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2025.05.16

法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会における検討の開始

<目次>
1. 経緯
2. 本部会における検討事項
3. おわりに

 2025年4月23日、法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会(以下「本部会」といいます。)の第1回会議が開催されました(https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900001_00287.html)。本部会において検討される会社法制(株式・株主総会関係)に関する事項は、株式交付、現物出資、バーチャル株主総会及び実質株主確認制度など、改正が実現すれば今後の会社法実務に大きな影響を与えるものと考えられます。本ニューズレターでは、これまでの経緯を確認するとともに、本部会の検討事項とその概要をご紹介いたします。

1. 経緯

 本部会は、2025年2月10日、法制審議会総会第201回会議において、諮問第127号(「近年における社会経済情勢の変化等に鑑み、株式の発行の在り方、株主総会の在り方、企業統治の在り方等に関する規律の見直しの要否を検討の上、当該規律の見直しを要する場合にはその要綱を示されたい」との諮問を内容とするもの。以下「本諮問事項」といいます。)を調査審議するために設置されました。神作裕之教授が部会長に、藤田友敬教授が部会長代理にそれぞれ指名されています。
 本諮問事項に対応する会社法改正については、以下のとおり、これまで会社法制研究会及び「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会において議論され、各研究会における議論を取りまとめた報告書が本部会の参考資料として示されています。
 ①公益社団法人商事法務研究会が開催する会社法制研究会(座長:神作裕之教授。2024年9月19日に第1回会議を開催。同研究会の前身である会社法制に関する研究会は令和5年2月から議論を開始。)
※ 本部会第1回会議参考資料1:2025年2月付け「会社法制研究会報告書
 
 ②経産省が設置した「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会(座長:神田秀樹教授。2024年9月18日設置。)
  ※ 本部会第1回会議参考資料2別添:2025年1月17日付け「会社法の改正に関する報告書
  ※ 本報告書については、当職らのニューズレターもご参照ください。

2. 本部会における検討事項

 本部会の第1回会議においては、部会資料1及び参考資料3において、以下のとおり、会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しにおける検討事項の例及び追加検討依頼事項が示されています。

【検討事項の例

ア 株式の無償交付の対象範囲の見直し
イ 株式交付制度の見直し
ウ 現物出資制度の見直し
エ バーチャル株主総会制度
オ 実質株主確認制度
カ その他の株主総会のあり方に関する規律の見直し
キ 指名委員会等設置会社制度の見直し
ク その他の企業統治のあり方に関する規律の見直し

【追加検討依頼事項】

ケ 総会検査役の申立適格(306条)
コ 業務検査役(358条1項)の申立適格
サ 有償ストック・オプションの役員報酬としての位置付けの明確化
シ 株主名簿(125条2項4項)、株主総会(318条4項)、取締役会議事録(371条2項4項)、監査役会議事録(399条の11第2項3項)、指名委員会等の議事録(413条3項4項)、計算書類(442条3項)会計帳簿等(433条1項)等の情報開示事件についての秘密保持命令
ス 清算人の選任決定の取消し
セ 合同会社の出資の払戻し
ソ 商事訴訟事件・非訟事件に関する管轄裁判所の追加(835条、848条、856条、857条、862条、867条、868条1項等)
タ 代表者住所非表示措置

前記1①又は②の研究会の議論も踏まえた各検討事項の要点は以下のとおりです。

ア 株式の無償交付の対象範囲の見直し

【現状】 令和元年の会社法改正により取締役及び執行役に対してのみ株式の無償交付が認められた(会社法202条の2)。したがって、現在の実務では、従業員や子会社の役職員に対する株式付与は金銭債権を会社に現物出資する等の方法で行われている。かかる方法には実務上の負担があると指摘されている。

【改正の方向性】 従業員や子会社の役職員に対する株式の無償交付を認めることを通じて、企業価値や株価への意識向上及び帰属意識の醸成を図り、もって人材の価値を引き出す。

