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2024.02.07

新しいヘルスケアビジネスを検討するにあたっての留意点-医行為該当性-

<目次>
1. 医業の医師独占(医師法第17条)について
2. 医業(医行為)該当性の判断の重要性
3. ヘルスケアサービスを設計する際の留意点
(1) 遠隔医療
(2) 消費者向け遺伝子検査
(3) 健康管理アプリ・健康推進アプリ
4. 最後に

1. 医業の医師独占(医師法第17条)について

日本では、急速に高齢化が進み、特に団塊の世代が後期高齢者に達する2025年以降、医療・介護等の社会保障費用が大幅に増加していくことが予想され、予防・未病を推進するヘルスケアサービスの市場拡大は重要な政策課題とされている。しかし他方、ヘルスケアビジネスにおけるサービスの内容が医業に該当し、許されないものなのではないかという懸念が生じる事例も散見される。すなわち、医師法第17条は「医師でなければ、医業をなしてはならない。」と定め、医業を医師に独占させ、一般人に対してこれを禁止しており、ヘルスケアサービスの内容が医業に該当すると解釈される場合には当該サービスは医師でないと提供できないことになるためである。
このようにヘルスケアサービスの設計においては、まずは当該サービスが医業に該当しないことを確認することが極めて重要となることも多い。そこで、本ニューズレターでは医業の定義やその判断方法について述べることとする。

2. 医業(医行為)該当性の判断の重要性

医師法第17条により、医師でなければ行うことができないとされている「医業」とは、当該行為を行うに当たり、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為(以下「医行為」という。)を、反復継続する意思をもって行うことであると解されている(平成17年7月26日「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」(医政発第0726005号)、令和4年12月1日「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(その2)」(医政発1201第4号))。
上記医行為の概念に関する見解については、「「医行為には広狭二義があり、広義の医行為は医療行為であり、狭義の医行為(医業の内容となる医行為)は、医療行為のうち保健衛生上の危険性を有するものである」と解し、このような危険性の有無により医業と医業類似行為(あんまマッサージ指圧、はり、きゅう、柔道整復)に分けられるとする」見解等があるが、具体的な検討においては、立法趣旨や裁判例に基づき社会通念に照らして判断されることになると考えられる。

典型的な医行為に該当する例としては採血が挙げられるが、タトゥー施術行為などについては、その判断が難しく、見解も分かれていたところであるが、このタトゥー施術行為に関して、近時、注目すべき判例が登場した。最決令和2年9月16日(最高裁判所刑事判例集74巻6号581頁)である。

同最高裁決定は、「医行為とは,医療及び保健指導に属する行為のうち,医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為をいうと解するのが相当である」とし、「ある行為が医行為に当たるか否かについては,当該行為の方法や作用のみならず,その目的,行為者と相手方との関係,当該行為が行われる際の具体的な状況,実情や社会における受け止め方等をも考慮した上で,社会通念に照らして判断するのが相当である」と判示し、タトゥー施術行為は「社会通念に照らして,医療及び保健指導に属する行為であるとは認め難く,医行為には当たらないというべきである」と判示した。

同最高裁決定は、医行為に該当するためには、「医療及び保健指導に属する行為」(いわゆる医療関連性)であることを明示した上で、タトゥー施術行為は医行為に該当しないと判断しているが、第一審は、「「医業」の内容である医行為とは,医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為をいうと解すべき」とした上で、医行為に該当すると判断していた。このように判断が分かれたのは、医行為の定義について、医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為であることに加え、医療及び保健指導に属する行為(いわゆる「医療関連性」)であることを要するかどうかという点で判断が分かれたものと考えられる。
この医療関連性がどのような場合に認められるかについての判断は難しいところではあるが、タトゥー施術行為に関して言えば、タトゥーの歴史的背景、諸外国の状況(ファッションとしての意味もある等)等も考慮された上で、医療関連性が否定されたと考えられる。他方、上記最高裁決定の原審は、一審において医療関連性が否定された美容整形外科手術について、医学部で美容整形外科に関する教育が行われていることや、患者の身体上の改善、矯正を目的としおり、医師が患者に対して医学的な専門的知識に基づいて判断し、技術を施すものであることを理由に、医療関連性を肯定している。

