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2025.06.20

建設業における下請保護規制(下請法と建設業法等)(第Ⅱ部)~下請保護規制における下請法と建設業法の相違点

<目次>
1. はじめに
2. 下請法と建設業法の規制内容(相違点)
(1) 契約(発注)時の書面の作成・交付義務
(2) 契約時の書類の作成・保存義務
(3) 下請代金の支払期日を定める義務・支払遅延の禁止
(4) 受領拒否の禁止
(5) 不当に低い下請代金の禁止(下請代金の減額の禁止)
(6) 物品購入・役務利用の強制の禁止
(7) 不当な給付内容の変更・やり直しの禁止
(8) 報復措置の禁止

1.はじめに

 別稿(猿倉健司「建設業における下請保護規制(下請法と建設業法等)(第Ⅰ部)~建設業における下請保護規制の概要」牛島総合法律事務所特集記事)において、建設業に係る下請取引の適正を図るための規制として、下請代金支払遅延防止法(以下「下請法」といいます)(※1)と昭和46年4月改正後の建設業法の概要を説明しました。
 本稿では、下請法における規制と建設業法における下請保護規制について、両者を比較するうえで重要なものを中心に説明します。

2.下請法と建設業法の規制内容(相違点)

(1) 契約(発注)時の書面の作成・交付義務

(i) 下請法

 親事業者は、下請法の適用対象となる製造委託等の発注を行ったときには直ちに法定の事項を記載した書面(いわゆる3条書面)を下請事業者に交付する義務を負います(下請法3条、下請代金支払遅延等防止法第三条の書面の記載事項等に関する規則)。違反した場合50万円以下の罰金に処せられます(下請法10条1号、12条)。
 発注から契約締結まで日数を要する場合、契約書だけでは発注後直ちに交付したといえず、契約書とは別に、発注後直ちに3条書面を交付しなければならないといわれています(下請講習テキスト31頁)。

(ii) 建設業法

 元請負人・下請負人はともに、下請契約の締結時に法定の事項を記載した契約書面の作成し相互に交付する義務を負います(建設業法19条1項)。災害時等でやむを得ない場合を除き、原則として工事の着工前に交付しなければならないとされています(国交省ガイドライン8頁)。工事内容や工期について当初の下請契約を追加変更したときも同様です(同2項)。なお、下請法とは異なり、元請負人・下請負人両者の義務として規定されています。
 違反した場合の直接の罰則はありませんが、指示等(建設業法28条)や勧告(建設業法41条1項)の対象となります。
 なお、元請負人は、下請契約を締結するに際しては、工事内容や工期等の14項目(労働災害防止対策、産業廃棄物処理、労災保険の保険料等の法定福利費に係る事項も含む)について、できる限り具体的な内容を提示して見積依頼をする必要があり(建設業法20条4項)、見積依頼時点に具体的内容が確定していない事項がある場合は、その旨を明確に示す必要があります(国交省ガイドライン3頁)。

(2) 契約時の書類の作成・保存義務

(i) 下請法

 親事業者は法定の書類(いわゆる5条書類)を作成し、2年間保存する義務を負います(下請法5条、下請代金支払遅延等防止法第五条の書類又は電磁的記録の作成及び保存に関する規則)。違反した場合50万円以下の罰金に処せられます(下請法10条2号、12条)。

(ii) 建設業法

 元請負人・下請負人ともに、法定の帳簿や図書を作成・備置し、5年間又は書類によっては10年間保存する義務を負い(建設業法40条の3、建設業法施行規則26~28条)、違反した場合は10万円以下の過料に処せられます(建設業法55条5号)。

