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2023.09.23

廃棄物・環境法規制と行政処分への対応(不要物の転用・リサイクル目的での再生利用を例に)

<目次>
1. リサイクルを目的とする廃棄物の再生利用・不要物の転用についての規制
2. 廃掃法が適用される「不用物」かどうかの判断基準
(1) 環境省通知
(2) 環境省通知とは異なる裁判例
3. 不適切な廃棄物処理・処理委託を行った場合の行政処分等のリスク
(1) 行政処分
(2) その他(刑事責任・賠償責任)
4. 広範な行政裁量と行政処分のリスク

 本ニューズレターは、掲載時点までに入手した情報に基づいて執筆したものであり、また具体的な案件についての法的助言を行うものではないことにご留意ください。また、本ニューズレター中意見にわたる部分は、執筆担当者ら個人の見解を示すにとどまり、当事務所の見解ではありません。

1.リサイクルを目的とする廃棄物の再生利用・不要物の転用についての規制

 グループ会社や他社の製品の製造工程で生じる副生物・副産物を他の事業の材料として転用・再利用する場面や、発電燃料資源として利用する場面など、廃掃法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)その他の環境・廃棄物に関する法規制により、許認可や届出等の様々な手続が必要となる場合があります。そして、かかる適切な手続を経なかった場合、所管官庁、都道府県、市町村から、様々な行政処分がなされる可能性があります。
 廃掃法においては、産業廃棄物の「再生」(廃棄物から原材料等の有用物を得ること、または処理して有用物にすること)も最終処分の一態様として挙げられていますので、再生されるまでの間は、上記と同様の規制を受けることになります。
 この点については、環境省通知において、「再生後に自ら利用又は有償譲渡が予定される物であっても、再生前においてそれ自体は自ら利用又は有償譲渡がされない物であることから、当該物の再生は廃棄物の処理であり、法の適用がある」と説明されています。(※)

※環境省環境再生・資源循環局廃棄物規制課長「行政処分の指針について(通知)」(環循規発第2104141号・令和3年4月14日)、大阪府ウェブサイト『廃掃法の対象となる廃棄物か?(FAQ)』なども同旨。
※猿倉健司「事業会社のビジネス上生じる環境・廃棄物規制対応の盲点~致命的リスクを回避する、ミスのない規制対応・行政対応~[第2回]事業上生じる副生物・廃棄物を他のビジネスに転用・再利用する場合の留意点」(Business&Law・2023年9月14日)、同「新規ビジネスの可能性を拡げる行政・自治体対応 ~事業上生じる廃棄物の他ビジネス転用・再利用を例に~」(牛島総合法律事務所 特集記事・2023年1月25日)

2.廃掃法が適用される「不用物」かどうかの判断基準

 事業者がリサイクルを目的として処理または処理委託をする対象物が、廃掃法上の「不要物」なのか、そうではないのかの判断は容易ではありません。
 この点については、参考となる行政通知と裁判例があります。

(1) 環境省通知

①環境省通知の概要

 廃棄物にあたるか否かの判断基準は、環境省環境再生・資源循環局廃棄物規制課長「行政処分の指針について(通知)」(環循規発第2104141号・令和3年4月14日)において、詳細に規定されています(以下、抜粋等しています)。

– 廃棄物とは、占有者が自ら利用し、又は他人に有償で譲渡することができないために不要となったものをいい、これらに該当するか否かは、その物の性状、排出の状況、通常の取扱い形態、取引価値の有無及び占有者の意思等を総合的に勘案して判断すべきものである
– 以下は各種判断要素の一般的な基準を示したものであり、物の種類、事案の形態等によってこれらの基準が必ずしもそのまま適用できない場合は、適用可能な基準のみを抽出して用いたり、当該物の種類、事案の形態等に即した他の判断要素をも勘案するなどして、適切に判断されたい
ア 物の性状
利用用途に要求される品質を満足し、かつ飛散、流出、悪臭の発生等の生活環境の保全上の支障が発生するおそれのないものであること
イ 排出の状況
排出が需要に沿った計画的なものであり、排出前や排出時に適切な保管や品質管理がなされていること
ウ 通常の取扱い形態
製品としての市場が形成されており、廃棄物として処理されている事例が通常は認められないこと
エ 取引価値の有無
占有者と取引の相手方の間で有償譲渡がなされており、なおかつ客観的に見て当該取引に経済的合理性があること
実際の判断に当たっては、名目を問わず処理料金に相当する金品の受領がないこと、当該譲渡価格が競合する製品や運送費等の諸経費を勘案しても双方にとって営利活動として合理的な額であること、当該有償譲渡の相手方以外の者に対する有償譲渡の実績があること等の確認が必要であること
オ 占有者の意思
客観的要素から社会通念上合理的に認定し得る占有者の意思として、適切に利用し若しくは他人に有償譲渡する意思が認められること、又は放置若しくは処分の意思が認められないこと。
なお、占有者と取引の相手方の間における有償譲渡の実績や有償譲渡契約の有無は、廃棄物に該当するか否かを判断する上での一つの簡便な基準に過ぎない

