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<目次>
1. はじめに
2. 本指針で示された論点のうち実務上重要と考えられるもの
(1) 芸能事務所が採るべき行動(本指針6頁、本指針概要3頁)
(2) 放送事業者等が採るべき行動(本指針30頁、本指針概要7頁)
(3) レコード会社が採るべき行動(本指針32頁、本指針概要7頁)
3. おわりに

1.  はじめに

 公正取引委員会は、令和7(2025)年9月30日、「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」(以下「本指針」といいます。)を公表しました。本指針は、コンテンツ産業活性化戦略(令和6年6月21日閣議決定「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 2024 年改訂版」において策定・明記)に基づき令和6(2024)年12月26日に公正取引委員会が公表した「音楽・放送番組等の分野の実演家と芸能事務所との取引等に関する実態調査報告書」(以下「令和6年報告書」といいます。)の内容を基に、実演家への適切な収益還元やコンテンツ産業関係者の健全な活動等を促進する取引関係等の推進の観点及び私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)等に照らして具体的な考え方を示すものとして、内閣官房及び公正取引委員会の連名で策定されたものです。
 以下では、本指針のうち、特に実務上重要となることが多いと考えられるいくつかの点について、説明いたします。

 なお、令和6年報告書の内容については、当事務所ニューズレター「音楽・放送番組等の分野の実演家と芸能事務所との取引等に関する実態調査報告書の公表(令和6年12月公正取引委員会)」をご覧ください。

2.本指針で示された論点のうち実務上重要と考えられるもの

(1) 芸能事務所が採るべき行動

ア 契約期間等(本指針6頁、本指針概要3頁)

(ア) 専属義務に係る契約期間の設定

 専属義務とは、実演家が契約している芸能事務所のみと取引をしなければならないという義務をいいます。芸能事務所と実演家等との契約においては、専属義務を定めたうえで契約期間を定めない例や、契約期間があるものの契約を自動更新とし、当初の契約期間と同じ期間を更新期間としている例、「契約期間(自動更新の有無)」を明示的に説明していない例、などがあるとされています(令和6年報告書27頁~29頁)。芸能事務所としては、育成に係る投下資本を回収するためにできる限り長期間の所属を望む(育成の結果として芽が出てすぐに退職されることを避けたい)という側面もあります。過度な期間にわたり専属義務を課すような場合、優越的地位の濫用、排他的条件付取引又は拘束条件付取引として独占禁止法上問題となり得るとされています。
 本指針においては、専属義務は、一般的には、芸能事務所が実演家に対する育成等を行うインセンティブにつながり、実演家の能力を向上させるなどの競争促進効果を有し得るものである一方で、専属義務による拘束期間が長期間になると、他の芸能事務所が、当該実演家により良い育成や活躍の場等を提供できなくなる可能性があり、実演家にとっては、適切なタイミングに移籍等を行うことができなくなる可能性があるとされています。
 芸能事務所は、以下のような対応が求められることになります。
① 専属義務の期間を一定期間確保する必要がある場合には、あらかじめ契約上その期間を明確に規定すること
② 専属義務を定める契約期間は、契約締結の段階(又は更新の段階)において、実演家の要望も踏まえつつ双方合意の上定めることとし、実演家が芸能事務所提示の期間より短い契約期間を求める場合には、芸能事務所が育成等のための投資費用を合理的な範囲で回収し、かつ、合理的な範囲で収益を確保するために必要な期間について、実演家に十分説明し、協議すること
③ 契約期間を定めない場合は、通例、両当事者による解除が可能であることを踏まえ、実演家が希望するタイミングで、実演家の退所を認めること
④ 契約締結の段階(又は更新の段階)において、実演家に対して、専属義務の内容及び専属義務を定める契約期間について、十分に説明し実演家と協議すること

(イ) 期間延長請求権(本指針9頁、本指針概要3頁)

