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セミナー
事務所概要・アクセス
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1. はじめに
(1) 事業者によるSDGs・ESGへの取組み
(2) 2023年独禁法ガイドライン
2. ガイドライン案の概要と留意点
(1) 共同の取組みが独占禁止法上問題となるケース
(2) 取引先の事業活動に対する制限・取引先の選択が独占禁止法上問題となるケース
(3) 各取組みが優越的地位の濫用行為となるケース
近時においては、地球規模での課題として企業を取り巻く環境の変化も著しく、SDGs(サステナビリティのための目標)、ESG(Environment・Society・Governance)への取り組みが注目されています。
この点に関しては、2023年6月に施行された脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律(GX推進法)に基づき、炭素に対する賦課金(化石燃料賦課金)や排出量取引等を内容とするカーボンプライシングの導入、GX経済移行債の発行が決定されています。
また、エネルギーの脱炭素化に関連しては、企業活動における温室効果ガスの削減や省エネルギーを目的として、様々な法律によって国や自治体への定期報告が求められます。かかる報告を怠ると行政処分や罰則を受けることもあります。
これらの対応では、国内および子会社を有する海外での規制についての検討も必要不可欠となり、各国において上記各規制の対象となるのかということを把握しなければなりません。(※)
※猿倉健司「環境リスクと企業のサステナビリティ(SDGs・ESG)」(牛島総合法律事務所 特集記事・2023年3月29日)、同「新規ビジネスの可能性を拡げる行政・自治体対応 ~事業上生じる廃棄物の他ビジネス転用・再利用を例に~」(牛島総合法律事務所 特集記事・2023年1月25日)、同「条例改正対応におけるリスクや留意点と、条例管理をサポートする『条例アラート』」(BUSINESS LAWYERS・2022年7月14日)、同「東京都条例その他の脱炭素・温暖化対策条例における排出量削減義務と報告制度」(BUSINESS LAWYERS・2022年7月5日)、同「環境・廃棄物規制とビジネス上の盲点」(牛島総合法律事務所 ニューズレター・2023年4月10日)
令和5年3月に、公正取引委員会から、「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法上の考え方」が公表され、令和6年4月24日に改定版が公表されました(以下、改定後のものを「本ガイドライン」といいます。)。
※公正取引委員会「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法上の考え方」、また改定前のグリーンガイドラインに関するものであるが「「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法上の考え方」(案)に対する意見の概要及びそれに対する考え方」
本ガイドラインは、グリーン社会(環境負荷の低減と経済成長の両立する社会)の実現に向けて、事業者や事業者団体が様々な取組(たとえば、温室効果ガス削減・エネルギー使用量削減・使用プラスチック削減等に向けた取組)を行う中で、事業者間の公正かつ自由な競争を制限し、独占禁止法上問題となる可能性もあることから、事業者等の取組に対する法適用及び執行に係る透明性及び事業者等の予見可能性を一層向上させること等を目的として、公表されたものです(本ガイドライン1~2頁)。
本ガイドラインは、主に温室効果ガスの削減に向けた事業者の取組を念頭に、約80の想定例を取りあげ、「独占禁止法上問題とならない行為」、「独占禁止法上問題となる行為」及び「独占禁止法上問題とならないよう留意を要する行為」の三つに大別し、独占禁止法上の問題についての判断枠組みや判断要素を説明しています(以下においては、改定後のグリーンガイドラインの想定例番号に従い説明します。)。
なお、改定後のグリーンガイドライン4頁では、「事業者等が、公正取引委員会に対して自らの取組について事前相談等を行うに際して、当該取組がグリーン社会の実現に向けたものであることの根拠や当該取組の競争促進効果としての脱炭素の効果、規制及び制度の変化等について主張する場合・・・には、公正取引委員会は、これらを踏まえた判断を行う。・・・一方、独占禁止法に違反する行為については、厳正に対処していく。」と説明されています。