(3) 下請代金の支払期日を定める義務・支払遅延の禁止

(i) 下請法

 下請代金の支払期日は、親事業者が下請事業者の給付の内容について検査をするかどうかを問わず、親事業者が下請事業者の給付を受領した日(役務の提供がされた日)から起算して60日の期間内かつできる限り短い期間内に定める義務があります。支払期日を定めない場合には給付受領(役務提供)の日が、上記義務に違反する支払期日を定めた場合は引渡の申出の日から起算して60日を経過する日が、それぞれ支払期日とみなされます(下請法2条の2)。
 また、支払期日を経過しても下請代金を支払わないことが禁止されています(下請法4条1項2号)。支払遅延の場合、給付の受領日から起算して60日を経過した日から支払日まで年14.6%の遅延利息を支払わなければならないとされています(下請法4条の2、下請代金支払遅延等防止法第4条の2の規定による遅延利息の率を定める規則)。

(ii) 建設業法

 元請負人が特定建設業者である場合の下請代金の支払期日は、下請負人による目的物の引渡しの申出の日(建設業法24条の4第2項参照)から起算して50日を経過する日以前のできる限り短い期間内に定める義務があります(建設業法24条の6第1項)。支払期日を定めない場合には、上記の下請負人による目的物の引渡しの申出の日から起算して50日を経過する日が、それぞれ支払期日とみなされます(建設業法24条の6第2項)。これらの支払期日までに下請代金を支払わなかった場合は、引渡しの申出日から起算して50日を超えた日から支払日まで年14.6%の遅延利息を支払わなければならないとされています(建設業法24条の6第4項、建設業法施行規則14条)。この特定建設業者による下請代金の支払義務は、発注者から工事代金の支払いがあるか否かにかかわらず支払わなければなりません(国交省ガイドライン41頁)。
 さらに、元請負人がその注文者から請負代金の出来形部分に対する支払又は工事完成後における支払を受けたときは、当該支払の対象となった建設工事を施工した下請負人に対して、当該元請負人が支払を受けた金額の出来形に対する割合及び当該下請負人が施工した出来形部分に相応する下請代金を、当該支払を受けた日から1月以内で、かつ、できる限り短い期間内に支払わなければならないとされています(建設業法24条の3第1項、建設業法施行令7条の2)。

(4) 受領拒否の禁止

(i) 下請法

 下請事業者の責に帰すべき理由のない給付の受領の拒否は禁止行為とされています(下請法4条1項1号)。

(ii) 建設業法

 元請負人は、下請負人から工事完了の通知を受けてから20日以内のできる限り短い期間内に検査を完了しなければならず(建設業法24条の4第1項)、検査完了後に下請負人の申出があれば、直ちに引渡しを受けなければならないとされています(建設業法24条の4第2項)。ただし、下請契約において定められた工事完成の時期から20日を経過した日以前の一定の日に引渡しを受ける旨の特約は有効とされます(同項ただし書き)。
 このように実質的に下請法における受領拒否禁止と同様の規制がなされているといえます。

(5) 不当に低い下請代金の禁止(下請代金の減額の禁止)

(i) 下請法

 下請事業者の業務内容と同種・類似の内容の業務に通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めることは禁止されています(下請法4条1項5号)。また、下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減ずることも禁止されています(下請法4条1項3号)。

(ii) 建設業法

 元請人は、自己の取引上の地位を不当に利用して、その注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金の額とする下請契約を締結してはならないとされています(建設業法19条の3)(※3)。
 これに対して、下請代金の減額を直接禁止する規定はありませんが、下請負人の責めに帰さない事象等により一方的に下請代金を減額することは建設業法19条の3により禁止される行為(不当に低い下請代金の禁止)にあたる可能性があります(国交省ガイドライン27頁)。また、「赤伝処理」(下請代金の支払時に各種費用を差引く行為)も、通常必要と認められる原価に満たない金額となる場合には、当該元請下請間の取引依存度によっては、建設業法19条の3の不当に低い請負代金の禁止に違反するおそれがあります(国交省ガイドライン38頁以下)。

