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<目次>
1. はじめに(複雑かつ数多ある環境・廃棄物法規制)
2. 各規制についてビジネス上の盲点となり得るポイント 概要
3. 別途条例の規制が問題となるケース
4. 行政対応・自治体対応の問題点

本稿は、公開時点までに入手した情報をもとに執筆したものであり、また具体的な案件についての法的助言を行うものではないことに留意してください。

1. はじめに(複雑かつ数多ある環境・廃棄物法規制)

近時、各企業において、SDGs(サステナビリティのための目標)やESGへの取り組みが欠かせないものとなっていますが、法令・条例としても、脱炭素社会(カーボンニュートラル)社会の実現に向けた規制、その他環境有害物質・廃棄物・温室ガス等についての様々な法令・条例等が次々と制定・大幅改正されています。

法令上規制される廃棄物や環境汚染物質は多様であり、また、環境関連法令だけでも40を超える法令が存在するほか、各自治体(都道府県のみならず市区町村も)の条例・指導要綱等による別途の規制が存在し、それぞれに規則・通知・ガイドライン等も数多く存在するなど、理解しなければならない規制の内容(許認可・登録・届出、定期報告義務等)も多く、その範囲が極めて広範でありかつ複雑です。これらの内容を網羅的に把握すること、頻繁に行われる改正に適時に対応することは極めて困難です。しかしながら、かかる規制を見逃せば、行政処分や罰則を受けるリスクもあります。

数多ある環境・廃棄物法規制の項目については、下記を参照してください。

以下、そのいくつかの概要のみを取りあげます。もっとも、これ以外にも数多くの規制があり、各紹介する法令における規制内容についてもそのごく一部であることには注意してください。詳細については、各リンクも参照してください。

2. 各規制についてビジネス上の盲点となり得るポイント 概要

(1) 省エネ法(エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律)

エネルギー使用量が1500kL/年以上の特定事業者は、エネルギー使用状況届出書を提出した上で、毎年、エネルギー使用量・温室効果ガス排出量等、中長期計画(削減目標等)を報告する必要があります。2023年に改正法が施行され、対象エネルギーが非化石エネルギーにも拡大されました。また、上記基準を超える工場も別途報告の対象となります。報告違反に関する罰則があります。

なお、特定事業者に限らず、全事業者の取り組むべき事項・目標として、省エネのための管理標準の設定、省エネ措置の実施、中長期的な年平均1%以上のエネルギー消費原単位等の低減が求められます。

(2) 温暖化対策推進法

CO2などの温室効果ガスを対象として、エネルギー起源CO2はエネルギー使用量1500kL/年以上、非エネルギー起源CO2は3,000t以上(かつ常勤従業員21名以上)の事業者は、毎年、温室効果ガス排出量を報告する必要があります。上記基準を超える工場も別途報告の対象となります。報告違反に関する罰則があります。

(3) 廃掃法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)

事業者には、産業廃棄物の適正処理(不法投棄の禁止)、適正委託(マニュフェスト、処理の確認等)が求められます。違反に関する罰則があります。

さらに、産業廃棄物を1,000t以上/年発生させた事業場設置事業者等(多量排出事業者)には、産業廃棄物処理計画・処理計画の実施状況報告、産業廃棄物管理票交付等状況の報告が求められます。報告違反に関する罰則があります。

(4) PCB廃棄物特措法(ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法)

事業者は、一定の期限までにPCB廃棄物の処理を委託する必要があります。また第三者への保管委託は禁止されています。2022年5月に「ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理基本計画」が改定されたことにより、地域によって差はあるものの、高濃度PCB廃棄物は2026年3月末までの間に、低濃度PCB廃棄物は2027年3月末までの間に、適切に処理を実施する必要があります。

その他、PCB廃棄物の保管届出、譲渡禁止等の規制があります。届出違反に関する罰則があります。

(5) 化管法(特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律:PRTR法)

政令指定の24業種の対象事業者(かつ常勤従業員が21人以上)が、いずれかの第一種指定化学物質(現在515物質が指定)の年間取扱量が1t 以上となる(または法令で定める特別要件施設を設置している)場合には、排出量・移動量を個別事業所ごとに届出が必要となります。届出違反に関する罰則があります。

