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<目次>
1. はじめに
2. 取締役会招集通知の記載事項
3. 取締役会招集通知の発送
4. 利益相反取引
5. 役員退職慰労金
6. 終わりに

1. はじめに

我が国の営利法人として代表的なものである株式会社は、約258万社存在するとされているが、そのうちいわゆる「上場会社」と呼ばれる会社は約3750社に過ぎない。したがって約257万社は非上場会社であるが、その大半はいわゆる「中小企業」であると思われる。
中小企業には、税法上の同族会社や、いわゆるベンチャー企業と呼ばれるものも含まれる。これらの会社においては、株主=経営陣であることも多く、会社立上げ当初は、経営陣の間で同じ志を共有し、あるいは経営陣の人間関係も良好であったりするが、その後年数を経るに従って、そのような関係にも変化が生じてくることがある。また、同族会社などでは、株主に相続が生じることによって、株主間の関係が円滑良好なものでなくなり、会社支配権の争奪という紛争が生じることも多い。そうなった場合、株主と経営陣が分離していない多くの中小企業においては、株主総会のみならず、取締役会の運営にも問題が生じてくる。
以下では、当職らが経験した中小企業の実務における取締役会の運営において問題となった事例について紹介したい。

2. 取締役会招集通知の記載事項

会社法上、株式会社において取締役会を開催する場合には、その会日の1週間前までに、各取締役に対して招集通知を発送しなければならない(監査役を設置している会社においては、監査役にも発送しなければならない)とされている(会社法368条1項)。この招集通知発送期限は、定款によって短縮することができ、実務上、多くの会社において、原則として会日の3日前までに発送すればいいものとされている。
この点、判例実務上、株主総会を開催する場合と異なり、取締役会招集通知には、開催予定の取締役会で審議される予定の議題を記載する必要はない(名古屋高判平成12年1月19日金融・商事判例1087号18頁)。
代表取締役の解職・選定は取締役会決議事項であるため(会社法362条2項3号)、中小企業において株主間(すなわち取締役間)において対立が生じると、水面下で多数派工作を行い、取締役会において、(招集通知に記載されていなくとも)代表取締役の解職議案を発議し、決議することも可能である。解職された代表取締役にとってはまさに寝耳に水であるが、当職らの関与した案件では、代表取締役が複数存在する会社において、一部の代表取締役が取締役会を欠席した際に当該代表取締役を解職したため、解職された本人は解任登記がなされるまでその事実に気づかなかったという事案があった。
上記のように、水面下での多数派工作により突然代表取締役から解職されるという事態を防ぐために、株主間の関係が良好な間に、他の株主との間で株主間契約を締結するということが考えられる。株主間契約において代表取締役に関する定めを置いた場合に、取締役会における議決権行使強制の仮処分が認められることについては、「株主間契約に基づく株主総会及び取締役会における議決権行使の強制が仮処分手続において認められた例」を参照されたい。

3. 取締役会招集通知の発送

前述のとおり、多くの株式会社の定款では、取締役会招集通知は会日の3日前までに発送するとされている(緊急の場合にはさらにこの期間を短縮できるとしている会社も多い。)。この場合、招集通知は3日前までに「発送」さえすればよく、3日前までに「到達」する必要はない。しかし、招集通知の効力が発生するのは到達時とするのが多数説である。
取締役が発送場所から見て遠隔地に居住している場合などについては、取締役会開催日の直前に招集通知が到達するようなケースもあり得る。そうすると、現実には当該取締役は取締役会に(出席したくとも)出席できないこととなる。この点、新潟地裁長岡支部平成8年12月4日判決(判例時報1593号105頁)は、長岡市に所在する会社の取締役会につき(取締役会の招集通知について、定款で「取締役会の招集の通知は会日の五日前に各取締役及び監査役に対して発することを要する。但し、緊急の場合は、これを短縮することができる。」と定められていた。)、遠隔地(東京)に居住する一部の取締役に対して取締役会開催日の前日に招集通知が到達したケースについて、招集手続に瑕疵があるものとして、取締役会決議を無効とした。
また、取締役に取締役会出席の機会を確保するという招集通知の趣旨に鑑みると、WEB会議や電話会議システムにより取締役会を開催する場合は、参加方法(アクセスリンク、パスコード、電話番号等)を通知することが必要ともいわれている。したがって、WEB会議等による取締役会参加を認める場合に、遠隔地に滞在する一部の取締役の出席の機会を実質的に阻害しようと、上記のような記載をせずに招集通知を行うと、招集手続の瑕疵があるものとして取締役会決議が無効となる可能性がある点に注意する必要がある。