このように、医行為該当性の判断は、裁判所において判断が分かれるようなケースもあり、その判断は容易ではない。

3. ヘルスケアサービスを設計する際の留意点

上記で述べたとおり、あるヘルスケアサービスを設計する際には、当該サービスが医行為に該当するかの判断が重要となる。以下では、これまで問題となったサービス等に言及する。いずれの例においても、若干の言い回しの違いはあるものの、医行為該当性の判断基準は異ならないと思われる。

(1) 遠隔医療

遠隔医療とは、情報通信機器を活用した健康増進、医療に関する行為をいい、
①オンライン診療、
②オンライン受診勧奨、
③遠隔健康医療相談、
に分類される(厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(平成30年3月(令和5年3月一部改訂))5頁及び6頁)。
上記①のオンライン診療は医行為に該当するため、医師が行う必要があることは明らかであるが、上記②及び上記③についてはその区別が明確でない。仮に、医行為に該当する場合には、医師が行う必要がある。

ここで、医行為該当性について、厚生労働省は、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(平成30年3月(令和5年3月一部改訂))6頁)において、以下の見解を示している。

「一般的に、「診察、検査等により得られた患者の様々な情報を、確立された医学的法則に当てはめ、患者の病状などについて判断する行為」であり、疾患の名称、原因、現在の病状、今後の病状の予測、治療方針等について、主体的に判断を行い、これを伝達する行為は診断とされ、医行為となる。」

ここで、重要なのは、患者の病状について判断するかどうかであって、単に、患者の病状について判断せず、一般的な医学情報を伝えるにとどまる行為は、医行為には該当しないとしている点であり、上記②及び③については医行為に該当しないとしたものである。

(2) 消費者向け遺伝子検査

医行為該当性が問題となるものとして、上記で述べた遠隔医療のほかに、例えば消費者向け遺伝子検査なども挙げられる。

平成27年11月から平成28年10月までに厚生労働省で開催された「ゲノム情報を用いた医療等の実用化推進タスクフォース」において、以下の見解が提示されている。

「診察、検査等により得られた患者の様々な情報を、確立された医学的法則に当てはめ、疾患の名称、原因、現在の病状、今後の病状の予測、治療方針等について判断を行い、患者に伝達することは「診断」に該当する。
しかし、消費者の遺伝子型とともに疾患リスク情報を提供する消費者向け遺伝子検査ビジネスにおいて、
・遺伝要因だけでなく、環境要因が疾患の発症に大きく関わる「多因子疾患」のみを対象としており、
・学術論文等の統計データと検査結果とを比較しているにすぎない場合には、「診断」を行っているとは言えず、医行為には該当しない。」

ここで重要なのは、「診断」かどうかが医行為該当性を判断する上で重要な点であるということである。上記タスクフォースでも述べられているとおり、単に統計データと検査結果とを比較している場合には診断ではないが、比較した結果、患者の病状について判断する行為は診断に該当し、医行為に該当すると判断されるおそれがある。例えば、毎日の体重を記録し、同年代の同性の体重と比較すること自体は医行為には該当しないが、比較した結果、特定の病気に該当するおそれがあると判断することは医行為に該当する可能性があることに留意が必要である。

(3) 健康管理アプリ・健康推進アプリ

近年増えているものとして、健康管理アプリや健康推進アプリがある。
これらのアプリの中には、単にアプリ利用者の健康情報(例えば睡眠時間等)の記録にとどまらず、アプリ利用者から健康情報(例えば睡眠時間等)を取得して何らかのアドバイス(例えば、睡眠の質が低い原因は特定の病気である可能性があるため、特定の効能のある薬を飲んだ方がいいといったようなアドバイス)を行うことを内容とするものもある。このような内容である場合には医行為該当性が問題となる(上記のようなアドバイスについては、医療関連性は肯定され、医行為に該当すると思われる。)。
医行為該当性の判断は個別具体的な判断となるが、上記最高裁決定の判断内容や厚生労働省における定義を踏まえ、判断する必要がある。ポイントは、利用者の具体的な情報に依拠して、利用者の病状について判断するかどうかである。

4. 最後に

これまで述べてきたとおり、医行為該当性の判断は裁判所においても判断の分かれる可能性のある問題であって、その判断は容易ではない。医師法第17条違反は刑事罰の対象である以上(医師法第31条第1項第1号)、その判断は専門家に相談するなどした上で慎重に行う必要があるといえよう。