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2024.03.14

新しいヘルスケアビジネスを検討するにあたっての留意点-②広告規制-

<目次>
1. はじめに
2. 広告規制の対象となる「広告」該当性に関する最高裁判所第一小法廷令和3年6月28日決定(刑集75巻7号666頁)
3. 薬機法における広告規制
4. 医療法における広告規制
(1) 広告該当性
(2) 広告可能事項
5. 最後に

1. はじめに

 新たにヘルスケアビジネスを開始するにあたっては、消費者等に当該ヘルスケアサービスの内容を認知させる広告戦略が重要となる。ヘルスケア分野における広告については、一般的な景品表示法や不正競争防止法による規制に加えて、消費者の生命・健康に関わるという観点から、医薬品等については薬機法、医療機関については医療法、健康食品に関しては健康増進法による規制が設けられている。
 近年、薬事法に関わる広告規制について最高裁判所第一小法廷令和3年6月28日決定(刑集75巻7号666頁)が下され、また、医療広告については、厚生労働省に医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会が設置され、令和5年11月20日から医療広告制度において議論が行われ、医療に関する広告規制について新しい規制の動きも出ているところである。医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会によれば、ウェブサイトの監視指導体制の強化により、自由診療を提供する医療機関等のウェブサイトの適正化につなげ、消費者トラブルの減少を目指すとされており(第2回 医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会資料3「ネットパトロール事業について(令和4年度)」)、医療広告規制は厳しくなる見通しである。
そこで、本記事においては、薬機法及び医療法における医療広告規制について、その概要と新しい動きについて説明することとしたい。

2. 広告規制の対象となる「広告」該当性に関する最高裁判所第一小法廷令和3628日決定(刑集757666頁)

 薬機法及び医療法の規制対象となる広告に該当するか否かについて、薬機法についてではあるが、近時、最高裁判所が注目すべき決定を下しており、まず、その概要について説明することとしたい。
 薬機法66条1項は、「何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な『記事を広告し、記述し、又は流布』してはならない」と定め、虚偽・誇大広告を禁止しており、最高裁判所第一小法廷令和3年6月28日決定(刑集75巻7号666頁)は、この「記事を広告し、記述し、又は流布」する行為該当性、いわゆる広告該当性の意義及びその判断方法について判示したものである。事案の概要並びに1審(地方裁判所)、原審(高等裁判所)及び最高裁の判断は以下のとおりである。
 医薬品等の製造販売会社である被告会社の従業員である被告人が、被告会社が製造・販売する高血圧症治療薬Xを使用した医師主導の臨床試験にデータ解析担当者として参加した際、同臨床試験のサブ解析及び補助解析に関し、医師らに内容虚偽のデータを提供し、医師らをして、同データに基づき、他剤と比較してXの有効性が示された旨の内容虚偽の論文を作成させ、これらを海外の学術論文雑誌に投稿させて掲載させた行為(以下「本件行為」という。)について当時の薬事法66条1項(現在の薬機法66条1項)に違反するなどとして、起訴された事案である。
 本件では、「記事を広告し、記述し、又は流布」する行為について、顧客誘引の手段となっていること、すなわち誘因手段性を必要とするかどうかが争われた。
 1審(地方裁判所)は、広告は、顧客を誘引するための手段として広く世間に告げ知らせることをいうとして、本件行為は一般の学術論文の学術雑誌への掲載と異なることはなく、誘因手段性が認められないとして、広告には該当しないとした。
 原審(高等裁判所)は、「広告といえるのは,次の3要件を満たすものと解すべきである。①[認知性]不特定又は多数の者に告知する(予定を含む。)ものであること。②[特定性]告知の中で当該医薬品等が特定されていること。③[誘引手段性]顧客誘引の手段となっていること。そして,③については,(a)[客観的誘引手段性]当該告知行為が,その内容や体裁等からみて顧客誘引の手段としての性質を有していること,(b)[主観的誘引手段性]行為者において,当該告知行為自体を,顧客誘引の手段とする意思があることの両者が必要と解される」としたうえで、本件行為は客観的誘引性及び主観的誘因性を備えておらず、広告には該当しないと判示した。
 最高裁決定は、「『記事を広告し,記述し,又は流布」する行為は,特定の医薬品等に関し,当該医薬品等の購入・処方等を促すための手段として,不特定又は多数の者に対し,・・・告げ知らせる行為をいうと解するのが相当である・・・特定の医薬品等の購入・処方等を促すための手段としてされた告知といえるか否かは,当該告知の内容,性質,態様等に照らし,客観的に判断するのが相当である」としたうえで、「本件各論文の本件各雑誌への掲載は,特定の医薬品の購入・処方等を促すための手段としてされた告知とはいえず」広告に当たらないと判示した。
 最高裁決定は、1審(地方裁判所)及び原審(高等裁判所)が必要と判断した誘因手段性について明確には述べていないが、誘因手段性を要するとした1審(地方裁判所)及び原審(高等裁判所)と基本的には同旨の解釈を採ったと解されている。また、同最高裁決定は、広告該当性の判断においては客観的に判断すると述べていることも重要であり、同最高裁決定によれば、情報受領者の認識し得ない行為者の主観(顧客誘因の手段とする意思の有無)や背景事情等は考慮要素とはならない点には留意が必要である。

