〒100-6114
東京都千代田区永田町2丁目11番1号
山王パークタワー12階(お客さま受付)・14階

東京メトロ 銀座線:溜池山王駅 7番出口(地下直結)

東京メトロ 南北線:溜池山王駅 7番出口(地下直結)

東京メトロ 千代田線:国会議事堂前駅 5番出口 徒歩3分

東京メトロ 丸の内線:国会議事堂前駅 5番出口
徒歩10分(千代田線ホーム経由)

ニューズレター
Newsletter

2024.04.19

フリーランス保護法の施行予定日、施行令等の案の公表

<目次>
1.フリーランス保護法の施行予定日
2.施行令等の案の主なポイント
(1)フリーランス保護法施行令(案)
(2)フリーランス保護法施行規則(案)
(3) 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方(案)
(4) 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律と独占禁止法及び下請法との適用関係等の考え方(案)
3.小括

2024年4月12日、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(以下「フリーランス保護法」といいます。(※1))の施行令、施行規則、指針及び考え方の案が公表され、これらに対するパブリックコメントが開始されました(※2)。

本ニューズレターでは、同日に公表された同法の施行予定日に加え、同法施行令等の案の主なポイントについて概観します。

なお、同法については、以下のニューズレターにおいても解説しています(ただし、今回の施行令等の案が公表される前の情報に基づいています)。

また、今後、就業環境の整備に関する規制の概要については別途ニューズレターを公開予定です。そのため、今回公表された案のうち、就業環境の整備に関する施行規則(案)及び指針(案)については本ニューズレターでは取り扱いません。

(※1)「フリーランス新法」「フリーランス保護新法」との略称が用いられることもありますが、本ニューズレターにおいては「フリーランス保護法」といいます。
(※2)内閣官房新しい資本主義実現本部事務局、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省「『特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令(案)』等に対する意見募集について」

1.フリーランス保護法の施行予定日

フリーランス保護法の施行予定日は2024年11月1日です(上記※2参照)。
同法の施行令及び施行規則についても、同年5月公布、同年11月1日施行が予定されています。
したがって、発注事業者においては、同年11月1日の施行を意識した準備をするべきものと考えられます。

2.施行令等の案の主なポイント

(1)フリーランス保護法施行令(案)

フリーランス保護法施行令(案)では、概要以下の①ないし③が示されています。

①取引の適正化に関する規制における禁止行為(同法5条)の対象となる業務委託の期間

特定業務委託事業者であって、かつ、業務委託の期間が一定の期間以上である者については、買いたたき等の禁止行為が定められています(同法5条1項及び2項)。
同法施行令(案)において、上記禁止行為の対象となる業務委託の期間1か月以上とすることが明記されました。

上記1か月の期間がどのように算定されるのかは、発注事業者とフリーランスの双方にとって重要です。
上記期間の算定方法については、フリーランス保護法の概要(2)-取引の適正化に関する規制-の4(1)において解説したとおり幾つかの論点がありましたが、今回公表された「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方(案)(いわゆるガイドラインです。以下「考え方(案)」といいます。)によって一定の整理がなされました。具体的には、以下のとおりです。

論点考え方(案)による整理
基本契約の期間が1か月以上である場合に同法5条の禁止行為の対象となるか当該基本契約に基づき行われる業務委託は同法5条の禁止行為の対象となる。
業務委託に係る契約又は基本契約において契約が終了する日を定めなかった場合に期間をどのように考えるべきか1か月以上の期間であるものとする。
単一の業務委託又は基本契約による場合における期間の始期以下のいずれか早い日とする。
(i)業務委託に係る契約を締結した日
(ii)基本契約を締結した日
単一の業務委託又は基本契約による場合における期間の終期以下のいずれか遅い日とする。
(i)フリーランス保護法3条により明示する「特定受託事業者の給付を受領し、又は役務の提供を受ける期日」(ただし、期間を定めるものにあっては、当該期間の最終日)
(ii)特定業務委託事業者と特定受託事業者(フリーランス)との間で、別途当該業務委託に係る契約の終了する日を定めた場合には同日
(iii)基本契約が終了する日
契約の更新により継続して行うこととなるものとして同法5条の禁止行為の対象となる範囲契約の更新により継続して行うこととなるとは、
(i)契約の当事者が同一であり、その給付又は役務の提供の内容が少なくとも一定程度の同一性を有し(※3)、かつ、
(ii)前後の業務委託又は基本契約の間の期間の日数が1か月未満であるものをいう。
 
その最初の業務委託又は基本契約の始期と、最後の業務委託又は基本契約の終期との期間が1か月以上であれば、同法5条の禁止行為の対象となる。

(※3)給付又は役務の提供の内容が少なくとも一定程度の同一性を有するかは、機能、効用、態様等を考慮要素として判断することとされ、その際は、原則として日本標準産業分類の小分類(3桁分類)を参照し、前後の業務委託に係る給付等の内容が同一の分類に属するか否かで判断するとされています(考え方(案)第2部の第2の2(1)イ(ア)(27頁))。

