〒100-6114
東京都千代田区永田町2丁目11番1号
山王パークタワー12階(お客さま受付)・14階
東京メトロ 銀座線:溜池山王駅 7番出口(地下直結)
東京メトロ 南北線:溜池山王駅 7番出口(地下直結)
東京メトロ 千代田線:国会議事堂前駅 5番出口 徒歩3分
東京メトロ 丸の内線:国会議事堂前駅 5番出口
徒歩10分(千代田線ホーム経由)
セミナー
事務所概要・アクセス
事務所概要・アクセス
<目次>
1. はじめに
2. 本報告書の背景と目的―定義告示運用基準の改定とその後の動向―
3. 実態調査の概要とその結果
(1) 広告等のサンプリング調査の結果
(2) 消費者の意識調査の結果
(3) 買取業者等に対するヒアリング調査の結果
4. 買取サービスに関する景品表示法上の考え方
(1) ①買取参考価格・買取実績価格の表示
(2) ②買取価格アップの表示
(3) ③買取価格保証の表示
(4) ④何でも買取りの表示
(5) ⑤どこよりも高く買取りの表示
(6) 景品についての考え方
5. おわりに
2025年(令和7年)4月30日、消費者庁は、買取サービスに関する実態調査の結果に基づき、景品表示法上の考え方を整理した「買取サービスに関する実態調査報告書」(以下「本報告書」といいます。)を取りまとめ、これを公表しました。
以下、本報告書の概要及び買取サービスに関する景品表示法上の留意点について説明します。
買取サービスの市場規模は、一般消費者のエコ意識や有効資源活用に対する意識の高まりを背景に、年々拡大傾向にあり、2023年(令和5年)の市場規模は約1.3兆円と推計されています。
このような買取サービスの市場規模の拡大により一般消費者が買取サービスを利用する機会が増えていることを背景に、買取サービスに起因するトラブルが増えていました。
しかし、従来の「景品類等の指定の告示の運用基準について」(昭和52年4月1日事務局長通達第7号)(以下「定義告示運用基準」といいます。)には、「自己が商品等の供給を受ける取引(例えば、古本の買入れ)は、『取引』に含まれない。」との記載があり、買取サービスなど、事業者が物品等を購入する取引は、一律に景品表示法が適用されないかのような誤解を招くおそれがありました。
そこで、消費者庁は、2024年(令和6年)4月18日付けで定義告示運用基準を改定し、新たに以下の文言が加えることで(定義告示運用基準3(4))、買取サービスに関する表示等も景品表示法の規制対象となり得ることを明確化しました。
自己が一般消費者から物品等を買い取る取引も、当該取引が、当該物品等を査定する等して当該物品等を金銭と引き換えるという役務を提供していると認められる場合には、「自己の供給する役務の取引」に当たる。 |
この改定により、買取サービスに関する表示が、実際のもの又は事実に相違して競争事業者のものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認される場合には、優良誤認表示又は有利誤認表示として景品表示法上問題となることが明確化されました。
一方、買取業界では景品表示法への意識が高まり、買取サービス事業者からの景品表示法の解釈に係る問い合わせが増加しました。また、買取サービスは比較的新規参入しやすいビジネスモデルであり、買取サービス事業者間の競争激化により、一般消費者の目を引く表示が行われる傾向にあるところ、一般消費者が、実際の買取価格に関して事前に自ら情報収集することは、商品を購入する場合ほどには容易でないことが意識されました。
このような状況を踏まえ、消費者庁は、買取サービス事業者の理解を促進するとともに、一般消費者による自主的・合理的な選択を保護する観点から、買取サービスに関する景品表示法の考え方を示すこととし、実態調査を実施し、本報告書の公表に至ったものです。
消費者庁は、2024年(令和6年)10月以降、買取サービスにおける広告等の実態調査として、(1) 広告等のサンプリング調査(実際の広告物から買取サービスに関するサンプルを収集)、(2) 消費者に対するアンケート調査(消費者1,037名にウェブアンケートによる意識調査を実施)、(3) 買取業者等に対するヒアリング調査(買取業者14社及び関連2団体へのヒアリング調査を実施)を行いました。かかる実態調査の結果について、以下のとおり説明します。
上記3.(1)の広告等のサンプリング調査の結果、買取サービスに関する表示は、主に以下の5つの類型に分類されることが分かりました。
No. | 表示内容 | 事業者数 | |||
① | 買取参考価格・ 買取実績価格 | (例) 買取参考価格一覧 (例) 過去の買取例、最近の買取実績 | 50社中39社 | ||
② | 買取価格アップ | (例) 買取価格 最大 20%UP キャンペーン中 (例) バッグ買取金額 10%UP (例) スマホ機種限定 買取1万円 UP | 50社中31社 | ||
