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2024.01.09

企業法務の観点から注目される最近の主な裁判例(2023年11月・12月)

牛島総合法律事務所 訴訟実務研究会

<目次>
1. 商事法
2. 民事法・民事手続法
3. 労働法
4. 知的財産法
5. その他(行政法、租税法、独占禁止法)

裁判所ウェブサイトや法務雑誌等で公表された最近の裁判例の中で、企業法務の観点から注目される主な裁判例を紹介します(2023年11月・12月)。

下記5(1)(最二判令和5年11月17日)は、映画『宮本から君へ』への出演者が逮捕され、有罪判決を受けたことから、日本芸術文化振興会理事長が同映画に対する助成金を不交付とする旨の決定を行ったことにつき、映画製作会社が不交付決定の取消しを求めた事案です。最高裁は、抽象的な概念である公益によると基準が不明確とならざるを得ず、表現行為の内容に萎縮的な影響が及ぶ可能性があり、憲法21条1項による表現の自由の保障の趣旨に照らし看過し難いと指摘し、日本芸術文化振興会理事長が行った助成金不交付決定が裁量権の逸脱又は濫用に当たり違法であるとして、これを適法とした控訴審判決を破棄しました。最高裁が表現活動に対する助成金の交付について判断を示したのは初めてであり、今後の同種事案に影響を与えるものと考えられます。

下記5(2)(最二判令和5年11月6日)は、みずほ銀行がケイマン諸島に設立したSPCの発行に係る優先出資証券を通じて集めた資金の返還の過程で生じた利益につき、課税所得0円で税務申告したところ、税務当局が約20億円の追徴課税処分を行ったため、みずほ銀行がその取り消しを求めて争った事案であり、租税回避を防ぐための「タックスヘイブン対策税制」を形式的に適用することの是非が争点となりました。最高裁は、課税処分を取り消した控訴審判決を破棄し、課税処分を適法とする判断を示しました。草野補足意見は、みずほ銀行のような我が国を代表する金融機関は、タックス・ヘイブン対策税制について十分な調査を行い、予期せざる税務上の不利益が発生することがないよう注意を払い続けることを期待され得る立場にあったと指摘しており、企業法務の観点からも、最新の税制について継続的かつ十分な調査を行うことの重要性を再確認すべきであるといえます。

下記2(1)(最二判令和5年11月27日)は、建物に根抵当権が設定された後、物上代位により賃料債権が差押えられる前に、当該建物の賃借人が賃貸人に対して取得した債権と将来の賃料債権とを直ちに相殺する旨の合意の効力が問題となった事案です。最高裁は、抵当不動産の賃借人は、抵当権の効力が将来賃料債権に及ぶことが抵当権設定登記によって公示されており、これを登記後取得債権と相殺することに対する賃借人の期待を抵当権の効力に優先させて保護すべきとはいえないことを理由に、上記相殺合意の効力を抵当権者に対抗することはできないと判断しました。

1. 商事法

(1) 東京高判令和5年9月28日(資料版商事法務477号198頁)〔旧アルプス電気・アルパイン間の株式交換無効等請求事件〕

旧アルプス電気・アルパイン間の株式交換無効等請求事件

(2) 東京地判令和5年5月29日(金融・商事判例1678号26頁、裁判所ウェブサイト)

同一当事者間の2種類の仕組債の販売について、1つについては適合性原則違反、買付け時の説明義務違反および買付け後の指導助言義務違反がいずれも否定され、もう1つについては適合性原則違反の不法行為の成立が認められた事例

(3) 新潟地判令和5年4月27日(金融・商事判例1680号26頁)

1 商品を用いた取引に内在するリスクに関する情報提供義務違反があったとされた事例

2 契約関係にある会社による不法行為があった場合に他の会社につき不法行為責任が認められた事例

3 会社の代表取締役につき商品を用いた取引に内在するリスクに関する情報提供義務違反および顧客の証券口座を利用して裁量トレードを行わない不法行為法上の義務違反があったとされた事例

4 契約関係にある会社による不法行為があった場合に他の会社の元代表取締役につき不法行為責任が認められた事例

(4) 東京地決令和4年1月13日(判例時報2572号93頁)

特別支配株主による株式売渡請求に対して売渡株主が売買価格の決定を申し立てた事案において、公開会社で非上場である対象会社の株式につき、DCF法による評価額を重視しつつ、これと修正簿価純資産法による評価額との加重平均を求める折衷法を用いた総合評価により売買価格を決定した事例

2. 民事法・民事手続法

(1) 最二判令和5年11月27日(裁判所ウェブサイト)

抵当不動産の賃借人は、物上代位による賃料債権の差押え前に賃貸人との間でした、抵当権設定登記の後に取得した賃貸人に対する債権と上記差押え後の期間に対応する賃料債権とを直ちに相殺する旨の合意の効力を抵当権者に対抗できない

(2) 東京地判令和5年1月17日(判例タイムズ1514号204頁、裁判所ウェブサイト)