3. 薬機法における広告規制

 薬機法は、66条で虚偽・誇大広告の禁止、67条で特殊疾病用の医薬品等の広告規制、68条で未承認医薬品等の広告の禁止を定める。

 厚生労働省は、広告該当性の判断基準について以下のとおり定めている(薬事法における医薬品等の広告の該当性について(平成10年9月29日医薬監第148号都道府県衛生主管部(局)長あて厚生省医薬安全局監視指導課長通知))。一般的に、誘因手段性(①)、特定性(②)、認知性(③)と呼ばれる基準である。
①    顧客を誘引する(顧客の購入意欲を昂進させる)意図が明確であること
②    特定医薬品等の商品名が明らかにされていること
③    一般人が認知できる状態であること

 広告に該当するか否かについては、上記3点を基準に検討されることになる。ただその検討の際には、上記3要件の文言を形式的にとらえるのではなく、規制の趣旨も考慮する必要がある。例えば、特定性(以下の②)については、商品名の記載ではなく一般名の記載(例えば風邪薬)であれば、直ちに特定性を欠くわけではなく、広告全体としてみて特定の商品を指している場合には特定性が肯定されると考えられ、慎重な検討が必要である。なお、後記のとおり、医療広告規制の対象となる広告該当性の判断において認知性は要件となっておらず、また、薬機法においても、不特定又は多数の者への告知であれば、同要件は満たされるため、実務上認知性が問題となることはあまり多くないと思われる。
 実際にどのような広告が許されるのかという点については、厚生労働省が作成した医薬品等適正広告基準が参考になる。例えば、同基準第2には対象となる広告が列挙されており、第4においては広告を行う際の表現の範囲が記載されている。同基準を検討する際には、厚生労働省が作成した「医薬品等適正広告基準の解説及び留意事項等」も合わせて考慮する必要がある。

4. 医療法における広告規制

 病院・診療所による広告については、医療法において、以下の規制を設けている。

虚偽広告の禁止(医療法6条の5第1項)  
比較優良広告、誇大広告、公序良俗に反する内容の広告、患者その他の者の主観又は伝聞に基づく、治療等の内容又は効果に関する体験談の広告、治療等の内容又は効果について、患者等を誤認させるおそれがある治療等の前又は後の写真等の広告の禁止(医療法6条の5第2項、医療法施行規則第1条の9)

 なお、当然のことながら、医療法6条の5第1項が、「何人も、医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関して、文書その他いかなる方法によるを問わず、広告その他の医療を受ける者を誘引するための手段としての表示(以下この節において単に「広告」という。)をする場合には、虚偽の広告をしてはならない」と定めるように、広告規制の対象者は医師や医療機関に限られるわけではない。すなわち、マスコミ、広告代理店、アフィリエイター、患者又は一般人等、何人も広告規制の対象とされる(「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針(医療広告ガイドライン)」(令和5年10月12日最終改正)(以下「医療広告ガイドライン」という。))点に留意が必要である。

 さらに、広告可能事項について、医療法6条の5第3項が定め、同項が定める事項以外の事項については、いわゆる広告可能事項の限定解除の要件(①医療に関する適切な選択に資する情報であって患者等が自ら求めて入手する情報を表示するウェブサイトその他これに準じる広告であること、②表示される情報の内容について、患者等が容易に照会ができるよう、問い合わせ先を記載することその他の方法により明示すること、(自由診療の場合)③診療に係る通常必要とされる治療等の内容、費用等に関する事項について情報を提供すること、④自由診療に係る治療等に係る主なリスク、副作用等に関する事項について情報を提供すること)を満たした場合に広告可能という建て付けとなっている(医療法6条の5第3項、医療法施行規則1条の9の2)。
以下では、実務上問題となることが多い、①広告該当性及び②広告可能事項について述べることとする。