③ | 買取価格保証 | (例) ゲームソフト最低価格保証 100 円 (例) ブランドバッグ最低1万円以上でお買取り | 50社中19社 | ||
④ | 何でも買取り | (例) あらゆる商品を買い取ります (例) どんな状態でも買取可能 (例) どんなものでも、どんな状態でも買取します | 50社中13社 | ||
⑤ | どこよりも 高く買取り | (例) どこよりも高く買取り (例) 地域最高値で買取り | 50社中13社 |
① 店頭買取りの利用について
上記3.(2)の消費者の意識調査の結果、店頭買取りを利用したことのある消費者が多い(66.0%)一方で、店舗以外の形態(訪問や出張、宅配など)を利用した消費者は少ない(72.4%が利用せず)ことが分かりました。
また、店頭買取りの利用のきっかけは、「広告(インターネット、折り込みチラシ、店の看板、CM等)から受ける印象」が最も多い(49.7%)ことが分かりました。
さらに、店頭買取りを利用したことがある消費者の多く(74.1%)は、「早く売却したかったから」あるいは「面倒だったから」という理由により、複数の店舗に査定を依頼して比較することをせず、最初に査定を依頼した店舗で買取サービスを利用していることが分かりました。
これらの結果から、多くの消費者が広告をきっかけに店舗買取りを利用する一方で、複数の店舗による査定を比較しない傾向にあることが分かりました。
② サンプルに対する認識
次に、店舗買取りを利用したことがある消費者に対し、上記3.(1)記載の5類型の各表示について、買取店の利用の意思決定に対する影響を調査した結果、②「買取価格アップ」の表示については67.9%の回答者が、④「何でも買取り」については65.3%の回答者が影響すると回答するなど、①~⑤いずれの表示についても、5割以上の回答者が影響すると回答し、買取サービス事業者の5類型の広告表示が、消費者による買取店の利用の意思決定に与える影響が大きいことが分かりました。
さらに、5類型の広告表示それぞれについて、当該表示をしている買取店を実際に利用したことがある消費者に対し、実際の買取価格又は査定価格について調査したところ、以下のとおり、約半数の消費者が、実際の買取価格又は査定価格が表示から予想した価格を下回った、また、表示どおりに買い取ってもらえなかったと認識していることが分かりました。
No. | 表示内容 | 実際の買取価格又は査定価格 | 割合 | |
① | 買取参考価格・買取実績価格 | ・予想した額よりも低かった(※1) ・予想どおりだった | 46.6% 42.3% | |
② | 買取価格アップ | ・予想した額よりも低かった(※1) ・予想どおりだった | 49.5% 36.1% | |
③ | 買取価格保証 | ・保証金額を下回る金額だった ・保証金額以上の価格で買い取った(※2) | 52.2% 38.1% | |
④ | 何でも買取り | ・一部又は全部を買い取らなかった ・何でも買い取った(※3) | 55.6% 32.7% | |
⑤ | どこよりも 高く買取り | ・予想した額よりも低かった(※4) ・予想どおりだった | 47.1% 40.2% |
※1 買取価格が付かなかった場合を含む。
※2 保証金額以上の価格で買い取ることを約した場合を含む。
※3 何でも買い取ることを約した場合を含む。
※4 買取価格が付かなかった場合を含む。
5類型の広告表示それぞれについて、各表示を行っていた買取業者による当該表示に関する説明は、以下のとおりです。
No. | 表示内容 | 買取業者の説明 |
① | 買取参考価格・ 買取実績価格 | ・どの買取業者も、「買取参考価格」又は「買取実績価格」を表示した商材と同一商材が持ち込まれれば、当該価格で又は当該価格に近い金額で買い取ると述べていた。 |
② | 買取価格アップ | ・どの買取業者も、自社の査定基準に基づいて通常どおり算出した買取価格に表示分の割増率を乗じる又は上乗せ額を加える方法により、通常の買取価格からアップすると述べていた。 |
③ | 買取価格保証 | ・半数の買取業者は、必ず保証価格以上で買い取ると述べていた。 ・一方、汚れがない等の条件を満たさなければ保証価格を下回る場合があると述べる買取業者もいた。 |
④ | 何でも買取り | ・多くの買取業者は、無条件で何でも買い取ると述べていた。 ・一方、商品の状態が悪ければ買い取らない場合があると述べる買取業者もいた。 |
⑤ | どこよりも 高く買取り | ・どの買取業者も、「どこよりも高く買取り」という表示は、意気込みや自負を表現したにすぎないと述べており、根拠を有していなかった。 |
以上で説明した買取サービスにおける広告等の実態調査の結果に基づき、消費者庁は、本報告書において、買取サービスに関する景品表示法上の考え方を取りまとめています。その概要は以下のとおりです。
