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2024.03.28

不動産特定共同事業者が金銭の預託を受けることの可否

<目次>
1. はじめに
2. 第1号事業者について
3. 第2号事業者及び第4号事業者について
(1) 金銭の預託の可否
(2) 金銭の預託が許される場合
(3) 第1号事業及び第2号事業の双方の許可を有する事業者の場合
4. 第3号事業者、小規模第1号事業者、小規模第2号事業者、特例事業者及び適格特例投資家限定事業者について
5. 結語

1. はじめに

不動産特定共同事業において、実務上、不動産特定共同事業者が事業参加者から金銭の預託を受けることができるかが問題となることがあります。本ニューズレターでは、不動産特定共同事業法上、不動産特定共同事業者等が金銭の預託を受けることができるかについて、不動産特定共同事業者等の類型毎に解説します(※1)。なお、本ニューズレター中意見にわたる部分は、執筆者個人の見解を示すにとどまり、当事務所の見解ではないことにご留意ください。

※1 本ニューズレターにおいては、特段の理がない限り、以下に定義する用語を用いています。
「法」:不動産特定共同事業法
「規則」:不動産特定共同事業法施行規則
「電子取引業務ガイドライン」:国土交通省「不動産特定共同事業法の電子取引業務ガイドライン」(平成31年3月29日公表)
「平成31年3月パブコメ回答(電子取引業務ガイドライン)」:国土交通省「不動産特定共同事業法の電子取引業務ガイドライン(案)に関する意見募集の結果と対応」(平成31年3月29日公表)
「第1号事業者」:法第2条第4項第1号に掲げる行為に係る事業を行う不動産特定共同事業者
「第2号事業者」:法第2条第4項第2号に掲げる行為に係る事業を行う不動産特定共同事業者
「第3号事業者」:法第2条第4項第3号に掲げる行為に係る事業を行う不動産特定共同事業者
「第4号事業者」:法第2条第4項第4号に掲げる行為に係る事業を行う不動産特定共同事業者
「小規模第1号事業者」:法2条6項1号に掲げる行為に係る事業を行う小規模不動産特定共同事業者
「小規模第2号事業者」:法2条6項2号に掲げる行為に係る事業を行う小規模不動産特定共同事業者
「不動産特定共同事業者等」:不動産特定共同事業者(法2条5項)、小規模不動産特定共同事業者(法2条6項)、特例事業者(法2条8項)、適格特例投資家限定事業者(法2条11項)を総称していう

2. 1号事業者について

第1号事業者においては、平成31年3月パブコメ回答(電子取引業務ガイドライン)No.34及び35において、規則49条1項に基づき、対象不動産が同一である不動産特定共同事業契約ごとに、当該契約に係る財産を自己の固有財産及び他の不動産特定共同事業契約に係る財産と分別管理しなければならず、個別具体的な出資申込み前の投資先の商品が特定されていない金銭の分別管理や金銭の預託は想定されていないため、対象となる契約が特定されていない段階で、第一号事業に係る不動産特定共同事業者が金銭の預託を受けることや既に償還されたファンドの分配金・償還金を預かることは認められないとの見解が示されています。
もっとも、同パブコメ回答においては、予め不動産特定共同事業契約に定めた上で、当該契約に定めた送金等にかかる事務処理のために必要な期間の範囲内で当該金銭を出資金等管理口座で管理することは、問題ないとの回答がされており、この限りにおいて、事業参加者から金銭の預託を受けることは可能と思われます。
「事務処理のために必要な期間の範囲」については、具体的な目安や基準といったものは明らかにされていません。実務的には、個々の事業者における具体的な事務処理の手続について、当該手続を採ることの合理性や当該手続に照らし合理的な期間であるかどうかを検討していくことになると思われます。

3. 2号事業者及び第4号事業者について

(1) 金銭の預託の可否

第2号事業及び第4号事業に係る不動産特定共同事業者は、クラウドファンディングなどの電子取引業務を行う場合、金銭の預託を受けることは許容されています(規則49条2項、電子業務ガイドライン11項参照)。これは、クラウドファンディングのプラットフォーマー等の電子取引業務を行う第2号事業者及び第4号事業者は、ウェブサイト等を通じて契約締結の勧誘を行うとともに、契約締結申込や出資金の預託を受け、募集期間終了後に出資金を一括して第1号事業者や特例事業者等に送金することが想定されるためです。なお、電子取引業務を行わない第2号事業者及び第4号事業者については、分別管理の方法や金銭の預託について規定されておらず、金銭の預託を受けることができるか法令上明確ではありませんが、これらの事業者が金銭の預託を受けることができるのは電子取引業務を行う場合に限られるという見解があります(谷田智沙ほか「『不動産特定共同事業法の電子取引業務ガイドライン』の制定-対象不動産変更型契約に係る省令改正とともに-」金融法務事情No.2113(2019年)37頁)。

