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事務所概要・アクセス
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<目次>
1. はじめに
2. 金商法上の規制
(1) 不特法STの改正金商法上の取扱い
(2) 不特法STに関する開示規制について
(3) 不特法STに関する業規制について
3. 不特法上の規制
4. 経過措置
5. 今後の実務対応
2023年11月20日、金融商品取引法等の一部を改正する法律案(以下「本改正案」)が第212回臨時国会において成立しました。
本改正案においては、不動産特定共同事業契約(以下「不特契約」)に基づく権利の、いわゆるセキュリティトークン(以下「不特法ST」)(※1)について新たに規制が設けられる予定です。
本ニューズレターでは、本改正案において新たに設けられた不特法STに係る規制の概要についてご説明します。
※1 セキュリティトークンとは、法律上の概念ではありませんが、一般的には、有価証券に表示される権利を「電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されたものに限る。)に表示」したもの(トークン)をいいます。
現行法上、不特契約に基づく権利については、不動産特定共同事業法(以下「不特法」)の第1号事業の場合、金融商品取引法(以下「現行金商法」)上の有価証券の定義から除外されているため(現行金商法2条2項5号ハ)、第1号事業の不特契約に基づく権利をST化したとしても、現行金商法の規制を受けません(※2)。
本改正案においては、不特法第1号事業の不特契約に基づく権利のうち、ST化したものについては、金商法上の有価証券の定義に含まれることとなり(本改正案による改正後の金商法(以下「改正金商法」)2条2項5号ハ)、金商法の規制が適用されるようになります。また、不特法STは、金商法2条2項各号に掲げる権利で、かつ、通常は電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されたものに限る。)に表示したものですので、原則として「電子記録移転権利」(改正金商法2条3項)に該当することとなります(※3)。
※2 第1号事業とは、不特法2条4項1号に掲げる行為に係る事業(不特契約を締結して当該契約に基づき営まれる不動産取引から生ずる収益又は利益の分配を行う行為に係る事業)をいいます。なお、第3号事業(同法2条4項3号に掲げる行為に係る事業)については、現行金商法下においても、不特契約に基づく権利は金商法の有価証券に該当し、金商法の規制を受けます(現行金商法2条2項5号ハ括弧書)。
※3 ただし、不特法STであっても、一定の範囲の者以外の者に取得させ、又は移転することができないようにする技術的措置がとられ、かつ、トークンの移転にはその都度トークン保有者の申出及び当該権利の発行者の承諾なければトークンの移転させることができないようにする技術的措置がとられている場合には、電子記録移転権利に該当しません(金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令9条の2第1項第1号及び第2号)。
不特法STが電子記録移転権利に該当する場合、金商法の開示規制を受けます(改正金商法3条3号ロ)。他方、不特法STが電子記録移転権利に該当しない場合には、金商法の開示規制は受けません(※4)。
※4 電子記録移転権利に該当しない集団投資スキーム持分は、出資総額の50%超を有価証券に対する投資に充てる場合にのみ開示規制の対象となります(改正金商法3条3号イ(1)、金融商品取引法施行令(以下「金商法施行令」)2条の9)。不特契約においては、出資金は不動産取引に充てられますので、これらに該当しません。
不特法STが電子記録移転権利に該当する場合で、その発行又は販売が有価証券の募集又は売出しに該当する場合には、不特法STの発行者は、原則として、内閣総理大臣にその届出をしなければならず(改正金商法4条1項)、有価証券届出書の提出が必要となります(改正金商法5条1項、同条5項)。なお、有価証券の募集・売出しとの関係においては、不特法STは第一項有価証券として扱われ、第二項有価証券と比べ私募や私売出しの要件が厳格となりますので注意が必要です(改正金商法2条3項)。
電子記録移転権利に該当する不特法STは、特定有価証券に該当しますので(改正金商法5条1項、金商法施行令2条の13第12号)、開示に関する内閣府令としては、特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令(以下「特定有価証券開示府令」)の適用を受けることになります。
不特法STが電子記録移転権利に該当する場合で、その募集又は売出しにつき有価証券届出書が提出された場合など、改正金商法24条1項各号に掲げる場合には、不特法STの発行者は、原則として、特定期間(特定有価証券開示府令23条)ごとに、特定期間経過後3ヶ月以内に有価証券報告書を作成する必要があります(改正金商法24条1項、5項)。
不特法STが、集団投資スキーム持分として有価証券に該当する場合、発行者自身が不特法STの募集(自己募集)又は私募(自己私募)を業として行うことは、第二種金融商品取引業に該当するため(改正金商法28条2項1号、2条8項7号ヘ)、発行者は、原則として、第二種金融商品取引業の登録が必要となります。この点、発行者以外の者が不特法STの取得勧誘を行う場合と異なり、不特法STが電子記録移転権利に該当する場合であっても、自己募集又は自己私募は第二種金融商品取引業に該当することになりますので注意が必要です。
もっとも、自己私募が適格機関投資家等特例業務に該当する場合には、届出で足り、第二種金融商品取引業の登録は不要です(改正金商法63条1項1号)。
