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<目次>
1. はじめに
2. 背景
3. 外為法の改正
4. 拡散金融リスク評価書案の概要
5. 結語

1.はじめに

2024年1月19日、我が国における「拡散金融」に係るリスクを、特定・分析等した「拡散金融リスク評価書案」(以下「本評価書」といいます。)のパブリックコメントが開始されました。

本評価書は、警察庁や金融庁を始めとした関係省庁で情報交換等をした上で、「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策政策会議」(以下「政策会議」といいます。)においてとりまとめられたものです(本評価書11頁)。

下記3.で述べる外国為替及び外国貿易法(昭和24年法律第228号。以下「外為法」といいます。)の改正により、一定の金融機関等(預金取扱金融機関やステーブルコイン取引業者、暗号資産交換業者、両替業者)は、2024年4月1日の施行日以降、本評価書を勘案して経済制裁違反リスクの評価を行う必要があります。また、上記事業者以外の民間事業者も拡散金融のリスクを踏まえた対応をすることが期待されていること(本評価書6頁)などから、本評価書は多くの事業者(特に輸出入取引に関係する事業者)においても参考になり得るものと考えられます。

2. 背景

本評価書は、我が国における「拡散金融」に係るリスクを、特定・分析し、多角的・総合的なリスク評価を行うためにとりまとめられました。「拡散金融」とは「大量破壊兵器(核・化学・生物兵器)等の開発、保有、輸出等に関与するとして資金凍結等措置の対象となっている者に、資金又は金融サービスを提供する行為」を意味します。

拡散金融対策については、マネー・ローンダリング等への対策に係る国際基準の策定・履行を行う多国間枠組みであるFATF(Financial Action Task Force)が決定・公表している勧告(いわゆるFATF勧告)において、国連安保理決議の遵守のための金融制裁(資産凍結措置等)の実施が日本を含めた加盟国に求められています。

FATFは、2020年10月に勧告1を改訂しました。改訂後の勧告1は、加盟国に対し、拡散金融リスクについてリスクベース・アプローチによる対応(リスクの特定・評価、効果的なリスク低減策の実施のための行動、高リスクの対応と低リスクの管理・軽減への対応)を求めています。

また、2021年8月に公表されたFATF第4次対日相互審査を契機として設置された「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策政策会議」(政策会議)は、2022年5月に公表した「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の推進に関する基本方針」において、「マネロン等に係るリスク評価と並行して、新たに拡散金融のリスク評価を実施し、資産凍結措置の実効性向上を図る」ことを公表しており、本評価書はこれを具体化したものと位置づけられます。

3. 外為法の改正

2022年12月に成立・交付されたいわゆるFATF勧告対応法(国際的な不正資金等の移動等に対処するための国際連合安全保障理事会決議第千二百六十七号等を踏まえ我が国が実施する国際テロリストの財産の凍結等に関する特別措置法等の一部を改正する法律)に外為法の改正を含むものであり、当該改正により、一定の金融機関等について、経済制裁措置に係るリスクベースでの対応や態勢整備が外為法令に基づく義務として明示的に求められることになりました。

具体的には、改正により新設された外為法第55条の9の2第1項は、主務大臣が、銀行等(銀行、信金、信組その他の預金取扱金融機関)、資金移動業者、電子決済手段等取引業者等(電子決済手段等取引業者、電子決済等取扱業者等及び暗号資産交換業者を含みます)及び両替業者(外為法55条の9の2第1項、外国為替令18条の10、外為法16条の2及び外国為替令6条の2。以下「外国為替取引等取扱業者」といいます。)が外国為替取引等を行うにあたって遵守すべき基準(令和5年財務省・経済産業省令第1号。以下「外国為替取引等取扱業者遵守基準」といいます。)を定めなければならないと規定しています。

これを受けた外国為替取引等取扱業者遵守基準は、外国為替取引等取扱業者が遵守すべき基準として、資産凍結措置に抵触するリスク評価(すなわち経済制裁違反リスクの評価)を実施すること(同基準1条1号)等を求めています。本評価書は、外国為替取引等取扱事業者がかかるリスク評価を実施するに際して勘案する必要があるものです(本評価書6頁)。

