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アスベスト(石綿)は耐熱性、耐薬品性に優れており機械的強度もあることから、かつては、吹付耐火被覆、スレート、プラスチックタイル、煙突の内貼材、空調ダクトのフレキシブル継手、パッキン、通気配管用のセメント管などに使用されていました。しかし、微細な繊維が、肺線維症(じん肺)、悪性中皮腫、肺がんの誘因になるとされ、現在では炭素繊維などの代替品に置き換えられてきています。

アスベストは重大な健康被害を生じさせる可能性があり、アスベストが露出する建物で勤務していた者が悪性胸膜中皮腫に罹患した事例でテナントビルのオーナーの責任を認めた最高裁判決(最判平成25年7月12日判例時報2200号63頁)[1]やアスベスト製品の製造工場で勤務していた者らが石綿肺・肺がん・中皮腫等の石綿関連疾患に罹患した事例で労働基準法等に基づく規制権限を行使しなかったことを理由に国家賠償を認めた最高裁判決(最判平成26年10月9日判例タイムズ1408号32頁)[2]が出るなど大きな問題となっています[3]

また、アスベスト(石綿)の飛散防止対策を強化するために、改正大気汚染防止法が2020年5月29日に成立するなど、有害な環境汚染としてさらに広く認知されるに至っています(詳細は後述)。

 

以下では、不動産再開発や不動産取引の際に問題になることが多いアスベスト・石綿(アスベストによる土壌汚染)に関する規制と法的責任について解説します。

 

本ニューズレターは、2020年6月26日時点までに入手した情報に基づいて執筆したものであり、また具体的な案件についての法的助言を行うものではないことに留意してください。また、本ニューズレター中意見にわたる部分は、執筆担当者ら個人の見解を示すにとどまり、当事務所の見解ではありません。

 

1. アスベストに関する一般的な規制(総論) 

アスベストの規制は複数の法律によって規律されています。具体的には、アスベストを取り扱う労働者の健康確保を目的とする労働安全衛生法等の規制が存在しており、一般環境への汚染防止を目的とする大気汚染防止法のほか、建築基準法や廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」といいます)等により建築物の建築、解体・改修の際におけるアスベストの厳格な管理が求められています。

法令名 条文・コメント
労働安全衛生法 55条、施行令16条1項4号、同9号 等
石綿障害予防規則 6条~10条 等
じん肺法 2条1項3号、施行規則2条、別表24号 等
大気汚染防止法 2条8項(施行令2条の4)、2条12項 等

なお、平成26年より、吹付け石綿等が使用されている建築物の解体、改造、補修作業の実施の届出義務者の変更等、石綿飛散防止対策が強化されているので注意が必要です。

建築基準法 28条の2、別表第二(る)1項30号
廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法) 施行令2条の4第5号ト、施行規則1条の2第9項、1条の3の3、7条の2の3 等
特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(PRTR法) 施行令別表第一33号

 

平成18年9月からは、労働安全衛生法施行令の改正により、アスベストおよびアスベスト含有物(重量の0.1%を超えて含有するもの)の製造、輸入、譲渡、提供、使用が禁止されることになりました(労働安全衛生法55条、施行令労働安全衛生法施行令16条、1項4号、同項9号)。その半年前の同年3月には、石綿による健康被害の救済に関する法律(以下「アスベスト新法」といいます)が施行されました。同法は、アスベストによる被害者等の迅速な救済を図ることを目的として(アスベスト新法1条)、医療費等の支払等について規定しています(アスベスト新法3条以下)。アスベスト新法の制定に伴い、大気汚染防止法、建築基準法および廃棄物処理法等が改正されています[4]

 

また、2020年5月29日に改正大気汚染防止法が成立し、原則として全ての建物について解体・改修の前に業者が石綿の有無を調べ、都道府県などに報告することを2年以内に義務化することとなりました。また、石綿をセメントで固めたスレートなどの建材(これまでは規制の対象ではなかった石綿含有建材)も新たに規制の対象として全ての石綿含有建材に拡大し、アスベスト(石綿)の飛散防止対策を強化することとしています[5]。報道では、かかる法改正によって飛散防止策が必要な解体・改修工事は現在の20倍に増える見込みであることも指摘されています[6]
 
