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<目次>
1. はじめに
2. 問題の所在―「財物や財産上の利益の得喪を争う行為」の該当性―
(1) 賭博罪の成立否定説①(NFTの価値を販売価格と捉える見解)
(2) 賭博罪の成立否定説②(NFTの価値を販売価格とは別個独立の客観的な価値があると捉える見解)
(3) 賭博罪の成立肯定説
3. 実務上の対応

1. はじめに

2021年に注目を浴びたNFT(非代替性トークン)は、現在もその可能性に大きな注目を集めています。
また、2022年6月に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(令和4年6月7日閣議決定)等において「ブロックチェーン技術を基盤とするNFT(非代替性トークン)の利用等のWeb3.0の推進に向けた環境整備」が盛り込まれたことを踏まえ、同年10月から、デジタル庁においてWeb3.0研究会が開催され、同年12月にWeb3.0研究会報告書が公表されるなど、政府もNFTを含むWeb3.0の推進に取り組んでいます。
各企業においてNFTビジネスを開始するに当たっては、著作権法を初めとした様々な法的検討が必要となると考えられますが、NFTのランダム型販売(購入者による対価の支出後に取得したNFTの内容が判明するような販売方法をいいます。)においては賭博関連罪(刑法185~186条)の成否が問題となります。
NFTのランダム型販売における賭博関連罪の成否は、従来よりその基準が明確ではないとされておりましたが、最近では経済産業省やブロックチェーン業界等における議論が進められ、一定の理解が形成されてきております。
そこで、本ニューズレターでは、NFTのランダム型販売における賭博関連罪の成否に関する議論の状況を紹介するとともに、NFTのランダム型販売を適法に提供するための実務上の対応について解説いたします。

2. 問題の所在―「財物や財産上の利益の得喪を争う行為」の該当性―

NFTのランダム型販売においては、購入者に提供されるNFTが、その希少性やデザインなどから、二次流通市場において、販売価格よりも高額又は低額の値が付くことがあることから、このような販売方法によりNFTを販売・購入することが、賭博関連罪に該当しないかが問題となります。

賭博関連罪で問題となる「賭博」行為とは、概要として以下の行為をいうとされております(※1)。
①偶然の勝敗により
②財物や財産上の利益の
③得喪を争う行為

NFTのランダム型販売は、ランダム式でNFTを販売するという仕組みを採用する以上は、「偶然の勝敗」(①)があり、また、ランダム型販売を利用する際に購入者が支払う対価はもちろん、事業者が提供するNFTも、二次流通市場で売却することができることから、「財物や財産上の利益」(②)に該当するものと考えられます。そのため、NFTのランダム型販売における賭博罪の成否は、販売者と購入者の間又は購入者相互間に「得喪を争う行為」(③)に該当するかどうかが重要となります。
この点、「得喪を争う行為」とは、勝者が財物や財産上の利益を得て、敗者は財物や財産上の利益を失うという相互的な関係をいうと考えられています。すなわち、仮に当事者の一方が財物や財産上の利益を失うことがない場合には、この要件を満たさず「賭博」行為には該当しないと考えられています(※2)。
例えば、必ず販売価格以上の商品が得られる福袋は、購入者がどの福袋を選択した場合であっても対価以上の商品を取得できることから、賭博行為には当たらないものと考えられます(※3)。
ランダム型販売においても、販売者と購入者の間又は購入者相互間に「得喪を争う」関係が認められれば、賭博罪が成立する可能性がございます。この点については、以下のとおり複数の見解が見受けられます。

(※1)山口厚「刑法各論〔第2版〕」517頁(2010、有斐閣)、西田典之「刑法各論〔第7版〕」425頁(2018、弘文堂)
(※2)大塚仁ほか「大コンメンタール刑法第9巻〔第174条~第192条〕〔第三版〕」128頁(2013、青林書院)、大判大正6年4月30日民録23輯436頁、大判大正9年10月26日刑録26輯743号、大判昭和8年12月22日刑集12巻24号2417頁
(※3)例えば、後記の「スポーツコンテンツ・データビジネスの拡大に向けた権利の在り方研究会」において経済産業省が作成した資料「スポーツ分野でのNFT/FTの可能性と課題」20頁(2022年2月7日)においても、このような福袋の販売が適法であることが示されております。

(1)賭博罪の成立否定説①(NFTの価値を販売価格と捉える見解)