まず、表示に対する基本的な考え方として、本報告書は、買取サービスに関する表示が、実際のもの又は事実に相違して競争事業者のものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認される場合には、優良誤認表示又は有利誤認表示として景品表示法上問題となると指摘しています。この点は、前述した定義告示運用基準の改定により、買取サービスに関する表示等も景品表示法の規制対象となり得ることが明確化された以上、いわば当然のことといえます。
なお、買取サービスに関して行われることがあるいわゆる強調表示(※5)については、買取サービスの内容や取引条件について無条件又は無制約に当てはまるものと一般消費者に受け止められるため、例外などがある場合は、その旨の表示(いわゆる打消し表示(※6))を分かりやすく適切に行わなければ、一般消費者に誤認され、景品表示法上問題となるおそれがあるとも指摘されています。
以下では、買取サービスに関する5類型の広告表示及び景品についての考え方について、本報告書が整理した景品表示法上の考え方をそれぞれ説明します。
※5 事業者が、自己の販売する商品・サービスを一般消費者に訴求する方法として、断定的表現や目立つ表現などを使って、品質等の内容や価格等の取引条件を強調した表示。
※6 強調表示からは一般消費者が通常は予期できない事項であって、一般消費者が商品・サービスを選択するに当たって重要な考慮要素となるものに関する表示。
「買取参考価格」という表示から、一般消費者は、表示されている商材が当該価格で又は当該価格に近い金額で買取りされると認識するものと考えられます。
したがって、買取業者自らが実際に買い取ることを想定した場合の金額(過去の買取実績や、直近における買取市場の相場を踏まえた金額)を大きく上回る金額を「買取参考価格」として表示し、表示している商材を当該価格よりも著しく低い価格で買い取る場合には、不当表示(有利誤認表示)に該当するおそれがあります。
なお、「買取参考価格」という表示は、買取業者によって意味合いが異なるため、一般消費者に誤解を生じさせないという観点からは、「買取参考価格」の意味について分かりやすく具体的に示すことが望ましい(例えば、未使用の状態で買い取る場合の上限の買取価格や、標準的な状態で買い取る場合の平均的な買取価格)とされています。
次に、「買取実績価格」という表示から、一般消費者は、表示されている商材が当該価格で実際に買取りされたことがあると認識するものと考えられます。
したがって、買い取った実績のない金額を「買取実績価格」として表示し、表示している商材を当該価格よりも著しく低い価格で買い取る場合には、不当表示(有利誤認表示)に該当するおそれがあります。
以上を踏まえ、本報告書は、①買取参考価格・買取実績価格について景品表示法上問題となるケースについて、以下のような具体例を示しています。
・ある商材について、過去に買い取ったことのある価格の中でも最も高い買取価格(例えば、未使用品の場合の買取価格)をはるかに上回る高い金額を「買取参考価格」や「買取実績価格」として表示する場合【有利誤認表示】 |
以上
「買取価格アップ」の表示は、割増率(%)又は割増額(円)を用いて買取価格をアップする旨の表示であるところ、当該表示から、一般消費者は、通常の買取価格からアップされた価格で買い取ってもらえると認識するものと考えられます。
したがって、「買取価格アップ」と表示して、実際には通常の買取価格からアップしない場合には、不当表示(有利誤認表示)として景品表示法上問題となります。
なお、一般消費者が安心して買取サービスを利用できるようにするという観点からは、一般消費者から買取価格の根拠を問われた場合にはどのような基準で算出した額であるのかを説明するなど一般消費者に分かるように示すことが望ましいと指摘されています。
このような表示が景品表示法上問題となるケースについて、本報告書は、以下のような具体例を示しています。
・通常の買取価格が1万円のところ、「買取価格20%アップキャンペーン」と表示しながら、実際には、アップせずに1万円で買い取る場合【有利誤認表示】 |
また、期間限定の「買取価格アップ」キャンペーンが常態化している場合には、当該キャンペーン期間中であれば買取価格がアップしてお得になると一般消費者に誤認され、不当表示(有利誤認表示)に該当するおそれがあります。この点につき、本報告書は、以下のような具体例を示しています。
・有名ブランド腕時計の買取価格を10%アップするキャンペーンを1月末まで実施すると表示していたにもかかわらず、2月以降も同じ内容のキャンペーンを継続する場合【有利誤認表示】 |
「買取価格保証」とは、○円以上で買い取るといったように、最低買取価格を保証する旨の表示です。かかる表示から、一般消費者は、必ず当該保証価格以上で買取りされると認識するものと考えられます。