2. アスベスト含有廃棄物等に関する規制

(1) アスベスト含有廃棄物等

廃棄物処理法において、事業者は、その事業活動に伴って生じた廃棄物を自らの責任において適正に処理しなければならず、自ら産業廃棄物の運搬または処分を行う場合には、政令で定める産業廃棄物の収集、運搬および処分に関する基準に従わなければならないとされています(廃棄物処理法3条1項、12条1項)。
特に、アスベストを含有する廃棄物については、「廃石綿等」(廃棄物処理法施行令2条の4第5号ト、廃棄物処理法施行規則1条の2第9項)、「石綿含有一般廃棄物」(廃棄物処理法施行規則1条の3の3)、「石綿含有産業廃棄物」(廃棄物処理法施行規則7条の2の3)として特に規定され、厳格な処理を行うことが求められます。一般廃棄物または産業廃棄物のうち、爆発性、毒性、感染性その他の人の健康または生活環境に係る被害を生ずるおそれがある性状を有するものとして政令で指定されたものが特別管理産業廃棄物であり(廃棄物処理法2条5項)、廃石綿等は特別管理産業廃棄物に該当します。

種別 分類 詳細
廃石綿等 特別管理産業廃棄物 廃石綿および石綿が含まれ、または付着している産業廃棄物のうち、石綿建材除去事業(建築物その他の工作物に用いられる材料であって石綿を吹き付けられ、または含むものの除去を行う事業)に係るもの等で、飛散するおそれのあるものとして、下記に定めるもの

一  建築物その他の工作物(建築物等)に用いられる材料であって石綿を吹きつけられたものから石綿建材除去事業により除去された当該石綿

二  建築物等に用いられる材料であって石綿を含むもののうち石綿建材除去事業により除去された次に掲げるもの

イ 石綿保温材

ロ けいそう土保温材

ハ パーライト保温材

ニ 人の接触、気流および振動等によりイからハに掲げるものと同等以上に石綿が飛散するおそれのある保温材、断熱材および耐火被覆材

(以下、略)

石綿含有一般廃棄物 一般廃棄物 工作物の新築、改築または除去に伴って生じた一般廃棄物であって、石綿をその重量の0.1パーセントを超えて含有するもの
石綿含有産業廃棄物 産業廃棄物 工作物の新築、改築または除去に伴って生じた産業廃棄物であって、石綿をその重量の0.1パーセントを超えて含有するもの(廃石綿等を除く)

 

(2) アスベスト含有廃棄物等の処理の流れ

アスベスト含有廃棄物等の処理の詳細については、環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部「石綿含有廃棄物等処理マニュアル[7]に示されています(以下「石綿含有廃棄物等処理マニュアル」といいます)。

廃石綿(アスベスト)等を適正に処理するために、廃石綿等を生ずる事業場を設置する事業者は、廃石綿等を生ずる事業場ごとに特別管理産業廃棄物管理責任者を設置し、廃石綿等の取扱いに関し管理体制を整備する必要があります(廃棄物処理法12条の2第8項)。特別管理産業廃棄物管理責任者は、廃石綿等の排出から最終処分までを適正に管理する要となるべき者であり、委託処理を行う場合の処理業者の選択、委託契約の締結、マニフェストの交付など、統括的な管理を行うことになります(石綿含有廃棄物等処理マニュアル11頁)[8]
 
3. アスベスト含有土壌に関する規制
(1) 土壌汚染対策法
土壌汚染対策法は、土壌汚染の状況の把握およびその汚染による人の健康被害の防止に関する措置を定めること等を目的としたものであり、平成15年2月に施行されました。
同法による規制の対象となる有害物質である「特定有害物質」は、「それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるもの」ですが(土壌汚染対策法2条1項)、同法施行令1条が定める特定有害物質には、石綿(アスベスト)は含まれていません。

この点に関し、土壌汚染対策法が「特定有害物質」として石綿を規定していない以上、同法が石綿を含有する土壌あるいは建設発生土に適用されることはないと判示した裁判例があります(東京地判平成24年9月27日判例時報2170号50頁)[9]
 
(2) その他の法令 
労働安全衛生関係の法令は、石綿などの粉じん(空中を飛散している石綿)を継続的に発生させる事業に従事する労働者の労働安全衛生について規制するものであり、石綿を含有する土壌あるいは建設発生土に適用されることはありません(上記東京地裁平成24年判決参照)。
 
4. アスベスト含有廃棄物・汚染土壌と土地所有者(売主)の責任(実務上の留意点)

土壌中のアスベストが法令により直接規制されることがないとしても、不動産(土地)取引の相手方(土地の買主)に対して民事上の責任を負うことはあります。

たとえば、廃棄物処理法においてアスベスト含有廃棄物の規制基準が規定された後に土地売買契約がなされたところ、同土地内からアスベスト含有物(スレート片)が発見されたケースで、約59億円もの損害賠償請求が認められた裁判例があります(東京高判平成30年6月28日判例時報2405号23頁)[10]