再生リサイクル・逆有償の問題

 実務上特に問題となるのは、上記ウやエの点です。廃棄物(不要物)といえるのかどうかの判断基準に関し、対象物(産業廃棄物であるかどうかが問題となっている物)を第三者に有償で売却していても、当該第三者の支払う輸送料や引取料の方が高額な場合は、廃棄物(不要物)とみるとする「逆有償」という考え方があります。この考え方は、たとえば、リサイクル製品・再生製品(例:再生砂・改良土)を100万円で販売していたとしても、その輸送料や引取料が200万円だった場合、当該製品の販売者は購入者に対してその差額の100万円で当該製品を引き取ってもらっている(不要なものとして処理してもらっている)のと変わりないという発想に基づくものです。
 逆有償の考え方は、行政実務においても採用されており、「産業廃棄物の占有者(排出事業者等)がその産業廃棄物を、再生利用するために有償で譲り受ける者へ引渡す場合の収集運搬においては、引渡し側が輸送費を負担し、当該輸送費が売却代金を上回る場合等当該産業 廃棄物の引渡しに係る事業全体において引渡し側に経済的損失が生じている場合には、産業廃棄物の収集運搬に当たり、法が適用される」と説明されています。(※)

※環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部産業廃棄物課長「『規制改革・民間開放推進三か年計画』において平成16年度中に講ずることとされた措置(廃掃法の適用関係)について」(環廃産発1303299・平成17年3月25日)。大阪府ウェブサイト『廃掃法の対象となる廃棄物か?(FAQ)』なども同旨。

(2) 環境省通知とは異なる裁判例

 裁判例において、廃棄物(不要物)といえるのかどうかについて判断がなされたリーディングケースにおいては、「『不要物』とは、自ら利用し又は他人に有償で譲渡することができないために事業者にとって不要になった物をいい、これに該当するか否かは、その物の性状、排出の状況、通常の取り扱い形態、取引価値の有無及び事業者の意思等を総合的に勘案して決するのが相当」であると判断しています(最高裁第2小法廷決定平成11年3月10日(判例タイムズ999号301頁))。
 前記の行政通知はこの最高裁判所の判断と基本的には同様であるものの、必ずしも同一ではありません。実務上も、裁判所は行政庁の解釈を尊重するとは考えられるものの、行政庁・自治体と異なる判断をする例も数多くあります。
 たとえば、下記の裁判例では、行政解釈とは異なる判断があり得る(有償取引ではなくても直ちに廃棄物(不要物)と判断されるわけではない)ことを示しています。(※)

  • 「再生利用を予定する物の取引価値の有無ないしはこれに対する事業者の意思内容を判断するに際しては、有償により受け入れられたか否かという形式的な基準ではなく、当該物の取引が、排出業者ないし受入れ業者にとって、それぞれの当該物に関連する一連の経済活動の中で価値ないし利益があると判断されているか否かを実質的・個別的に検討する必要があると解される」(水戸地裁判決平成16年1月26日(判例秘書L05950124))、
  • 「廃棄物に該当するかの判断における有償譲渡可能性の要件については、他の合理的な理由がある場合等においては、絶対的、画一的な基準ということまではいえず、その可能性があるという程度でも足りる」(名古屋高裁判決平成17年3月16日(判例集未搭載))

※猿倉健司『不動産取引・M&Aをめぐる環境汚染・廃棄物リスクと法務』(清文社、2021年)394-396頁

3.不適切な廃棄物処理・処理委託を行った場合の行政処分等のリスク

(1) 行政処分

 事業会社におけるビジネスでは、グループ会社等で製造している電化製品、自動車、化学製品、食品、衣服について、製造過程で発生する副生物・副産物、ゴミ、環境有害物質を他の製品やビジネスに転用・再利用するにあたり、廃掃法その他の法令に基づく許認可や届出等の様々な手続が必要となる場合があります。
 かかる適切な手続を経なかった場合、所管官庁、都道府県、市町村から、様々な行政処分がなされる可能性があります。廃掃法においては、法令違反が疑われる場合には、報告命令や立入検査を受ける可能性があるほか、その結果として改善命令や措置命令を受けることがあります。また、指導助言、それに従わない場合は勧告、さらに企業名の公表、措置命令を受ける可能性があります。この点は、環境省の通知において詳細に説明されています(環境省環境再生・資源循環局廃棄物規制課長「行政処分の指針について(通知)」(環循規発第2104141号・令和3年4月14日))。

