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事務所概要・アクセス
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<目次>
1. 経緯等
2. 本推奨・期待される事項の目的等
3. 本推奨・期待される事項の構成
4. 本推奨・期待される事項の概要
(1) 推奨される事項
(2) 期待される事項
5. フォローアップ
2024年7月4日に、ベンチャーキャピタルに関する有識者会議(以下、「本有識者会議」といいます。)が、「ベンチャーキャピタルにおいて推奨・期待される事項(案)」(以下「本推奨・期待される事項」といいます。)を公表しました。
本有識者会議は、新しい資本主義実現会議による2023年12月13日付け「資産運用立国実現プラン」において「ベンチャー投資の促進に向けた環境整備を図るため、ベンチャーキャピタル向けのプリンシプルを策定する」とされ、また、同年12月12日「金融審議会市場制度ワーキング・グループ・資産運用に関するタスクフォース報告書」においても、広く内外機関投資家から資金調達を目指すベンチャーキャピタル(以下「VC」といいます。)について、その運営に求められる基本的な考え方を示すプリンシプルを定めることが適当であるとされたことから、金融庁と経済産業省が、共同で開催していました。
本推奨・期待される事項は、2024年8月3日を意見募集期限としたパブリックコメント手続に付されており、今後、募集された意見を踏まえた確定版が公表されることになります。
本推奨・期待される事項は、今後のスタートアップによる資金調達やVCの運営等に影響を与えることになるものと考えられますので、本ニューズレターでは、その位置づけや概要を解説します。
【関連情報】
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本推奨・期待される事項は、VCのガバナンス等が向上することで、国内外の機関投資家の資金が更にVCに円滑に供給され、レイター・ステージを含むスタートアップへの全般的な出資機能の強化に寄与すること等によるスタートアップエコシステムの進化を目的としています。
本推奨・期待される事項はルール・ベースアプローチを採用するものではなく、適格機関投資家等特例業者又は投資運用業者であることが多いVCについて、金融監督上の目線を示すものではありません。
本推奨・期待される事項が対象とするのは、広く内外機関投資家からの資金調達を目指すVCです。画一的に各事項を遵守することではなく、VCの実態に応じて活用されることが想定されているため、VCが自らの規模やその特性等を考慮して、一部の本推奨・期待される事項を実施しないこともあり得るとされています。ただし、その場合には、そうした判断を行った合理的理由等について、リミテッドパートナー(以下「LP」といいます。)とゼネラルパートナー(以下「GP」といいます。)の間で意思疎通することが期待されています。
本推奨・期待される事項は、広く内外機関投資家からの資金調達を目指すVC以外のVC、具体的には、CVCや金融系・大学系VC、初期段階のVCは対象としていません。もっとも、CVC等において、LPの意向でGPによる本推奨・期待される事項を意識したファンド運営が期待される場合や、初期段階のVCにおいて将来的に本推奨・期待される事項を満たすよう体制構築を図っていくことを視野に入れる場合等において、必要に応じて参照されることも期待されています。
本推奨・期待される事項は、以下のとおり二段構成となっています。
① 広く内外機関投資家から資金調達を目指すVCとして備えることが「推奨される事項」
② スタートアップエコシステムの発展に寄与し、LPの中長期的なリターンを向上させるものとして、VCに一般的に「期待される事項」
①「推奨される事項」は、VCがアセットクラスとして内外機関投資家の投資対象となるために、LPへの受託者責任を踏まえ、VCとして備えておくことが推奨される事項です。他方、②「期待される事項」は、目指すべき全体的な方向性を示すものとされています。GPはLPに対する中長期的なリターンの向上に資する範囲で、スタートアップの育成という重要な役割を担っていることに留意しつつ、個別の戦略についてLPとGP間で十分な意思疎通が行われること等が期待されています。
