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2025.03.03

企業法務の観点から注目される最近の主な裁判例(2025年1月・2月)

牛島総合法律事務所 訴訟実務研究会

<目次>
1. 民事法・民事手続法
2. 商事法
3. 労働法
4. 知的財産法
5. その他(租税法、消費者契約法、景品表示法)

 裁判所ウェブサイトや法務雑誌等で公表された最近の裁判例の中で、企業法務の観点から注目される主な裁判例を紹介します(2025年1月・2月)。
 東京地判令和6年7月8日(下記1(2))は、いわゆるカップルユーチューバーであるXらが、タレントのマネジメント会社であるYとの間で締結した専属マネジメント契約につき、同契約がXらの解除により終了していることの確認を求めた事案です。Yは、同契約に定められた合意解除の規定を反対解釈すれば、合意がない限り契約期間内に同契約を解除することはできない旨主張しましたが、東京地裁は、専属マネジメント契約にはXらが解除権を放棄する旨が明記されていないとしてYの主張を認めず、同契約が終了していることを確認しました。近時、タレントと芸能事務所との間で締結された専属マネジメント契約について、解除の成否が問題とされる事案が多く見られます。本判決は、定型書式を利用した専属マネジメント契約について、解除権放棄の認定については契約上の明示的な文言によるべきとする明確な指針を示したものとして、個別事案を超えた一般的重要性を含むものであり、実務上参考になります。
 東京高判令和6年7月4日〔社会福祉法人A会事件〕(下記3(5))は、社会福祉法人A会(Y法人)に勤務していたXが、Y法人に対し、夜勤時間帯(午後9時~翌日午前6時)の泊まり勤務について、割増賃金等の支払を求めた事案です。千葉地裁が、割増賃金算定の基礎となる賃金単価につき、750円(泊まり勤務1回の夜勤手当6000円を夜勤時間8時間(休憩時間1時間を除く。)で除した金額)として割増賃金等を算定したのに対し、Xが控訴したところ、東京高裁は、夜勤時間帯について日中の勤務時間帯と異なる時間給の定めを合意する場合は趣旨及び内容が明確となる形でされるべきところ、本件ではそのような合意はないとして原判決を変更し、夜勤時間帯の割増賃金算定の基礎となる賃金単価を1528円~1560円として割増賃金等を算定しました。
 知財高判令和6年10月30日〔「Sushi Zanmai」事件〕(下記4(1))は、「すしざんまい」という名称の飲食店を全国的に展開しているX社が、魚介類・水産加工品の輸出入等の事業を行うY社(日本法人)に対し、Y社のグループ会社であるA社がマレーシアにおいて「Sushi Zanmai」という名称の飲食店を展開しているところ、Y社のウェブページに「寿司三昧」、「Sushi Zanmai」等の表示を掲載した行為がX社の商標権を侵害すると主張し、当該表示の差止及び削除並びに損害賠償を求めた事案です。知財高裁は、Y社による上記表示が、食材の海外輸出を検討する国内事業者に向け、Y社の事業を紹介するために使用されているにすぎず、マレーシアにおける「Sushi Zanmai」という名称の飲食店を日本国内の需要者に対し広告する目的で使用されたものでないこと、仮に「Sushi Zanmai」という名称の飲食店の役務の広告であると考えた場合でも、当該役務は国外で提供される役務であるから、X社の商標権を侵害しないことなどを指摘し、X社の請求を棄却しました。
 最二判令和7年2月17日(下記5(2))は、三菱UFJ信託銀行が、大阪市及び広島市に所有するホテル、オフィスビル等の固定資産税評価額について、両市が採用した算定手法が不合理であると主張して、両市による価格決定の取消しを求めた3件の訴訟です。最高裁は、複数の構造により建築され、低層階と上層階で構造が異なる家屋に対する経過年数に応ずる減点補正率の適用について、低層階を構成する最も耐用年数の長い構造(SRC造・RC造)をもって「主たる構造」と判定する方式(低層階方式)を採用した両市の取扱いは不合理とはいえないと判示し、床面積が最も大きな構造(S造)をもって「主たる構造」と判定する方式(床面積方式)の採用を主張した同銀行の請求を棄却しました。自治体の内規で床面積方式の採用が明記されていない場合において、仮に自治体が低層階方式を採用して評価額を決定したときは、評価額に億単位の差異が生じる場合があり、実務に影響があると考えられます。

1. 民事法・民事手続法

(1) 東京地判令和6年7月18日(判例時報2613号92頁、裁判所ウェブサイト)

ある投稿における匿名の人物が、原告と面識がある又は原告に関する知識を有する者によって原告であると同定され、その者が特定少数であってもこれを流布するおそれがあるとして、原告の名誉を毀損するものとされた事例

(2) 東京地判令和6年7月8日(判例時報2610号89頁)

契約当事者において契約期間内であっても合意により契約を解除することができる旨の規定は、解除権を放棄するものとはいえないとして、カップルユーチューバーに係る専属マネジメント契約の解除が認められた事例

(3) 東京地判令和5年12月13日(判例時報2606号42頁)

