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事務所概要・アクセス
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<目次>
1. はじめに
2. 「旅行業」等の意義について
(1) 旅行業の意義
(2) 旅行業者代理業及び旅行サービス手配業について
(3) 企画旅行と手配旅行について
3. 登録について
(1) 登録の種類
(2) 合併等について(基準資産について)
近年、インバウンド需要の増加や政府の支援政策等を背景に、観光に関連するビジネスは盛り上がりを見せており、またIT技術の発展等を背景に、新規性のあるビジネスモデルが出現してきております。
そのようなビジネスモデルの適法性を検討する際には、各種の業法における許認可制度を把握することが不可欠です。
本特集では、旅行業法の登録に関し、特に旅行業等の該当性についてその概要を解説します。
「旅行業」とは、報酬を得て、旅行業法2条1項各号に掲げる行為を行う事業と定義されています(旅行業法2条1項柱書)。そのため、「報酬を得て」いない場合や、「事業」として行っていない場合(すなわち、反復継続性がない場合)には、旅行業には該当しないこととなります。
旅行業法2条1項各号の行為は、大きく、以下の3つに分類されます。なお、付随的旅行業務については、基本的旅行業務に付随して行われる場合に限り、旅行業法の規制対象となりますので、付随的旅行業務のみを行う場合には、旅行業の規制対象とはなりません。
① 基本的旅行業務 (旅行業法2条1項1号、3号から5号) | 旅行者に対して、運送又は宿泊のサービス(以下「運送等サービス」といいます。)を手配する行為(例:バスやホテルの手配等) 観光庁の通達(観参第957号)によれば、「運送サービス」とは、対価(運賃)を得て旅客を運送するサービス(例:鉄道、バス、船舶、飛行機、タクシー等)をいい、日本国外において同様に提供されるサービスもこれに該当するとされております。また、「宿泊サービス」とは、対価(宿泊料)を得て人を宿泊させるサービスをいい、日本国内においては、例えば旅館業法に規定する旅館業又は住宅宿泊事業法に規定する住宅宿泊事業として提供されるべきサービスがこれに該当するとされており、日本国外において同様に提供されるサービスもこれに該当するとされております。 |
② 付随的旅行業務 (同項2号、6号から8号) | 基本的旅行業務に付随して、運送又は宿泊のサービス以外のサービス(以下「運送等関連サービス」といいます。)を手配する行為(例:レストランや観光施設の予約等) 付随的旅行業務に関し、「付随して」とは、旅行者に対し、運送等サービスに関する旅行業務と併せて、運送等関連サービスに関する旅行業務又は渡航手続の代行等の旅行者の便宜となるサービス(以下「渡航手続代行サービス」という。)に係る業務を不可分一体のものとして提供することや、運送等サービスに関する旅行業務の提供を前提として運送等関連サービス又は渡航手続代行サービスを提供することをいうとされています。 |
③ 相談業務(同項9号) | 旅行に関する相談に応ずる行為 |
旅行業に該当しない行為としては、以下のようなものがあります。
① | 専ら運送サービスを提供する者のため、旅行者に対する運送サービスの提供について、代理して契約を締結する行為(旅行業法2条1項柱書かっこ書) 例:航空運送代理店、バスの回数券販売所等 |
② | 基本的旅行業務に付随しないで、運送等サービス以外のサービスを提供又は手配する行為 |
③ | 運送・宿泊事業者が自ら行う運送・宿泊サービスの提供行為 |
④ | 運送等サービスに関する取引を行うためのシステムを開発し、旅行業者や運送事業者等に当該システムのみを提供する場合(ただし、当該業者と旅行者との契約について、報酬を得て、代理して契約を締結し、媒介をし、又は取次ぎを行うものを除く) |
⑤ | インターネットを介して旅行取引を行う場合で、旅行者と運送事業者との間での取引の媒介を行わない場合(遅くとも予約入力画面から予約確認画面に移行する際(すなわち、予約入力画面に入力された情報を送信する際)までに、旅行者と運送事業者との間での取引となる旨が明確に表示されており、システム上もそのようになっている場合) |
