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2024.02.26

建築物省エネ法の改正(2023年~2025年施行)のポイント

業務分野

執筆弁護士

<目次>
1. はじめに
2. 省エネ政策の根幹としての建築物省エネ法の制定と今回の改正の背景
3. 2023年4月1日施行部分
(1) 「住宅トップランナー制度」の概要
(2) 「住宅トップランナー制度」拡充の内容
4. 2024年4月1日施行部分
(1) 改正前の省エネ性能表示義務
(2) 改正後の省エネ性能表示義務
5. 2025年4月1日施行(予定)部分
(1) 改正前の省エネ基準適合義務
(2) 改正後の省エネ基準適合義務等
(3) 省エネ基準適合義務全面義務化の施行日と着工の関係
6. 実務上の留意点

1. はじめに

建築物分野の省エネ対策の徹底等を通じて脱炭素社会の実現に資するために「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」(以下「建築物省エネ法」という)が2022年6月17日に改正され(以下「2022年改正」という)、これが2023年から2025年にかけて段階的に施行されることとなった。かかる段階的施行は、2024年4月1日にも行われることになっている。以下は、2022年改正までの経緯、及び各施行される改正法の内容について、特に重要と思われるポイントのみに絞って紹介する。

詳細は国土交通省のサイト(※1)や公表資料(※2)を参照されたい。

(※1)国土交通省ウェブサイト「改正建築物省エネ法・建築基準法等に関する解説資料とQ&A

(※2)国土交通省住宅局「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律(令和4年法律第69号)について」(以下「国交省資料」という)参照

2 . 省エネ政策の根幹としての建築物省エネ法の制定と今回の改正の背景

2015年に制定された建築物省エネ法は、1979年に石油危機を契機として制定された「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」(2022年5月20日公布の改正により、2023年4月1日から「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律」と名称変更されている。以下「省エネ法」という)から住宅・建築物の省エネルギー規制を引き継いで強化したものである(※3)。2022年改正まで、建築物省エネ法は中規模以上の建築物・住宅について、新築時に省エネルギー基準を満たすよう、建築物には適合義務、住宅には届出義務を、小規模建築物・住宅については建築主に対する省エネルギー基準適合状況についての説明義務を建築士に課し、さらに一定規模以上の住宅供給事業者に対しては、省エネ基準(下記3.(1)に定義)より性能の高い住宅を供給することを求める住宅トップランナー制度により省エネルギー住宅普及促進を図ってきた。これらを通じて新築住宅及び非住宅建築物の省エネルギー基準適合率は2019年度にはそれぞれ81%、98%に向上したとされるが、他方、住宅・建築物の供給側では中小工務店による省エネルギー住宅建築に係る体制や能力・習熟度の向上が、消費者側では既存住宅・建築物の改修を含む省エネルギー性能向上に係る費用負担、認知度やメリットに対する理解が課題とされ、これらの課題や2050年カーボンニュートラル実現や2030年温室効果ガス排出削減目標の実現に向けて、建築物省エネ法における規制措置を強化することとなったのが、2022年改正までの流れである(※4)。

(※3)建築物省エネ法研究会編『〔改訂版〕Q&A建築物省エネ法のポイント』(新日本法規出版2017年)10・11頁参照。省エネ法から建築物省エネ法への移行のイメージは国土交通省総合政策局 環境政策課(2020年3月)「エネルギー使用の合理化等に関する法律 省エネ法の概要【輸送に係る措置】」4頁参照。省エネ法自体についての最新動向についてはこちらではなく文末の資料を参照されたい。

(※4)国土交通省「エネルギー基本計画」(令和3年10月)42・43頁参照。

3. 2023年4月1日施行部分

2023年4月1日には、「住宅トップランナー制度」の拡充部分(建築物省エネ法28条~33条)が施行されている。

(1) 「住宅トップランナー制度」の概要

「住宅トップランナー制度」とは、1年間に一定戸数以上の住宅を供給する事業者(以下「トップランナー事業者」という)に対して、国が、目標年次と同法2条1項3号に規定する建築物エネルギー消費性能基準(以下「省エネ基準」という)を超える水準の基準(トップランナー基準)を目標として定め、新たに供給する住宅について平均的に当該目標を満たすことを努力義務として課す制度である。この努力義務は、勧告・命令を伴い(同法30条・33条)、当該命令に違反したトップランナー事業者には、100万円以下の罰金を科すこととしている(同法74条)。

