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2023.11.01

企業法務の観点から注目される最近の主な裁判例(2023年9月・10月)

牛島総合法律事務所 訴訟実務研究会

<目次>
1. 商事法
2. 民事法・民事手続法
3. 労働法
4. 知的財産法
5. その他(個人情報保護法、独占禁止法、租税法等)

裁判所ウェブサイトや法務雑誌等で公表された最近の裁判例の中で、企業法務の観点から注目される主な裁判例を紹介します(2023年9月・10月)。

下記1(1)(最一決令和5年10月26日)は、吸収合併に反対し、その有する株式を公正な価格で買い取ることを会社に請求した吸収合併消滅株式会社の株主が、吸収合併をするための株主総会に先立って会社に対して委任状を送付したことが、吸収合併に反対する旨の通知に当たるか否かが問題となった事案です。原審(名古屋高決令和4年3月30日)は、委任状は代理人となるべき者に対して議決権の代理行使を委任する旨の意思表示をした書面であることなどを理由に、反対通知に当たらないと判断しましたが、本決定はこれを破棄し、委任状の作成経緯や記載内容等を勘案すれば、吸収合併等に反対する旨の株主の意思が会社に対して表明されているとして、当該委任状が反対通知に当たることを認めました。

下記1(4)(東京地判令和5年3月28日)は、2015年に発覚した東芝の不正会計問題を巡り、東芝と株主が旧経営陣に対し損害賠償を求めた事案です。本判決は、東芝の旧経営陣の一部が違法な会計処理を少なくとも認識し得たにもかかわらず、これを中止・是正させる義務を怠ったなどとして、損害賠償請求を一部認めました。本判決に対しては双方から控訴がなされている旨が報じられており、引き続き控訴審の判断が注目されます。

下記4(1)(最一判令和4年10月24日)は、音楽教室で演奏される楽曲に関して、日本音楽著作権協会(JASRAC)が著作権使用料を徴収できるかどうかが争われた事案です。本判決は、音楽教室における生徒の演奏に関し、音楽教室の運営者は音楽著作物の利用主体ではないとの判断を示し、生徒の演奏は著作権使用料の徴収対象にならないとした控訴審判決が確定しました。

下記5(1)(最大決令和5年10月25日)は、生殖機能をなくす手術を性別変更の事実上の要件とする性同一性障害特例法の規定が憲法違反かどうかが争われた事案について、最高裁大法廷は、当該規定を違憲無効とする初めての判断を下しました。企業法務の観点からも、社会情勢の変化を踏まえ、性的マイノリティーの従業員の処遇や職場環境の整備等について十分な配慮を行う必要性が増大していくものと想定されます。

1. 商事法

(1) 最一決令和5年10月26日(裁判所ウェブサイト)

吸収合併消滅株式会社の株主が吸収合併をするための株主総会に先立って上記会社に対して委任状を送付したことが会社法785条2項1号イにいう吸収合併等に反対する旨の通知に当たるとされた事例

(2) 東京地判令和5年7月7日(資料版商事法務474号82頁)

開示文書内で前科等を記載された者からのナガホリに対する名誉毀損・プライバシー侵害を原因とする損害賠償請求事件

(3) 東京地判令和5年4月17日(金融・商事判例1673号42頁)

株式の取得の仲介取引に関して仲介者の不法行為責任が認められた事例

(4) 東京地判令和5年3月28日(資料版商事法務473号87頁)〔東芝事件〕

東芝等からの元役員等に対する損害賠償請求事件

(5) 東京高判令和5年3月9日(金融・商事判例1674号28頁)

会社法833条1項所定の事由があり、解散請求は権利の濫用に当たらないとして、株式会社の解散請求が認められた事例

(6) 東京高判令和4年9月15日(金融・商事判例1673号26頁)

弁護士であり税理士登録もしている1審被告が担当した1審原告による別会社の株式の購入および同会社に対する貸付は、業務執行取締役としての業務であり、これらについて1審被告には取締役の善管注意義務違反の任務懈怠があるとした原判決の判断が控訴審においても維持された事例

2. 民事法・民事手続法

(1) 最一判令和5年10月23日(裁判所ウェブサイト)

マンションの建築工事の注文者から上記マンションの敷地を譲り受けた行為が、自ら上記マンションを分譲販売する方法によって請負代金債権を回収するという請負人の利益を侵害するものとして上記債権を違法に侵害する行為に当たらないとされた事例

(2) 最三決令和5年10月6日(裁判所ウェブサイト)

1筆の土地の一部分についての所有権移転登記請求権を有する債権者において当該一部分について分筆の登記の申請をすることができない又は著しく困難であるなどの特段の事情があるときは、当該土地の全部についての処分禁止の仮処分命令は直ちに保全の必要性を欠くものではない

(3) 最三決令和5年3月29日(金融・商事判例1674号18頁)

第三債務者が差押命令の送達を受ける前に債務者との間で差押えに係る金銭債権の支払いのために電子記録債権を発生させた場合において、上記差押えに係る金銭債権について発せられた転付命令が第三債務者に送達された後に上記電子記録債権の支払いがされたときの上記転付命令の効力

(4) 最三決令和5年2月1日(判例タイムズ1511号119頁、金融・商事判例1675号8頁、金融法務事情2219号71頁)

