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<目次>
1.フリーランス保護法の成立
2.フリーランス保護法の適用範囲
(1)特定受託事業者(フリーランス)
(2)業務委託事業者、特定業務委託事業者(発注事業者)
(3)業務委託
3. フリーランス保護法の規制の概要
(1)業務委託事業者に対する規制
(2)特定業務委託事業者に対する規制
(3)特定業務委託事業者であって、かつ、業務委託の期間が一定の期間以上である者に対する規制
4.結語

1. フリーランス保護法の成立

2023年4月28日、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(以下「フリーランス保護法」といいます(※1)。)が可決成立し、同年5月12日に公布されました。
フリーランス保護法は、フリーランスと発注事業者との間で交渉力及び情報収集力の格差が生じやすいことから、フリーランスに係る取引の適正化及び就業環境の整備を図るため、フリーランスに業務を委託する発注事業者を規制するものです。そのため、同法は、下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」といいます。)に類似する点がありますが、他方で、その適用範囲及び規制内容においては幾つかの相違点があるため、留意する必要があります。

フリーランス保護法は、2024年秋頃までに施行予定です(※2)。
したがって、発注事業者においては、2024年秋頃までに、自社の取引が同法の適用対象であるか、及び、同法の適用対象である場合に同法の規制に対応することができる体制が整備されているかを確認することが重要です

本ニューズレターでは、フリーランス保護法の適用範囲を中心に解説します。

(※1)「フリーランス新法」「フリーランス保護新法」との略称が用いられることもありますが、本ニューズレターにおいては「フリーランス保護法」といいます。
(※2)フリーランス保護法は、公布の日から起算して1年6か月を超えない範囲内において政令で定める日に施行されます(同法附則)。

2.フリーランス保護法の適用範囲

フリーランス保護法は、発注事業者とフリーランスとの間の業務委託に係る取引に適用されます。

(1)特定受託事業者(フリーランス)

フリーランス保護法上、フリーランスを「特定受託事業者」といいます。
「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方である事業者であって、①個人又は②代表者1名の会社で、かつ、従業員を使用しないものです(同法2条1項)。1人でも従業員を使用していれば「特定受託事業者」に該当しないため、フリーランス保護法の適用対象外となります。

上記定義に関する重要な点は、上記の「従業員」には、短時間・短期間等の一時的に雇用される者は含まれないことです。現状、雇用保険対象者の範囲を参考に、「週所定労働20時間以上かつ31日以上の雇用が見込まれる者」を上記の「従業員」とすることが想定されています(※3)。
例えば、業務委託先のイラストレーターが、週10時間労働かつ2か月の雇用見込みのアシスタントを使用していたとしても、「従業員」を使用していることにはならず、フリーランス保護法が適用される「特定受託事業者」に該当します。

(※3)特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)Q&A(以下「Q&A」といいます。)問2の回答

(2)業務委託事業者、特定業務委託事業者(発注事業者)

フリーランス保護法によって義務を課される事業者は、フリーランス(特定受託事業者)に業務を委託する発注事業者です。同法上、発注事業者を「業務委託事業者」又は「特定業務委託事業者」といいます。

  • 「業務委託事業者」とは、特定受託事業者(フリーランス)に業務委託をする事業者です(同法2条5項)。フリーランスが他のフリーランスに業務を委託する場合のように、発注事業者がフリーランスであっても、「業務委託事業者」に該当します。
  • 「特定業務委託事業者」とは、業務委託事業者であって、①個人であって、従業員を使用するもの、若しくは、②法人であって、二以上の役員があり、又は、従業員を使用するものです(同法2条6項)。すなわち、業務委託事業者のうち、フリーランス以外の者が「特定業務委託事業者」に該当します。

 

「業務委託事業者」であるか又は「特定業務委託事業者」であるかによって、フリーランス保護法によって課される義務の範囲は大きく異なります(後記3参照)。
また、フリーランス保護法には下請法のような資本金要件がないため、下請法が適用されない資本金1000万円以下の発注事業者とフリーランスとの取引であっても、フリーランス保護法が適用されます。したがって、今まで下請法対策をしてこなかった中小企業であってもフリーランス保護法が適用され得ることに留意する必要があります

(3)業務委託

フリーランス保護法は特定受託事業者(フリーランス)に対する「業務委託」に適用されます。
この「業務委託」とは、①事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む。)又は情報成果物の作成を委託すること、②事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。)をいいます(同法2条3項)。