(2) 「住宅トップランナー制度」拡充の内容

従前、「住宅トップランナー制度」の対象は建売戸建住宅、注文戸建住宅、賃貸アパートであったが、改正により、分譲型規格共同住宅等(分譲マンション)も対象となる。

【国交省資料20頁。「現行」は「改正前」、「改正案」は「改正後」に相当。】

4. 2024年4月1日施行部分

2024年4月1日には、目的規定(建築物省エネ法1条)及び基本方針規定(同法3条)に「建築物への再生可能エネルギー利用設備の設置の促進」を図る旨を追加するとともに、建築物再生可能エネルギー利用促進区域制度を創設する部分(同法67条の2~67条の6)が施行されるほか、建築物の販売・賃貸事業者に課する同法2条1項2号のエネルギー消費性能(以下「省エネ性能」という)表示の努力義務の強化(勧告・公表・命令を伴う)部分(同法33条の2・33条の3)が施行される。

(1) 改正前の省エネ性能表示義務

改正前の同法7条では、単に「建築物の販売又は賃貸を行う事業者は、その販売又は賃貸を行う建築物について、エネルギー消費性能を表示するよう努めなければならない。」と定められ、同条の規定を踏まえて策定された「建築物のエネルギー消費性能の表示に関する指針」(平成28年国土交通省告示第489号。以下、「旧告示」という)に表示事項と定型のラベルによる表示方法等を示し、この表示を要件とする支援制度を設けていた。もっとも、販売・賃貸事業者が義務として遵守すべき具体的な基準や勧告・命令・罰金などの規定はなかった。

(2) 改正後の省エネ性能表示義務

改正後は、上記改正前の同法7条が削除され、同内容の文言が同法33条の2第1項に置かれ、かつ同条2項において、「前項の規定による建築物のエネルギー消費性能の表示について、次に掲げる事項を定め、これを告示するものとする。」として、国土交通大臣が建築物の省エネ性能に関して販売・賃貸事業者が表示すべき事項及び表示に際して遵守すべき事項を定め告示するものとした。同告示は、国土交通省告示第970号として公表され(2024年4月1日に施行)、同施行と同時に前記旧告示は廃止されることとなった。国土交通省告示第970号は、旧告示と同様(内容はアップデートされているが)に表示事項や定型のラベル等を定めるが、勧告等の措置を発動するための裁量判断基準となる点で、旧告示と大きく異なっている。また、国土交通省告示第970号の公表とともに、2023年9月25日には新たにガイドライン(国土交通省住宅局参事官(建築企画担当)付「建築物省エネ法に基づく建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度ガイドライン(第1版))も公表され、制度の趣旨及び内容、各関係主体における取組内容や取組に当たっての留意事項等を示している(※5)。

なお、告示(国土交通省告示第970号)の内容は、「表示すべき事項」「表示の方法」「遵守すべき事項」から構成されている。「表示すべき事項」については同ガイドライン12頁以下に詳細な解説が加えられている。「表示の方法」については「表示すべき事項」と「任意に表示できる事項」のそれぞれについて定められ、同ガイドライン14頁以下に詳細な解説が加えられている。「遵守すべき事項」については同ガイドライン15頁以下に詳細な解説が加えられている。

この告示に従わない事業者に対しては、勧告(同法33条の3第1項)、勧告に従わない場合の公表(同法33条の3第2項)・勧告に従うべき命令(同法33条の3第3項)ができることになる(※6)。当該命令に違反した事業者には、100万円以下の罰金を科すこととしている(同法74条)。

(※5)国土交通省告示第970号(2024年4月1日施行)」、国土交通省ウェブサイト「建築物の省エネ性能表示制度のガイドライン等を公表しました! 」(令和5年9月25日)

(※6)国土交通省ウェブサイト「建築物省エネ法に基づく建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度