【課題・障壁】 株式価値の希釈化による既存株主の利益が害されるおそれから無償交付に際しては株主総会決議を必要とすべきとの意見がある。

イ 株式交付制度の見直し

【現状】 令和元年の会社法改正により創設された株式交付制度(会社法774条の2以下)は国内株式会社の子会社化のみを対象としている。したがって、①外国会社の子会社化や、既に子会社株式の追加取得、及び実質基準による子会社化(※)を行う場合には株式交付制度の利用が認められていない。また、②株式交付に反対する株式交付親会社の株主には株式買取請求権が認められており、不測の金銭支出が株式交付親会社に生じ得る。

【改正の方向性】 会社法改正により株式交付に係る上記①及び②の指摘を解消することで、株式対価M&Aを活性化する。

※ 議決権の保有割合が50%以下でも派遣役員の割合等の一定の要件を充足すれば「子会社」となる。

ウ 現物出資制度の見直し

【現状】 現行の会社法上、現物出資がされる場合、原則として、検査役を選任する必要がある(207条1項)。このような検査役の調査の制度は、スタートアップに対する知的財産権等の現物出資の支障になっている。また、不足額填補責任(212条以下)について、募集事項の決定時に現物出資財産が適正に評価された場合であっても、募集株式の引受人が株主となった時までに現物出資財産が値下がりしたときは、不足額塡補責任が発生し得るため、このことが実務上のリスクとなっている等の指摘もなされている。

【改正の方向性】 検査役の調査を要しない範囲の拡大や不足額填補責任の緩和が検討されている。

エ バーチャル株主総会制度

【現状】 現行の会社法はいわゆるバーチャルオンリー株主総会を認めていない。会社法の特例として産業競争力強化法がこれを認めているものの、①経済産業大臣及び法務大臣の確認を受けることや、②通信障害対策に関する方針策定が必要となる。

【改正の方向性】 会社法においてバーチャルオンリー株主総会の開催を可能とし、上記①及び②はバーチャルオンリー株主総会開催の要件としないことが検討されている。

補足:社債権者集会のバーチャル化(※バーチャル株主総会制度を検討する場合、バーチャル債権者集会についても併せて検討することが考えられている)

【現状】 現状において社債の発行が限定的であるところ、コベナンツの内容が社債権者保護の観点で不十分であったことが要因にあげられる。実効的なコベナンツを付与すると、発行会社がコベナンツに抵触する機会が増加し、社債権者は社債の償還や支払猶予等の迅速な判断が求められ、多くのケースでは社債権者集会の決議が必要となる。現行法上、社債権者集会をバーチャルで開催することはできず機動的な開催の障壁となっている。

【改正の方向性】 バーチャルオンリー株主総会やハイブリッド型株主総会と同様の制度設計とすることで、迅速かつ機動的な社債権者集会の開催を可能とし、企業の成長資金調達の重要なツールの一つである社債市場を活性化させる。

オ 実質株主確認制度

【現状】 企業が株主とのエンゲージメントを行うためには実質株主を把握することが重要であるのに、現行制度上、大量保有報告制度の適用対象となる場合を除き、企業が実質株主を把握する制度がない。上場会社は定期的な実質株主判明調査を実施しているが、把握できる株主の範囲に限界があり、多額の費用負担も発生している。

【改正の方向性】 企業が実質株主や名義株主に対して株式保有状況や実質株主に関する情報を質問した場合にこれに回答することを義務付け、これにより、企業が株主とのエンゲージメントを通じて価値創造ストーリーをブラッシュアップしていくことが期待される。制度の実効性確保のため、質問に回答しないあるいは虚偽の回答を行う株主の議決権を停止すべき旨の意見もある。

カ その他の株主総会のあり方に関する規律の見直し

具体的には以下の点が挙げられている。

(ア)会議体としての株主総会の意義

【現状】 現行法上、事前の議決権行使により決議の帰趨が見えている場合でも多額の費用をかけて厳格な手続に則り株主総会を開催する必要がある等、上場会社における株主総会の非効率性が指摘されている。

【改正の方向性】 一定の場合には会議体としての株主総会を開催しなくとも株主総会の決議があったものとする制度の導入が検討されている。

(イ)株主提案権

【現状】 現行法上、発行会社の総議決権の1%以上又は議決権300個以上を6か月以上保有する株主に株主提案権が与えられている(会社法303条2項)。近年、個人投資家が投資しやすい環境を整備するため株式分割を実施する会社が多く、その結果、非常に少数の議決権割合を有するだけで株主提案が可能となり、濫用的株主提案がなされているとの指摘がある。