4. 利益相反取引

中小企業(特に同族企業)では利益相反取引にかかる取締役会決議を行うことも多い。この点、利益相反取引に関与する取締役は、特別利害関係取締役として取締役会決議に参加することはできない(会社法369条2項。なお、当該取締役は、決議のみならず、当該議事については、議長を行ったり審議に参加したりすることもできない。)。特別利害関係取締役は、決議のための定足数の母数に含まれないが、そうすると、取締役の員数が3名の会社でそのうちの1名が特別利害関係取締役であれば、残り2名の取締役の過半数(つまり2名)が出席し、その過半数(つまり2名)の賛成がないと決議ができないこととなる。
また、同族企業であり得るのが、取締役の配偶者を代表者とする会社と取引をする場合である。会社と取締役の配偶者との取引が利益相反取引(会社法356条1項2号及び3号)に該当するかは見解が分かれているが、夫婦は家計を共通にすることが通常であることから、取締役の配偶者との取引は利益相反取引に該当するとする有力な見解があり、裁判例もかかる見解に立つものがあるため(仙台高決平成9年7月25日判例時報1626号139頁)、注意を要する。

5. 役員退職慰労金

中小会社では、取締役間で会社の経営方針に違いが生じ、あるいは大きな対立が生じたりして、一部の取締役が会社を離れるということもある。
その場合に、社内規程として役員退職慰労金規程がありながら、会社が退任取締役にかかる退職慰労金規程に基づいた役員退職慰労金を支払わないことが許されるかどうかが問題になることがある。こういったケースでは、退任取締役は、代表取締役が退任取締役のための退職慰労金議案を株主総会の議案として取締役会に上程しなかったことをもって、不法行為や取締役としての義務違反を構成すると主張し、代表取締役に損害賠償請求を行うことが多い。役員退職慰労金は、取締役の報酬と同様、株主総会の決議があって初めて退任取締役に具体的な支給請求権が発生するとされているため、退任慰労金そのものを請求することはできないからである。
上記のケースで代表取締役が退任取締役に対して損賠賠償責任を負うかどうか、その前提として、代表取締役が役員退職慰労金規程に従った退職慰労金支給に関する議案を株主総会の議案として取締役会に上程する義務を負うかについては、裁判例が分かれている。大阪高判平成16年2月12日金融商事判例1190号38頁はこれを否定した一方、福岡地判令和4年3月1日判例タイムズ1506号165頁はこれを肯定した。
中小会社においては、代表取締役(社長)が事実上大きな権限を有しており、役員退職慰労金規程の有無にかかわらず社長の意向によって退任取締役に対する退職慰労金の支給の有無、及び支給額が左右されることもまま見られる。しかし、上記のとおりそのようなことが許されるか、裁判例は分かれており、争い方によっては認められないこともあるため、注意を要するところである。

6. 終わりに

冒頭に述べたとおり、中小企業においては、会社支配権の争奪という紛争が生じることもよく見られるが、そうなった場合の取締役会の運営は、単なる人間関係や派閥抗争の問題にとどまらず、株式会社である以上、法律問題でもあることを強く認識する必要がある。自身が派閥工作にのみ注力する中で、相手方から想定していなかった法的な対応策が採られ、予想外の展開に発展する可能性もある。会社運営は常に法的問題を含むということを念頭に置く必要がある。

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