【環境省通知の概要】

  • 産業廃棄物処理業の事業の停止及び許可の取消し(法第14の3・14の3の2)
  • 特別管理産業廃棄物処理業の許可の取消し等(法第14条の6)
  • 産業廃棄物処理施設の使用停止及び設置許可の取消し等(法第15条の2の7・第15条の3)
  • 産業廃棄物の処理に係る特例の認定の取消し等(法第12条の7)
  • 報告徴収(法第18条第1項)
  • 立入検査(法第19条第1項)
  • 改善命令(法第19条の3)
  • 措置命令(法第19条の5)
  • 排出事業者等に対する措置命令(法第19条の6)
  • 生活環境の保全上の支障の除去等の措置(法第19条の8)
  • 公表
  • 刑事告発

 実際にも、他のビジネスに転用しようとした材料が廃掃法上の廃棄物であると判断され、適切な手続きを経ていないことなどを理由として、自治体により本社および工場への立入検査が実施され、当該製品の撤去を求める措置命令がなされた例があります(約485億円の撤去工事を実施)。この事案では、同社が行政からの指摘を受けた後に自主回収することを決定しましたが、最終的に廃棄物撤去の措置命令がなされました。
 このように行政処分を免れること等を目的として、企業自らが自主的に対策を行うことを打ち出すケースがありますが、十分な検討・準備を行わないままに進めてしまうことによって奏功しないケースは数多く、行政にも相談しながら慎重に検討のうえで進めていくことが必要不可欠となります。
 環境省通知においては、「行政指導を継続し、法的効果を有する行政処分を行わない結果、違反行為が継続し、生活環境の保全上の支障の拡大を招くといった事態は回避されなければならないところであり、緊急の場合及び必要な場合には躊躇することなく行政処分を行うなど、違反行為に対しては厳正に対処すること」が求められており、環境規制違反に対して行政は徹底的に指導をするという傾向も見受けられるため、注意が必要です(前記環境省通知)。
 なお、令和3年度の廃掃法に基づく行政処分の実績としては、報告徴求5364件、立入検査18万9857件、処理業許可取消249件、改善命令12件、措置命令21件となっています。(※)

※環境省「産業廃棄物処理施設の設置、産業廃棄物処理業の許可等に関する状況(令和3年度実績等)について」(2023年5月30日)

(2) その他(刑事責任・賠償責任)

 法規制等に反する不適切な処理がなされたことを理由に、刑事責任が問われるケースもあります。特に環境関連法令は、罰則金が高額になるため注意が必要です。たとえば廃掃法においては、廃棄物の不法投棄には5年以下の懲役または1000万以下の罰金、またはその両方が科せられ、企業の場合は3億円以下の罰金が科せられることがあります。これは他の法律と比べても極めて高い金額であると言えます。
 また、廃掃法をはじめとする環境関連法令違反に対しては、官庁、自治体からの積極的な刑事告発が行われているということが指摘されており、企業としては、事業の存続を脅かす致命的なリスクにつながりかねません。
 前記の事案では、企業に対して5000万円の罰金が科されたほか、不正行為を主導した役員に懲役2年の実刑が科されています。 企業だけではなく、その役員についても、前述のような刑事責任を問われるケースや、株主代表訴訟等によって極めて多額の賠償責任を負うケースも見られます。前記の事案では、株主代表訴訟が提起され、元役員のうち1名に対して約485億円の支払いが命じられました(大阪地方裁判所平成24年6月29日判決(裁判所ウェブサイト))。

4.広範な行政裁量と行政処分のリスク

 産業廃棄物にあたるかどうかは、都道府県や政令市の個別判断に委ねられている面があり、必ずしも明確ではありません。また近時、環境法令をはじめとして関係法令やガイドライン・業界指針がめまぐるしく改定されていますが、適切なアップデートがなされないと、少し前までは問題がなかった(=適法であった)にもかかわらず、法令違反とされてしまうことがあります。
 実際にも、ある自治体や官庁から処理について問題ない旨の見解が提示されたにもかかわらず、他の自治体や官庁・捜査機関から当該見解に従った処理が違法であると指摘され、逮捕されるに至ったケースも見られます(たとえば、京都市内に本店を置く産廃処理会社が、土砂の混合物を汚泥とともに固化処理した再生製品を宅地造成地に使用していたところ、当該製品は産業廃棄物であるとして、同社社長が廃掃法違反容疑で京都府警に逮捕された事案)。(※)

※2019年3月19日付け朝日新聞「土砂か産廃か、京都市・府警で割れた判断 地検は不起訴」、猿倉健司『不動産取引・M&Aをめぐる環境汚染・廃棄物リスクと法務』(清文社、2021年)399~400頁、同「新規ビジネスの可能性を拡げる行政・自治体対応 ~事業上生じる廃棄物の他ビジネス転用・再利用を例に~」(牛島総合法律事務所 特集記事・2023年1月25日)

 そのため、リサイクルを目的とする廃棄物処理を行うにあたっては、環境有害物質や産業廃棄物の処理の規制の対象となるのか、どのような規制がかかるのか等、法的な判断が難しい場合には、最新のガイドライン・通知や規制動向・裁判例も踏まえて慎重に検討のうえで、必要に応じて適切に弁護士その他の専門家の意見を踏まえて対応することが必要となります。

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