②的確表示の対象となる募集情報の事項(就業環境の整備に関する規制)

同法施行令(案)において、的確表示の対象となる募集情報の事項(同法12条1項)について、次のとおりとすることが明記されました。

  • 業務の内容
  • 業務に従事する場所、期間又は時間に関する事項
  • 報酬に関する事項
  • 契約の解除(契約期間の満了後に更新しない場合を含む。)に関する事項
  • 特定受託事業者の募集を行う者に関する事項

③育児介護等の配慮、解除等の予告の対象となる業務委託の期間(就業環境の整備に関する規制)

特定業務委託事業者であって、かつ、業務委託の期間が一定の期間以上である者については、育児介護等と業務の両立に対する配慮義務(同法13条)及び中途解除等の事前予告義務(同法16条)が課されます。
同法施行令(案)において、上記各義務の対象となる業務委託の期間6か月以上とすることが明記されました。
上記①と期間が異なるので、留意が必要です。

2)フリーランス保護法施行規則(案)

同法施行規則(案)として、公正取引委員会関係(取引の適正化に関する規制関係)と厚生労働省関係(就業環境の整備に関する規制関係)の2つが公表されました。後者については、就業環境の整備に関する規制の概要として別途ニューズレターを公開するため、本ニューズレターでは前者について概観します。

前者の公正取引委員会関係の同法施行規則(案)では、主として、同法3条の取引条件の明示義務について定められています。同義務は、フリーランスに業務を委託するすべての発注事業者(業務委託事業者)に適用されるため、留意が必要です。なお、考え方(案)において、同法3条に基づく書面又は電磁的方法による明示は「3条通知」と称されていますので、以下においても「3条通知」といいます。

ア 明示事項

フリーランス保護法の概要(2)-取引の適正化に関する規制-の2(1)において列挙した各事項について、いずれも同法3条の明示事項とすることが示されました(公正取引委員会関係の同法施行規則(案)1条1項各号、3項及び4項、3条、4条、6条)(※4)。
大半は下請法3条書面の記載事項でもあります。

なお、考え方(案)においては、業務委託の目的たる使用の範囲を超えて知的財産権を業務委託事業者に帰属させることを「給付の内容」とする場合には、3条通知の「給付の内容」の一部として当該知的財産権の譲渡・許諾の範囲を明確に記載する必要があることや、知的財産権の譲渡・許諾を含めて業務委託を行う場合には、当該知的財産権の譲渡・許諾に係る対価を報酬に加える必要があることなども指摘されており、このようなケースは少なくないと考えられることから、留意が必要です。

(※4)ただし、共通事項がある場合については、3条通知の際に、あらかじめ明示した共通事項との関連性の記載に加え、当該共通事項が有効である期間も併せて明示する必要があるとされています(考え方(案)第2部の第1の1(3)コ(13頁))。

イ 電磁的方法による明示

業務委託事業者は、自らの選択により、3条通知を電磁的方法によって行うことができます。
同法施行規則(案)において、3条通知に際して、電子メールのほか、ショートメッセージやSNSのメッセージ機能等のうち、送信者が受信者を特定して送信することのできるものによることができることが示されました(公正取引委員会関係の同法施行規則(案)2条1項1号、考え方(案)第2部の第1の1(5)イ(ア)(15頁))。これはフリーランスとの取引の実態を踏まえたものです。

ウ 書面の交付を求められた場合の対応

業務委託事業者が3条通知を電磁的方法により行った場合に、特定受託事業者(フリーランス)から書面の交付を求められた場合は、一部の例外を除き、遅滞なく、書面を交付しなければなりません(同法3条2項)。
この例外として、以下の①ないし③が示されました(公正取引委員会関係の同法施行規則(案)5条2項各号)。
ただし、以下の①又は②に該当する場合であっても、SNSのサービス終了に伴い3条通知を含むメッセージの内容が確認できなくなった場合のように、電磁的方法による明示の後に、特定受託事業者(フリーランス)がその責めに帰すべき事由がないのに明示事項を閲覧することができなくなったときは、業務委託事業者は書面交付に応じなければならないことに留意が必要です(上記5条2項括弧書)。

①特定受託事業者(フリーランス)からの電磁的方法による提供の求めに応じて、明示をした場合
②業務委託事業者により作成された定型約款を内容とする業務委託がインターネットのみを利用する方法により締結された契約に係るものであるとともに、当該定型約款がインターネットを利用して特定受託事業者(フリーランス)が閲覧することができる状態に置かれている場合
③既に書面の交付をしている場合