 芸能事務所と実演家との間の契約満了時に、実演家が退所(更新しない旨)を申し出た場合でも、芸能事務所のみの判断で契約を一方的に更新できる権利として期間延長請求権が規定される例があるとされています(令和6年報告書31頁~33頁)。期間延長請求権の定めは、一定の場合には、優越的地位の濫用、排他条件的取引又は拘束条件付取引として独占禁止法上問題となり得るとされています。
 本指針においては、期間延長請求権は、一般的には、合理的な範囲で育成等費用の未回収分を回収し、かつ、合理的な範囲での収益を確保するという目的のために規定・行使されるのであれば、競争促進効果を有し得るものである一方で、契約期間が満了し、実演家が退所の意思を示しているにもかかわらず、専属マネジメント契約を一方的に延長し拘束するものでもあり、実演家が被る不利益の程度は相当に大きいとされています。そのため、期間延長請求権の規定は、飽くまで例外的にしか許容されないものであるとの見解が示されています。
 芸能事務所は、以下のような対応が求められることになります。
① 期間延長請求権を契約上規定する場合には、育成等費用を合理的な範囲で回収し、かつ、合理的な範囲で収益の確保の必要性があると認められる場合において、1回に限る等、合理的な範囲で行使できるものとし、契約締結の段階(又は更新の段階)において、実演家に対して、その必要性や行使できる範囲も含め、十分に説明し実演家と協議すること
② 期間延長請求権を行使する際は、金銭的補償による代替を検討した上で、合理的な範囲で育成等費用の未回収分を回収し、かつ、合理的な範囲で収益を確保するために必要な期間とし、その理由について実演家に対して十分に説明すること

イ 競業避止義務等の規定(本指針11頁、本指針概要3頁)

 芸能事務所と実演家の契約においては、契約終了後の一定期間又は無期限で、退所した実演家が一切の芸能活動を行わない、他の芸能事務所に対して役務提供を行わない、フリー(特定の芸能事務所に所属せずに活動すること)として活動する等の活動制限が課される例があるとされます(令和6年報告書36頁)。実務的には、一定のキャラクター・設定を退職後にそのまま利用しないという意味での競業を禁止する例も見られます。競業避止義務等の規定の定めは、一定の場合には、優越的地位の濫用、排他条件的取引又は拘束条件付取引として独占禁止法上問題となり得るとされています。
 本指針においては、芸能分野においては、基本的に実演のみを行い、芸能事務所の運営そのものには関わることがない実演家が営業秘密等を知ることは例外的な場合であると考えられることなどを踏まえると、そもそも競業避止義務としての活動制限を課すこと自体の必要性・相当性が認められない可能性が高いとされています。
 実演家の活動を不当に制限しないという観点から、芸能事務所は、以下のような対応が求められることになります。
① 原則として、契約上、競業避止義務等を規定しないこと(既存の契約で定められている場合は競業避止義務等を定める条項を削除すること)
② 仮に、保護すべき営業秘密を実演家が把握するような場合には、より競争制限的でない他の手段として、まずは秘密保持契約の締結を検討すること

ウ 移籍・独立に係る妨害行為(本指針13頁、本指針概要4頁)

(ア) 移籍・独立に係る金銭的給付の要求

 実演家が退所する際に、芸能事務所から当該実演家に対して金銭的給付の要求を行う例や、退所時の金銭的給付の要求が移籍・独立を妨害する目的で利用される例もあるとされています(令和6年報告書40頁)。移籍・独立に係る金銭的給付は、一定の場合には、優越的地位の濫用、排他条件付取引、拘束条件付取引、欺瞞的顧客誘引などとして独占禁止法上問題となり得ます。
 本指針においては、合理的な範囲で育成等費用の未回収分を回収し、かつ、合理的な範囲で利益を確保するという目的に比して不相当に高額な金銭的給付を要求することは、実演家の移籍・独立を躊躇させるなど、実演家の自由かつ自主的な判断による取引を阻害する効果等も有するとされています。
 そのため、金銭的給付の要求は、この目的の達成のために合理的な必要性かつ手段の相当性が認められる範囲に限って行われるべきであるとの見解が示されています(金銭的給付自体を否定するわけではないようです。)。
 芸能事務所には、以下のような対応が求められることになります。
① 実演家が退所する際に金銭的給付の要求を行うことがある場合には、あらかじめ契約上規定しておくことが望ましい
② 特に、合理的な範囲で育成等費用の未回収分を回収し、かつ、合理的な範囲での収益を確保するため金銭的給付を要求する場合に、要求する金銭の額が高額となり得るときは、考え方や算定方法等を契約上規定し、契約締結及び更新の段階において、実演家に対して、その必要性も含め、十分に説明し、協議すること
③ 金銭的給付の要求は、合理的な範囲で育成等費用の未回収分を回収し、かつ、合理的な範囲での収益を確保するため、必要かつ相当と認められる範囲に限るものとすること
④ 退所する際に実際に金銭的給付の要求を行う場合は、実演家に対して、要求する金額の算定根拠を示すとともに、その必要性・相当性を十分に説明し、実演家と協議すること
⑤ 金銭的給付の要求を行う場合は、実演家の移籍又は独立後の収入を考慮しサンセット条項(※)とすることや、移籍先の事務所との間で合理的な範囲で金銭的給付について協議することも検討すること
※ ここでいう「サンセット条項」とは、実演家が、退所後の収入に対して漸減していく比率を乗じた金額(ただし、上記で算定した金額を超えないこと)を所属していた芸能事務所に支払う旨の条項を指す(本指針14頁)。

