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2025.05.21

労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律案の成立について

執筆弁護士

<目次>
1. はじめに
2. 個人事業者等に対する安全衛生対策に係る改正の概要
(1) 「個人事業者」に関する定義
(2) 注文者等が講ずべき措置
(3) 個人事業者等が講ずべき措置
(4) 申告
(5) 災害状況の調査
3. その他の本改正案の概要
(1) 職場のメンタルヘルス対策の推進
(2) 化学物質による健康障害防止対策等の推進
(3) 機械等による労働災害の防止の促進等
(4) 高齢者の労働災害防止の推進
4. 施行期日

 本ニューズレターは、掲載時点までに入手した情報に基づいて執筆したものであり、また具体的な案件についての法的助言を行うものではないことにご留意ください。また、本ニューズレター中意見にわたる部分は、執筆担当者個人の見解を示すにとどまり、当事務所の見解ではありません。

1. はじめに

 2025年5月8日、労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律案(以下「本改正案」といいます。)が第217回国会において成立しました(令和7年5月14日公布/法律第33号)。
 本改正案は、多様な人材が安全に、かつ安心して働き続けられる職場環境の整備を推進するため、個人事業者等に対する安全衛生対策の推進、職場のメンタルヘルス対策の推進、化学物質による健康障害防止対策等の推進、機械等による労働災害の防止の促進等、高年齢労働者の労働災害防止の推進等の措置を講じることを趣旨とするものです。
  本ニューズレターでは、公表されている資料に基づき、個人事業者等に対する安全衛生対策の推進に関する改正を中心に、本改正案の概要を紹介したいと思います。(※)
 
(※)本改正案の詳細については下記の厚生労働省のURL等をご参照ください。
    https://www.mhlw.go.jp/stf/topics/bukyoku/soumu/houritu/217.html

2. 個人事業者等に対する安全衛生対策に係る改正の概要

 既存の労働災害防止対策に個人事業者等も取り込み、労働者のみならず個人事業者等による災害の防止を図るため、概要、以下のような改正が行われています。

(1) 「個人事業者」に関する定義

  • 事業を行う者で労働者を使用しないものを「個人事業者」と定義(労働安全衛生法第31条の3第1項)

(2) 注文者等が講ずべき措置

 注文者等が講ずべき措置として、例えば、以下のような改正が行われています(一例)。

① 建設工事の注文者その他の仕事を他人に請け負わせる者は、施工方法、作業方法、工期、納期等について、安全で衛生的な作業の遂行を損なうおそれのある条件を付さないように配慮しなければならないものとすること(労働安全衛生法第3条3項)
② 特定元方事業者等が統括安全衛生責任者を選任しなければならない場合を、その労働者及び関係請負人の労働者が一の場所において作業を行うときとしていたのを改め、その労働者である作業従事者(事業を行う者が行う仕事の作業に従事する者をいう。以下同じ。)(当該労働者である作業従事者のほか、労働者以外の当該特定元方事業者に係る作業従事者がある場合には、当該者を含む。)及び関係請負人に係る作業従事者が一の場所において作業を行うときとすること(労働安全衛生法第15条第1項及び第3項)
③ 建設業に属する事業の元方事業者等が店社安全衛生管理者を選任しなければならない場合について上記②と同様の改正を行うこと(労働安全衛生法第15条の3第1項及び第2項)
④ 元方事業者は、関係請負人及び関係請負人に係る作業従事者が、仕事に関し、この法律又はこれに基づく命令の規定に違反しないよう必要な指導を行い、当該者がこれらの規定に違反していると認めるときは、是正のため必要な指示を行わなければならないものとするとともに、当該者は当該指示に従わなければならないものとすること(労働安全衛生法第29条)
⑤ 建設業に属する事業の元方事業者は、土砂等が崩壊するおそれのある場所等において関係請負人に係る作業従事者が当該事業の仕事の作業を行うときは、当該関係請負人が講ずべき当該場所に係る危険を防止するための措置が適正に講ぜられるように、技術上の指導その他の必要な措置を講じなければならないものとすること(労働安全衛生法第29条の2)
⑥ 特定元方事業者等が作業間の連絡及び調整等の措置を講じなければならない場合について、上記②と同様の改正を行うこと(労働安全衛生法第30条)
⑦ 特定事業の仕事を自ら行う注文者は、建設物等を当該仕事を行う場所においてその請負人に係る作業従事者(労働者及び労働者と同一の場所において仕事の作業に従事する労働者以外の作業従事者に限る。)に使用させるときは、当該建設物等について、労働災害を防止するため必要な措置を講じなければならないものとすること(労働安全衛生法第31条)
⑧ 建設業に属する事業の仕事を行う二以上の事業者又は個人事業者に係る作業従事者(労働者及び労働者と同一の場所において仕事の作業に従事する労働者以外の作業従事者に限る。)が一の場所において機械に係る作業を行う場合において、当該作業に係る仕事を自ら行う発注者又は当該仕事の全部を請け負った者で、当該場所において当該仕事の一部を請け負わせているものは、当該場所において当該作業に従事する全ての労働者の労働災害を防止するため必要な措置を講じなければならないものとすること(労働安全衛生法第31条の3)
⑨ その他(労働安全衛生法第9条、第25条の2、第30条の2、第30条の3、第30条の4、第31条の4、第32条、第33条、第34条、第36条等)

