〒100-6114
東京都千代田区永田町2丁目11番1号
山王パークタワー12階(お客さま受付)・14階

東京メトロ 銀座線:溜池山王駅 7番出口(地下直結)

東京メトロ 南北線:溜池山王駅 7番出口(地下直結)

東京メトロ 千代田線:国会議事堂前駅 5番出口 徒歩3分

東京メトロ 丸の内線:国会議事堂前駅 5番出口
徒歩10分(千代田線ホーム経由)

ニューズレター
Newsletter
<目次>
1. はじめに
2. 盛土規制法の概要①:スキマのない規制
(1) 規制区域
(2) 規制対象行為
(3) 規制内容
3. 盛土規制法の概要②:盛土等の安全性の確保
(1) 許可基準(法12条2項各号、30条2項各号)
(2) 許可後の手続
4. 盛土規制法の概要③:責任の所在の明確化
(1) 管理責任
(2) 監督処分
(3) 勧告
(4) 改善命令
5. 盛土規制法の概要④:実効性のある罰則
(1) 工事の適切な施工に関する罰則(法55条)
(2) 工事後の適正な管理に関する罰則(法56条)

1.  はじめに

 令和5(2023)年5月26日に通称盛土規制法が施行され、現在までその運用がなされていますが、各自治体の条例も含めて必ずしも適切にその遵守がなされていない状況にあります。
 本ニューズレターでは、前編・後編に分けて、令和5(2023)年施行の盛土規制法の概要および同法に関連する民事・刑事責任、同法の施行状況に見る自治体対応の留意点について解説します。

 盛土規制法には、以下の⑴ないし⑷の4つのポイントがあります。
 (1) スキマのない規制
 (2) 盛土等の安全性の確保
 (3) 責任の所在の明確化
 (4) 実効性のある罰則の措置

 以下では、盛土規制法のポイントについて解説します。
 なお、盛土規制法違反の場合の民事・刑事責任、同法の施行状況に見る自治体対応の留意点については、本ニューズレター前編をご覧ください。

2. 盛土規制法の概要①:スキマのない規制

【概要】

  • 土地の用途(宅地、森林、農地等)にかかわらず、危険な盛土等を全国一律の基準で包括的に規制することになりました。
  • 都道府県知事が規制区域を指定することとし、当該区域内の造成は許可制とされました。
  • 農地・森林の造成や土石の一時的な堆積も含め許可制とすることになりました。

(1)規制区域

 都道府県知事が、盛土等により人家等に被害を及ぼし得る区域を規制区域として指定します。規制区域には、宅地造成等工事規制区域と特定盛土等規制区域の2つがあります(※)。
 施行後5年以内(令和10(2028)年5月頃まで)に規制区域の指定完了を目指す方針です。
※ 国土交通省パンフレット参照

ア 宅地造成等工事規制区域(法10条1項)

 都道府県知事は、下記のいずれも満たす場合に、市街地や集落その周辺など、人家等が存在するエリアについて、森林や農地を含めて広く「宅地造成等工事規制区域」を指定することができます。

① 市街地等区域であること
② 宅地造成等に伴う災害が発生する蓋然性のある区域であること 
③ 宅地造成等に関する工事について規制を行う必要があるもの

イ 特定盛土等規制区域(法26条1項)

 都道府県知事は下記のいずれも満たす場合に、市街地や集落等からは離れているものの、地形等の条件から人家等に危害を及ぼし得るエリア(斜面地等)として「特定盛土等規制区域」を指定することができます。

 ① 宅地造成等工事規制区域以外の土地の区域
 ② 自然的条件および社会的条件から見て特定盛土等又は土石の堆積が行われた場合に、これに伴う災害により市街地等区域その他の区域の居住者その他の者の生命又は身体に危害を生ずるおそれが特に大きいと認められる区域

