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<目次>
1 はじめに
2 本規則案・本合意案の背景
3 本合意案の適用範囲
4 本合意案における主な規制の概要
5 おわりに

1. はじめに

 2024年3月4日、EU理事会及び欧州議会が、欧州委員会により提案されていた包装及び包装廃棄物規則案(以下「本規則案」(※1)という。)につき暫定的な政治合意に達したとのプレスリリースが発表され、同月15日に合意法案が公開された(以下「本合意案」(※2)という。)。本合意案では、包装のリサイクル要件や包装のリユース、包装に関する情報提供の要求等が定められている。
 今後は、欧州理事会と欧州議会の両機関で採択、修正等を経た上で施行される。規制は同施行の18ヶ月後から適用される(なお、規制内容ごとに適用時期が異なるものもある。)
 そこで、本投稿では、本合意案の主な規制概要について述べることとする。

(※1)2022年11月30日 European Commission「European Green Deal: Putting an end to wasteful packaging, boosting reuse and recycling」
(※2)2024年3月15日 Council of the European Union「Packaging: Council and Parliament strike a deal to make packaging more sustainable and reduce packaging waste in the EU」

2. 本規則案・本合意案の背景(3

 現行のEUの包装・包装廃棄物指令は1994年に採択され、その後数度の改正を経ている。同指令は、加盟国に対して、EU市場に流通する全ての包装及び包装廃棄物につき重量比でリサイクル率の数値目標を課す等、包装及び包装廃棄物の管理措置を定めていた。しかし、近年のEUでは、包装のリサイクル率は上昇しているものの、このリサイクル率を上回るペースで包装廃棄物の量が増加しており、同規則は環境に対する悪影響に対処できていないとの評価もなされていた。
 そこで、2022年11月30日、欧州委員会は2050年までに温室効果ガス排出実質0を目指す欧州グリーンディールの循環型経済へ向けた行動計画の一環として、本規則案を提出した。本規則案については、2023年2月27日付けでTBT協定(貿易の技術的障害に関する協定)に基づきWTO事務局を通じて貿易への障害を軽減・除去するための事前通報(WTO/TBT通報)(※4)がなされている。前述のとおり、本合意案は本規則案からの修正がなされている。

(※3)2024年3月15日 Council of the European Union「Packaging: Council and Parliament strike a deal to make packaging more sustainable and reduce packaging waste in the EU」
(※4)2023年2月27日にWTOが公表 「NOTIFICATION」

3. 合意案の適用範囲

 本合意案では、包装及び包装廃棄物の素材や、これらが産業使用由来か家庭使用由来か等を問わず、全ての包装及び包装廃棄物に適用され、本合意案に定める規制に適合する包装材のみ、EU市場における上市が許容されることになるため(本合意案2条1項及び同4条1項)、第三国からEU市場に対して輸出されることによって上市された包装製品も対象となる。

4. 合意案における主な規制の概要

(1)     包装を構成する物質の要件等について(本合意案5条、6条、7条)

    EU市場に上市される包装は、含まれる鉛、カドミウム、水銀、六価クロムの含有量が100mg/kgを超えてはならず、一定の基準を超えるPFASを含む食品接触包装は市場に上市してはならない(本合意案5条1項、2項及び2a項)。
    EU市場に上市される全ての包装はリサイクル可能でなければならない。リサイクル可能性の要件は、下記条件を満たすかにより判断される(本合意案6条1項、同条2項)。

【リサイクル可能性要件】

①     包装がリサイクルできるように設計されており、リサイクルで得られる二次的な原料の品質が一次原料を代替する十分な品質であること
②     廃棄物となった場合に、一定の基準・方法に従って、リサイクルシステムのもとで他の廃棄物のリサイクルに影響を与えることがなく、決められた廃棄物処理の流れに従って分別収集できること

    本合意案は、特にプラスチック包装のリサイクル材の最低限の含有量につき、下表のように二段階に分けて規制導入が検討されている(本合意案7条1項、2項)。

【2030年1月1日以降】
①主成分がポリエチレンテレフタラート(PET)の包装(使い捨て飲料ボトルを除く)30%
②使い捨て飲料ボトルを除くPET以外のプラスチック包装10%
③使い捨てのプラスチック飲料ボトル30%
④上記以外①ないし③以外のプラスチック包装35%
【2040年1月1日以降】
①主成分がポリエチレンテレフタラート(PET)の包装(使い捨て飲料ボトルを除く)50%
②使い捨て飲料ボトルを除くPET以外のプラスチック包装25%
③使い捨てプラスチック飲料ボトル50%
④上記①ないし③以外のプラスチック包装65%

 (2)   プラスチック包装の堆肥化について(本合意案8条)

 ティーバッグや、コーヒーの個包装、果物や野菜に貼られるラベル、軽量なプラスチック製の袋は産業的に堆肥が可能な包装でなければならない(本規則案8条1項、3条1項f)。ここでいう「堆肥化が可能な包装」とは、物理学的、科学的、熱的又は生物学的に堆肥の大部分が二酸化炭素、無機塩類、バイオマス及び水に分解され得る包装であって、産業的条件下での分別収集及び堆肥化の工程・活動の妨げにならない包装を指す(本規則案3条41号)。

 (3)   包装の最小化について(本合意案9条)

 製造業者及び輸入業者は、包装が、その材質や形状を考慮して、機能性確保のために必要最小限度の重量及び体積になるように設計されていることを保証する必要がある(本合意案9条1項)。

 (4)   包装の再利用について(本規則案10条)

 包装は、リユース可能でなければならず、リユース可能であるといえるかは、包装が複数回のリユースができるように考案・設計されているか、通常予測可能な使用方法によって可能な限りリユースできるように設計されているか等といった要件を満たす必要がある(本合意案10条1項各号)。

 (5)   ラベル表示について(本合意案11条)

 インターネット通販用の包装及びそれ以外の輸送用の包装を除く包装材につき、その包装の素材構成や分別方法に関する情報をラベル添付する必要がある。加えて、消費者が分別をしやすくするために、QRコード等を貼付して情報提供をする必要がある(本合意案11条1項)。

 (6)   事業者の義務(本合意案13条以下)

 製造業者は、EU市場に上市する包装が、上記の規定(本合意案5条ないし11条が定める規定)に適合するようにしなければならず(本合意案13条1項)、包装または包装材料の供給者は、製造業者に対して、製造業者が、包装が本規則案に定める規定に適合しているか検証するために必要な情報を提供する義務を負う(本合意案14条1項)。また、EU加盟国以外の国から包装または包装が使用された製品をEUの市場に流通させる輸入業者は、本合意案5条ないし11条に適合する包装でなければEU市場に上市してはならないという義務を課される(本合意案16条1項)。販売業者は、本規則案の規定に沿った行動を要求され、販売される商品の包装が本合意案11条のラベル表示に適合したものになっているか、また製造業者・輸入業者が各自に課される義務を遵守しているか等を確認する義務を負う(本合意案16条1項、2項)。
 製造業者、輸入業者、販売業者は、上市した包装が上記の規定(本規則案5条ないし11条)に適合していないと考える理由がある場合には、本規則案に適合するように是正するための措置や、包装の回収等の措置を講じなければならない(本合意案13条8項、16条6項、17条4項)。

5. おわりに

 本合意案の適用範囲は非常に広範であり、日本の輸出企業、海外拠点を有する企業等も対応を余儀なくされることが予想される。本投稿では本合意案の大まかな規制概要を述べたが、今後欧州議会及び欧州理事会による採択を経た正式な法案について、その動向を注視する必要がある。

以 上

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