(6) 化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)

多様な化学物質を対象とし、第一種特定化学物質はPCB(ポリ塩化ビフェニル)など34物質、第二種特定化学物質はトリクロロエチレンなど23物質、一般化学物質はおよそ2万8000物質が指定されています。

物質ごとに規制内容が定められており、たとえば、第二種特定化学物質の製造・輸入者等は、毎年、製造・輸入予定数量/実績数量等について届出を行う必要があります。年間1t 以上の一般化学物質を製造・輸入した者は、毎年度、製造・輸入数量や具体的用途等の届出を行う必要があります。届出違反に関する罰則があります。

(7) 土壌汚染対策法

規制対象となる特定有害物質は、現在26種類です。①水質汚濁防止法上の特定施設を廃止する場合、②3,000㎡以上(一定の場合には900㎡以上)の土地の形質変更を行った者による事前届出の結果、知事が土壌汚染のおそれありと認定した場合、その他、③知事が土壌汚染により人の健康被害が生ずるおそれありと認定した場合に、土地の所有者、管理者又は占有者に、土壌汚染の調査・報告義務が課されます。

2019年の改正土対法の施行により、報告・調査が求められる要件について改正がなさ、届出・調査報告義務の対象地が2倍に増加するとも言われています。

(8) アスベスト法規制(大気汚染防止法、石綿障害予防規則等)

2023年までに順次施行されている改正大気汚染防止法により、原則として全ての建物について解体・改修の前に業者が石綿の有無を調査し報告するが必要となりました。また、規制対象が全ての石綿含有建材に拡大されています。報道では、かかる法改正によって飛散防止策が必要な解体・改修工事は現在の20倍に増える見込みであることも指摘されています。

(9) プラスチック資源循環促進法

消費者に無償提供されるプラスチック使用製品として指定されている「特定プラスチック使用製品」について、提供事業者及び排出事業者が取り組むべき判断基準が策定されています。

提供事業者は、設定した使用合理化の目標、特定プラスチック使用製品の提供量、使用の合理化のために実施した取組みおよびその効果について公表するように努めることが要請されています 。また多量排出事業者は、毎年度、プラスチック使用製品産業廃棄物等の排出量、排出抑制目標の達成状況に関する情報を公表するよう努めることが要請されています。

3. 別途条例の規制が問題となるケース

上記各法令のほか、さらに自治体ごとに条例・規則・指導要綱などが存在します。条例では、法令よりも厳しい基準や要件が設定されているケースや、規制対象・対象物質がより広範に設定されているケース、追加で行うべき手続が設定されているケースが数多く存在します。

条例管理の難しさは、都道府県だけでなく市区町村でも独自に条例(基準)が定められており、施行規則や指導要綱等まで網羅しなければならないという点にあります。国の法令と条例とで異なる規制基準があるケース、国の法令にはない義務が条例に存在するケースなどでは、これらの見落としや理解が不十分であることによる規制違反を招くケースが多々あります。

しかも、これらの規制内容は日々改正されていくことから、適時適切なアップデートがなされないと、少し前までは適法であった行為であっても、ある時点を境に、知らないままに法令違反を犯してしまっているということも少なくありません。

4. 行政対応・自治体対応の問題点

法令・条例や具体的な指針・ガイドライン・指導要綱その他が存在するものの、必ずしも明確な基準・解釈が設定されているわけではありません。

特に、環境行政においては、自治体の裁量に委ねられている面があり、ある自治体や官庁から問題ない旨の見解が提示されたにもかかわらず、他の官庁等から当該見解に従った処理が違法であると判断されるといったケースもあります 。そのため、専門家のアドバイスを踏まえて適切に対応する必要があります。

