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<目次>
1.はじめに(熱中症事故の増加)
2.安全配慮義務
3.福岡地裁令和6年2月13日判決(新星興業事件)
(1)概要
(2)熱中症対策に関する安全配慮義務の内容
4.経審改正と熱中症対策
(1)経審改正の概要
(2)自主宣言制度と熱中症対策
5.「建設工事における猛暑対策サポートパッケージ」の策定
6. 安全配慮義務との関係

1. はじめに

 近年、猛暑が厳しさを増す中で、企業における熱中症対策の重要性が高まっています。特に、屋外作業が多い建設業においては、例年、熱中症が多数発生しており、各行政機関や業界団体からも警鐘が鳴らされています。実際にも、重篤化して死亡に至る事例も後を絶たず(※1)、労災を巡る裁判に発展することも多くあります。

(※1) 建設業労働災害防止協会ウェブサイト「熱中症予防対策」参照

 近時、熱中症対策に関して企業が負う安全配慮義務の内容について判断を示した裁判例が出ており、熱中症対策の不備が安全配慮義務違反として高額の損害賠償責任を生じ得ることが再確認されています。
 本稿では、上記裁判例を紹介するとともに、建設業をはじめとする各企業が熱中症対策措置を講ずる上で留意すべき点について解説します。

2.安全配慮義務

 使用者は、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとされています(いわゆる「安全配慮義務」、労働契約法5条)。近年の判例では、安全配慮義務につき、「労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務」と定義されています。
 使用者が安全配慮義務に違反した場合、これによって労働者に生じた損害につき、被災労働者や遺族から損害賠償請求を受けることがあります。

3.福岡地裁令和6213日判決(新星興業事件)

(1)概要

 本判決は、船舶の修理等の業務を行う会社に勤務する30代の社員がサウジアラビアに出張し、屋外で船のバケット補修工事に従事していたところ、熱中症を発症して死亡した事案について、勤務先の会社に安全配慮義務違反があったとして、4800万円余りの損害賠償責任を認めました。

(2)熱中症対策に関する安全配慮義務の内容

 本判決は、使用者は安全配慮義務の一環として熱中症対策措置を講じる義務を負うことを明示しています。
 また、使用者が負うべき安全配慮義務の具体的な内容については、以下のとおり、事業者及び労働者に対して周知されていた通達やマニュアル、パンフレット等に挙げられている熱中症対策の内容を参考とすべきことを明らかにしています。
 本事案において使用者が負っていた安全配慮義務の具体的内容を検討するにあたっては、以下のような通達やマニュアル、パンフレット等に記載された熱中症対策措置を参照して、同措置を講ずべき義務があったとし、使用者において熱中症対策のための一定の措置を講じていたことを認めた上で、なお上記の熱中症対策措置としては不十分であった(体調や食事の摂取の有無について確認した上で、遅くとも、同日の昼食を摂取しなかったとの事実が生じた頃までには、作業を中止させるなどの措置を講ずべき義務があった)として、安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を認めています。

  • 「熱中症診療ガイドライン2015」【日本救急医学会】
  • 「熱中症の予防について」【平成8年5月21日付け基発第329号】
  • 「熱中症の予防対策におけるWBGTの活用について」【平成17年7月29日付け基安発第0729001号】
  • 「職場における熱中症の予防について」【平成21年6月19日付け基発第0619001号】
  • 「職場における熱中症の予防について」と題するパンフレット【厚生労働省労働基準局・都道府県労働局・労働基準監督署作成】
  • 「職場における熱中症予防対策マニュアル」【平成21年7月2日作成】
  • 「熱中症を防ごう!」と題するパンフレット【平成23年3月・厚生労働省労働基準局・都道府県労働局・労働基準監督署作成】