(3) 個人事業者等が講ずべき措置

 個人事業者等が講ずべき措置として、例えば、以下のような改正が行われています(一例)。

① 労働者以外の者で労働者と同一の場所において仕事の作業に従事するものは、労働災害を防止するため必要な事項を守るほか、事業者その他の関係者が実施する労働災害の防止に関する措置に協力するように努めなければならないものとすること(労働安全衛生法第4条)
② 労働者と同一の場所において仕事の作業に従事する労働者以外の作業従事者は、事業者が労働安全衛生法第20条から第25条まで及び第25条の2第1項の規定に基づき講ずる措置に応じて、必要な事項を守らなければならないものとするとともに、当該者が守らなければならない事項は、厚生労働省令で定めるものとすること(労働安全衛生法第26条及び第27条第1項)
③ 作業従事役員等(事業者(厚生労働省令で定める数以下の労働者を使用する者に限る。)又は個人事業者(これらの者が法人である場合には、その代表者又は役員)である作業従事者をいう。)は、労働者と同一の場所において危険又は有害な業務に就くときは、当該業務に関する安全又は衛生のための特別の教育を受けなければならないものとすること(労働安全衛生法第59条第4項)
④ 作業従事役員等は、労働者と同一の場所において危険又は有害な業務に就くときは、③の教育のほか、当該作業を行う場所における安全衛生の水準の向上を図るため、安全又は衛生のための教育を受けるように努めなければならないものとすること(労働安全衛生法第60条の2第2項)
⑤ その他(労働安全衛生法第42条、労働安全衛生法第45条等)

(4) 申告

  • 作業従事者は、事業場に労働安全衛生法又はこれに基づく命令の規定に違反する事実があるときは、その事実を都道府県労働局長、労働基準監督署長又は労働基準監督官に申告して是正のため適当な措置をとるように求めることができるものとすること(労働安全衛生法第97条第1項)
  • 注文者、機械等貸与者その他作業従事者に係る事業を行う者の契約の相手方は、当該申告を理由として、当該事業を行う者に対し、取引の停止その他の不利益な取扱いをしてはならないものとすること(労働安全衛生法第97条第3項)

(5) 災害状況の調査

  • 厚生労働大臣は、労働災害の防止に資する施策を推進するため、業務に起因して作業従事者が負傷し、疾病にかかり、又は死亡した災害の発生状況に係る情報その他の必要な事項について調査を行うことができるものとすること(労働安全衛生法第100条の2第1項)
  • 厚生労働大臣は、当該調査のために必要なときは、事業を行う者及び作業従事者に対し、必要な事項を報告させることができるものとすること(労働安全衛生法第100条の2第2項)
  • 当該権限は、厚生労働省令で定めるところにより、都道府県労働局長及び労働基準監督署長に委任することができるものとすること(労働安全衛生法第100条の2第3項及び第4項)

3. その他の本改正案の概要

 その他の本改正案の概要は以下のとおりです。

(1) 職場のメンタルヘルス対策の推進

  • ストレスチェックについて、現在当分の間努力義務となっている労働者数50人未満の事業場についても実施を義務とする(労働安全衛生法附則第4条の削除)。

(2) 化学物質による健康障害防止対策等の推進

① 化学物質の譲渡等実施者による危険性・有害性情報の通知義務違反に罰則を設ける(労働安全衛生法第57条の2第1項及び第119条第4号)。
② 化学物質の成分名が営業秘密である場合に、一定の有害性の低い物質に限り、代替化学名等の通知を認める(労働安全衛生法第57条の2第3項及び第6項)。
③ 個人ばく露測定について、作業環境測定の一つとして位置付け、作業環境測定士等による適切な実施の担保を図る(労働安全衛生法第2条第4号、第65条の3、作業環境測定法第2条~第5条等)。

(3) 機械等による労働災害の防止の促進等

① ボイラー、クレーン等に係る製造許可の一部(設計審査)や製造時等検査について、民間の登録機関が実施できる範囲を拡大する(労働安全衛生法第37条~第39条、第46条、第47条~第53条の2等)。
② 登録機関や検査業者の適正な業務実施のため、不正への対処や欠格要件を強化し、検査基準への遵守義務を課す(労働安全衛生法45条2項~5項、54条の4、54条の6、54条の7、76条の2、77条等)。

(4) 高齢者の労働災害防止の推進

  • 高年齢労働者の労働災害防止に必要な措置の実施を事業者の努力義務とし、国が当該措置に関する指針を公表することとする(労働安全衛生法第62条の2)

4. 施行期日

 以上の改正については、原則として2026年4月1日から施行されることになりますが、例えば、以下のように施行期日が異なるものについては注意が必要です。

  • 2(2)①:公布日
  • 2(3)③~⑤:2027年4月1日
  • 2(5):2027年1月1日
  • 3(1):公布後3年以内に政令で定める日
  • 3(2)①:公布後5年以内に政令で定める日
  • 3(2)③:2026年10月1日
  • 3(3)②:2026年1月1日

以 上