まず、NFTのランダム型販売の場合、NFTの販売者自らが同一のNFTを販売価格よりも低い価格で取り扱っているなどの事情がない限り、NFTの価値は、原則として販売者が設定する販売価格であると捉え、①販売者と購入者の間並びに②購入者相互間において、いずれも「財物や財産上の利益の得喪を争う」は生じず、賭博罪は成立しないとする見解があります。
すなわち、①販売者と購入者の間においては、販売者においては自らが設定した販売価格に相当する額の金銭又は暗号資産等(財産上の利益)を得、購入者は、販売価格に相当する価値を有するNFT(財産上の利益)を取得することから、財物や財産上の利益の「得喪を争う」関係にないとし、②購入者相互間においても、いずれの購入者も販売価格相当の価値を有するNFT(財産上の利益)を取得することから、財物や財産上の利益の「得喪を争う」関係にないと考えます。
例えば、ブロックチェーン業界が策定している以下のガイドラインでは、この見解が採用されております。

【一般社団法人ブロックチェーン推進協会ほか「NFT のランダム型販売に関するガイドライン」6頁(2022年10月12日)】
NFTのランダム型販売においては、NFTが交付されない等のいわゆる「ハズレ」を明確に設定しない限り、原則として、販売会社は実際の販売価格に相当する金額の金銭等(財物)を得て、ユーザーは実際に支払った金額に相当する価値を有するNFT(財物)を得ることになるといえるため、勝者が財物を得て敗者は財物を失うという相互得喪の関係は認められず、財物の「得喪を争う」関係は生じないものと考えられる。

また、経済産業省が設置した「スポーツコンテンツ・データビジネスの拡大に向けた権利の在り方研究会」において提出された、東京大学大学院政治学研究科の橋爪隆教授の意見書や、平尾覚弁護士らの意見書でも、このような見解が採用されております(※4)。

もっとも、同見解に立った場合でも、NFTの経済的な価額が明確に算定可能であり、かつ、販売者が、一定の購入者には、販売価格の価額を下回る価値しか有しないNFTを販売している場合などには、賭博罪が成立する可能性があることが示唆されています。例えば、上記の「NFTのランダム型販売に関するガイドライン」においては、以下のような行為が行われる場合には、賭博罪が成立する可能性があることが示唆されています。

  • ランダム型販売されるNFTの中に、販売者自らがランダム型販売の販売価格より低い価格で別売りしているNFTを含める
  • ランダム型販売されるNFTを、販売者自らが二次流通市場でランダム型販売の販売価格とは異なる価格を設定して、自ら買取りや転売を行う
  • ランダム型販売において、NFTを取得できないいわゆる「ハズレ」を設定する

(※4)これらの意見書はいずれも経産省のウェブページで公表されています(https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/sports_content/005.html)。

(2)賭博罪の成立否定説②(NFTの価値を販売価格とは別個独立の客観的な価値があると捉える見解)

次に、NFTには理論上「市場価格」を観念し得ることから、購入者においては、NFTの販売価格と当該NFTの市場価格との差額が利益又は損失になり得るとしたうえで、①販売者と購入者の間においては、販売者は、どのようなNFTを提供する場合であっても、NFTの販売価格として設定した金額を取得できることから、販売者が当該NFTの換金に応じない限りは、販売者が財産上の利益の喪失をすることがないため、賭博罪は成立しないとし、②販売者相互間においては、ある購入者の結果が他の購入者の結果に影響を及ぼす「従属試行」の仕組みを採用しなければ、賭博罪は成立しないとする見解があります(※5)。
しかしながら、ランダム型販売において、購入者に対して提供されるNFTの価値を販売価格ではなく、市場価格という販売価格とは別個独立の価値として捉える場合、販売者にとっても、販売価格よりも高い価値(市場価格)を有するNFTを提供する場合には、当該販売価格との差額分の利益を喪失していると思われ、①販売者と購入者の間において財産上の利益の「得喪を争う」関係が生じてしまうのではないかと思われます(※6)。
また、上記見解を前提としても、販売者における得喪を要件としない富くじ罪が成立する可能性もあること(※7)にも注意が必要です。

(※5)野口香織「Web3への法務Q&A」128~130頁(2022、金融財政事情研究会)
(※6)この点については、天羽健介ほか「NFTの教科書」248頁〔斉藤創ら〕(2022、朝日新聞出版)においても、「個々のガチャの取引を見れば消費者が投じた経済的利益を超える価値のNFTを排出して運営者に損が生じることがあったり、開発費等の投下資本を運営者が負担していたりする点を踏まえ、運営者に喪失の危険があると評価され得る」と指摘されております。
(※7)富くじ罪は、発売者側において財物喪失の危険が問題とならないという点で、賭博罪と区別されております(大判大正元年10月3日刑録18輯1175頁)。また、その他にも両罪の区別として、抽選の方法を用いているか否か、提供される財物の所有権の移転時期なども総合的に考慮する判例があります(大判大正3年7月28日刑録20輯1548頁)。このような判例を踏まえると、特に抽選の方法に類似した仕組みである「従属試行」の仕組みを採用する場合には、富くじ罪が成立する可能性があるものと思われます。