フリーランス保護法の適用対象となる委託の内容に限定はなく、下請法が適用される取引はすべてフリーランス保護法の適用対象になります。上記の定義には下請法上の「修理委託」が摘示されていませんが、修理委託は上記②の役務提供委託の一つであると整理されており、フリーランス保護法の適用対象です(※4)。

また、下請法が適用されない取引であってもフリーランス保護法が適用される取引があるため、留意が必要です。フリーランス保護法では、下請法が適用されない発注事業者が自ら用いる役務(自家利用役務)の提供や建設工事についても適用対象となります

そのため、下請法対応のチェックリスト等を整備しており、当該チェックリスト等を継続利用することを想定している発注事業者においても、その適用範囲の見直しを検討する必要があります

(※4)Q&A問2-3の回答

3.フリーランス保護法の規制の概要

フリーランス保護法の規制は以下の(1)ないし(3)の3段階に分けることができます。本ニューズレターにおいては、当該3段階の類型を概観します。

各規制の内容及び違反行為への対応等については、今後公開する以下のニューズレターにて解説します。

(1)業務委託事業者に対する規制

業務委託事業者(フリーランスに業務委託を行うすべての発注事業者)に対して課される義務は、以下のとおりです。

<取引の適正化に関する規制>

①取引条件の明示義務(同法3条)

(2)特定業務委託事業者に対する規制

特定業務委託事業者(フリーランスに業務委託を行う発注事業者のうち、フリーランス以外の者)に対して課される義務は、以下のとおりです。

<取引の適正化に関する規制>

①取引条件の明示義務(同法3条)
②報酬の支払期日設定義務、支払期日における報酬支払義務(同法4条)

<就業環境の整備に関する規制>

①募集情報の的確表示義務(同法12条)
②ハラスメント行為に係る相談対応等必要な体制整備義務(同法14条)

(3)特定業務委託事業者であって、かつ、業務委託の期間が一定の期間以上である者に対する規制

特定業務委託事業者(フリーランスに業務委託を行う発注事業者のうち、フリーランス以外の者)であって、かつ、業務委託の期間が一定の期間以上である者に対して課される義務及び遵守事項は、以下のとおりです(上記(2)において課されていない義務及び遵守事項に下線を付しています。)。

<取引の適正化に関する規制>

①取引条件の明示義務(同法3条)
②報酬の支払期日設定義務、支払期日における報酬支払義務(同法4条)
③受領拒否の禁止(同法5条1項1号)
④報酬の減額の禁止(同法5条1項2号)
⑤返品の禁止(同法5条1項3号)
⑥買いたたきの禁止(同法5条1項4号)
⑦購入・利用強制の禁止(同法5条1項5号)
⑧不当な経済上の利益の提供要請の禁止(同法5条2項1号)
⑨不当なやり直しの禁止(同法5条2項2号)

<就業環境の整備に関する規制>

①募集情報の的確表示義務(同法12条)
②ハラスメント対策に係る体制整備義務(同法14条)
③育児介護等と業務の両立に対する配慮義務(同法13条)(※5)
④中途解除等の事前予告義務(同法16条)

上記の取引の適正化に関する規制の③ないし⑨の遵守事項は、業務委託の期間が政令で定める一定の期間以上である場合に限り課されます(同法5条1項)。この遵守事項が課される業務委託の期間については、1か月以上とする方向で検討が進められています(※6)。この遵守事項は契約の更新により業務を当該一定の期間以上継続して行うこととなる場合にも課されますが(同法5条1項)、契約の更新の考え方には幾つかの論点があるため、これについてはフリーランス保護法の概要(2)-取引の適正化に関する規制-にて解説します。
なお、上記の就業環境の整備に関する規制の③及び④の義務についても、業務委託の期間が政令で定める一定の期間以上である場合(継続的業務委託である場合)に限り課されるものですが(同法13条1項、16条)、当該期間については上記1か月以上となるとは限らず、別途検討されますので、今後も注視するべきものと考えられます。

(※5)業務委託の期間が政令で定める一定の期間以上でない場合、特定業務委託事業者は、特定受託事業者からの申出に応じて必要な配慮をする努力義務を負います(同法13条2項)。
(※6)特定受託事業者に係る取引の適正化に関する検討会報告書の「第3」

4.結語

本ニューズレターでは、フリーランス保護法の適用範囲を中心に解説しました。今後公開するニューズレターにおいて、規制内容及び違反行為への対応について解説します。

また、2024年秋頃の施行までの間に、ガイドライン等によって規制の詳細が明らかにされていくことが予定されています。
当事務所ニューズレターにおいては適宜情報をアップデートして解説します。

以 上

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