被告がインターネット上に掲載した記事の一部について、真実相当性の抗弁を認めて損害賠償を否定しつつ、同記事の掲載は違法であるとして、その削除を命じた事例

2. 商事法

(1) 東京高判令和6年10月9日(金融・商事判例1708号38頁)

いわゆるデッドロックの状況にある株式会社の解散請求が認められなかった事例

3. 労働法

(1) 名古屋高判令和6年9月26日(WEB労政時報4092号16頁)〔平塚労基署長[小松製作所]事件〕

他の従業員の面前で威圧的な叱責を反復継続的に受けたことに伴う心理的負荷の評価は、叱責を行う業務上の必要性によって直ちに左右されない

(2) 東京地判令和6年9月24日(WEB労政時報4093号12頁)〔アイ・ピー・コンサルティング事件〕

就業規則の競業禁止規定のうち退職後の競業避止義務を定める部分は、禁止される業務の範囲が広範に過ぎ、公序良俗に反し無効

(3) 札幌高判令和6年9月13日(WEB労政時報4091号10頁)〔京王プラザホテル札幌事件〕

コロナ禍初期の海外での結婚式参加のための年休取得は事業の正常な運営を妨げる場合に該当するが、渡航前日の時季変更は権利濫用に当たり違法

(4) 東京高判令和6年8月7日(金融・商事判例1706号17頁)

事業者が公益通報を「理由として」解雇や不利益取扱いを行ったものではないと判断された事例

(5) 東京高判令和6年7月4日(労働判例1319号79頁)〔社会福祉法人A会事件〕

泊まり勤務における割増賃金の算定基礎

4. 知的財産法

(1) 知財高判令和6年10月30日(金融・商事判例1708号14頁、裁判所ウェブサイト)〔「Sushi Zanmai」事件〕

1審被告の表示が掲載されたウェブページが「役務に関する広告」に当たると認めることはできないとして、1審原告の商標権侵害を認容した原判決が取り消され、1審原告の請求がいずれも棄却された事例

(2) 東京地判令和6年7月8日(判例時報2613号87頁、裁判所ウェブサイト)〔日本植物図鑑事件〕

「牧野日本植物圖鑑」という書籍の題号が不正競争防止法2条1項1号、2号にいう「商品等表示」に該当しないとされた事例

(3) 東京地判令和6年2月26日(判例時報2608号67頁、裁判所ウェブサイト)

YouTubeに投稿された動画の著作者において当該動画によって思想、意見等を伝達する利益が人格的利益として認められないとされた事例

(4) 東京地判令和6年1月22日(判例時報2606号61頁)

指定国において国内移行手続が行われずに取下擬制がされた国際特許出願に係る発明について、原告が特許を受ける権利を有することの確認を求める訴えが、確認の利益を欠くものとして却下された事例

5. その他(租税法、消費者契約法、景品表示法)

(1) 最一判令和7年2月27日(裁判所ウェブサイト)〔泉佐野ふるさと納税訴訟〕

地方団体が特別交付税の額の決定の取消しを求める訴えは、裁判所法3条1項にいう法律上の争訟に当たる

(2) 最二判令和7年2月17日(①142号事件②177号事件③207号事件)(裁判所ウェブサイト)

複数の構造により建築されている非木造家屋について家屋課税台帳に登録すべき価格を決定するに当たり、固定資産評価基準(昭和38年自治省告示第158号。平成30年総務省告示第229号による改正前のもの)別表第13の定める経年減点補正率のうち構造別区分を鉄骨鉄筋コンクリート造及び鉄筋コンクリート造とするものを適用したことが同基準に反しないとされた事例

(3) 大阪高判令和6年12月19日(裁判所ウェブサイト)

テーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」において、消費者がインターネットを経由してチケットの購入契約を締結する際に適用される利用規約において定めている、一定の場合を除き購入後のチケットのキャンセルができない旨の条項及びチケットの転売を禁止する旨の条項は、いずれも信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものとは認められないので、消費者契約法に基づく差止めの対象にならない。

(4) 東京高判令和6年9月26日(金融・商事判例1709号8頁)

1 有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算出の方法について、公益法人等が普通法人に移行する前における取得価額を譲渡原価の額とすべきであるとされた事例
2 公益法人等が普通法人に移行する前における非収益事業に属していた減価償却資産の取得価額に基づいて償却限度額を計算すべきであるとされた事例
3 法律に基づかず償却限度額の計算をした更正処分および通知処分を取り消した原判決について、損金不算入額の増加を理由に増加部分を超える部分を取り消した事例

(5) 東京高判令和6年7月31日(金融・商事判例1707号11頁)

1 事業者のした表示が優良誤認表示に該当する疑いがあるとして、消費者庁長官が資料提出要求をしたことが相当であるとされた事例
2 課徴金対象行為をした事業者が、当該課徴金対象行為をした期間を通じて自らが行った表示が優良誤認表示に該当することを「知らないことにつき相当の注意を怠った者でないと認められる」か否かの判断基準
3 不当景品類及び不当表示防止法による課徴金納付命令書に記載すべき「課徴金の計算の基礎」として、「相当の注意を怠った者でないと認められる」ことに係る事実を記載すべき程度

                                                以上

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