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事務所概要・アクセス
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<目次>
1. はじめに
2. 非上場株式制度の在り方
(1) プライマリー市場
(2) セカンダリー市場
3. 上場市場の在り方
4. ファンドエコシステムの在り方
本ニューズレターでは、スタートアップ・ファイナンス研究会(以下「本研究会」といいます。)が、2024年6月24日に公表したとりまとめ資料(「スタートアップ・ファイナンス研究会とりまとめ~ガバナンス向上とファイナンス手法の多様化を通じたスタートアップ・エコシステムの拡大~」。以下「本とりまとめ」といいます。)の概要を紹介します。
日本政府は、2022年11月に公表した「スタートアップ育成5か年計画」において、5年後(2027年度)にスタートアップへの投資額を当時の10倍を超える規模(10兆円規模)にすること等を目標に掲げています。この目標の実現にあたっては、スタートアップの数を増やすのみならず、メガスタートアップの創出を実現していくという観点から、上場前・上場後を含めたスタートアップのファイナンス・エコシステムのあり方を議論することが重要とされています。
本とりまとめにおいては、市場制度やファンドエコシステムの在り方等について、現状と課題を分析するとともに政策の方向性が示されており、現時点におけるスタートアップ・ファイナンスの状況や近い将来における制度改正等を理解する上で有益であると考えられます。
なお、本研究会は、以下で述べる市場制度やファンドエコシステムの在り方に加えて、スタートアップのガバナンス(ステークホルダーの広がりに応じた経営陣の交代や投資家とのコミュニケーションの在り方等)及びデットファイナンス(エクイティ投資を補完するデットファイナンスの活性化等)についても検討されておりますが、本ニューズレターでは省略します。
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未上場株式のプライマリー市場においては、資金供給量が増加(国内スタートアップの資金調達金額が2013年度の約900億円から2023年度は約7,500億円に拡大)しており、また、Exitを経験したエンジェル投資家など投資家の裾野も拡大しています。
一方で、以下のような課題が指摘されています。
ECFについては、投資家保護の観点や活用するスタートアップの性質も十分踏まえつつ、募集上限や適切な開示負担の在り方、シンジケート型の形式の普及に向けて検討することが必要であるとされています。(※)
また、小規模公募は、諸外国の制度状況やスタートアップの具体的なニーズを踏まえて、募集額の上限の引上げを含めた制度のあるべき姿の検討を進めていくことが必要であるとされています。
少人数私募についても、現行の勧誘人数による算定方法の見直し等について検討することが必要であるとされています。
特定投資家私募については、特定投資家の裾野の拡大(金融アドバイザー、ファミリーオフィスのクライアント、上場企業役員経験者等を含めること)や特定投資家として扱われることのメリットを示しやすい勧誘規制(日本証券業協会の「店頭有価証券等の特定投資家に対する投資勧誘等に係る制度」に関するQ&A等を参照)の在り方を検討することが必要であるとされています。
※ 具体的な方向性について、2024年7月2日付け金融審議会「市場制度ワーキング・グループ報告書―プロダクトガバナンスの確立等に向けて―」10頁も参照。
未上場株式のセカンダリー市場においては、2023年6月の金融商品取引法施行令の改正により、私設取引システム(Proprietary Trading System。以下「PTS」といいます。)において特定投資家向けに非上場株式を取り扱うことが可能となりました。しかしながら、PTSの運営には第一種金融商品取引業登録に加えてPTSの認可要件を満たすことが必要であり、新規参入等が限定的となっています。
また、ファンド期限が迫っているベンチャーキャピタル(以下「VC」といいます。)から持分を取得するニーズの高まりから、セカンダリーファンドも重要性が高まっています。
事業者の新規参入を念頭においた非上場株式にかかるPTSの参入要件が金融商品取引法改正(2024年5月15日成立)によって緩和されました。発行体やマーケット運営事業者、投資家のそれぞれが新規参入しやすい制度設計について引き続き検討を進めることが重要であるとされています。
また、セカンダリーファンドの振興も重要であることを踏まえ、官民ファンド等によるリスクマネーの供給を含めて引き続き取り組んでいく必要があるとされています。
グロース市場においては、上場後に成長が鈍化する企業が多く、全体の約半数の企業は現在の時価総額が新規上場時の時価総額を下回る状況であり、時価総額200億円未満で上場した企業の大半は現在も200億円未満に留まります。小規模上場(上場時時価総額200億円未満を目安とする上場)が多い背景には、現状のグロース市場の上場審査基準が低いことや、ファンドの満期を迎えるVCがIPOを求めること等が指摘されています。