したがって、「買取価格保証」と表示して、実際には保証価格を下回る金額で買い取る場合には、実際よりも有利な取引条件で買い取ると一般消費者に誤認され、不当表示(有利誤認表示)に該当するおそれがあります。この点につき、本報告書は、以下のような具体例を示しています。
・有名ブランドバッグを1万円以上で買い取る旨を強調して表示しながら、実際には、汚れがあること等を理由に5,000円で買い取る場合【有利誤認表示】 |
「何でも買取り」は、あらゆる商品カテゴリーの物品等についてどのような状態(例えば、破損や汚損などにより物品としての価値が大なり小なり損なわれているような状態)であっても買い取る旨の表示です。
「何でも買取り」という表示から、一般消費者は、特段の条件なく、どのような状態であっても買取りされると認識するものと考えられます。
したがって、「何でも買取り」と表示して、実際には一般消費者が持ち込んだ物品等の一部又は全部を買い取らない場合には、実際よりも優良な買取サービスと一般消費者に誤認され、不当表示(優良誤認表示)に該当するおそれがあります。この点につき、本報告書は、以下のような具体例を示しています。
・「どんな商品でも・どのような状態でも買い取ります」などと、何でも無条件で買い取る旨を強調して表示しながら、実際には、取扱商材ではないことや汚れがあること等を理由に買い取らない場合【優良誤認表示】 |
「どこよりも高く買取り」という表示は、他社と比較して買取価格の高さを強調する表示であるため、「どこよりも高く買取り」という表示から、一般消費者は、他社と比較して当該事業者の買取価格が最も高いと認識するものと考えられます。
したがって、他社と比較して買取価格の高さを特に強調する表示として、どこよりも高く買い取る旨の表示をしながら、事実と異なる場合には、不当表示(有利誤認表示)として問題となります。この点につき、本報告書は、以下のような具体例を示しています。
・買取価格地域No.1と表示しながら、実際には、同一地域内の競合他社の買取価格を何ら調査していない場合【有利誤認表示】 |
買取サービスに関しては、景品表示法上の不当表示規制のみならず、景品規制も問題となります。
近年、買取サービスに付随して、次回の買取時に利用できる買取価格アップ券、現金又はポイントを付与するケースがあり、本報告書は、以下のような場合に、景品表示法上の景品規制の対象となると指摘しており、注意が必要です。
買取価格に応じて、例えば、 ① 次回以降に利用可能な買取価格アップ券を付与する場合 ② 現金をプレゼント(いわゆるキャッシュバック)する場合 ③ 自社サービスで利用(買取価格の上乗せ等)可能なポイントを付与する場合 |
上記①ないし③のいずれかに該当する場合には、次回買取価格アップ券、現金又はポイントが景品類に該当し、景品表示法上の景品規制の対象となります。
すなわち、買取価格アップ券等は、いわゆる総付景品(※7)に該当することが多いと考えられ、この場合、買取価格が1,000円以上であれば買取価格の20%、1,000円未満であれば200円が、付与できる景品類の上限となることに留意する必要があります。
具体例を挙げて説明すると、仮に今回の買取価格が1万円であるとして、次回以降に利用可能な「20%アップ券」を付与した場合、アップの上限は2,000円(1万円×20%)となります。したがって、仮に次回の買取価格が2万円であっても、景品規制により、アップの上限(2,000円)を超える4,000円(2万円×20%)を上乗せした2万4,000円を次回の買取価格とすることはできないこととなります。この場合、アップの上限が 2,000 円であることを当該「20%アップ券」に明記しておく必要があります。
なお、買取サービスにおいては、「買取価格アップ」のキャンペーンが行われることも多く、その場合に、次回以降の買取価格をアップするものではなく、その場で買取価格をアップする場合には、アップ分を含めた買取価格全体が取引の対価となるため、当該アップ分は原則として、景品類に該当せず、景品規制の対象となりません。
※7 事業者が一般消費者に対して懸賞によらないで提供する景品類。
いわゆる主観的なNo. 1表示に関し、消費者庁は、2024年(令和6年)2月末から同年3月上旬の短期間に、集中的に11件の措置命令を行うとともに、同年9月に「No. 1表示に関する実態調査報告書」を取りまとめ、これを公表したことは、記憶に新しいところです(No. 1表示に関する詳細な解説については、弊職のニューズレター「「No. 1表示に関する実態調査報告書」の公表―No. 1表示等についての景品表示法上の考え方―」もご参照ください)。
今般、買取サービスに関しても、定義告示運用基準の改定に引き続き、消費者庁が本報告書をとりまとめ、これを公表したことは、これを契機に、今後、消費者庁が、買取サービスに関する執行を強化する方針で臨むことが予想されます。
これを契機に、買取サービスに関する自社の表示内容について、本報告書に示された景品表示法上の考え方に照らし、改めて慎重に見直しを行う必要があると考えられます。
以上