上記で言及した外為法の改正等の施行日は2024年4月1日とされていますので、その適用を受ける外国為替取引等取扱事業者においては、本評価書の内容を十分に理解の上、自らのリスク評価に反映すること等が必要です。

4. 拡散金融リスク評価書案の概要

本評価書は、拡散金融のリスクが「脅威」、「脆弱性」及び「影響」の3要素で構成されるものとした上で、概要以下の分析を行っています(本評価書10頁以下)。

【脅威Threat)】

「脅威」とは、「過去、現在又は将来において、拡散金融に係る対象を特定した金融制裁の不履行を回避、違反又は悪用した、あるいはその可能性がある個人又は団体」を意味します。

本リスク評価書案は、日本における「脅威」には、大量破壊兵器の開発等のために資金が流出する場合と、物・技術が流出する場合の2つの場面が存在するものと想定し、以下のものがあるものとしています(本評価書12頁以下)。

(1) カネ(資金)の流出に係る主体

  ①貿易:北朝鮮との迂回貿易取引や迂回送金を行う又は行おうとする主体

  ②ヒト:北朝鮮籍の者への送金等を行おうとする主体

  ③サイバー攻撃等を実施する主体

(2) モノ・技術の流出に係る主体

  ①デュアルユース品等の提供を行うことで資金を獲得する主体及びその送金に関わる者

  ②無形技術移転等を行うことで資金を獲得する主体及びその送金に関わる者

  ③「瀬取り」等の活動を行う主体及びその送金に関わる者

(3) 制裁対象者含む日本等に所在する不透明な企業を利用する主体

脆弱性(Vulnerabilities)】

「脆弱性」とは、「「脅威」によって悪用され得るものや、拡散金融に係る対象を特定した金融制裁の違反、不実施、回避を支援又は促進し得るようなもの」を意味するものです。「脆弱性」の評価においては、国がとっている一連の対策の弱点や、拡散金融に利用されやすい特定の金融サービス・貿易取引の類型などを評価します(本評価書31頁以下)。

本評価書は、日本における脆弱性を以下の分類に従って分析しています(本評価書31頁以下)。

(1) 北朝鮮との地理的近接性

(2) 開かれたアジア有数の金融システム

(3) 高い技術を誇る企業の集積と開かれた経済体制

【拡散金融リスクの高い取引】

本評価書は、上記の脅威及び脆弱性に照らして、拡散金融の文脈において、以下の取引を特に注意を要する危険度の高い取引であるとしています(本評価書35頁以下)。

  • 危険度の高い取引の類型:①暗号資産取引、②非対面取引、③海外送金、④デュアルユース品に係る輸出取引、⑤大量破壊兵器等の開発に資するような技術移転に係る取引
  • 上記取引の危険度を高める要因:サイバー攻撃

本評価書は、金融機関等が、今後拡散金融に係るリスク評価やその後の対応に関する手続を定める際には、上記の取引に着目することが有用であることや(本評価書36頁)、拡散金融に使われる蓋然性のより高い取引に特化して、重点的に海外送金における「真の送金人」や「真の受取人」の正確な把握等を行うということが第一ステップとして考えられることなどに言及しており(本評価書38頁)、金融機関等が拡散金融リスクについてリスクベースでの対応を検討するに際して参考になるものと考えられます。

5. 結語

上記のほか、本評価書は、日本における拡散金融に係る取組みとして、金融取引に係る外為法や国際テロリスト等財産凍結法による規制や、輸出入管理に関する規制、その他の関連法制度(犯罪収益移転防止法等)等についても説明しています。

近時の外為法や関連する政省令・ガイドライン等の改正を踏まえ、特に外国為替取引等を行う預金取扱金融機関、資金移動業者、ステーブルコイン取引業者、暗号資産交換業者及び両替業者等は拡散金融リスクへの対応について改めて検討することが求められていますが、本評価書はかかる検討に際して参照すべき資料であり、パブリックコメントの結果についても注視すべきものと考えられます。

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