項目 | 推奨される事項の概要 |
受託者責任 | ・GPはLPに対し、投資先企業の企業価値最大化を通じ、LPの持分価値の最大化に向けて、必要な説明責任を果たす。 ・LPとGP間で利益相反事項のほかファンド運営に関する重要な事項等を議論するLPの代表又はLPの指名を受けた者により構成される諮問委員会(LPAC)を設置する等の対応をする。 |
持続可能な経営体制の構築 | ・GPは、やむを得ない事情がある場合や、ファンド運営に支障や利益相反が生じるおそれがない場合を除き、キーパーソンがファンド運営に専念する体制を整備する。 ・短期間でのキーパーソンの離反は、基本的には起きてはならず、万が一、キーパーソンが離反する場合には、ファンドの新規投資の停止やLPによる出資コミットメントの再検討を可能とする。 ・VCのファンドとしての継続性を高める観点から、複数の投資担当者やミドル・バックオフィス業務の担当者を備える等、持続可能な体制を構築する(外部事業者への業務委託も考えられる)。 |
コンプライアンス管理 | ・コンプライアンス管理の責任者(規模に応じて他の管理部門との兼務も考えられる)の明確化や非公表情報の取扱いその他業務運営に必要な規程を整備し、コンプライアンス管理体制を確保する。 |
LPの権利の透明性確保 | ・LP間の公平性の観点から、特定のLPに対し、他のLPに重大な悪影響を及ぼし得る権利(特定の投資行為についての拒否権等)を付与する場合には、他のLPにも情報提供が行われる等により透明性を確保する。 ・特定のLPに権利を付与する場合には、LPは自身より出資コミットメント額が同等以下のLPに付与されている権利を求めることができるようにする。 |
項目 | 推奨される事項の概要 |
利益相反管理 | ・GPは、ファンド組成時に、利益相反が生じ得る事項の特定とその管理体制を検討し、LPに十分に説明する。 ・LPとGP間の利益相反事項についてLPACに諮問を求めるなどの対処をする(各LPに説明の上、一定数以上のLPの同意を得る方法もあり得る)。特に、GPが他事業との兼任・兼業や複数ファンドの運営を行う場合は、利益相反管理を徹底する。 ・他事業との兼任・兼業については、GP内のリソース配分やファンド運用との関係を明確にした上で、ファンドの運営に影響があり得る場合には、投資先企業の価値向上につながるなどLPのリターン向上に資するものに限定する。 ・複数ファンドの運営については、ファンド間の利益相反に関する明確な管理体制(GP内のリソースや投資機会、エグジット時期等)を整備する。 |
LPとGPの利害の一致に向けた対応 | ・GPのファンドに対する適切な出資コミットメント等の対応を講じる(ファンド運営者個人の非上場企業への投資については、ファンド運営との利益相反のおそれがある投資は避け、運用ファンドへの出資を通じて行う)。 ・GPは、投資先ごとの投資額に対するリターンよりも、LPの出資コミットメント額に対するリターンの最大化を意識する。 ・組合契約における利益分配構造等の主要な条件について、ILPA Private Equity Principles等のグローバル・スタンダードに配意する。 |
項目 | 推奨される事項の概要 |
保有資産の公正価値評価 | ・ファンドの資産の状況を算定するにあたり、保有する非上場企業の株式について公正価値評価を行った上で、LPに情報提供する(GPはファンド規模等に応じた評価体制や評価フローを構築する)。また、公正価値評価における評価手法等についても情報提供する。 |
情報提供の頻度・内容 | ・LPに四半期ごとにファンドの財務情報を提供する。年次報告において、ファンドの投資戦略の実現状況及び今後の方針を提供する(経営体制やコンプライアンス管理、利益相反管理等の体制や実施状況に変更があった場合にもLPに年次報告で報告する)。 |
項目 | 推奨される事項の概要 |