破産管財人が別除権の目的である不動産の受戻しについて上記別除権を有する者との間で交渉し又は上記不動産につき権利の放棄をする前後に上記の者に対してその旨を通知するに際し、上記の者に対して破産者を債務者とする上記別除権に係る担保権の被担保債権についての債務の承認をしたときに、その承認は上記被担保債権の消滅時効を中断する効力を有するか

(5) 東京高判令和4年10月20日(判例タイムズ1511号138頁)

ソーシャルネットワークサービスであるツイッターに投稿されたツイートがその中で言及された者を侮辱する内容を含むものである場合、このツイートに対して「いいね」を押したことが言及された者の名誉感情を違法に侵害する行為に当たり、「いいね」を押した者が言及された者に対して不法行為責任を負うとされた事例

(6) 大阪地判令和4年8月31日(判例時報2564号24頁)

インターネット上の電子掲示板に投稿された記事がバーチャルYouTuberとして活動する者の人格的利益を侵害するものであるとして、当該投稿に係る発信者情報の開示を命じた事例

3. 労働法

(1) 東京高判令和5年4月27日(労働判例1292号40頁)〔アメックス(降格等)事件〕

育休中の所属チーム消滅と復帰後の配置変更等の不利益取扱い該当性

(2) 東京地判令和5年4月10日(金融・商事判例1676号22頁)

1 会社の執行役員を被告とする訴訟を提起しようとした従業員に対し、服務規律違反の可能性を指摘してその訴訟の内容の詳細の回答を重ねて求めた人事担当者の行為が、当該従業員の裁判を受ける権利を心理的に制約したとして不法行為の成立が認められた事例
2 役割給の減額を伴う職位の変更が有効とされた事例

(3) 東京高判令和4年6月29日(労働判例1291号5頁)〔インテリムほか事件〕

賃金減額の有効性ならびに不法行為の有無等

(4) 東京地判令和4年4月28日(労働判例1291号45頁)〔東京三協信用金庫事件〕

パワハラ加害者に対する降職の懲戒処分の有効性等

(5) 東京地判令和4年4月12日(労働判例1292号55頁)〔クレディ・スイス証券(職位廃止解雇)事件〕

職位廃止を理由とする解雇の有効性

4. 知的財産法

(1) 最一判令和4年10月24日(金融法務事情2217号70頁、判例時報2561・2562号85頁)〔音楽教室事件〕

音楽教室の運営者と演奏技術等の教授に関する契約を締結した者(生徒)のレッスンにおける演奏に関し上記運営者が音楽著作物の利用主体であるということはできないとされた事例

(2) 大阪地判令和4年9月12日(判例時報2563号46頁)

被告のウェブサイトで使用されるhtmlファイル内のタイトルタグおよびディスクリプションメタタグに被告標章を使用したことが原告の商標権の侵害に当たらないとされた事例

(3) 知財高判令和4年8月8日(判例時報2564号57頁)〔画面定義装置事件〕

1 特許権を侵害する製品(直接侵害品)の生産に用いられることのなかった間接侵害品がある場合には、当該間接侵害品の数量は特許法102条1項1号にいう「特定数量」に該当する
2 当該「特定数量」に関しては特許法102条1項2号にいう「許諾をし得たと認められない場合」に該当し、実施料相当額の損害を請求することができない
3 直接侵害品の生産に用いられることのなかった間接侵害品がある場合には、当該間接侵害品の数量は特許法102条2項による損害額推定の覆滅事由になる

(4) 知財高判令和4年2月9日(判例時報2561・2562号88頁)

1 物の製造方法に係る特許権に基づく侵害差止等請求において、特許法104条を適用して被告原料が原告の特許発明の方法により生産されたものと推定し、また、推定の覆滅は認められないと判断された事例
2 特許法39条2項の「同一の発明」に当たらないと判断された事例

5. その他(個人情報保護法、独占禁止法、租税法等)

(1) 最大決令和5年10月25日(裁判所ウェブサイト)〔トランスジェンダー性別変更手術要件違憲決定〕

性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項4号は、憲法13条に違反する

(2) 東京地判令和5年4月13日(金融・商事判例1676号8頁)

1 日本年金機構が一般競争入札または見積り合わせの方法により発注するデータプリントサービスの業務(発注者から発注者の顧客データを預かり、データの編集・加工、印刷・印字、封入・封かん、発送準備等を行う業務)について上記業務を行う26の業者がした受注予定者の決定等に関する合意が「不当な取引制限」に当たり、これに原告が参加したものと認められた事例
2 排除措置命令の意見聴取手続において閲覧または謄写の対象とならなかった証拠について、その証拠能力が認められた事例

(3) 東京地判令和5年3月23日(金融・商事判例1675号24頁)

1 法人税法34条2項の合憲性
2 法人税更正処分の取消訴訟において国が更正処分における適正給与額と異なる額を主張することが違法でないとされた事例
3 内国法人が役員給与の全額を損金の額に算入したことにつき、役員給与に「不相当に高額な部分」があるとされた事例

(4) 東京高判令和4年12月14日(金融・商事判例1673号16頁)

特定の顧客の銀行口座へのアクセス履歴が、アクセスの対象となった口座に係る顧客の個人情報に当たるとはいえないとされた事例

以 上

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