(※3)2024年6月の建設業法改正により、建築業法19条の3に第2項が追加され、原価割れ契約の締結禁止は受注者側、つまり下請負人側にも課せられることになります(公布から1年6か月以内施行、現在施行日未定)。また、2024年12月までに施行された同改正において、「労務費の基準」に関する規定が新たに設けられました。これにより、著しく低い労務費等による見積の提出・変更依頼が禁止され、違反した受注者(建設業者)に対しては現行規定に基づき国土交通大臣等から指導・監督が、違反した発注者に対しては国土交通大臣等から勧告・公表措置がなされることとなっています(同改正については、国土交通省ウェブサイト「建設業法・入契法改正(令和6年法律第49号)について」(2025年5月9日閲覧)参照)。
(※4)取引上優越的な地位に当たるか否かについては、元請下請間の取引依存度等により判断されることとなるため、例えば下請負人にとって大口取引先に当たる元請負人については、取引上優越的な地位に該当する蓋然性が高いとされています。また、元請負人が、下請負人の指名権、選択権等を背景に、下請負人を経済的に不当に圧迫するような取引等を強いたか否かについては、下請代金の額の決定に当たり下請負人と十分な協議が行われたかどうかといった対価の決定方法等により判断されるものであり、例えば下請負人と十分な協議を行うことなく元請負人が価格を一方的に決定し当該価格による取引を強要する指値発注については、元請負人による地位の不当利用に当たるものと考えられるとされています(国交省ガイドライン26頁参照)。

(6) 物品購入・役務利用の強制の禁止

(i) 下請法

 下請事業者の給付の内容を均質にし又はその改善を図るため必要がある場合その他正当な理由がある場合を除き、自己の指定する物を強制して購入させ、又は役務を強制して利用させることは禁止行為とされています(下請法4条1項6号)。

(ii) 建設業法

 元請負人が、下請契約の締結後、自己の取引上の地位を不当に利用して、その注文した建設工事に使用する資材若しくは機械器具又はこれらの購入先を指定し下請負人に購入させて、その利益を害する行為(下請負人が予定していた購入価格より高い価格で購入せざるを得なくなくする行為など)は禁止されています(建設業法19条の4)。
 なお、元請負人が指定した資材等の価格の方が下請負人が予定していた購入価格より安く、かつ、元請負人の指定により資材の返却等の問題が生じない場合には、下請負人の利益は害されたことにはならないとされています(国交省ガイドライン35頁)。また、下請契約の内容から、一定の品質の資材を当然必要とするにもかかわらず、下請負人がこれより劣った品質の資材を使用しようとしていることが明らかな場合には、取引上の地位を不当に利用したものとはならないと解されています(建設業法解説237頁参照)。

(7) 不当な給付内容の変更・やり直しの禁止

(i) 下請法

 親事業者は、下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、下請事業者の業務内容を変更させ、又は下請事業者の業務完了後にやり直させることにより、下請事業者の利益を不当に害してはならないとされています(下請法4条2項4号)。

(ii) 建設業法

 建設業法には直接の規定はありませんが、元請負人が、元請負人と下請負人の責任及び費用負担を明確にしないままやり直し工事を下請負人に行わせ、その費用を一方的に下請負人に負担させた場合には、建設業法19条2項、19条の3(不当に低い下請代金の禁止)などに違反するおそれがあります(国交省ガイドライン36頁以下)。

(8) 報復措置の禁止

(i) 下請法

 下請事業者が親事業者による下請法4条1項各号違反・同条2項各号違反の行為の事実を公正取引委員会又は中小企業庁長官に知らせたことを理由として、取引の数量を減じ、取引を停止し、その他不利益な取扱いをすることは禁止行為とされています(下請法4条1項7号)。

(ii) 建設業法

 元請負人は、下記の規定に違反する行為があるとして下請負人が国土交通大臣等(国土交通大臣又は都道府県知事)、公正取引委員会又は中小企業庁長官にその事実を通報したことを理由として、当該下請負人に対して、取引の停止その他の不利益な取扱いをしてはならないとされています(建設業法24条の5)。

  • 法19条の3(不当に低い請負代金の禁止)
  • 法19条の4(不当な使用資材等の購入強制の禁止)
  • 法24条の3第1項(元請負人が注文者から請負代金の支払を受けたときの下請代金の支払)
  • 法24条の4(検査及び引渡し)
  • 法24条の6第3項(割引困難な手形の交付禁止)
  • 法24条の6第4項(下請代金の支払遅延の禁止)

以上