(イ) 移籍・独立を希望する実演家に対する妨害

 実演家が、芸能事務所からの移籍を直接又は間接的に妨害する行為を受ける例があるとされています(令和6年報告書44頁)。
 本指針においては、芸能事務所は、実演家が契約を満了するに当たって移籍・独立の申出を行った際は、円滑に移籍・独立できるように適切に対応すべきであるとされています。
 具体的には、①実演家が契約を満了するに当たって移籍・独立の申出を行った際は、移籍後の活動に際して必要となる連絡先、留意事項等を移籍先の事務所に伝達する、②実演家の移籍・独立を妨害するような言動をしない等が求められます。

(ウ) 移籍・独立した実演家に対する妨害

 芸能事務所から移籍・独立した実演家が、芸能事務所から、移籍・独立後に不利益な扱いを受けるような働きかけを受ける例があるとされています(令和6年報告書49頁)。残念ながら、実務上もそのような例(また、取引先による忖度を含む)は後を絶ちません。
 本指針においては、退所した実演家が本来行うことができた業務を行えなくさせる行為は許容されるものではないとされています。具体的には、移籍・独立した実演家の活動を妨害するような言動をしない、移籍・独立した実演家について、放送事業者に対して、起用を見送らせるというようなことにならないよう言動に留意すること等があげられています。

(エ) 共同又は事業者団体による移籍制限等

 芸能事務所において、芸能事務所間の移籍の禁止に業界の共通認識が形成されており、実演家が移籍すること全般について広く忌避感がある状況にあるとされています(令和6年報告書56~57頁)。
 本指針においては、複数の芸能事務所が共同して、又は事業者団体において実演家の移籍を制限することは、実演家が所属する芸能事務所を自由に選択することを妨げ、芸能事務所間の競争を回避・停止するものであることから、強い競争制限効果を有するとされています。取引先による忖度も広い意味で係る規制の対象といえます。
 芸能事務所は、以下のような対応が求められることになります。
① 複数の芸能事務所が共同して、又は事業者団体において実演家の移籍を制限したり、移籍を希望する実演家との契約を拒絶したりせず、各芸能事務所の自主的な判断により実演家と契約すること
② 移籍してくる実演家に一定期間フリーとして活動を行うことを求めず、実演家の自由な選択に委ねること

エ 実演家の権利に対する行為(本指針19頁、本指針概要5頁)

(ア) 成果物に係る各種権利等の利用許諾

 著作権法上、実演家固有の権利が法定されており、これらの権利は実演家に帰属するとされています。一方、芸能事務所と実演家との間の契約においては、実演家が保有・取得する各種権利等を芸能事務所に譲渡・帰属させる例や実演家の退所後において当該実演家が所属していた間に発生した成果物に係る各種権利等を芸能事務所が全て保有し続ける例が相当程度あるとされています(令和6年報告書61~63頁)。
 本指針においては、実演家の実演により生じる各種権利等を当該実演の時点で所属している芸能事務所に帰属させること自体には、芸能事務所が各種権利等から収益を上げることを可能にするとともに、実演家の能力向上へのインセンティブとなり得るなどの点で一定の合理性もあるとされています。もっとも、実演家が、退所後に各種権利等の利用を申し出たが正当な理由なく許諾されないケースが報告されている点については問題視されています(令和6年報告書61~63頁)。権利を芸能事務所に帰属させること自体というよりも、実演家による利用を一切認めないことが問題視されているようです。
 そのため、芸能事務所には、以下のような対応が求められることになります。
① 放送事業者等の取引先等から利用の申出があった場合には、各種権利等の利用を許諾しないことに合理的な理由がなければ、各種権利等の利用を許諾すること
② 各種権利等の利用を許諾しない場合にはその理由について許諾を求めた者に十分説明すること