以 上

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猿倉健司「「環境有害物質・廃棄物の処理について自治体・官庁等に対する照会の注意点」(https://www.businesslawyers.jp/practices/1238)(BUSINESS LAWYERS・2020年5月22日)
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猿倉健司「東京都条例その他の脱炭素・温暖化対策条例における排出量削減義務と報告制度」(https://www.businesslawyers.jp/practices/1449)(BUSINESS LAWYERS・2022年7月5日)
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猿倉健司「条例改正対応におけるリスクや留意点と、条例管理をサポートする『条例アラート』」(https://www.businesslawyers.jp/articles/1179)(BUSINESS LAWYERS・2022年7月14日)
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猿倉健司「「事業者の盲点となりやすい化学物質の製造・輸入・保管等の規制のポイント(PCB、トリクロロエチレン等の主要規制を例に)」(https://www.businesslawyers.jp/practices/1459)(BUSINESS LAWYERS・2022年10月26日)
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猿倉健司「バイオマス発電・廃棄物発電事業に関する法規制(概論) -第3回 環境規制として問題となる規制(立上げ時、運用時共通)」(https://www.businesslawyers.jp/articles/1296)(BUSINESS LAWYERS・2023年6月22日)
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猿倉健司「バイオマス発電・廃棄物発電事業に関する法規制(概論) – 第2回 バイオマス発電施設の運用時に問題となる規制」(https://www.businesslawyers.jp/articles/1295)(BUSINESS LAWYERS・2023年6月21日)
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猿倉健司「バイオマス発電・廃棄物発電事業に関する法規制(概論) – 第1回 発電事業の立上げや施設の設置時に問題となる規制」(https://www.businesslawyers.jp/articles/1294)(BUSINESS LAWYERS・2023年6月20)
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猿倉健司「M&A・不動産取引における環境デュー・ディリジェンスの重要性」(https://www.businesslawyers.jp/practices/1424)(BUSINESS LAWYERS・2021年12月24日)
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猿倉健司「建設廃棄物処理およびリサイクルの法規制と実務上の留意点(後編)」(https://www.businesslawyers.jp/articles/842)(BUSINESS LAWYERS・2020年11月9日)
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猿倉健司「建設廃棄物処理およびリサイクルの法規制と実務上の留意点(前編)」(https://www.businesslawyers.jp/articles/841)(BUSINESS LAWYERS・2020年11月2日)
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猿倉健司「不動産・M&A取引におけるアスベスト・石綿のリスクと実務上の留意点(2020年法改正対応)」(https://www.businesslawyers.jp/articles/827)(BUSINESS LAWYERS・2020年9月28日)
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猿倉健司「土壌汚染の報告・調査義務が生じる場合と義務を負う者 – 2019年改正土壌汚染対策法対応」(https://www.businesslawyers.jp/articles/814)(BUSINESS LAWYERS・2020年8月21日)

セミナー実績

猿倉健司「バイオマス発電等再生可能エネルギー事業における法規制と自治体対応の留意点」(牛島総合法律事務所、2023年8月1日)

猿倉健司「ケーススタディで学ぶ! ESG全盛時代に法務が抑えておくべき環境法・廃棄物リサイクルの法的リスク」(AOSデータ株式会社、GVA TECH株式会社、牛島総合法律事務所 共催、2023年7月10日)

猿倉健司「不動産取引・M&Aをめぐる環境汚染・廃棄物リスクと法務」(日本ナレッジセンター、2023年2月22日)

猿倉健司「事業会社の盲点になりやすい環境有害物質・廃棄物・温室ガス等の規制(個別規制編)」(Business & Law、2022年8月9日~)

猿倉健司「環境汚染・廃棄物のリスクと不祥事対応・予防の実務(全3回)」(FRONTEO、2022年7月31日)

猿倉健司「条例改正対応のリスクと留意点-環境条例の管理ミス・トラブル事例を踏まえて」(ウエストロー・ジャパン、2022年5月25日)

猿倉健司「不動産取引・M&Aをめぐる環境汚染・廃棄物リスクと法務」(金融ファクシミリ新聞社、2021年11月16日)

猿倉健司「不動産取引・M&Aにおける環境・廃棄物・災害リスクの実務対応」(プロネクサス、2021年8月19日)

猿倉健司「廃棄物・環境有害物質リスクとM&A・不動産取引における実務対応の留意点」(レクシスネクシス・ジャパン/ビジネスロー・ジャーナル、2020年12月18日)(Business & Law、Webゼミ2021年3月~)