また、第1号事業の不特法STは、発行者である第1号事業の事業者は自らが出資金を運用(自己運用)することになるため、投資運用業(改正金商法28条4項、2条8項15号ハ)に該当しないかが問題となりますが、不特契約においては、出資金は不動産取引に充てられますので、「金融商品の価値等の分析に基づく投資判断に基づいて主として有価証券又はデリバティブ取引に係る権利に対する投資」(改正金商法2条8項15号ハ)に該当せず、投資運用業の登録は不要です。
なお、金融商品取引業の登録等が必要となる場合であっても、不特法STは、不特法の規制も適用されますので注意が必要です。したがって、不特法STの発行者は、自己募集又は自己私募を行う場合、上記の金商法の規制に加え、不特法の第1号事業の許可又は小規模不動産特定共同事業の登録が必要となります。
発行者以外の者が不特法STの取得勧誘を行う場合、当該行為は、有価証券の募集の取扱い又は有価証券の私募の取扱いに該当しますので、これを業として行う場合、金融商品取引業に該当します(改正金商法2条8項9号)。
この場合、①不特法STが電子記録移転権利に該当する場合には、第一種金融商品取引業に該当し(改正金商法28条1項1号)、②不特法STが電子記録移転権利に該当しない場合には、第二種金融商品取引業に該当します(改正金商法28条2項2号)。
また、前述のとおり、不特法STは、不特法の規制にも服するところ、不特法STの取得勧誘は、不特契約の締結の媒介に該当しますので、これを行う者は、上記の金融商品取引業の登録に加えて、不特法の第2号事業又は第4号事業の許可も必要になる(不特法2条4項2号・4号、3条1項)ため注意が必要です。
不特法STの売買、売買の媒介・取次ぎ・代理を業として行う場合、金融商品取引業に該当します(改正金商法2条8項1号・2号)。
この場合、①不特法STが電子記録移転権利に該当する場合には、第一種金融商品取引業に該当し(改正金商法28条1項1号)、②不特法STが電子記録移転権利に該当しない場合には、第二種金融商品取引業に該当します(改正金商法28条2項2号)。
また、不特法STの売買の媒介・代理は、不特契約の締結の媒介又は代理に該当しますので、これらを行う者は、上記の金融商品取引業の登録に加えて、不特法の第2号事業又は第4号事業の許可も必要になる(不特法2条4項2号・4号、3条1項)ため注意が必要です。
本改正案による改正後の不特法(以下「改正不特法」)においては、不特法STに係る不特契約の締結の勧誘の業務を「特定勧誘業務」と定義され(改正不特法5条1項7号)、これを行おうとする場合には、不動産特定共同事業の許可、小規模不動産特定共同事業の登録又は適格特例投資家限定事業の届出の申請の際、以下の表の上欄に掲げる事業の区分に応じ、それぞれ下欄に掲げる登録又は届出を受けている必要があり、これに関する事項を許可申請書又は登録申請書に記載しなければならなくなりました(改正不特法6条12号、44条1号、59条4項、5条1項7号、42条1項7号、59条2項6号、別表)。
・第1号事業 ・小規模不動産特定共同事業 ・適格特例投資家限定事業 | ・第2号事業又は第4号事業のうち、不特契約に基づく権利の流通性その他の事情を勘案して主務省令で定めるもの | ・第2号事業又は第4号事業のうち、左記以外のもの |
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・第二種金融商品取引業の登録 又は ・適格機関投資家等特例業務の届出 | 第一種金融商品取引業の登録 | 第二種金融商品取引業の登録 |
また、既存の不動産特定共同事業者、小規模不動産特定共同事業者及び適格特例投資家限定事業者は、新たに特定勧誘業務を行うこととしたとき又は特定勧誘業務を行わないこととしたときは、30日以内に、主務省令で定めるところにより、その旨を届け出なければなりません(改正不特法10条、47条1項、59条5項)。
これらの登録又は届出をしていない場合、指示(不特法34条)や業務停止命令(不特法35条)の対象となるのみならず、不動産特定共同事業の許可又は小規模不動産特定共同事業の登録が取り消されてしまうリスクがありますので注意が必要です(改正不特法36条1号、53条1号)。
本改正案は、公布の日から1年を超えない範囲において政令で定める日から施行されますが(本改正案附則1条)、以下の経過措置が定められています。
本改正案の施行日前に開始した不特法STの勧誘については、改正金商法第2章(企業内容等の開示)の規定は適用されません(本改正案附則5条)。
本改正案の施行の際、現に不特法STに係る金融商品取引業を行っている金融商品取引業者(以下「金商業者」)以外の者は、施行日から起算して6ヶ月間は、金融商品取引業の登録が猶予されます(本改正案附則6条1項)。ただし、この場合、施行日から起算して1ヶ月以内に、その商号、名称又は氏名及び住所並びに改正金商法29条の2第1項5号、第6号及び第8号に係る事項の届出をしなければならないことに注意が必要です(本改正案附則7条1項)。
また、施行日から起算して6ヶ月の間に、金融商品取引業の登録の申請をした場合は、当該申請について登録又は登録の拒否があるまでの間も、金融商品取引業を行うことができます(本改正案附則6条2項)。
本改正案の施行の際、現に不特法STに係る金融商品取引業を行っている金商業者は、施行日から起算して6ヶ月間は、変更登録を受けなくとも、現に行っている不特法STに係る金融商品取引業の顧客を相手方とし、又は当該顧客のために、施行の際に現に行っている不特法STに係る金融商品取引業を行うことができます(本改正案附則8条1項)。
上記のとおり、不特法STを発行する場合、金融商品取引業の登録をし、かつ、不特法上の許可等を有する者が必要となりますが、既存の不動産特定共同事業者等のなかで第一種金融商品取引業の登録を行っている業者や、不特法上の許可等を取得している第一種金融商品取引業者は殆どおらず、現在の実務において不特法STの発行は極めて困難であると思われます。
この点、金融商品取引業の登録を行っていない不動産特定共同事業者等が、自身が運用する不動産についてSTを発行しようとするに当たっては、例えば、以下のような二層構造ファンドスキームを用いるなどして、不特法上の規制と金商法上の規制を分けることも考えられるのではないかと思われます。