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2023.04.14

スクラップヤード規制の制定ラッシュに見る自治体対応の留意点

執筆弁護士

<目次>
1. 数多ある自治体条例・指導要綱等による規制
2. スクラップヤードについての各自治体の規制
3. 千葉市スクラップヤード条例の規制
4. 千葉県スクラップヤード条例の新規創設
5. 行政による摘発事例と規制の全国拡大傾向
6. 行政対応・住民対応の留意点

1.数多ある自治体条例・指導要綱等による規制

法令上規制される廃棄物や環境汚染物質は多様であり(特定有害物質、ダイオキシン類、油汚染、アスベスト、PCB廃棄物、地下杭その他の地下埋設物・障害物など)、他の法分野と比較しても極めて多数の法令が存在します。また、規則・通知・ガイドライン等も数多く存在し、さらに後述のとおり自治体ごとに条例・規則・指導要綱などが存在するなど、理解しなければならない規制の内容(許認可・登録・届出、定期報告義務等)も多く、その範囲が極めて広範でありかつ複雑です。

特に各自治体が定める条例は、環境やまちづくりに関連するものだけでも、廃棄物対策やリサイクル、プラスチックの資源循環のほか、カーボンニュートラル(省エネルギー・温室効果ガス対策)や太陽光発電設備の規制、再生可能エネルギーの利用促進に関する条例、埋土や景観、民泊、土壌汚染、地下水、アスベストその他の大気汚染の環境基準に関する条例など、さまざまです。

条例管理の難しさは、都道府県だけでなく市区町村でも独自に条例(基準)が定められており、施行規則や指導要綱等まで網羅しなければならないという点にあります。国の法令と条例とで異なる規制基準があるケース、国の法令にはない義務が条例に存在するケースなどでは、これらの見落としや理解が不十分であることによる規制違反を招くケースが多々あります。

しかも、これらの規制内容は日々改正・アップデートされていくことから、適時適切なアップデートがなされないと、少し前までは適法であった行為であっても、ある時点を境に、知らないままに法令違反を犯してしまっているということも少なくありません(※)

※猿倉健司「新規ビジネスの可能性を拡げる行政・自治体対応 ~事業上生じる廃棄物の他ビジネス転用・再利用を例に~」(牛島総合法律事務所 特集記事・2023年1月25日)、猿倉健司「環境・廃棄物規制とビジネス上の盲点」(牛島総合法律事務所 ニューズレター・2023年4月10日)、「条例改正対応におけるリスクや留意点と、条例管理をサポートする『条例アラート』」(BUSINESS LAWYERS・2022年7月14日)

本稿においては、近時注目を浴びているスクラップヤード条例の新設ラッシュをとり上げ、紹介します。

2.スクラップヤードについての各自治体の規制

全国各地において再生資源物の屋外保管施設(金属スクラップヤード)が存在しており、操業に伴う騒音・振動や不適切な保管による火災が数多く発生しています。しかしながら、再生資源物が有価物として扱われる場合には(再生処理を経て有価物となった場合を含む)、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃掃法)の規制対象とはならないため、その保管について直接規制する法令等がありません。なお、届出が必要とされる有価性のある使用済み有害機器には、金属スクラップは含まれません(廃掃法第17条の2、同施行令第16条の2)。

そこで、各自治体においては、再生資源物の屋外保管を行う事業者に対する規制を行うべく条例を定めています。

使用済みの物品や再生資源物の屋外での堆積や保管を規制する条例は「スクラップヤード条例」といわれますが、たとえば金属スクラップヤードを対象とする条例としては、以下のようなものがあります(一般財団法人地方自治研究機構「ヤード条例・スクラップヤード条例・資材置場条例」による。)。

後述する千葉市条例は、飯田市条例(長野県)や綾瀬市条例(神奈川県)が届出制としているに対して、全国で初めて許可制を導入しています(その後、袖ケ浦市条例(千葉県)も許可制を導入し、罰則規定を置いています。)。

なお、袖ケ浦市条例は、千葉市条例にない独自の規定として、ヤードの設置計画についての事前協議(第7条)や、水質検査及び地質検査の実施・報告等(第11条)、受入記録等の第三者閲覧(第12条)、命令違反等の場合の公表(第23条)等の規定を置いています。

3.千葉市スクラップヤード条例の規制

以下においては、2022年までに全国初の許可制として施行された千葉市再生資源物の屋外保管に関する条例(千葉市条例)の概要について説明します。

千葉市条例が規制対象とするのは、再生資源物(ただし、廃掃法第2条第1項に規定する廃棄物及び法第17条の2第1項に規定する有害使用済機器に該当するものを除く)となります(第2条1号)。

なお、廃掃法施行規則第13条の2第1号に定める廃棄物の処理に係る許可等を受けた者が当該許可等に係る事業場において屋外保管を行う場合には、適用されません(第23条)。