(3)賭博罪の成立肯定説

他方で、NFTの価値について、上記の成立否定説②と同様に、販売価格とは別個独立の客観的な価値があると捉え、NFTのランダム型販売は、①販売者と購入者の間又は②購入者相互間において、賭博罪が成立する可能性があるとする見解もあります。例えば、NFTに関する実務書においては、以下のとおり指摘がされております。

【天羽健介ほか「NFTの教科書」234頁〔斉藤創ら〕(2022、朝日新聞出版)】
ブロックチェーンゲームのトレーディングカードをNFTとして有償のガチャにより発売するのに際し、排出率やレアリティ、パラメータの強さに差をつけることなく販売する場合や、同一価値のものが排出される旨を宣伝して有償ガチャによりデジタルアートのNFTを販売する場合など、販売時点ではNFTに意図的な価値の差を付さずに利用者に提供されているものであっても、それらの外観や著作者の違い等のさまざまな要素によって将来のNFTの転売市場での需要に差が生じ、利用者が購入の際に消費した経済的利益の価値を下回るNFTの取引価格相場が形成されることが予想できれば、「得喪を争う行為」と評価される可能性がある点には注意が必要です(※8)。

また、ブロックチェーンゲームにおけるランダム式によるNFTアイテム等の提供について、以下のとおり指摘がなされております(※9)。

【松本恒雄「NFTゲーム・ブロックチェーンゲームの法制」138頁(2022、商事法務)】
[賭博の構成要件について]
• アイテム等の価値について損をする人がいなければ該当しない(価値の得喪を考えたときに喪失がなければ該当しない)という考え方が賭博該当性の判断基準として存在する
• 例えば特定のアイテムについて、購入価格よりも低い金額になることはないようにすることが考えられるが、ブロックチェーンゲームにおいては、ゲーム内アイテムの取引が重ねられる中で取引価格が変動するものであり、価値を維持し続けることは困難である
• なお、この考え方自体が戦前の判例であるため、現時点においてどの程度その判断が適用されるかについては疑問が残る

これらの見解は、販売者が提供したNFTの二次流通過程における価値変動に着目し、当該NFTが販売価格を下回るような場合(少なくともそのことが予想できる場合)においては、利用者における財産上の利益の喪失を認めるものと考えられます。
しかしながら、NFTの価値は様々な事情によって変動しうることから、サービスの提供者が二次流通過程における価値変動を予想して価格決定をすることは容易ではないと考えられ(※10)、このような見解が妥当であるかについては議論の余地があるものと思われます。

(※8)もっとも、同文献が発行されたのは、上記の橋爪教授の意見書が出される前であり、同記述の著者である斉藤創弁護士らは、所属する事務所のHPにおける2022年11月4日付けの「ブロックチェーンゲームと暗号資産法、賭博罪、景表法」と題する記事において、実務的には「NFTのランダム型販売に関するガイドライン」に従ったランダム型販売を行うことは許容される旨の意見を表明しています。
(※9)その他、ブロックチェーンコンテンツ協会「ブロックチェーンコンテンツ協会ガイドライン 第2版」(2020 年 12 月 25 日)や長瀬威志ほか「NFTと法律関係(第4回・完) NFTとブロックチェーンゲーム」NBL1211号54頁(2022)も、ガチャの仕組みを有するNFT販売サービスは賭博罪に該当する可能性が高いと指摘しております。
(※10)上記平尾覚意見書4頁、一般社団法人ブロックチェーン推進協会ほか「NFT のランダム型販売に関するガイドライン」7頁(2022年10月12日)

3. 実務上の対応

以上のとおり、NFTのランダム型販売における賭博罪の成否については様々な見解があり得るところですが、近時において成立否定説①が有力に唱えられていることからすれば、ランダム型販売の仕組みによっては賭博関連罪が成立しないと解する余地は十分にあり得るものと考えられます。
もっとも、上記のとおり、成立否定説①のうち、NFTの販売者が提供するNFTの価値は販売者が設定した販売価格を基準とすべきという点については議論があるところです。また、同見解に立ったとしても、場合によっては販売者と購入者の間に財産上の利益の「得喪を争う」関係が生じ、賭博罪が成立する場合があるとされています。そこで、実務上の対応としては、弁護士等の専門家に相談するなどにより、可能な限りリスクを低減していくことが重要であると考えられます。

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