【改正の方向性】 議決権数を基準とする要件は廃止し、濫用的な株主提案を防止し、もって他の株主との建設的・実効的なコミュニケーションに時間と労力を割くことを可能とする。投資金額要件を設定すること等も検討されている。

キ 指名委員会等設置会社制度の見直し

【現状】 現行の指名委員会等設置会社では、一部の取締役のみが参加する指名委員会に指名の決定権限が帰属しており、取締役会が指名委員会の判断を覆すことはできない。かかる制度設計は、社外取締役の適任者が少なかったことが背景にあるが、現在では取締役の過半数を社外取締役が占める会社が増加しており、かかる会社では指名権限を取締役会に帰属させるべきである。社会経済環境の変化を踏まえ、機関設計制度全体について見直しを検討していくべきとの指摘もある。

【改正の方向性】 上記現状を踏まえ、指名委員会等設置会社制度における指名委員会、監査委員会及び報酬委員会の権限の見直しが検討されている。

ク その他の企業統治のあり方に関する規律の見直し

具体的には以下の点が挙げられている。

(ア)責任限定契約(業務執行取締役・執行役との間の締結)

【現状】 現行法上、業務執行取締役以外の取締役、会計参与、監査役又は会計監査人については責任限定契約を締結できるが(会社法427条1項)、業務執行取締役・執行役については対象外であった。

【改正の方向性】 業務執行取締役・執行役についても責任限定契約の締結を可能とすることにより、経営者の適切なリスクテイクを可能とし、大胆な経営戦略の実現を後押しする。

ケ 総会検査役の申立適格(306条)

【現状】 現行法上、取締役及び監査役は、株主総会の招集手続又は決議の方法に関し、事後の是正権としての株主総会決議取消しの訴えの提訴権(831条)だけが認められ、そのための証拠保全の方法としての総会検査役選任申立権が認められていない。とりわけ、多数株主と少数株主が対立関係にある場合には、多数株主から選任された経営陣が多数株主に有利な株主総会議案を提案し承認可決を求める場面が想定でき、少数株主保護のため取締役に決議取消しの訴の提訴権が認められている。また、取締役間や取締役と監査役の間で対立状況にある場合には、少数派の取締役や監査役が株主総会の場において是正監督を実現しようとしても無力である。

【改正の方向性】 経営陣の多数派と同じ意味である「株式会社」以外に、「取締役、監査役」にも総会検査役の申立権を認める。

コ 業務検査役(358条1項)の申立適格

【現状】 取締役・監査役は自ら調査が可能であることから業務検査役の申立権を与える必要はないと考えられていた。しかし、企業の不正行為が発覚した際に組織される第三者委員会における外部専門家の調査は、費用が高額で、実際上、大企業以外の会社では設置が困難である。

【改正の方向性】 一定の議決権数・株式数を有する株主に認められている業務検査役の申立人資格について、取締役、監査役、執行役を追加することが検討されている。

サ 有償ストック・オプションの役員報酬としての位置付けの明確化

【現状】 近年の実務において、役員に「公正価格」の払込みをさせて発行する新株予約権(いわゆる「有償ストック・オプション」)について、投資商品であって報酬ではないなどと報酬決議なしに役員に発行する例がある。しかし、行使条件を多数付してこれを恣意的に評価していることが疑われる実例も少なくないこと、有償ストック・オプションも役職員の意欲向上による企業価値向上を狙いとするものであって役員報酬全体の設計をコーポレートガバナンスの1つとして重視し、決定や開示についての規制を設ける近年の考え方からすれば、会社法上報酬と整理すべきである。

【改正の方向性】 新株予約権のうち役員に対して発行時の公正価値を払い込ませるいわゆる「有償ストック・オプション」を会社法上報酬として整理し、株主総会決議を必要とすることが検討されている。

シ 株主名簿(125条2項4項)、株主総会(318条4項)、取締役会議事録(371条2項4項)、監査役会議事録(399条の11第2項3項)、指名委員会等の議事録(413条3項4項)、計算書類(442条3項)会計帳簿等(433条1項)等の情報開示事件についての秘密保持命令