他方で、土壌汚染対策法で規制されていない有害物質を理由とする損害賠償等の請求が否定された裁判例もあります。たとえば、上記東京地裁平成24年判決のほか、土壌中から発見されたトルエン・キシレンについて、法令上の規制対象ではなかったことを理由に「瑕疵」にあたらないと判断され、売主に対する対策費用の請求が認められなかった裁判例などがあります(東京地判平成22年3月26日)[11]。これらの裁判例によれば、売買契約時点で法令等の規制対象とはなっていない有害物質については、原則として「瑕疵」「契約不適合」にはあたらないと判断される可能性が高いことになります。

法令上の規制対象となっていない環境汚染や廃棄物(基準が明確ではない場合も同様です)の取り扱いについて、売買契約書等においてどのように規定するのかによって取引当事者が負う責任が変わりうるため、慎重な対応が必要となると考えられます。

以 上

 

[1] 勤務先の建物の壁面に吹き付けられた石綿(アスベスト)の粉じんを吸入したことにより悪性胸膜中皮腫に罹患し、自殺したと主張して、建物の所有者に対して工作物責任(民法717条1項但書)の規定に基づき損害賠償を求めた事案

[2] 石綿(アスベスト)製品の製造・加工等を行う工場において、石綿製品の製造作業等又は運搬作業に従事したことにより、石綿肺・肺がん・中皮腫等の石綿関連疾患にり患したと主張する元従業員らが、石綿関連疾患の発生又はその増悪を防止するために労働基準法及び労働安全衛生法に基づく規制権限を行使しなかったことが違法であるなどと主張して国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めた事案

[3] その他、同様の責任が認められる例は数多い(大阪高判令和元年7月19日判例秘書L07420261、福岡高判令和元年11月11日判例秘書L07420468、大阪高判平成30年9月20日判例時報2404号240頁、東京高判平成29年10月27日判例タイムズ1444号137頁等)

[4] 井上治著『不動産再開発の法務〔第2版〕―都市再開発・マンション建替え・工場跡地開発の紛争予防』(株式会社商事法務、2019年8月)48頁等

[5] 環境省プレスリリース『大気汚染防止法の一部を改正する法律案の閣議決定について』(令和2年3月10日) 《https://www.env.go.jp/press/107831.html》

[6] 2020年5月29日共同通信『アスベスト対策強化の改正法成立 工事前の調査・報告義務化』

[7] 環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部「石綿含有廃棄物等処理マニュアル(第2版)」(平成23年3月) 《http://www.env.go.jp/recycle/misc/asbestos-dw/

[8] 井上治・猿倉健司『所有地から発見された石綿(アスベスト)に関する法令上の規制』(BUSINESS LAWYERS) 《https://www.businesslawyers.jp/practices/501》

[9] ①石綿を含有する土壌あるいは建設発生土それ自体については、売買契約当時、法令上の規制はなく、②売買契約において求められていた性能は土壌汚染対策法及び環境確保条例が定める有害物質が基準値以下であることであり、③売買契約当時の実務的取扱いとしても、石綿含有量を問わずに、石綿を含有する土壌あるいは建設発生土を廃石綿等に準じた処理をするという扱いが確立していたとはいえず、さらに、そもそも土地に含有されていた石綿が「土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがある」限度を超えて含まれていたとも認められないと判断した(瑕疵の存在を否定)

[10] 被告から物流ターミナルの建設を目的として平成19年12月に土地を買い受けた原告が、土地から発見されたスレート片が石綿を含有していたと主張して、スレート片の撤去および処分費用並びに建設工事が遅れたことに伴う追加費用等の支払を求めた事案

判示においては、①土壌汚染対策法等において石綿含有スレート片が規制対象となっていないとしても、石綿及び石綿をその重量の0.1%を超えて含有する全ての物の製造、輸入、提供又は使用はそもそも禁止されており、土中に不法投棄された産業廃棄物について処理義務者や費用負担者が問題となることはあっても廃棄物処理法の規制を免れるわけでないのと同様に、石綿含有スレート片が地中にあるからといって、それが石綿含有産業廃棄物でなくなるわけではなく、同法による規制から直ちに外れるわけではないことや、不動産鑑定等の場面において石綿含有スレート片の有無は考慮されておらず、不動産鑑定士等が行う不動産調査において土地について石綿含有スレート片は調査項目として挙げられていない等の事情があるとしても、表層及び地中に広くまんべんなく石綿含有スレート片が混入している事実が判明している土地の価格決定において、上記事実が価格に影響しないとはいえないことなどが指摘されています。

[11] 土壌中から発見されたトルエンおよびキシレンについて、売買契約時において土壌汚染についての環境基準その他の法令上の基準は定められておらず、要監視項目(人の健康の保護に関連する物質ではあるが、公共用水域等における検出状況などからみて直ちに環境基準とはせず、引き続き知見の集積に努めるべき物質)とされているに過ぎないことを理由に、「瑕疵」に当たらず除去費用の請求が認められなかった事案