以下、本稿においては、脱炭素・グリーン社会の実現という観点から特殊性が認められるものを中心に、実務上よく問題となる事例について、解説します。
なお、公正取引委員会からは、平成13年6月26日に「リサイクル等に係る共同の取組に関する独占禁止法上の指針」も公表されていますので、あわせてご確認ください。
事業者や事業者団体は、温室効果ガス削減・エネルギー使用量削減・使用プラスチック削減等を目的として、自主基準の設定、共同研究開発等について共同の取組を実施することがあります。
以下のように、事業者等の共同の取組が競争制限効果のみをもたらす場合、当該取組は原則として独占禁止法上問題となります。
これに対して、事業者等による共同の取組に競争制限効果が見込まれる場合には、これによる競争促進効果も含めて総合的に考慮したうえで、独占禁止法上問題となるか否かを検討することになります。
以下、自主基準の設定、業務提携を行うケースについて紹介します。
事業者等が、温室効果ガス削減・エネルギー使用量削減・使用プラスチック削減等を目的として、商品又はサービスの種類、品質、規格等に関連して推奨される基準を策定するなど、自主的な基準を定めることが考えられます。
以下のような場合には独占禁止法上問題となることがあるとされています。
(参考となる想定例)
温室効果ガス削減・エネルギー使用量削減・使用プラスチック削減その他の施策等を目的とする業務提携は、提携当事者間の事業活動の一体化が進むことにより、その内容や市場の状況によっては、本来提携当事者間で期待される競争が失われることで、独占禁止法上問題となる場合もあります。
業務提携には、以下のような類型があります。
【共同研究開発】
温室効果ガス削減・エネルギー使用量削減・使用プラスチック削減等の技術を生み出すため、競争関係にある事業者と共同で基礎研究、応用研究又は開発研究を行い、その技術を用いて新たな製品を開発。
(参考となる想定例)
【技術提携】
事業者それぞれが所有する温室効果ガス削減・エネルギー使用量削減・使用プラスチック削減等に資する技術のクロスライセンスやパテントプール、マルティプルライセンスを通じて、各事業者が製品の製造等に際して必要な技術の補完(技術提携)。
【標準化活動】
事業者が、温室効果ガス削減・エネルギー使用量削減・使用プラスチック削減等に資する新たな商品又はサービスについての規格を共同で策定し、広く普及を進める活動を実施(標準化活動)。
(参考となる想定例)
【共同購入】
温室効果ガス削減・エネルギー使用量削減等のため、原材料・部品・設備について、同様に当該原材料等を必要とする競争者と共同で調達(共同購入)。
【共同物流】
温室効果ガス削減・エネルギー使用量削減等のため、自己の商品の供給に当たって、特定の地域向けの配送の共通化や特定の地域における物流施設の共同利用(共同物流)。
【共同生産及び OEM】
温室効果ガス削減・エネルギー使用量削減・使用プラスチック削減等のため、事業者が、特定の商品に関し、共同出資会社を設立するなどして共同生産・OEM。
(参考となる想定例)
【販売連携】
温室効果ガス削減・エネルギー使用量削減等のため、商品又はサービスの販売事務や販売促進活動等の共同での実施(販売連携)。
(参考となる想定例)
【データ共有】
特定の商品の製造における温室効果ガス排出量・エネルギー使用量を業界全体で収集・共有する取組や、削減技術を自社で開発するために、特定のサービスを供給する際に生じる使用エネルギー量・温室効果ガス排出量を複数の競争者と共同で収集・共有(データ共有)。
(参考となる想定例)
事業者等が、温室効果ガス削減・エネルギー使用量削減・使用プラスチック削減等を目的として、取引先の販売商品、販売地域、販売先、販売方法等を制限する行為や、取引先との取引を打ち切る行為を行うことがあります。
取引先の事業活動に対する制限としては、①取引先に対する自己の競争者との取引や競争品の取扱いに関する制限、②販売地域に関する制限、③選択的流通、④小売業者の販売方法に関する制限などがあります。
以下そのいくつかのみを紹介します。
【取引先に対する自己の競争者との取引や競争品の取扱いに関する制限】
事業者が、温室効果ガス削減・エネルギー使用量削減・使用プラスチック削減等に向けた取組の中で、マーケティングの一環として、取引先事業者と取引するに当たり、自己の競争者との取引等の制限を行うことが考えられます。