(1) 許可制

千葉市内で屋外保管事業場を設置しようとする事業者は、たとえば以下の場合を除き(下記に限られない)、設置する屋外保管事業場ごとに、屋外保管事業場の設置に関する計画その他の必要な事項を記載した申請書を提出し、その許可を受ける必要があります(第5条1項)。

  • 屋外保管事業場の敷地面積が100㎡を超えない場合(同項1号)
  • 本来の業務に付随して屋外保管を一時的に行う場合(同項2号)

なお、上記例外に該当する場合であっても、再生資源物の保管基準(後記参照)は遵守する必要があります。

許可を取得せず屋外保管事業場を設置・使用した場合、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金の対象となります(第25条)。

千葉市条例の施行日時点で100㎡より広い再生資源物の屋外保管事業場を設置している事業者は、届出に基づき、全ての保管基準(後記参照)に適合することが確認された場合には、許可をうけたものとみなされます(みなし許可)(附則第10項)。みなし許可の有効期間は5年間であり、新規許可の場合と同様に更新制となります(第5条2項)。

(2) 保管・立地に係る基準

屋外保管事業場を設置しようとする事業者は、以下の立地基準(第8条)、保管基準(第7条)を遵守する必要があります。

住宅等の敷地から100m以上離れていることを要件とするため、立地によっては新規にヤードを設置することが困難な場合も多いと考えられます。

【屋外保管事業場の立地基準】(概要)

  • 100㎡超の事業場は、住宅等の敷地から100m以上離れた土地に設置
  • 屋外保管事業場の土地の地形・地質が、生活環境の保全上支障がないことを確保

【再生資源物の保管基準】(概要)

  • 屋外保管事業場である旨その他の必要な事項を表示した掲示板の設置
  • 屋外保管の場所の周囲に囲いの設置
  • 屋外保管の場所である旨その他必要な事項を表示した掲示板の設置
  • 再生資源物の荷重に対する囲いについて構造耐力上安全であることの確保
  • 再生資源物の積上げ高さが「勾配比1:2」又は「5m」を超えないことを確保
  • 保管場所の底面を不浸透性の材料で覆い、油分離装置・排水溝等の設備を設置
  • 騒音又は振動により生活環境の保全上支障が生じないような必要な措置
  • 再生資源物がその他の物と混合するおそれのないよう他の物と区分保管
  • 火災の発生又は延焼のおそれに対する技術的に可能な範囲での適正な回収保管
  • 保管単位面積を1か所あたり200㎡以下とすることを確保
  • 隣接する再生資源物の保管単位の間隔は2m以上を確保

(3) 周辺住民等への周知

新規許可申請日の1か月前までに、屋外保管事業場の周辺住民等(事業場境界からおおむね300m以内の住民)に対して、説明会を実施し、屋外保管事業場の面積、積み上げられる予定の再生資源物の最高高さ、その他市長が必要と認める事項を説明する必要があります(第6条)。

(4) 帳簿の整備

再生資源物を受け取り又は引き渡したときは、屋外保管事業場ごとに、取引先、再生資源物の品目及び数量、回収した廃油及び廃液の品目及び数量、火災の発生のおそれがあるものとして回収したものの品目及び数量に関する記録を作成し、3年間保存しなければなりません(第9条)。

4. 千葉県スクラップヤード条例の新規創設

千葉県内には金属スクラップヤード施設が全国で最も多いとみられています。県の調査では、「スクラップヤード」は2022年3月時点で県内に約330か所あるとも言われています(※)。

※2022年12月8日付け日本経済新聞「千葉県、スクラップ保管場を規制 条例制定へ有識者会議

そこで、千葉県は、水質・土壌汚染のほか、過度に積み上げられて崩落や火災が発生することなどの懸念を踏まえて、全県を対象とする総合的な規制として、「(仮称)千葉県金属スクラップヤード等適正化条例」の骨子案を公表し、2023年4月7日までの間、パブリックコメントを実施しました。

骨子案の概要は以下のとおりです(「(仮称)千葉県金属スクラップヤード等適正化条例の骨子案」)。

(1) 事業の許可等

  • 千葉市条例と同様に、事業を行う場所ごとに、あらかじめ事業許可の取得を義務付ける。
  • 施設等が、生活環境の保全・安全上の支障がないものとして基準に適合することが許可の要件とされ、有効期間その他の条件を付することができる。
  • あらかじめ住民説明会の開催等によって事業の内容等を周知することも義務付けられる。
  • なお、既存事業者にも許可取得を求めることとし、条例の各規定への適合に必要な期間として、一定の猶予期間を設ける。