2)規制対象行為

 以下の土地の形質の変更およびその他の工事が都道府県知事等の許可の対象とされています。

宅地造成(法2条2号)
 宅地以外の土地を宅地にするために行う盛土その他の土地の形質の変更で、政令で定めるものをいいます

特定盛土等(法2条3号)
 宅地又は農地等において行う盛土その他の土地の形質の変更で、当該宅地又は農地等に隣接し、又は近接する宅地において災害を発生させるおそれが大きいものとして政令で定めるものをいいます。

土石の堆積(法2条4号)
 宅地又は農地等において行う土石の堆積で、政令で定めるものをいいます。

規制区域内で行われる盛土等に限らず、単なる土捨て行為、一時的な堆積も含まれます。

(3)規制内容

 対象行為には、以下のとおり許可又は届出が必要となります。

  • 宅地造成等工事規制区域内における宅地造成等に関する工事等については、都道府県知事の許可が必要となります(法12条)。
  • 特定盛土等規制区域内における特定盛土等又は土石の堆積に関する工事等については、都道府県知事への届出が必要となります(法27条)。
  • 特定盛土等規制区域内における特定盛土又は土石の堆積(大規模な崖崩れ又は土砂の流出を生じさせるおそれが大きいものとして政令で定めるもの)に関する工事については、都道府県知事の許可が必要となります(法30条)。

3. 盛土規制法の概要②:盛土等の安全性の確保

【概要】

  • 盛土等を行うエリアの地形・地質等に応じて、災害防止のために必要な許可基準を設定することとなりました。
  • 許可基準に沿って安全対策が行われているかどうかを確認するため、定期報告、中間検査、完了検査の実施をすることとなりました。

(1)許可基準(法12条2項各号、30条2項各号)

 都道府県知事は、以下の基準に適合する場合に工事の許可をするものとされています。
・災害防止のための安全基準に適合すること
  なお、地形・地質等に応じて、政令またはその委任を受けた都道府県の規則で災害防止のために必要な技術的基準を設定することができます(法13条1項、31条1項)。
・必要な資力・信用を有すること
・工事施行者が必要な能力を有すること
・土地の所有者全員の同意を得ていること
  なお、あらかじめ周辺住民への説明会の開催等の事前周知が必要とされています(法11条、29条)。

(2)許可後の手続

 許可基準に沿った安全対策が行われているかどうかを確認するため、以下の手段が設けられました。
定期報告
 工事の施行状況(土石の堆積量等も含む)について、3ヶ月ごとに都道府県知事に報告しなければなりません(法19条、38条、規則49条、50条、79条、80条)。
中間検査
 排水施設の設置工事等、工事完了後に確認することが困難となる工程について、都道府県知事の現地検査を受けなければなりません(法18条、37条、令24条、32条)。
完了検査
 盛土の形状、擁壁の強度等の安全基準への適合について都道府県知事の現地検査を受けなければなりません(法17条、36条)。

4. 盛土規制法の概要③:責任の所在の明確化

【概要】

  • 土地所有者らに土地を安全な状態に維持する義務が課せられることになりました。
  • 災害防止のため必要なときは、土地所有者等(※)だけでなく、原因行為者(※)に対しても、是正措置等を命令できることになりました。

※「土地所有者等」とは、土地の所有者、管理者もしくは占有者または工事主をいいます(法20条3項)。
※「原因行為者」とは、土地所有者等以外の者の宅地造成等に関する不完全な工事その他の行為によって災害の発生のおそれを生じさせたことが明らかである場合、その行為をした者(その行為が隣地における土地の形質の変更又は土石の堆積であるときは、その土地の所有者を含む。)をいい(法23条2項、42条2項参照)、盛土等を行った造成主や工事施工者、過去の土地所有者等もこれに該当する可能性があります。

(1)管理責任

 土地所有者等が土地を常時安全な状態に維持する責務を有することが明確化されました(法22条1項、41条1項)。

(2)監督処分

 災害防止のため必要なときは、土地所有者等だけでなく、原因行為者に対しても、是正措置等を命令することができるようになりました。

ア 宅地造成等工事規制区域における監督処分

  • 偽りその他不正な手段により許可を受けたとき、または、許可に付した条件に違反したときの、許可取消(法20条1項)
  • 無許可工事、許可基準・条件違反、中間検査違反に対する、工事施行停止命令・災害防止措置命令(法20条2項)
  • 無許可で工事が施行された土地、中間・完了検査の未受検、技術的基準不適合の土地に対する、土地使用制限・禁止命令、災害防止措置命令(法20条3項)
  • 法20条2項の工事施行停止命令において緊急の必要により弁明の機会の付与ができないとき、法20条2項に該当することが明らかなときの、工事施行停止命令(法20条4項)