旅行業の該当性に関して参考となる事例としては、令和5年度に、お出かけプラン提案サービスの提供(依頼者と依頼者が希望する行先に詳しいプランナーが作成する旅行・おでかけプランをマッチングするプラットフォームを構築する事業)について、グレーゾーン解消制度(※1)を利用した観光庁への照会が行われており、当該照会に対して、①プランナーは、特定の運送又は宿泊サービスに言及することを禁止していること ②採用された旅行・おでかけプランにおける運送又は宿泊のサービスに係る手配や予約その他契約締結に関しては、依頼者自身で行うものであり、照会事業者及びプランナーは一切 関与しないこと、及び ③照会事業者は、依頼者による旅行・おでかけプランの提案依頼に対応することはなく、プランナーによるプラン提案にも一切関与しない仕組みとなっていることから、契約の代理、取次ぎ、又は媒介のいずれにも該当せず、旅行業に該当しないと考えてよいとの回答がされております。
(※1)グレーゾーン解消制度の内容については牛島総合法律事務所・特集記事「新規ビジネスの法令適合性審査・行政対応の各制度」を参照されたい。
旅行業法は、旅行業法のほか、旅行業者代理業及び旅行サービス手配業についても規制を及ぼしております。なお、「報酬を得て」いない場合や、「事業」として行っていない場合には、旅行業法の規制が及ばない点は、旅行業と同様です。
① 旅行業者代理業の意義 | 「旅行業者代理業」とは、報酬を得て、旅行業者のために、旅行業務について代理して契約を締結する行為を行う事業をいいます(旅行業法2条2項)。 |
② 旅行サービス手配業の意義 | 「旅行サービス手配業」とは、報酬を得て、旅行業者のために、旅行者に対する運送等サービス又は運送等関連サービスの提供について、これらのサービスを提供する者との間で、代理して契約を締結し、媒介をし、又は取次ぎをする行為を行う事業をいいます(旅行業法2条6項)。 |
旅行業の登録区分を理解する上では、旅行契約及び企画旅行と手配旅行の区分を理解する必要があります。
旅行契約とは、旅行業者が「旅行」を実現するための役務を提供し、旅行者がそれに対して対価を支払うことを約する契約です。旅行契約においては、実際に運送、宿泊その他の旅行に関するサービス提供を行うのは、運送機関や宿泊施設等の旅行契約外の第三者であり、旅行業者は旅行者がそれらの旅行に関するサービスの提供を正当に受けられる地位を取得させる債務(手配する債務)を負っています。
旅行については、大きく、企画旅行と手配旅行に区別され、企画旅行はさらに募集型企画旅行と受注型企画旅行に区分されます。
① 企画旅行 | 企画旅行とは、旅行業法2条1項1号の業務(企画旅行に係る基本的旅行業務)により実施される旅行であり、旅行業法2条1項2号が企画旅行に係る付随的旅行業務について定めています。 (i) 募集型企画旅行 募集型企画旅行とは、旅行業者が、予め旅行計画を作成し、旅行者を募集するものです。 例:パッケージツアー (ii) 受注型企画旅行 受注型企画旅行とは、旅行業者が、旅行者からの依頼により旅行計画を作成するものです。 例:修学旅行、オーダーメイド旅行 |
② 手配旅行 | 手配旅行とは、旅行業法2条1項3号・4号の業務(手配旅行に係る基本的旅行業務)により実施される旅行(旅行業者が、旅行者からの依頼により宿泊施設や乗車券等のサービスを手配するもの)であり、旅行業法2条1項6号・7号が手配旅行に係る付随的旅行業務について定めています。 |
旅行業等を営むには、いずれも登録を必要とします。
旅行業法は、旅行業者について、その業務範囲に応じて、第1種旅行業者、第2種旅行業者、第3種旅行業者及び地域限定旅行業者の4種類の登録区分を設けています(旅行業法4条1項3号、同法施行規則1条の3)。
第1種旅行業者 | 旅行業2条1項の旅行業務全般を取り扱うことができます。 |
第2種旅行業者 | 海外を目的地とする募集型企画旅行を取り扱うことができません(※2)。 |
第3種旅行業者 | 自らの営業所が存在する市町村の区域、これに隣接する市町村の区域及び観光庁長官の定める区域内(以下「拠点区域」といいます。)において実施されるものを除き、募集型旅行を取り扱うことができません(※2)。 |
地域限定旅行業者 | 企画旅行及び手配旅行のいずれについても、拠点区域内において実施されるもののみ取り扱うことができます。 |
なお、旅行業法上の登録制度のほか、観光圏の整備による観光旅客の来訪及び滞在の促進に関する法律に基づく旅行業法の特例措置として、「観光圏内限定旅行業者代理業者」制度があります。
業務範囲に応じて登録の種類が異なります。各登録の業務範囲の概要は、下表のとおりです。
登録行政庁 (申請先) | 業務範囲 | |||||
企画旅行 | 手配旅行 | |||||
募集型 | 受注型 | |||||
海外 | 国内 | |||||
旅行業者 | 第1種 | 観光庁長官 | ○ | ○ | ○ | ○ |
第2種 | 主たる営業所の所在地を管轄する都道府県知事 | × | ○ | ○ | ○ | |