(イ) 芸名・グループ名の使用制限

 実演家の芸名等に関する権利は、当該実演家の退所後も所属していた芸能事務所に帰属する場合があり、芸能事務所が、退所する実演家に対して、それまで使用していた芸名等の使用を制限することがあるとされています(令和6年報告書64~65頁)。
 本指針においては、契約期間中、芸名等に関する権利を芸能事務所に帰属させることは、芸能事務所が、芸名等の管理を行うことを容易にし、芸名等に係る顧客吸引力などの価値の向上に投資することを促すなど競争促進効果を有し得るものである一方で、芸能事務所が退所する実演家に対して芸名等の使用を制限する行為は、その後の実演家の活動に大きな支障を与え、収益が減少するなどの深刻な不利益を生じさせるものであるとされています。ただし、芸名・グループ名が一定のキャラクターシンボル・設定であったりする場合には、退職後の実演家にこれをそのまま利用させることに抵抗がある場合も多いかと思われます。
 そのため、実演家が、移籍・独立した後も同一の芸名等を使用して自由に活動ができるようにするという観点から、芸能事務所は、以下のような対応が求められることになります。
① 芸名又はグループ名(以下「芸名等」という。)に関する権利を芸能事務所に帰属させる場合には、あらかじめ契約上に明確に規定した上で、実演家に対して十分に説明し、実演家と協議すること
② 合理的な理由が無い限り芸名等の使用の制限を行わず、制限する場合においてもその制限の方法は合理的な範囲の使用料の支払等の代替的な手段も含めて合理的なものとし、その理由について実演家に十分に説明し、実演家と協議すること

オ 実演家の待遇に関する行為(本指針22頁、本指針概要6頁)

(ア) 報酬に関する一方的決定

 芸能事務所が、実演家の報酬に関する交渉に応じない、事前の説明なしに経費等を差し引く、グッズ販売による収益等の扱いについて実演家と協議せず、配分しないなどの例があるとされています(令和6年報告書70~73頁)。
 本指針においては、実演家に適切に収益が還元されるようにするためには、報酬の条件等をできる限り明確化し、芸能事務所と実演家の間で十分な協議が行われる必要があるとされています。
 芸能事務所は、以下のような対応が求められることになります。
① 契約締結時、契約更新時、又は相当期間ごとに、実演家と十分な協議を行った上で、報酬(二次使用料、SNSやファンクラブ運営、グッズ販売による収益等の配分を含む。)の額・歩合の率、実演家が負担することとなる経費(報酬から控除する経費)等の条件について、できる限り契約上明記すること
② 契約上規定していなかった経費を実演家に請求する又は実演家の報酬額から控除する場合においては、当該経費について十分説明し、実演家と協議の上、合意された場合にのみ行うこと

(イ) 業務の強制

 芸能事務所と実演家との間の契約において、実演家が望んでいない業務を強制される場合があると指摘されています(令和6年報告書73頁)。
 本指針においては、本来、実演家と芸能事務所は、雇用関係にはないことから、芸能事務所が実演家に指揮命令をするものではなく、実演家の意に反するものであれば、実演家は芸能事務所の提案した業務を断ることもできるとされています。
 それにもかかわらず、芸能事務所が実演家に対して業務を強制すれば、実演家の自由な業務の選択が阻害され、本来望む方向の実演依頼が来なくなるなどにより実演家本人に不利益が生じるおそれもあるとの見解が示されています。
 そのため、芸能事務所は、以下のような対応が求められることになります。
① 取引先から依頼を受けた業務の具体的内容について事前に実演家に提示し、その意向を確認すること
② 実演家が希望しない可能性がある内容の業務の依頼を取引先から受け、実演家の将来を見据えた育成やプロモーションなどの観点からその業務を引き受けようとする場合には、その必要性などを実演家に十分に説明し、実演家と協議した上で、実演家本人が納得した場合に限り引き受けること
③ 実演家が特定の業務を拒否した場合に、当該実演家について合理的な理由なくその他の業務も含めて一律に営業活動を行わないというような報復等を行ってはならず、実演家の自由な選択を尊重すること

カ  契約の透明性を妨げる行為(本指針25頁、本指針概要6頁)

(ア) 契約を書面により行わないこと、契約内容を十分に説明しないこと

 芸能事務所が所属を希望する実演家と契約を行う際には契約内容(業務の内容、報酬額の算出方法等)を明確化した上で、契約を書面で行う重要な契約内容については、積極的に、その目的を含め十分に説明するとともに、専属契約期間、期間延長請求権、競業避止義務、権利・芸名に関する権利の帰属関係、報酬関係などの重要な条項については分かりやすく説明するべきとされています。

(イ) 実演家に対する実演等に係る取引内容の明示

 芸能事務所等が、実演家へ業務を依頼する際には、芸能事務所がその時点で知り得る実演等に係る取引内容の詳細を明らかにすることが求められています。実演等に係る取引内容を事前に知らせないことは、当事者の属性や取引状況によっては、下請法第3条(書面交付義務)又はフリーランス・事業者間取引適正化等法第3条(取引条件の明示義務)に違反する可能性があります(※)。

