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2024.04.02

企業法務の観点から注目される最近の主な裁判例(2024年1月・2月)

牛島総合法律事務所 訴訟実務研究会

<目次>
1. 商事法
2. 民事法・民事手続法
3. 労働法
4. 知的財産法
5. その他(独占禁止法、下請法)

裁判所ウェブサイトや法務雑誌等で公表された最近の裁判例の中で、企業法務の観点から注目される主な裁判例を紹介します(2024年1月・2月)。

下記1(1)(東京地判令和5年12月6日)は、東京機械製作所が、主要株主であり同社に買収を仕掛けた投資会社の子会社であった投資ファンドに対し、同社株式の短期間売買で利益を得たとして、約19億円の支払いを求めた事案です。東京地裁は、同社の主張を全面的に認め、請求通り約19億円の支払いを命じました。

下記1(2)(東京地決令和5年5月12日)は、公開買付けとその後のキャッシュ・アウト(特別支配株主による株式売渡請求)という2段階の買収取引における価格の公正性が問題となった事案です。東京地裁は、構造的な利益相反関係が存在する場合の取引条件の公正性についてのジュピターテレコム事件最高裁決定(最決平成28年7月1日民集70巻6号1445頁)の判断枠組みに従い、本件では一般に公正と認められる手続により公開買付が行われたと認め、価格の公正性を認めました。

下記2(2)(大阪地判令和5年7月21日)は、NPO法人が、インターネット購入したチケットの購入後のキャンセルや転売を原則として禁止するユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の利用規約は消費者契約法に基づき無効であるなどと主張し、利用規約の一部差し止めを求めた事案です。大阪地裁は、チケット価格の高額化を防ぐという利用規約の趣旨・目的は合理的なものであり、その必要性が否定できないなどとして、原告であるNPO法人の請求を棄却しました。

1. 商事法

(1) 東京地判令和5年12月6日(資料版商事法務478号170頁、裁判所ウェブサイト)

東京機械製作所からの主要株主に対する短期売買利益提供請求事件

(2) 東京地決令和5年5月12日(金融法務事情2228号56頁)〔NTT都市開発事件〕

支配株主による子会社化する一連の取引として、対象会社の株式に係る公開買付けおよびこれに引き続く特別支配株主による株式売渡請求がされたが、上記公開買付けが、一般に公正と認められる手続により行われたものと認められるとして、対象会社株式の売買価格を上記公開買付価格と同額と定めるのが相当とされた事例

(3) ①東京地判令和4年11月9日、②東京地判令和4年11月22日(金融法務事情2226号60頁)

[①事件]会社法433条1項に基づく株主からの会計帳簿等(ある会計年度の総勘定元帳、ある会計年度の中間決算の総勘定元帳、ある会計年度の決算書類のうち各勘定科目の内訳明細書、ある会計年度の中間決算の各勘定科目の内訳明細書)の閲覧および謄写請求について、「請求の理由を明らかにして」したものとは認められないとされた事例

[②事件]会社法433条1項に基づく株主からの会計帳簿等(仕訳帳、総勘定元帳、各種の補助簿(現金出納帳、手形小切手元帳、仕入帳などの補助記入帳、勘定科目を相手方等によって区別して記録する補助元帳))の閲覧および謄写請求について、上記会計帳簿等のうち役員報酬の支出に係る部分および従業員給与の支出に係る部分は「請求の理由を明らかにして」したものと認められるが、その余の部分は「請求の理由を明らかにして」したものとは認められないとされた事例

2. 民事法・民事手続法

(1) 東京高判令和5年8月8日(金融・商事判例1684号34頁)

原告の依頼を受けて原告名義の預金口座を解約した者が、その払戻金を原告の意図しなかった預金口座に送金したという事案において、これらの手続をした銀行の不法行為責任および債務不履行責任が否定され、預金契約に基づく払戻請求も否定された事例

(2) 大阪地判令和5年7月21日(判例時報2576号77頁、裁判所ウェブサイト)

1 テーマパークのチケット販売についての利用規約中、一定の場合を除いて購入後のチケットをキャンセルすることができない旨の条項は、消費者契約法9条(令和4年法律第59号による改正前のもの)及び10条に規定する消費者契約の条項に該当しないとされた事例
2 テーマパークのチケット販売についての利用規約中、チケットの転売を禁止する旨の条項は、消費者契約法10条に規定する消費者契約の条項に該当しないとされた事例

(3) 東京地判令和4年12月22日(金融法務事情2225号70頁)

銀行の従業員が著しく不正なキックバックの授受に及んでいるのに当該銀行が適切な対処をしないまま放置している旨のツイッター上の投稿記事は、当該銀行におけるキックバックの授受の事実の存在を断定し、またはキックバックの額や授受の態様等が著しく不正なものであるとまでうかがわせる報道等が見当たらないなどの事情のもとでは、当該銀行等の社会的評価を違法に低下させることが明らかなものにあたり、その発信者情報の開示が認められるとされた事例