新聞社である原告の報道内容に対し,出版社である被告が雑誌及びウェブサイトに掲載した記事について名誉毀損による不法行為の成立が認められた事例

(3) 東京高判令和4年10月25日(判例タイムズ1512号87頁、裁判所ウェブサイト)

宗教法人の元信者によるサリンの生成への関与等に関して日刊新聞に記事を掲載した新聞社にその内容を真実と信ずるについて相当の理由があるとされた事例

(4) 大阪高判令和4年9月29日(判例時報2573号58頁)

地下トンネル設計業務を受託した建設コンサルタントについて、設計した構築物の安全性に関する説明義務違反があったとして不法行為責任を認めるとともに、発注者である地方公共団体にも過失があったとして4割の過失相殺をした事例

(5) 東京高判令和4年9月7日(判例時報2572号66頁)

発信者情報開示請求事件において、発信者情報として発信者の電話番号を追加する旨の省令の改正(令和2年総務省令第82号)の施行前にされた投稿につき、改正後の省令を適用して、発信者情報として電話番号が開示の対象となると認めた事例

3. 労働法

(1) 大阪地判令和5年7月6日(労働判例1294号5頁)〔JR東海(年休・大阪)事件〕

年休に対する時季変更権行使等の違法性

(2) 大阪地判令和5年4月21日(判例タイムズ1514号176頁)〔ファーストシンク事件〕

専属マネジメント契約をするアイドルに労働基準法上の労働者性が認められた事例

(3) 大阪高判令和5年4月20日(労働判例1295号5頁)〔竹中工務店ほか2社事件〕

二重派遣関係と労働契約申込みみなし制度適用の有無

(4) 名古屋高金沢支判令和5年2月22日(労働判例1294号39頁)〔そらふね元代表取締役事件〕

残業代等未払いにおける元代表取締役の任務懈怠の有無等

(5) 札幌地判令和5年2月16日(労働判例1293号34頁、裁判所ウェブサイト)〔学校法人札幌国際大学事件〕

SNSによる内部情報漏洩等を理由とする懲戒解雇の有効性

(6) 東京高判令和5年1月18日(労働判例1295号43頁)〔アンスティチュ・フランセ日本事件〕

新無期契約に伴う時給引き下げの適法性等

(7) 東京高判令和4年3月2日(労働判例1294号61頁)〔三井住友トラスト・アセットマネジメント事件〕

スタッフ職の管理監督者該当性

4. 知的財産法

(1) 東京地判令和5年2月28日(判例タイムズ1514号233頁、裁判所ウェブサイト)

Googleマップに画像を投稿した行為が著作権法41条にいう時事の事件の報道のための利用に該当しないとされた事例

(2) 東京地判令和5年1月27日(金融・商事判例1680号42頁、裁判所ウェブサイト)

1 指定商品を印刷物、書籍等とする「日本綜合医学会」なる登録商標の商標権者がした「日本綜合医学会」の文字を含む名称の使用差止請求について、被告が出版する刊行物に「日本綜合医学会」との標章を使用することの差止請求は理由があるが、その余の請求に理由はないとされた事例

2 原告の商品等表示である「日本綜合医学会」と類似する「nihonsogoigakukai.com」なるドメイン名を使用することが不正競争防止法2条1項19号に該当するとされた事例

(3) 東京地判令和4年12月19日(判例タイムズ1514号241頁、裁判所ウェブサイト)

宗教上の教義である「声字即実相の神示」を出版物に掲載した行為が著作権法32条1項にいう引用に該当するとされた事例

(4) 大阪高判令和4年5月13日(判例時報2573号70頁、裁判所ウェブサイト)〔ローラーステッカー事件〕

控訴人から納入された商品について、梱包箱の控訴人の屋号が記載された箇所の上にシールを貼付し、梱包箱に同梱されていた使用説明書を差し替えた被控訴人の行為は、控訴人の標章の剥離抹消行為と評価すべきものとは認められないとした事例

5. その他(行政法、租税法、独占禁止法)

(1) 最二判令和5年11月17日(裁判所ウェブサイト)〔映画「宮本から君へ」助成金裁判〕

独立行政法人日本芸術文化振興会の理事長がした、劇映画の製作活動に対する助成金を交付しない旨の決定が、上記理事長の裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法であるとされた事例

(2) 最二判令和5年116日(裁判所ウェブサイト)〔みずほ銀行事件〕

1 租税特別措置法施行令(平成29令第114号による改正前のもの)39条の16第1項を適用することができないとした原審の判断に違法があるとされた事例

2 増額更正処分後に国税通則法23条1項の規定による更正の請求をし、更正をすべき理由がない旨の通知処分を受けた者は、当該通知処分の取消しを求める訴えの利益を有する

(3) 東京高判令和5年4月21日(金融・商事判例1677号10頁)

段ボール製品に関する事業者団体およびその支部の会合を通じた価格カルテルに関する意思の連絡の成立を認めた審決が維持された事例

以 上

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