【現状】 現状、情報自体が訴訟手続中において開示等された場合には、当事者は訴訟記録中の秘密保護のため閲覧制限等を申し立て、情報自体が第三者の閲覧・謄写に晒される危険から回避することができるが(民事訴訟法92条)、訴訟・非訟の結果、裁判所が情報の開示を命じた場合には、当事者が開示させられた秘密情報が第三者に漏洩する危険から防御する方法は定められていない。そのため、実務では、裁判所によって開示が命じられる場面に備えて、当事者で秘密保持契約等を締結して防御しているが、当事者には当該契約の締結に応じる義務はない。

【改正の方向性】 会社法での上記情報開示事件について、裁判所は、開示請求、申立てを認容するに際しては、申立て又は職権で、原告又は申立人に対し、開示資料についての秘密保持命令を発令する規定の新設が検討されている。

ス 清算人の選任決定の取消し

【現状】 現行の会社法が定める清算人については、「その他財産の管理を継続することが相当でなくなったとき」の選任取消しに関する規定が設けられていない。清算人において債権者や株主を調査・把握することが困難な清算会社では、清算人の費用報酬を支払っても残金が生じる場合があり得るが、その場合、清算人は残金を管理することだけが職務となり、他の業務もないまま長期間に亘って清算人を継続することになる。実務上、裁判所によっては、非訟事件手続法59条(「その決定を不当と認めるとき」との規定)を根拠として清算人の選任の取消し(法的意味は撤回)をして、清算人の職務を解くことで解決をしているが、同条は文理上、上記のような場合の取消決定に馴染まないという問題がある。

【改正の方向性】 民法の財産管理制度(家事事件手続法147条、非訟事件手続法90条10項及び91条7項)に準じて、清算人にも選任取消しの規定を設けることが検討されている。

セ 合同会社の出資の払戻し

【現状】 会社法623条2項により、合同会社が出資の払戻しを行う場合、①剰余金及び②定款を変更して出資の価額を減少した額、のいずれか少ない額が限度とされている。他方、合同会社が無対価で組織再編行為を行った場合、資本剰余金が増加しても、定款に記載する出資の額が増加しないことから、増加した資本剰余金分を原資に払戻しをすることができず、不都合である(利益配当の対象にもならない。)

【改正の方向性】 無対価組織再編により増加した資本剰余金分についても払戻しできるように改正することが検討されている。

ソ 商事訴訟事件・非訟事件に関する管轄裁判所の追加(835条、848条、856条、857条、862条、867条、868条1項等)

【現状】 東京地方裁判所、大阪地方裁判所には会社訴訟事件や会社非訟事件を専門的に取り扱う商事部が存在しており、商事部・非訟部に配属される裁判官は会社訴訟事件、会社非訟事件の知見経験を有し、これら事件に接する機会が与えられる。また、商事部では合議体を組成することも可能であり、会社訴訟・非訟事件の当事者にすれば、管轄裁判所がいずれかにより提供されるサービスの内容に差異が生じる可能性がある。

【改正の方向性】 上記不均衡を是正するべく、商事訴訟事件・非訟事件に関する管轄裁判所に、東京地方裁判所又は大阪地方裁判所を追加することが検討されている。

タ 代表者住所非表示措置

【現状】 2024年10月から、株式会社の代表取締役等の住所の行政区画以外部分について、登記事項証明等において非表示とされたが、プライバシーの保護を図る必要性については、株式会社の代表取締役に限定する理由はないとの指摘がなされている。

【改正の方向性】 一般社団法人、一般財団法人、投資法人、農業協同組合、労働組合、弁護士法人、弁護士会等の法人の代表者その他役員の住所も、株式会社の代表取締役と同様、住所の非表示措置を設け、また、合同会社の法人社員が代表社員である場合の職務執行者についても、住所の非表示措置を設けることが検討されている。

3. おわりに

 上記の検討事項は、いずれも、実務上指摘されてきた課題であり、今般の会社法改正は実務への影響が大きいと考えられますので、本部会の動向を引き続き注視すべきと考えられます。

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