(2) 金銭の預託が許される場合

電子取引業務を行う第2号事業者及び第4号事業者は、電子取引業務を行う場合において事業参加者から金銭の預託を受けたときは、以下の方法により、当該預託を受けた金銭と自己の固有財産とを分別して管理する必要があります(規則49条2項各号、電子取引業務ガイドライン11項(1))。
① 業務に関する帳簿書類を作成すること
② 預託を受けた金銭の金融機関への預金又は貯金(但し、当該金銭であることがその名義により明らかなものであって、③の金銭信託をする基準日として週に1日以上設ける日の翌日から起算して3営業日以内に当該金銭信託をする場合に限ります)
③ 信託会社又は信託業務を営む金融機関への金銭信託(但し、当該金銭であることがその名義により明らかなものであって、金融商品取引業等に関する内閣府令141条1項4号イ~ハに掲げる方法(国債等)により運用されるもの又は元本補填の契約のあるものに限ります)

また、電子取引業務を行う第2号事業者及び第4号事業者は、事業参加者から金銭の預託を受ける場合には、当該事業参加者との契約書等及び第1号事業者や特例事業者との委託契約において、以下の(a)ないし(d)の事項を定める必要があります(電子取引業務ガイドライン11項(2))。
(a) 預託を受ける金銭の範囲
(b) 第1号事業者や特例事業者等への金銭の送金手続き
(c) 事業参加者への金銭の支払手続き
(d) 事業参加者への金銭の預託状況(入出金履歴及び残高)の通知方法(各事業参加者専用の画面で常時閲覧できる、定期的に残高報告書を交付する等)

さらに、電子取引業務を行う第2号事業者及び第4号事業者は、事業参加者への分配金・償還金の預託を受けている場合には、少なくとも3ヶ月に1度は事業参加者に投資意思を確認するものとするとされています(電子取引業務ガイドライン11項(3))。かかる投資意思の確認方法としては、電話、書面、電子メール等による確認(事業参加者の意思が明確に確認できる方法に限ります)、事業参加者によるマイページなどへのログイン状況確認、その他インターネットを通じた確認等が考えられ、投資意思が確認できない場合には、預託金の払戻手続きを採って欲しい旨を伝えることのみでは足りず、速やかに預託を受けた金銭を払い出す必要があるとされています(平成31年3月パブコメ回答(電子取引業務ガイドライン)No.38)。

(3) 1号事業及び第2号事業の双方の許可を有する事業者の場合

1号事業者が自社の第1号事業に係る不動産特定共同事業契約の募集を電子取引業務で行う場合、第2号事業の許可を有していたとしても、前記2で述べた範囲を超えて金銭の預託を受けることは認められないと考えられます。なぜなら、第1号事業を行う場合には、当該不動産特定共同事業者には規則49条1項の方法による分別管理が義務付けられるためです。他方、第1号事業の許可を有していても、他社の行う第1号事業に係る不動産特定共同事業契約の締結の代理・媒介を第2号事業者として電子取引業務で行う場合には、金銭の預託は許容されるものと考えられます。

4. 3号事業者、小規模第1号事業者、小規模第2号事業者、特例事業者及び適格特例投資家限定事業者について

第3号事業者、特例事業者及び適格特例投資家限定事業者については、事業参加者から金銭の預託を受けることが可能かについては、法令上明確ではありませんが、1号事業者と同様と解されています(松本岳人ほか著『逐条解説 不動産特定共同事業法 第2版』(金融財政事情研究会、2022年)261頁)。小規模第1号事業者及び小規模第2号事業者についても、法令上明確ではございませんが、これらの事業者について、第1号事業者及び第3号事業者と別異に取り扱う理由はないと思われますので、第1号事業者及び第3号事業者の場合と同様と考えられます。

5. 結語

以上のとおり、不動産特定共同事業者等が金銭の預託を受けられる場合は非常に限定されています。金銭の分別管理や金銭の預託について、法27条、規則49条に違反した場合には、指示処分や業務停止命令の対象となり(法34条1項3号、法35条1項2号)、違反の情状がとくに重いときは許可の取消し事由にも該当しますので、事業者においては、法令に違反する金銭の預託とならないように十分に注意する必要があります。

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以 上

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