(2) 事業を実施するに当たり遵守すべき基準等

  • 千葉市条例と同様に、保管等の基準の遵守を義務付けられ、 掲示板の設置、記録の作成・保存、現場責任者の配置等の規定が設けられる。

(3) 実効性の確保

  • 千葉市条例と同様に、命令、許可取消、立入検査、報告徴収、罰則(無許可営業、命令違反等)などの規定が設けられる。

5. 行政による摘発事例と規制の全国拡大傾向

スクラップヤード条例に基づき、設置計画についての行政との事前協議が義務付けられていたり、運営後も行政から命令、許可取消、立入検査、報告徴収、罰則などが課されることもあります。

2023年3月には、千葉市は、条例に基づき事業者に対して初の改善命令を出したことが報道されています)。改善命令の期限までに条例に規定される保管基準に適合できない場合には、許可取消し、罰則の適用なども考えられます(※)。

その他、違法なスクラップヤードの運営事業者に対し、千葉県や木更津市により、森林法、都市計画法に基づく行政処分がなされた例も報道されています(※)。

しかしながら、自治体ごとに規制を強化しているのに対し、近年、外国人によるスクラップヤードの運営が増加しており、千葉県内での規制強化を見込んで、他県に拠点を移す動きが顕著となっています。条例で規制している限りでは、どうしても規制の甘い地域に問題が生じてしまいます。そのため、エリアごとではなく、全国を対象とする抜本的な対策・規制が必要であるとの指摘がなされています(※)。

※2023年3月24付け日本経済新聞「スクラップヤード条例 千葉市、初の改善命令」、2022年11月1日付け鉄鋼新聞「千葉市の金属スクラップヤード規制条例施行から1年、新規設置抑制・積み上げ過ぎ8割改善」、2023年3月14日付け埼玉新聞「苦情が相次ぐ…騒音、振動が多い金属スクラップなどの保管ヤード 埼玉半数で周辺住民が迷惑 悪臭、炎上も

このような流れからすれば、全国の自治体で同様の規制が新設・強化されることが予想されることから、適時に条例の制定状況を確認しておく必要があります。

6.行政対応・住民対応の留意点

上記のとおり条例のほか指針・ガイドライン・指導要綱その他が存在するものの、必ずしも明確な基準・解釈が設定されているわけではありません。特に、環境行政においては、自治体の裁量に委ねられている面があり、ある自治体や官庁から問題ない旨の見解が提示されたにもかかわらず、他の官庁等から当該見解に従った処理が違法であると判断されるといったケースもあります(※) 。

※猿倉健司「不動産取引・M&Aをめぐる環境汚染・廃棄物リスクと法務」(清文社、2021年7月)368頁以下、「新規ビジネスの可能性を拡げる行政・自治体対応 ~事業上生じる廃棄物の他ビジネス転用・再利用を例に~」(牛島総合法律事務所 特集記事・2023年1月25日)、「環境有害物質・廃棄物の処理について自治体・官庁等に対する照会の注意点」(BUSINESS LAWYERS・2020年5月22日)

また、上記のとおり、各スクラップヤード条例においては、事業を行うにあたって、住民への説明が義務付けられているほか、住民から法的な申し立て等がなされる可能性があります。

たとえば、最高裁判例は、「建物としての基本的安全性を損なう瑕疵」を作出した者は、これにより第三者が被った財産等への損害について責任を負うとされ、しかも、基本的安全性を欠く不動産においてその危険が顕在化し、または事故が起こっていなかったとしてもその責任を負うと判示しています(最判平成19年7月6日民集61巻5号1769頁、最判平成23年7月21日判タ1357号81頁)。

これらの最高裁判例の考え方は、不動産について危険源を創出しているという意味で、地盤不良の土地の地盤改良が不十分であったことにより地上建物が基本的な安全性を欠く場合のほか、スクラップヤードへの不適切な積み上げによって周囲への安全性に脅威を及ぼすような場合等においても当てはまるとも考えられます。不動産の所有者は所有物件から生じる他者への危険又はその懸念を除去する義務があると指摘されており、また、2023年5月に施行されるいわゆる盛土規制法(宅地造成等規制法の一部を改正する法律)においても、盛土等が行われた土地について土地所有者等が常時安全な状態に維持する責務を有することが明確化されています。そのため、周辺住民からスクラップ保管業者に対してこういった根拠をもって損害賠償請求等の責任追及がなされることも考えられます(※)。

※猿倉健司「不動産取引・M&Aをめぐる環境汚染・廃棄物リスクと法務」(清文社、2021年7月)62頁、「全国初の千葉市条例のポイントは? 弁護士が見た〝中国人スクラップ業者〟問題の法的見解~千葉市再生資源物の屋外保管に関する条例、スクラップヤード条例と別府マンション事件ほか~」(2021年11月4日付けMetal Information Resources Universe News & Report)

以 上

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