定したうえで(金融庁ガイドラインII-2(1)①)、特定したリスクをその影響の発生率や影響度等の観点から評価することが求められる(同II-2(2)①)。
リスクの特定・評価に際しては、自社の個別具体的な事情を踏まえ、網羅的な対応をしなければならない。例えば、金融庁「現状と課題」には地域金融機関(地方銀行・信用金庫・信用組合等)の取組として以下の事例が紹介されている。
【取組に遅れが認められる事例】
【取組が進んでいる事例】
金融機関等は、その個々の顧客について顧客管理(顧客情報や当該顧客が行う取引の内容等を調査し、調査の結果をリスク評価の結果と照らして、講ずべき低減措置を判断・実施する一連の流れ)を実施することが求められる。顧客管理の一連の流れは、取引の開始時、継続時、終了時に分けることができるが、継続時の顧客管理については、定期的に又は必要に応じて、顧客の情報や取引目的等を最新化するための調査を行う必要がある(金融庁「現状と課題」26頁)。
かかる調査について、顧客にアンケート等の郵便物を送付するなどして対応している金融機関等が多いが、その実施に当たっては、中長期的な行動計画を策定して進捗を管理するとともに、回答率向上のため取組みの実効性の見直しを行い、例えば、様々なチャネル(例:対面、郵送、電話、電子メール、ウェブサイト、スマートフォンアプリ、公表情報の利用)を用いて回答率を上げていくことが重要となる(金融庁「現状と課題」26頁及び27頁)。また、継続的顧客管理の具体的な運用について、リスクベースの対応内容やその手順等を規程やマニュアルに文書化しておくべきことも重要である。
例えば、金融庁「現状と課題」には地域金融機関の取組として以下の事例が紹介されている。
【取組に遅れが認められる事例】
【取組が進んでいる事例】
前述のとおり、経営陣はマネロン対策等に主導的に関与することが不可欠であるところ、「主導的」とは関連部門を適切に支援し、導く(主導する)ことを意味する。経営陣がイニシアチブをとって会社全体を主導することがより一層求められているのであり、例えば、金融庁「現状と課題」には地域金融機関の取組として以下の事例が紹介されている。
【経営陣の主導的な関与がなされていない事例】
【取組が進んでいる事例】
2024年3月末までにマネロン対策等の対応が求められる事項(金融庁ガイドラインについては87項目)の全てについて対応を完了させるとすれば、取り組むべきマネロン対策等については上記に限らず様々な対応が必要となる。金融機関等をはじめとする特定事業者においては、社内で策定した対応計画の進捗を適切に管理し、計画の着実な実行を図ることが重要である。