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2024.05.24

新規ビジネスの法令適合性審査・行政対応の各制度

牛島総合法律事務所 環境法プラクティスチーム
<目次>
1. はじめに
2. 一般的な法令適合審査
(1) 法令等の規制調査(リサーチ)
(2) 行政機関に対する照会・協議
3. グレーゾーン解消制度(産業競争力強化法7条)
4. 新事業特例制度(産業競争力強化法6条、9条等)
5. 規制のサンドボックス制度(産業競争力強化法8条の2等)
6. 法令適合性検討が不十分な場合の取締役の責任

1. はじめに

 使用済み製品のリサイクルビジネスや革新的なテクノロジーを用いたビジネスなどの新規ビジネスは、先行事例がなく、法令などの規制対象となるかどうかや、許認可・登録・届出の要否等が不明確である場合も多い。一般には、考えられるビジネススキームを前提に、法令等の規制調査(リサーチ)を行い、場合により行政機関に対する照会・協議を経て、または本項で説明する諸制度を利用して、新規ビジネスを推進していく(※1)。もっとも、法令適合性について必要十分は検討プロセスを経ないと、法令違反を犯すリスクを負うばかりでなく、役員が責任を問われるケースもある。
 本稿では、法令等の規制調査(リサーチ)、行政機関に対する照会・協議、②法令適合のための各制度、③法令適合性検討が不十分な場合の取締役の責任ついて、解説する。

 また、新規ビジネスの検討における行政対応については、猿倉健司「新規ビジネスの可能性を拡げる行政・自治体対応 ~事業上生じる廃棄物の他ビジネス転用・再利用を例に~」(牛島総合法律事務所特集記事・2023年1月25日)も参照されたい。

※1 ルール形成に取り組む企業は、年平均売上高成長率が平均と比べ約5倍になるとの調査結果も存在する。(経済産業省『ルール形成型市場創出の実践に向けて「市場形成ガイダンス」-社会課題解決でビジネスを作る経営の手引き-』)

2. 一般的な法令適合性審査

(1) 法令等の規制調査(リサーチ)

 新規ビジネスの検討を行う場合、当該新規ビジネスを法的に分析し、法令の規制対象となる行為が含まれているか分析を行う。特に、法令上で許認可等を得ることが必要な場合、許認可等の取得を求める規制の有無の確認は重要度が高い。規制調査をするにあたっては、規制所管省庁の解説、当該規制に係る通知・通達・告示の確認も含めた網羅的な調査が必要不可欠となる。また、外部弁護士の活用、所管省庁への問い合わせといった方法も考えられる。なお、新規ビジネスのうち提携先企業等が担当する部分も規制調査行うことが望ましい。規制調査を網羅的に行っていない場合、事業開始直前になって法令違反を指摘されるリスクを負う可能性があるからである。加えて、新規ビジネスにおけるサービスが海外にも及ぶ可能性がある場合には、海外の規制についても調査が必要となる。海外規制の調査については、(国内の法律事務所を介するなどして)海外の法律事務所に対して依頼をすることになる(※2)。

※2 たとえば、当事務所は、独立した法律事務所のグローバルなネットワーク(Multilaw、Employment Law Alliance(ELA)、Lawyers Associated Worldwide(LAW))に複数加盟しており、海外法律事務所と連携した対応が可能となっている(牛島総合法律事務所・特集記事「改正公益通報者保護法準拠の匿名の外部通報窓口サービス(グローバル対応)」)。

(2) 行政機関に対する照会・協議

 自社の検討で法令適合性の判断に確信が持てない場合には、あらかじめ行政に対して照会を行ったり、協議を行うことがある。行政機関の見解によっては事業内容の見直しを迫られる可能性があるため、事業内容が固定化される前段階で行うことが望ましいといえる。また、新規ビジネスに関する照会を行った場合には、先例的判断がないため、否定的な見解が示されることも少なくない。そのため、あえて行政に対して照会を行わないというプラクティスも見られるが、外部弁護士を起用するなどして、論点整理や意見書の作成、行政との協議(またはそのサポート)を依頼することで、有利な判断を得ることも考えられる。