スタートアップとの投資契約 | ・事後の資金調達ラウンドでの円滑な資金調達(海外投資家の呼び込みも含む)や事業活動の展開に過度な制約とならないか、経営者による事業拡大・挑戦に向けたインセンティブ・意欲を適切に引き出すものとなっているかといった視点から、投資先企業と十分に意思疎通を図る(VCの利益確保のために盛り込んだ契約内容がかえって投資先企業の成長を阻害してしまうと、中長期的なLPのリターン最大化に沿わなくなることに留意する)。 |
投資先の経営支援 | ・VCの戦略や投資先企業の意向に応じて、資金供給に加え、人材の紹介、ビジネスマッチング、ノウハウの提供・コーチング、M&Aの支援等を提供する(適切な資金管理やコンプライアンス管理を行う体制構築のサポートも考えられる)。 ・VCから取締役を派遣する場合には、投資先企業の取締役として当該企業の価値最大化のために、ガバナンス向上や事業拡大等に資する行動を行う(派遣元VCと投資先企業との間で利益相反が生じることがあり得るが、派遣された取締役は投資先企業に対して善管注意義務及び忠実義務を負うことに留意する)。 |
投資先の資本政策支援 | ・投資を行った資金調達ラウンド以降においても、当該企業の成長に向けた資金調達に必要な協力を行う。 ・その際、LPのリターン最大化を図る観点から投資先企業の成長を支えることが適当な場合等、必要性・合理性がある場面においては、フォローオン投資や他の投資家の紹介、投資契約の修正等の相談にも応じる(フォローオン投資について予め実施要否や運営方法に関してLPとGPで意思疎通を行う。また、VCが自らフォローオン投資を行わない場合でも他の投資家の紹介等の協力をする)。 ・ファンドの存続期間が課題となる場合もあり得るが、LPのリターン最大化を図る観点から、投資先企業の価値向上等のためにファンドの存続期間を延長することについて、LPとGPにおいて十分に意思疎通を図る(組合契約締結時点から意思疎通を行う。後継ファンドへの引き継ぎやセカンダリーファンドへの売却等も考えられる)。 ・投資先企業のエグジットについては、LPのリターン最大化を図る観点から、上場だけでなく、M&Aも含めた、最適なエグジットの方法・タイミングを検討する。 |
投資先の上場後の対応 | ・投資先企業の上場後にVCが保有株式を売却する場合には、売却価値が最大となるよう、売却時期・手法を十分検討する(個別のケースでは一斉売却によりLPのリターンが確保されたとしても、そうした慣行が広がれば、全体として売り急ぎが生じて中長期的なLPのリターンにマイナスとなりかねないことに留意する。このため、保有株主の売却にあたっては、情報管理に留意しつつ、投資先企業の関係者等と十分に意思疎通を図る)。 ・VCの戦略や投資先企業の意向によって適切な場合には、情報管理等の体制を整備したうえで、上場後も、ガバナンスを支え、更なる成長の果実を共有するために一定程度株式を保有し続ける(クロスオーバー投資)ことを検討する(クロスオーバー投資はスタートアップが上場後も更なる成長を続ける上で重要であるが、非上場株式と上場株式は投資戦略やリスク管理が異なるため、情報管理を含めた体制整備やLPとの意思疎通が必要)。 |
項目 | 推奨される事項の概要 |
ESG・ダイバーシティ | ・ESGへの関心の高まりを踏まえ、VCにおいても、LPとGPの意思疎通に応じて適切な場合には、VCの戦略により、ESGを意識したファンド運営を行うことも検討する(エコシステム全体でESGに関する意識の浸透・進展を図ることが中長期的なVCのリターン向上につながり得る)。その場合には、LPに運営状況を適切に報告する。 ・特に、スタートアップにおいて、新たな価値の創造とイノベーションを実現するにはダイバーシティの実現が重要であることを踏まえ、ダイバーシティを意識したファンド運営を行う(VCは、多様な人材の採用・育成や、評価・意思決定プロセスに潜在する無意識の偏見への対応を行う。ESG・ダイバーシティを意識したファンド運営を行う意義について、LPとGP間で意思疎通を行う。ESG・ダイバーシティの形式的・画一的な組み込みにより、ファンド運営の柔軟性が損なわれないよう留意する)。 |
本推奨・期待される事項の策定後には、業界団体を含めた関係者において、内外機関投資家からの資金調達状況も含めた実態調査等を行い、必要に応じ、本有識者会議において、フォローアップ・見直しの検討を行うものとされています。
以 上