また、こうした小規模上場企業について、多くの場合は、時価総額の観点から機関投資家の投資対象外となる結果、公募増資や第三者割当増資等の上場後の資金調達手段が限定的となり、成長できない状況に置かれてしまうと指摘されています。加えて、小規模上場企業も含めて、グロース市場への上場後は成長投資が行われていないケースが多く、その要因として、上場維持基準(上場10年経過後の時価総額40億円以上等)の低さも指摘されています。
さらに、上場後においてもM&Aは買収側・売却側双方にとって重要な経営上の手段ですが、成長投資やExit手段としてのM&Aは少ない状況となっています。例えば、日本の会計基準においては、「のれん」を規則的に償却(毎期費用計上)すること等が求められ、スタートアップを買収する企業の利益を下押しする要素となっています。
上場審査基準はセカンダリー取引環境の整備や投資者層の拡大といった環境整備を進めた上で、中長期的な見直しを検討が必要であり、グロース市場の機能強化に向けて上場維持基準の見直しの検討も必要であるとされています。
また、現場のニーズも踏まえながら、「のれん」の柔軟な資産評価等を含めてM&Aの促進に向けた取組みを検討することが必要とされています。
さらに、IPOにおける公開価格の設定プロセスの変更を受けた柔軟な公開価格設定のプラクティスの普及に取り組むことも必要であるとされています。(※)
※ IPO時の公開価格の設定プロセスについては、日本証券業協会の2022年2月28日付け「『公開価格の設定プロセスのあり方等に関するワーキング・グループ』報告書」を踏まえて、2023年10月1日から、仮条件の範囲外で公開価格が設定されたり、公開価格の設定と同時に売出株式数が変更されたりできるようになっています(参考資料)。オファリングサイズの拡大による資金調達規模の拡大や機関投資家の流入促進に資すると考えられることから、今後、柔軟に公開価格を決定する事例が増えていくことが期待されます。
未上場のレイター段階から上場後にかけて、投資家層が不足しており、資産運用会社やVC、証券会社など、金融業界内における分野間の人材の流動性が低いための、人材の流動性を高めてナレッジを共有していくことが重要と指摘されています。
未上場段階からの投資家層の広がりについては、VCのマーケットは大きく成長しているものの、特にレイター段階での投資やクロスオーバー投資(未上場段階から上場段階にまたがった投資)は限定的となっています。
また、上場段階についても、投資家層の広がりは限定的な状況です。大手の機関投資家等は、一定の時価総額規模や流動性がなければ投資検討対象にはならず、特にグロース市場では機関投資家の参入が限定的となっています。
グロース市場については新興資産運用会社が市場開拓の担い手の一つになると考えられている一方、国内のアセットオーナー(金融機関・年金基金・大学基金等)を含めて、新興資産運用会社へのシードマネーの拠出等は限定的です。他方で、海外アセットオーナーは、オルタナティブ資産(上場株式、債券以外の資産)への投資を積極的に行う傾向にあり、新興資産運用会社に対する早期の投資にも取り組んでいます。
以上の他、官民ファンドを含む公的資金の出し手(中小企業基盤整備機構や産業革新投資機構(JIC)など)から、例えばVCへのリミテッドパートナー(以下「LP」といいます。)としての出資等を通じたリスクマネー供給もなされています。
VC等が国内外の機関投資家から資金受託を促進していく上では、ファンド・パフォーマンスの適切な評価とファンド間の比較を可能にするため、非上場株式の公正価値評価の導入・普及が必要となります。経産省は、2023年12月5日付け「投資事業有限責任組合会計規則」により、投資事業有限責任組合が投資する資産の評価について公正価値評価を原則として位置付けるなど(同規則7条2項及び3項)、公正価値評価の普及に取り組んでいます。
これに加えて、広く内外機関投資家から資金調達を目指すVCについて、VC等における持続的な経営体制の構築やコンプライアンス管理、LP投資家への情報提供、投資先のスタートアップの価値向上に資する取組等を含めて、LP及びゼネラルパートナー(GP)において推奨・期待される事項を整理することが必要であるとされています。(※1)
さらに、VCや投資信託等によるクロスオーバー投資や安定株主の確保の促進のため、インサイダー取引への対応や親引けなどの安定株主の確保に繋がるプラクティスの整理・普及に向けた検討が必要であるとされています。
アセットマネジャーの独立等の円滑化に資する新興運用業者促進プログラム(日本版EMP)の活用などにより、資産運用会社の新規参入促進に向けて検討することも必要とされています。(※2)
また、民間ではリスクが取りにくいセクターやフェーズにおいて、官民ファンド等による公的資金の供給に引き続き取り組むことが必要であるとされています。
※1 「ベンチャーキャピタルに関する有識者会議」において、VCの運営に求められる基本的な考え方を示すプリンシプルに盛り込むべき事項について検討がされ、「ベンチャーキャピタルにおいて推奨・期待される事項(案)」のパブリックコメントが実施されています。
※2 2024年5月15日成立の金融商品取引法改正により、適切な品質が確保された事業者へのミドル・バックオフィス業務の外部委託や運用権限の全部委託が可能となります(参考資料)。
以 上