市場における有力な事業者が、取引先事業者に対する自己の競争者との取引や競争品の取扱いに関する制限を行う場合など、市場閉鎖効果が生じる場合には、独占禁止法上問題となります。各事項の重要性は個別具体的な事例ごとに異なり、事業者の事業内容等に応じて、各事項の内容も検討する必要があります。
【選択的流通】
事業者が、自社の商品を取り扱う流通業者に関して一定の基準を設定し、当該基準を満たす流通業者に限定して商品を取り扱わせようとする場合、当該流通業者に対し、自社の商品の取扱いを認めた流通業者以外の流通業者への転売を禁止すること(選択的流通)が考えられます。
(参考となる想定例)
【単独の取引拒絶】
事業者が、自己のサプライチェーン全体におけるエネルギー使用量・温室効果ガス削減を目的として、 独自の判断で、自社が設定した一定の削減目標を達成することができない事業者と取引しないことを決定するなど、合理的な範囲で行われる単独の取引拒絶は、独占禁止法上問題とならないとされています。
これに対して、独占禁止法上の違法行為の実効を確保するための手段として取引を拒絶する場合や、競争者を市場から排除するなどの独占禁止法上不当な目的を達成するための手段として取引を拒絶する場合、独占禁止法上問題となります。
(参考となる想定例)
【共同ボイコット】
事業者が競争者や取引先等と共同して取引拒絶等を行うことにより、事業者が市場に参入することが著しく困難となり、又は市場から排除されることが考えられます(共同ボイコット)。
事業者が、温室効果ガス削減・エネルギー使用量削減・使用プラスチック削減等を目的として、取引先に対して、製造過程における各排出の削減を要請したり、使用部品等を仕様として設定するなどの取組の実施を要請することがあります。
事業者が、自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、各取組みによるコストの上昇を考慮することなく、既存の価格条件のまま据え置きとすることを一方的に要請する行為や、省エネルギー・温室効果ガス削減を理由として経済上の利益を無償で提供させる行為は、正常な商慣習に照らして不当なものであると認められる場合には、優越的地位の濫用として独占禁止法上問題となります。
取引上の地位が相手方に優越している事業者が、温室効果ガス削減・エネルギー使用量削減・使用プラスチック削減等を目的として、取引先に対し、当該取引に係る商品又はサービス以外の商品又はサービスの購入を要請する場合であって、当該取引の相手方が、それが事業遂行上必要としない商品若しくはサービスであり、又はその購入を希望していないときであったとしても、今後の取引に与える影響を懸念して当該要請を受け入れざるを得ない場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり、独占禁止法上問題となります。
(参考となる想定例)
取引上の地位が相手方に優越している事業者が、温室効果ガス削減・エネルギー使用量削減・使用プラスチック削減等を目的として、取引先に対し、経済上の利益の提供を要請する行為は、負担の内容、根拠、使途等が当該取引の相手方との間で明確になっておらず、当該取引の相手方にあらかじめ計算できない不利益を与えることとなる場合や、当該取引の相手方が得る直接の利益等を勘案して合理的であると認められる範囲を超えた負担となり当該取引の相手方に不利益を与えることとなる場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり、独占禁止法上問題となります。
(参考となる想定例)
取引上の地位が相手方に優越している事業者が、温室効果ガス削減・エネルギー使用量削減・使用プラスチック削減等を目的として、取引先に対し、当該目的を達成するための取組や、商品又はサービスの改良等を要請する場合において、当該取引の相手方に生じるコスト上昇分を考慮することなく、一方的に、著しく低い対価での取引を要請する場合であって、当該取引の相手方が、今後の取引に与える影響等を懸念して当該要請を受け入れざるを得ない場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり、独占禁止法上問題となります。
(参考となる想定例)
取引上の地位が優越している事業者が、温室効果ガス削減・エネルギー使用量削減・使用プラスチック削減等を目的として、取引先に対し、一方的に、取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施する場合に、当該取引の相手方に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなるときは、独占禁止法上問題となります。