第3種 | × | △ (隣接市町村等) | ○ | ○ | ||
地域限定 | × | △ (隣接市町村等) | △ (隣接市町村等) | △ (隣接市町村等) | ||
旅行業者代理業 | 旅行業者から委託された業務 | |||||
観光圏内限定旅行業者代理業 | 観光圏整備計画における国土交通大臣の認定 | 旅行業者から委託された業務 (観光圏内限定、対宿泊者限定) | ||||
旅行サービス手配業 | 主たる営業所の所在地を管轄する都道府県知事 | 旅行業者から委託された業務 |
(※2)第2種旅行業者及び第3種旅行業者は、受注型企画旅行及び手配旅行に関しては、国内を目的地とする場合だけでなく、海外を目的地とする場合であっても取り扱うことができますが、海外の旅行業務を行う営業所においては、総合旅行業務取扱管理者の資格を有する者を旅行業務取扱管理者(※3)として選任する必要があります。
(※3)旅行業法においては、旅行業者及び旅行業者代理業者には、営業所ごとに、一人以上の「旅行業務取扱管理者」を選任して、当該営業所における旅行業務に関し、取引条件の明確性、旅行に関するサービスの提供の確実性その他取引の公正、旅行の安全及び旅行者の利便の増進を確保するために必要な事項について管理・監督に関する事務を行わせることが義務付けられています(旅行業法11条の2)。旅行業務取扱管理者には、その合格した旅行業務取扱管理者試験に応じて、総合旅行業務取扱管理者、国内旅行業務取扱管理者、地域限定旅行業務取扱管理者の3種類があります。旅行業務取扱管理者として選任できる者は、旅行業者等の営業所の扱う業務の範囲により、以下のとおり、必要な資格を有する者が異なっています。
海外の旅行業務を取り扱う営業所 | 総合旅行業務取扱管理者 |
日本国内の旅行業務のみ取り扱う営業所 | 総合旅行業務取扱管理者または国内旅行業務取扱管理者 |
国内の旅行のうち拠点区域内の旅行業務のみを取り扱う営業所 | 総合旅行業務取扱管理者、国内旅行業務取扱管理者または地域限定旅行業務取扱管理者 |
旅行業法上、登録の承継に関する規定は存在しません。そのため、旅行業を対象とした事業譲渡、旅行業者を消滅会社とする合併等を行う場合には、事業を承継する者は、予め旅行業の登録を行うか、事業の承継後に新たに旅行業の登録を行う必要があります。
また、旅行業法は、旅行業者に一定の財産的基礎を有していることを求めております。
すなわち、旅行業法は、旅行業を遂行するために必要と認められる財産的基礎を有していることを確保するために、基準資産額(総資産額から総負債額および営業保証金額を引いて算出される額)が一定額以上であることを旅行業者の登録の要件としています(旅行業法6条1項10号、旅行業法施行規則3条)。また、一定の金額を営業保証金として供託することを義務付けています。
これは、旅行業務は比較的小さな設備で取り扱うことが可能であるものの、その取扱額は必ずしも小さくないため、旅行業者の財務状況によっては、旅行者は、旅行業者に対して旅行代金を前払いしたにもかかわらず、旅行業者の経営破綻等により、サービスの提供も返金も受けることができない被害に遭う可能性があるからです。
営業保証金につきましては、旅行業協会に加入している場合には、営業保証金の供託に代えて、その5分の1の金額を弁済業務保証分担金として納付(括弧内が弁済業務保証分担金の金額)することとされています。また、括弧内に記載された金額は年間の取扱額が最小の区分の場合であり、取扱額の増加に応じて供託すべき金額は加算されることとなります。
要求される基準資産額および営業保証金額は下表のとおりです。
基準資産 | 営業保証金 | ||
旅行業者 | 第1種 | 3000万円 | 7000万円 (1400万円) |
第2種 | 700万円 | 1100万円 (220万円) | |
第3種 | 300万円 | 300万円 (60万円) | |
地域限定 | 100万円 | 15万円 (5万円) | |
旅行業者代理業 | - | 不要 | |
観光圏内限定旅行業者代理業 | - | 不要 | |
旅行サービス手配業 | - | 不要 |
買収資金の借入を行う場合には、かかる旅行業者の基準資産額に関する規制を意識してスキームを検討する必要があります。
例えば、LBO案件において買収SPCが買収資金の借入を行う場合には、買収SPC又は対象会社のいずれを消滅会社とする場合であっても、通常は合併後の存続会社は基準資産額の要件を充足することができなくなると思われ、次回の旅行業の登録更新時までに基準資産額を回復できない限り旅行業の登録更新ができなくなるリスクを負うことになりますので、かかる観点から、買収SPCと対象会社の合併の可否を検討する必要があります。
以上