 この点については、猿倉健司「環境有害物質・廃棄物の処理について自治体・官庁等に対する照会の注意点」(BUSINESS LAWYERS・2020年5月22日)も参照されたい。

3. 法令の適用の有無を確認する手法

(1) グレーゾーン解消制度(産業競争力強化法7条)

手続の概要

 同制度は、事業者が新規ビジネスに取り組む場合に、現行の規制の適用範囲や解釈が不明確な分野であっても、具体的事業計画に即して、事前に規制の適用・解釈について主務大臣に照会できる制度である。同制度を利用する場合の主な手続は、以下のとおりである(※3)。

事業者は必要に応じて主務大臣に事前相談のうえ、規制の適用・解釈につき照会
主務大臣は、原則1ヶ月以内に事業者に対して照会に対する回答
両大臣の連名で回答の概要が公表

※3 経済産業省 経済産業制作局 産業創造課 新規事業創造推進室 『産業競争力強化法に基づく 事業者単位の規制改革制度について』

制度の特徴

 照会に対する回答の公表内容は、規制所管省庁との調整が事実上可能であり、また、照会書についても照会者の同意を前提として公表されるため、事業者の機密情報等が漏れるということは通常起こらないとされている。また、同制度は、施行前の法令解釈も照会することができる。さらに、正式な照会前の協議で、照会対象の規制に関する詳細な見解を聞くことができるため、これを踏まえて事業の修正や、照会内容を工夫して狙った回答を得ることができ、申請者にとって望ましくない回答を避けることができるとされている。

環境リサイクル法規制に関する活用事例

 同制度の活用事例として、使用済み鉛バッテリーに含まれる鉛の精錬事業者が、使用済み鉛バッテリーの電解液等を原料として精製される粗芒硝液を市販工業薬品である芒硝液に加工する業務を第三者に委託するにあたり、当該粗芒硝液が廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃掃法」という。)第2条の「廃棄物」に当たるか照会した事例がある(※5)。当該事例では、粗芒硝液が廃掃法上の「廃棄物」に該当する旨の回答がなされ、粗芒硝液を取り扱う際には廃掃法に基づく処理基準の遵守等が必要であることが明確化された。
 他にも、バイオプラスチック製カップのリユース事業者が、飲食店事業者と契約の上、飲食店事業者が顧客に商品を販売する際にカップ代を徴収し、その後顧客が飲食店事業者にカップを返却した場合にカップ代と同額の協力金を顧客に支払い、飲食店事業者はその後カップをリユース事業者に返却するビジネスにつき、飲食店事業者が行う行為が古物営業法上の「古物営業」に該当する結果「古物商」に該当しないか照会された事例がある(※6)。当該事例では、飲食店事業者が同法上の「古物商」に該当しないことが明確化された。

※5 経済産業省『産業競争力強化法の「グレーゾーン解消制度」の活用! ~鉛バッテリーを原料とする粗芒硝液の廃棄物への該当性が明確化されました~』参照
※6 経済産業省『グレーゾーン解消制度における照会に対し回答がありました ~バイオマスプラスチック製カップのリユース事業~』『新事業活動に関する確認の求めに対する回答の内容の公表』参照

(2) ノーアクションレター制度

 他に法令の適用・解釈を確認する方法としてノーアクションレター制度がある。もっとも、同制度は照会できる法令の範囲が限定され(※7)、直接に規制所管省庁に対して確認する必要があるため、グレーゾーン解消制度の方が使い勝手が良いとされている。

※7 例えば、法務省所管法令のうち同手続の対象となる法令は、法務省HP「法令適用事前確認手続対象法令(条項一覧)」上の掲載法令に限定されている。

4 新規事業特例制度(産業競争力強化法6条、9条等

 同制度は、事業者が新規ビジネスを行うにあたって支障となる規制がある場合に、必要に応じて事業所管省庁と事業者が事業内容や講じる安全措置等を相談のうえ、事業者単位で規制の特例措置を認める制度である。同制度の利用にあたっては下図のとおり(※8)、第一段階として、新規ビジネス実施のために支障となる規制の特例措置の創設を求め、第二段階として、事業活動や特例措置の内容等を記載した新事業活動計画の認定を受けて事業者は特例措置の適用を受けることになる。