イ 特定盛土等規制区域における監督処分

  • 偽りその他不正な手段により許可を受けたとき、または、許可に付した条件に違反したときの、許可取消(法39条1項)
  • 無許可工事、許可基準・条件違反、中間検査違反に対する、工事施行停止命令・災害防止措置命令(法39条2項)
  • 無許可で工事が施行された土地、中間・完了検査の未受検、技術的基準不適合の土地に対する、土地使用制限・禁止命令、災害防止措置命令(法39条3項)
  • 法39条2項の工事施行停止命令において緊急の必要により弁明の機会の付与ができないとき、法39条2項に該当することが明らかなときの、工事施行停止命令(法39条4項)

(3)勧告

ア 宅地造成等工事規制区域

  • 災害の防止のため必要があるときの、擁壁等の設置・改造などの災害防止のための必要な措置の勧告(法22条2項)

イ 特定盛土等規制区域 

  • 災害の防止のために必要があるときの(工事計画の届出受理日から30日以内)の工事の計画変更等必要な措置の勧告(法27条3項)
  • 災害の防止のため必要があるときの、擁壁等の設置・改造などの災害防止のための必要な措置の勧告(法41条2項)

(4)改善命令

ア 宅地造成等工事規制区域

  • 災害防止措置が未了又は極めて不十分なとき、災害発生のおそれが大きいときの、擁壁等の設置・改造、盛土改良、土石除去などの災害防止工事命令(法23条)

イ 特定盛土等規制区域

  • 正当な理由がなく勧告に係る措置をとらなかったときの、工事の計画変更などの勧告に係る措置をとるべきことの命令(法27条4項)
  • 災害防止措置が未了または極めて不十分なとき、災害発生のおそれが大きいときの、擁壁等の設置・改造、盛土改良、土石除去などの災害防止工事命令(法42条)

5. 盛土規制法の概要④:実効性のある罰則

【概要】

  • 無許可行為や命令違反等に対する罰則について、条例による罰則の上限(拘禁2年以下、罰金100万円以下)より高い水準(拘禁3年以下、罰金1000万円以下)に強化されました。
  • 法人に対しても機能するよう法人重科措置(最大で3億円以下の罰金)が設けられました(法60条)。

1)工事の適切な施工に関する罰則(法55条)

ア 造成主
 ① 無許可盛土等  :3年以下の拘禁または1000万円以下の罰金
 ② 無検査盛土等  :3年以下の拘禁または1000万円以下の罰金
 ③ 安全基準違反  :3年以下の拘禁または1000万円以下の罰金
 ④ ①~③の違反事案:災害防止措置命令に違反した場合、3年以下の拘禁または1000万円以下の罰金

イ 設計者
 ③ 安全基準違反  :3年以下の拘禁または1000万円以下の罰金

ウ 工事施工者
 ③ 安全基準違反  :3年以下の拘禁または1000万円以下の罰金
 ④ ①~③の違反事案:工事施工停止命令に違反した場合、3年以下の拘禁または1000万円以下の罰金

エ 土地所有者等
 ④ ①~③の違反事案:土地の使用禁止命令・災害防止措置命令に違反した場合、3年以下の拘禁または1000万円以下の罰金

(2)工事後の適正な管理に関する罰則(法56条)

  • 土地所有者等    :管理不全等により安全性に問題が生じ、改善命令にも従わなかった場合、1年以下の拘禁または300万円以下の罰金
  • 原因行為者     :管理不全等により安全性に問題が生じ、改善命令にも従わなかった場合、1年以下の拘禁または300万円以下の罰金

以 上

ニューズレターのメール配信はこちら