5. 2025年4月1日施行(予定)部分

2025年4月1日には、建築物省エネ法2条1項3号に定める省エネ基準への適合義務の対象拡大部分(同法10条・11条)等が施行される予定である。

(1) 改正前の省エネ基準適合義務

改正前の同法11条では、中・大規模の非住宅の新築又は増改築(以下「新築等」という。)を行う建築主に対して省エネ基準への適合義務を課していた(増改築については300㎡以上のものが義務対象であり、増改築部分を含め建築物全体が省エネ基準に適合する必要がある)。この改正前の適合義務は、省エネ基準適合を建築基準法における建築基準関係規定とみなし、所定の省エネ適合性判定を受けさせて建築確認における建築主事等による審査の対象とするものであった(改正前の法11条2項、12条以下)。また、改正前の同法19条1項では、省エネ基準適合義務の対象外である中・大規模の住宅の新築等を行う建築主に対し、建築物のエネルギー消費性能の確保のための構造及び設備に関する計画について所管行政庁への届出義務を課し、届出に係る計画が省エネ基準に適合せず、当該建築物のエネルギー消費性能の確保のため必要があると認めるときには、届出に係る計画の変更その他必要な措置をとるべき旨の指示がなされることになっていた。省エネ基準適合義務・届出義務のいずれについても対象外となる建築主については、省エネ基準への適合が努力義務(勧告・命令・罰金を伴わないもの)として規定されていた。

(2) 改正後の省エネ基準適合義務等

省エネ基準適合義務の対象を、小規模非住宅、住宅にも拡大(エネルギー消費性能に及ぼす影響が少ないものとして政令で定める規模以下のものを除く)したうえ、増改築を行う場合の省エネ基準適合が必要となる範囲を見直し、増改築をする場合には、増改築をする部分を基準適合させなければならないこととした(改正後の同法10条1項)。省エネ基準適合義務を順守させるための手続についても、対象となる建築物が建築確認の対象外となるものも含められるなど大幅に拡大されることから、大きな変更となる(改正後の同法10 条2項、11条以下)。なお、届出義務の規定は、省エネ基準適合義務の拡大に伴い削除された。また、すべての建築主が、省エネ基準を「超える」エネルギー消費性能の向上に向けた取組みを行う努力義務(勧告・命令・罰金を伴わないもの)が課される対象となった(改正後の同法6条1項)。

【国交省資料15頁】

(3) 省エネ基準適合義務全面義務化の施行日と着工の関係

省エネ基準適合の義務は、2025年4月(予定)以降に工事に着手した建築物に対して適用され、確認申請受付日を基準としないものとされている(新たに適合義務対象となる建築物には、現在建築確認の対象でないものも含まれるためと説明されている)。着手・着工がどの時点を基準とするかについては、2023年12月26日の国土交通省の見解(※7)によれば「杭打ち工事」、「地盤改良工事」、「山留め工事」又は「根切り工事」に係る工事のいずれかが開始された時点を指すということだが、具体的な工事日程と適用の有無については、監督官庁に相談する必要も出てくる可能性があると思われる。

(※7)国土交通省「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律(令和4年法律第69号)に係る質疑応答集(令和5年12月26日時点)」3頁「1-3 全面義務化の施行日関係」1~9番参照

6. 実務上の留意点

今般の2022年改正は、上記2.で紹介したように、課題として残る中小工務店や消費者による省エネルギー対策に対しテコ入れを行い、2050年カーボンニュートラル実現や2030年温室効 果ガス排出削減目標の実現を目指すものであり、建築物省エネ法に基づく省エネ基準も省令改正により段階的に強化される予定である(※8)など、今後ますます規制は強化される。対象がほぼすべての建築物となる省エネ基準適合義務の規定や、強化された省エネ性能表示についての努力義務規定の運用が今後どうなるかも含め、特に今回新たに義務化の対象となる住宅等に関わる事業者等は、規制の変化を注視し対応していく必要があると思われる。

(※8)国土交通省パンフレット2022年10月版「設計者・施工者の皆様へ 2024年4月(予定)から大規模な非住宅建築物の省エネ基準が変わります

なお、省エネ法との関係については、以下も参照されたい。

以 上

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