(ウ) 実演家に対する実演等に係る取引内容の明示

 実演家に歩合制により報酬を支払う場合には、以下について、明示すべきとされています。
① 実演家の業務ごと(芸能事務所と取引先との契約ごと)の契約金額の総額
② ①のうち芸能事務所及び実演家それぞれへの分配額又は比率
③ ②の実演家への報酬額から差し引く費用等がある場合は、その項目及び金額

(2) 放送事業者等が採るべき行動(本指針30頁、本指針概要7頁)

 放送事業者等と芸能事務所・実演家との契約が書面で行われていないことが多く、書面の有無にかかわらず、個々の実演の条件面が事前に放送事業者等と芸能事務所・実演家との間で決定(又は調整)されずに業務が一方的に発注されていることが多いとされています(令和6年報告書83~89頁)。
 なお、ここでも当事者の属性や取引状況によっては、下請法第3条(書面交付義務)又はフリーランス・事業者間取引適正化等法第3条(取引条件の明示義務)に違反する可能性があります。
 本指針においては、①芸能事務所・実演家に対して、業務依頼時に、可能な限り具体的な契約条件(報酬の金額や支払条件、業務内容、拘束期間など)を書面等(メールや電子ファイル等を含む。)で示すこと、②芸能事務所・実演家に対して、契約条件(報酬の金額や支払条件、業務内容、拘束期間など)等について、交渉の機会を設ける等により、芸能事務所・実演家からの意見を確認し、十分に説明し、協議すること等が求められています。

(3) レコード会社が採るべき行動(本指針32頁、本指針概要7頁)

ア   実演収録禁止条項の規定

 実演収録禁止条項とは、レコード会社と芸能事務所・実演家との専属実演家契約において、契約終了後の一定期間、実演家による当該レコード会社以外における収録のための実演(原盤制作、配信等を目的とする実演)を行うことを禁止する条項をいいます。実質的には競業避止義務と同様のイメージです。実演禁止条項は、一定の場合には、優越的地位の濫用、排他条件付取引又は拘束条件取引として独占禁止法上問題となりうるものとされています。
 実演収録禁止条項を規定する目的としては、レコード会社が専属期間中に人的及び金銭的な投資をしていることへの「フリーライドの防止」や、「専属期間中に他のレコード会社のために収録することを防ぐため」(専属義務違反の予防)という目的もあるとされるものの、本指針によると、必要性・相当性に疑問があるとされています。
 専属実演家契約終了後の実演家の自由な活動を実現するという観点から、レコード会社は、以下のような対応が求められることになります。
① 契約終了後に一定期間の実演の収録を禁止する実演収録禁止条項を定める目的を確認し、契約上実演収録禁止条項を規定することだけでなく規定しないことを含め、当該規定の必要性・相当性を検証し、規定する場合には、必要性・相当性を含め実演家等に十分説明し、協議すること
② 実演収録禁止条項を定める目的から必要性等があると認められる場合であっても、禁止する対象や期間を、当該目的のために必要かつ相当な範囲に限定すること

イ   再録禁止条項

 再録禁止条項とは、レコード会社と芸能事務所・実演家との専属実演家契約において、契約終了後の一定期間、実演家が当該レコード会社において既にリリースした楽曲等に係る収録のための実演(原盤制作、配信等を目的とする実演)を行うことを禁止する条項をいいます。再録禁止条項は、一定の場合には、優越的地位の濫用、排他条件付取引又は拘束条件取引として独占禁止法上問題となりうるものとされています(令和6年報告書97頁)。
 本指針によると、レコード会社は、以下のような対応が求められることになります。
① 再録禁止条項を定めるに当たり、合理的な範囲での投資の回収や合理的な範囲での収益の確保という目的のために必要な楽曲についてのみ再録禁止条項の対象とし、当該目的のために必要かつ相当な期間を設定すること
② 再録禁止条項の効力発生の起算点について、必要性・相当性が認められる方法で設定すること
③ 再録禁止条項について、リリースからの期間等を考慮して柔軟に対応すること
④ 再録禁止条項は、楽曲のリリース後の合理的な範囲での投資の回収や合理的な範囲での収益の確保という目的のために必要かつ相当な範囲に限定すること

3. おわりに

 公正取引委員会は、今後、関係府省庁・関係事業者団体等の協力を得て、本指針の周知を徹底し、芸能事務所等が本指針に記載の採るべき行動に沿わないような行為をすることにより、公正な競争を阻害するおそれがある等の場合には厳正・的確に対処するとしています。そのため、芸能事務所等は、実演家との契約関係を構築するにあたって、本指針を遵守する必要があると考えられます。

以 上

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