(1) 手続の流れ

※8 経済産業省 経済産業制作局 産業創造課 新規事業創造推進室『産業競争力強化法に基づく 事業者単位の規制改革制度について』より抜粋

第一段階特例措置の創設の求め(※9)

 特例措置の創設を求めるにあたっては、主務大臣に対して創設を求める特例措置の内容等を記載した所定の要望書を提出する必要がある。「○法第△条に基づく規制につき、×という代替措置を講じることで、□を可能とする特例を設ける」のように具体的記載が必要となる。
 上記特例措置創設の要望から原則として1ヶ月以内に主務大臣による通知がなされるが、新技術等効果評価委員会の意見聴取がなされる場合、さらに通知までの期間を要する。

※9 経済産業省『「グレーゾーン解消制度」、「規制のサンドボックス制度」及び「新事業特例制度」の利用の手引き』11頁以下参照

第二段階特例措置の適用(※10)

 事業者が創設された特例措置を利用する場合、事業の内容や利用する特例措置等を記載した新事業活動計画の認定を主務大臣より受ける必要がある。同計画の認定申請書に事業内容を記載する際には、事業に対する評価ではなく具体的事実を客観的に記載するよう注意が必要である(たとえば、商品が一定基準を満たしている旨の事実記載をする場合には、仕様書に基づき商品の仕様を客観的に記載する等)。また、特例措置の創設の要望をしていない事業者であっても既に創設されている特例措置を利用することができる。申請から認定までは原則1ヶ月以内になされるが、第一段階と同様に委員会に意見聴取する場合にはさらに期間を要する。

※10 経済産業省『「グレーゾーン解消制度」、「規制のサンドボックス制度」及び「新事業特例制度」の利用の手引き』14頁以下参照

5. 規制のサンドボックス制度(産業競争力強化法8条の2等)

 同制度は、期間や対象者を限定して、現行規制では実施困難なブロックチェーンやAI等の革新技術を用いた事業の実証を主務大臣の認定の下で行い、実証により得たデータ等を利用して規制見直しに繋げていく制度である。同制度は期間や参加者を限定することで、規制の適用を受けずに新技術の実証を行うことを可能とする。同制度を利用する場合の手続は下図(※11)のとおりである。

※11 経済産業省 経済産業制作局 産業創造課 新規事業創造推進室 『産業競争力強化法に基づく 事業者単位の規制改革制度について』より抜粋

6. 法令適合検討性が不十分な場合の取締役の責任

 取締役の行為が事後的に法令に違反する場合、取締役の裁量を広く認める経営判断原則は適用されず、取締役は任務懈怠責任(会社法423条1項)を負い得る。法解釈が未確立で、当該行為が法令違反を構成するか不明である場合に、当該行為を行うことが取締役の任務懈怠責任を構成するかの分水嶺は、企業がリスクマネジメントを行う上でも重要となる。
 この点につき、田中亘教授は、取締役が法令違反のリスクをとることの利益と不利益を衡量する費用便益計算をし、当該行為当時においてその行為を行うことが会社の利益となると合理的に判断した場合には、取締役の過失が否定されると解すべきと指摘する(※13)。取締役の過失を否定する事情(無過失の評価根拠事実)としては、①適法性に関する合理的調査を実施したこと、②適用される法令の解釈が未確立で、適法性の判断が困難であること、③費用便益計算により、当該行為を行うことが会社の利益になると合理的に判断したことなどが考えられると指摘されている(※14)。

※13 田中亘『会社法 第4版』東京大学出版会(2023)287頁
※14 渡部友一郎ほか『法令解釈が未確立の場合におけるリスクテイクと取締役責任』国際商事法務Vol.49,No.5 634頁

以上