(1) 広告該当性

 医療法6条の5第1項は「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関して、文書その他いかなる方法によるを問わず、広告その他の医療を受ける者を誘引するための手段としての表示」を広告と定める。
 当該広告の判断基準について、医療広告ガイドラインは、以下の①及び②を満たすものを広告に該当するとしている。上記薬機法における広告と異なる点は、医療広告規制の対象となる広告には認知性が要求されていない点である。かつては医療広告該当性の判断基準として認知性も要求され、患者自ら情報を求めて検索して見るものとされていいたウェブサイト等は、一般人が認知できるものではないとして、この認知性の要件を欠き、広告には該当しないと解釈されていた。しかし、平成29年の医療法の改正において、インターネットが普及する環境の中で、ウェブサイト等も医療法の広告規制の対象とすることとしたこととの関係で、認知性の要件は除外されることとされたものである。

患者の受診等を誘引する意図があること(誘引性)
医業若しくは歯科医業を提供する者の氏名若しくは名称又は病院若しくは診療所の名称が特定可能であること(特定性)

 上記①及び②のうち、実務上主として問題となるのは誘因性(①)である。この誘因性に関する判断については、以下の厚生労働省が作成した「医療広告ガイドラインに関するQ&A」(平成30年8月作成)の回答が参考になる。

Q1-4の回答
「新聞や雑誌等に掲載された治療方法等に関する記事であっても、医療機関が広告料等の費用を負担する等の便宜を図って記事の掲載を依頼し、患者等を誘引するような場合は、誘引性が認められ、いわゆる「記事風広告」として広告に該当します。」
Q2-11の回答
「個人が運営するウェブサイト、SNSの個人のページ及び第三者が運営するいわゆる口コミサイト等への体験談の掲載については、医療機関が広告料等の費用負担等の便宜を図って掲載を依頼しているなどによる誘引性が認められない場合は、広告に該当しません。」

 以上のとおり、「誘引性」は、広告に該当するかどうかを問題とされる情報物の客体の利益を期待して誘引しているか否かにより客観的に判断され、例えば新聞記事は、特定の病院等を推薦している内容であったとしても、「誘引性」の要件を満たさないものとして取り扱うこととされている(医療広告ガイドライン第2の1)。

(2) 広告可能事項

 医療法は広告に該当する場合、広告が可能な事項(広告可能事項)を限定して列挙している(医療法6条の5第3項1号~15号)。広告が可能とされている事項の概要は以下の通りである。

医師又は歯科医師である旨(1号)
診療科名(2号)
当該病院又は診療所の名称、電話番号及び所在の場所を表示する事項並びに当該病院又は診療所の管理者の氏名(3号)
診療日若しくは診療時間又は予約による診療の実施の有無(4号)
法令の規定に基づき一定の医療を担うものとして指定を受けた病院若しくは診療所又は医師若しくは歯科医師である場合には、その旨(5号)
当該病院又は診療所において診療に従事する医療従事者の氏名、年齢、性別、役職、略歴その他の当該医療従事者に関する事項であって医療を受ける者による医療に関する適切な選択に資するものとして厚生労働大臣が定めるもの(9号)
当該病院又は診療所において提供される医療の内容に関する事項(検査、手術その他の治療の方法については、医療を受ける者による医療に関する適切な選択に資するものとして厚生労働大臣が定めるものに限る。)(13号)

 広告可能事項について実務上問題となることが多いのは、自由診療や費用の記載についてである。医療広告ガイドラインは、自由診療のうち、保険診療又は評価療養、患者申出療養若しくは選定療養と同一の検査、手術その他の治療の方法を記載する場合には、公的医療保険が適用されない旨(例えば、「全額自己負担」、「保険証は使えません」、「自由診療」等)及び標準的な費用を併記することを求めている(医療広告ガイドライン第4の4(13))。費用については、費用を強調した広告、提供される医療の内容とは直接関係のない情報を強調し、患者等を誤認させ、不当に患者等を誘引する広告は品位を損ねる内容の広告として禁止されている(医療広告ガイドライン第3の1(8))。

5. 最後に

 これまで述べてきたように、広告規制に抵触するか否かは、監督官庁が作成したガイドラインを参照して判断する必要があるが、ガイドライン等には記載されていない事項や不明確な事項もあり、関連法令の趣旨を踏まえた法的な判断が必要となってくる。薬機法・医療法における広告規制への違反については罰則も定められており(薬機法85条4号等、医療法87条1号)、広告規制への対応は慎重に行う必要がある。

特集記事「新しいヘルスケアビジネスを検討するにあたっての留意点」
第1回 医行為該当性
第2回 広告規制(本記事)
第3回 株式会社によるヘルスケア分野への参入と非営利性