(4) 東京高判令和4年10月27日(判例タイムズ1515号50頁、裁判所ウェブサイト)

被控訴人が発行する週刊誌に国会議員の言動に関する記事を掲載したことが名誉毀損に当たり、被控訴人がその記事を真実であると信じたことについて相当の理由があるとは認められないとして、当該国会議員による損害賠償請求が認容された事例

(5) 大阪高判令和4年5月27日(判例時報2575号11頁)

1 日本放送協会(NHK)との間で受信契約を締結した受信者らがNHKに対して、放送法4条又はNHKが自ら定めた国内放送基準を遵守してニュース報道番組を放送する義務があることの確認を求める訴えが、確認の利益を欠く不適法なものとされた事例
2 前記遵守義務違反の放送を理由とする受信者らのNHKに対する損害賠償請求に理由がないとされた事例

3. 労働法

(1) 東京高判令和5年8月31日(金融・商事判例1683号28頁)

社会福祉法人に理学療法士として勤務していた原告に対する新部門への配転命令を権利濫用により無効とした原審の判断が控訴審において取り消された事例

(2) 大阪高判令和5年6月29日(労働判例1299号12頁)〔阪神電気鉄道事件〕

勤務割の変更不可による年休の時季変更権行使の適法性

(3) 千葉地判令和5年6月9日(労働判例1299号29頁)〔社会福祉法人A会事件〕

泊まり勤務における割増賃金の算定基礎

(4) 東京地判令和5年4月12日(WEB労政時報4072号12頁)〔アスクほか1社事件〕

在職中の競業行為等の懲戒事由があることから、退職金増額部分の請求は100万円を超える限度で権利濫用となる

(5) 高松高判令和4年5月25日(判例時報2574号50頁)

第三者委員会による各種調査及び検討を経た上で原告の行為がパワーハラスメントに該当する旨記載された調査報告書が作成され、同報告書に基づいてされたパワーハラスメントを理由とする被告による原告の懲戒解雇について、いずれも懲戒事由に該当するとはいえないなどとして無効とされた事例

4. 知的財産法

(1) 東京地判令和5年7月6日(判例タイムズ1515号248頁、裁判所ウェブサイト)

発信者情報開示仮処分命令申立事件に係る申立書類一式をiPhoneで撮影した写真の著作物性が否定された事例

(2) 東京地判令和5年3月30日(判例時報2577号103頁、裁判所ウェブサイト)

写真をウェブサイトに投稿した行為が著作権法41条にいう時事の事件の報道のための利用に該当するとされた事例

(3) 知財高判令和4年10月19日(判例時報2575号39頁、裁判所ウェブサイト)〔ツイッタートリミング事件〕

1 発信者情報開示請求において、権利侵害の明白性が認められないと判断された事例
2 ツイートにおけるイラスト画像の利用が適法な引用に当たるとされた事例
3 ツイートに添付されたイラスト画像が、タイムライン上においてトリミング表示されることにつき、「やむを得ないと認められる改変」に当たるとされた事例

(4) 大阪高判令和4年9月30日(判例時報2577号85頁、裁判所ウェブサイト)

1 民事訴訟法6条1項所定の「特許権」「に関する訴え」には、特許権そのものでなくとも特許権の専用実施権や通常実施権さらには特許を受ける権利に関する訴えも含んで解されるべきであり、また、その訴えには、前記権利が訴訟物の内容をなす場合はもちろん、そうでなくとも、訴訟物又は請求原因に関係し、その審理において専門技術的な事項の理解が必要となることが類型的抽象的に想定される場合も含まれるとされた事例
2 受託研究契約上の債務不履行に基づく損害賠償請求訴訟として訴訟提起された事件について、その訴状の記載からは、その争点が、特許を受ける権利に関する契約条項違反ということで特許を受ける権利が請求原因に関係しているとし、その判断のためには専門技術的な事項の理解が必要となることが類型的抽象的に想定されることから、当該事件は民事訴訟法6条1項所定の「特許権」「に関する訴え」に含まれるとされた事例

5. その他(独占禁止法、下請法)

(1) 東京高判令和5年4月7日(金融・商事判例1682号2頁)〔シャッター事件〕

1 シャッターに関する価格カルテルを認定した審決が維持された事例
2 役務を伴う有体物の取引につき独占禁止法7条の2第1項1号にいう「商品」に当たるとされた事例
3 地理的範囲および物件を異にする2つの課徴金納付命令における課徴金の算定にあたり、命令ごとに引渡基準(令和2年改正前の独占禁止法施行令5条1項)と契約基準(同施行令6条1項)を適用した審決が維持された事例

(2) 東京地判令和4年12月23日(判例時報2577号72頁)

1 下請代金支払遅延等防止法2条1項所定の製造委託に当たると判断された事例
2 下請代金支払遅延等防止法4条1項3号違反に当たると判断された事例
3 下請代金支払遅延等防止法4条1項3号違反の私法上の合意の効力

以 上

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