エ 再委託を行う場合における明示事項

報酬支払期日について、再委託の場合の例外として、元委託業務の対価の支払期日から起算して30日の期間内において定めることができます(同法4条3項)。この例外を適用するための明示事項を以下の①ないし③とすることが示されました(公正取引委員会関係の同法施行規則(案)6条各号)。

①再委託である旨
②元委託者の商号、氏名若しくは名称又は事業者別に付された番号、記号その他の符号であって元委託者を識別できるもの(これは、氏名又は登記されている名称に限らないとされています(※5)。)
③元委託業務の対価の支払期日

(※5)考え方(案)第2部の第1の1(3)ア(8頁)及び(4)イ(14頁)

3)特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方(案)

上記のとおり、考え方(案)は、フリーランス保護法のガイドラインとして、同法及び同法施行令等について全般的に解説しています。その内容は多岐にわたるため本ニューズレターでは割愛しますが、以下では、フリーランス保護法の概要(1)-適用範囲-において解説した事項のうち、「特定受託事業者」(フリーランス)の定義に関してのみ、考え方(案)に基づいて補足します。

上記ニューズレターにて解説したとおり、「特定受託事業者」(フリーランス)とは、業務委託の相手方である事業者であって、個人又は代表者1名の会社(他の役員なし)で、かつ、従業員を使用しないものです(同法2条1項)。この定義は、同法の適用の有無を決する出発点であり、「従業員を使用」の解釈が重要です。

上記の「従業員を使用」とは、①1週間の所定労働が20時間以上であり、かつ、②継続して31日以上の雇用が見込まれる労働者(労働基準法9条に規定する労働者をいう)を雇用することをいいます。
ただし、雇用をしていない場合であっても、労働者派遣法2条4号規定の派遣先として、①1週間の所定労働が20時間以上であり、かつ、②継続して31日以上労働者派遣の役務の提供を受けることが見込まれる派遣労働者を受け入れる場合には、上記の「従業員を使用」に該当するとされているため、留意が必要です
なお、同居親族のみを使用している場合には「従業員を使用」に該当しません(以上につき、※6)。

もっとも、実際上、発注事業者において発注先が特定受託事業者(フリーランス)に該当するか否かを正しく見極めることができるのかは定かではありません。そのため、運用上は、保守的に、一定の場合には特定受託事業者(フリーランス)に該当するものとして対応するか否かなど、検討すべき事項は残されています。

(※6)考え方(案)第1部の1(1)(3頁)

4)特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律と独占禁止法及び下請法との適用関係等の考え方(案)

公正取引委員会より、以下のとおり、フリーランス保護法と独占禁止法及び下請法との適用関係等の考え方の案が示されました。これによって、フリーランス保護法が優先適用されることが明らかにされました。

ア フリーランス保護法と独占禁止法との関係

フリーランス保護法と独占禁止法のいずれにも違反する行為については、原則としてフリーランス保護法を優先して適用し、同法8条に基づく勧告の対象となった行為と同一の行為について、重ねて独占禁止法20条の排除措置命令及び同法20条の6の課徴金納付命令を適用することはないことが示されました。

イ フリーランス保護法と下請法との関係

フリーランス保護法と下請法のいずれにも違反する行為については、原則としてフリーランス保護法を優先して適用し、同法8条に基づく勧告の対象となった行為と同一の行為について、重ねて下請法7条に基づき勧告することはないことが示されました。
ただし、フリーランス保護法と下請法のいずれにも違反する行為を行っている事業者が下請法のみに違反する行為も行っている場合については、当該事業者の行為の全体について下請法を適用することが適当であると公正取引委員会が考えるときには、フリーランス保護法と下請法のいずれにも違反する行為についても下請法7条に基づき勧告することがあるとされています。

ウ フリーランス保護法違反行為を自発的に申し出た業務委託事業者の取扱いについて

フリーランス保護法8条の勧告の対象となる違反行為に関する自発的な申出が業務委託事業者からなされかつ当該業務委託事業者について、以下のような事由が認められた場合には、公正取引委員会は当該違反行為について勧告するまでの必要はないことが示されました。


①公正取引委員会が当該違反行為に係る調査に着手する前に、当該違反行為を自発的に申し出ている
②当該違反行為を既に取りやめている
③当該違反行為によって特定受託事業者に与えた不利益を回復するために必要な措置を既に講じている
④当該違反行為を今後行わないための再発防止策を講ずることとしている
⑤当該違反行為について公正取引委員会が行う調査及び指導に全面的に協力している

3.小括

フリーランス保護法施行令等の案についてのパブリックコメント期間は2024年5月11日までとなっており、同月中には同法施行令及び施行規則が公布される予定です。引き続き、今後の動向に注意するとともに、発注事業者においては、同年11月1日の同法施行に向けた準備をする必要があると考えられます。

以 上

ニューズレターのメール配信はこちら