4.経審改正と熱中症対策

(1)経審改正の概要

 経営事項審査(以下「経審」といいます。)とは、国、地方公共団体などが発注する公共事業を直接請け負おうとする場合に必ず受けなければならない審査です(建設業法27条の23)。公共事業の各発注機関は、競争入札に参加しようとする建設業者について、欠格要件に該当しないかを審査した上で、「客観的事項」と「発注者別評価」の審査結果を点数化(総合点数)して、格付けが行われているところ、このうち「客観的事項」にあたる審査が経審となります。
 令和8年7月1日より、持続可能な建設業に向けた①担い手の育成・確保や、「地域の守り手」としての②災害対応力の強化の取組の努力を適正に評価・後押しするとともに、③建設業許可要件の改正を踏まえた審査項目・基準の見直しを実施する観点から改正された経審が施行されることとなりました(※2)。

(※2)国土交通省「経営事項審査の主な改正事項 (令和8年7月1日施行)

(2)自主宣言制度と熱中症対策

ア 自主宣言制度の概要

 経審の改正により、評価項目のうち「その他審査項目(社会性等)」において、「『建設技能者を大切にする企業の自主宣言制度』の宣言の有無」が新設され、自主宣言制度の宣言状況が加点項目として追加されました(宣言を行った場合は5点の加点)。
 「建設技能者を大切にする企業の自主宣言制度」(※3)とは、所定の宣言内容を満たす建設事業者が、元請事業者・下請事業者・発注者のいずれかの立場にてオンラインで申請を行い、国土交通省の専用ポータルサイト上で「宣言企業」として登録・公表される制度です。
 自主宣言制度における宣言内容としては、必須項目と任意項目に分けられ、必須項目に未記載の項目がある場合には宣言を行うことができないものとされています。

(※3)国土交通省ウェブサイト「建設技能者を大切にする企業の自主宣言【愛称】職人いきいき宣言

イ 熱中症対策

 自主宣言制度の宣言内容における必須項目のうち、「技能者の適切な処遇を確保するための取組を行う。」との宣言項目において、1つ以上の回答が求められる宣言内容の一内容として「工事現場毎に適した熱中症対策を導入」することが挙げられています。
 熱中症対策の内容としては、①暑さ指数(WBGT値)の計測と周知を実施した上で、②暑さ指数軽減対策をしていること(大型扇風機やドライミスト、遮光ネット等を使用)、③冷房付き休憩所を設置、④水分・塩分が常時摂取できる体制構築、⑤空調機付の作業服等の体温を下げる機能を含んだ作業服を支給、のいずれかを実施していることという具体的な措置を講ずることが求められています。

5.「建設工事における猛暑対策サポートパッケージ」の策定

 国土交通省は、近年厳しさを増す猛暑への対策として、建設業団体との意見交換を踏まえ、施工者の自主性を尊重しつつ、地域の実情を考慮し、最新技術を活用した多様な働き方の実現を支援する「建設工事における猛暑対策サポートパッケージ」(※4)を策定しました(令和7年12月23日プレスリリース)。
 「建設工事における猛暑対策サポートパッケージ」では、①猛暑期間・時間の作業回避、②効率的な施工、作業環境の改善、③猛暑対策に必要な経費等の確保、④地方公共団体・民間発注者等への周知・要請、好事例の横展開といった観点から、具体的な取組内容が明示されています。

(※4)国土交通省「建設工事における猛暑対策サポートパッケージ」(令和7年12月23日)

6安全配慮義務との関係

 福岡地裁令和6年2月13日判決(前掲)においては、企業が負う安全配慮義務の内容については、事業者及び労働者に対して周知されていた通達やマニュアル、パンフレット等における熱中症対策の内容を参考とすべきものとされています。
 そのため、建設業者が、自主宣言制度において求められる熱中症対策措置を十分に講じていない場合や、「建設工事における猛暑対策サポートパッケージ」に記載されている熱中症対策措置を十分に講じていない場合には、安全配慮義務違反が認められる可能性が高まると考えられます。
 企業においては、一般的に知られている熱中症対策措置を講じるにとどまらず、自主宣言制度の宣言内容として記載されている具体的な熱中症対策措置や「建設工事における猛暑対策サポートパッケージ」をはじめ、熱中症対策に関して周知されている通達やマニュアル、パンフレット等の内容を把握した上で、記載された熱中症対策措置を適切に実施する必要があるといえます。

以 上

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