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2024.05.09

新しいヘルスケアビジネスを検討するにあたっての留意点-④医療機器該当性-

<目次>
1. はじめに
2. 医療機器該当性の判断基準
3. ヘルスケアアプリの医療機器該当性
4. 最後に

1. はじめに

 近年、健康維持や健康促進を目的としたアプリが多く見受けられる。このようないわゆるヘルスケアアプリについては、使用者への健康に影響を与えるという観点から、アプリの内容によっては、薬機法が定める「医療機器」(薬機法2条4項)に該当するリスクがある。その場合、例えば、医療機器の製造販売のための許可が必要となったり(薬機法23条の2第1項)、医療機器を広告する際にその範囲が制限されるなど(薬機法66条等。広告規制については、「新しいヘルスケアビジネスを検討するにあたっての留意点―②広告規制―」を参照していただきたい。)、薬機法対応が必要となってくる。
 そこで、本記事においては、ヘルスケアアプリの医療機器該当性の判断方法について述べることとする。

2. 医療機器該当性の判断基準

 例えば、ある企業において医療に使用するはさみを製造することを検討したとしよう。この場合、このはさみが医療機器に該当するか否かは次のような手順で検討することになる。
 「医療機器」の定義について、薬機法2条4項は以下のように定めている。

「医療機器」とは、人若しくは動物の疾病の診断、治療若しくは予防に使用されること、又は人若しくは動物の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等(再生医療等製品を除く。)であつて、政令で定めるものをいう

 薬機法2条4項が定める医療機器の定義を分解すると以下の3つとなる。

疾病の診断、治療若しくは予防に使用される目的、または身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的であること
機械器具等であること
薬機法施行令のリストに規定されているものであること

 単なるはさみは、疾病の診断、治療若しくは予防に使用される目的、または身体の構造若しくは機能に影響を及ぼす目的を有していないので、通常上記①を満たさないが、今回は医療に使用するはさみということであるため、上記①を満たすと判断される。なお、上記①については、診断かどうかが実務上問題となることが多いが、この点については、「新しいヘルスケアビジネスを検討するにあたっての留意点―①医行為該当性―」を参照していただきたい。
 次に、上記②についてだが、薬機法2条1項2号は機械器具等について「機械器具、歯科材料、医療用品、衛生用品並びにプログラム(電子計算機に対する指令であって、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。以下同じ。)及びこれを記録した記録媒体」と定めており、該当する。
 最後に、上記③についてだが、薬機法施行令別表1に記載があるため、機械器具等が医療機器に該当するか否かを判断する際には、薬機法施行令別表1を照らし合わせて判断する必要がある。医療用はさみについては別表1の35に記載があるため、上記③の要件を満たすことになる。

3. ヘルスケアアプリの医療機器該当性

 では、ヘルスケアアプリの医療機器該当性はどう判断するか。プログラム自体が医療機器に該当するのかという疑問もあるが、既に薬機法施行令1条別表1にプログラムが規定されており、その点は解決されている。
 例えば、ある企業が糖尿病を伴う複数疾患を有する高齢者に対する栄養療法支援アプリ(糖尿病を伴う複数疾患を有した高齢者に対する栄養療法のため、推奨される指導方針を提案する治療プログラム)の開発を検討する場合を想定してみる。
 これも上記①ないし③の要件を満たすかどうかで判断することになるが、プログラムにおいては上記①ないし③の要件に加え、特別の要件が存在する。薬機法施行令別表1において「副作用又は機能の障害が生じた場合においても、人の生命及び健康に影響を与えるおそれがほとんどないものを除く」とされ、厚生労働省が策定した「プログラムの医療機器該当性に関するガイドライン」(以下「ガイドライン」という。)の中でも「各プログラムの定義において、「副作用又は機能の障害が生じた場合においても、人の生命及び健康に影響を与えるおそれがほとんどないものを除く」旨、併せて規定されており、その機能等が一般医療機器(クラスⅠ医療機器)に相当するものについては、医療機器の範囲から除かれる」(3頁)とされているため、プログラムが医療機器に該当するための要件には、上記①ないし③に加え、④プログラムに不具合が生じた場合の健康被害のリスクの程度、という要件が付加されるのである。これは、医療機器プログラムが意図したとおりに機能しない場合には医療機器と同様の潜在的リスクを公衆衛生に及ぼす可能性があることを踏まえた要件である。
 まず、上記①については上記2で記載したことが当てはまるが、ガイドラインは、上記①を満たさない典型例として以下のプログラムを列挙している(ガイドライン5頁及び6頁)。

(1)患者説明を目的とするプログラム
①医療関係者が患者や家族に治療方法等を理解してもらうための患者説明用プログラム
(2)院内業務支援、メンテナンスを目的とするプログラム
①医療関係者が患者の健康記録等を閲覧等するプログラム 過去に実施した患者への処置、治療内容、健康情報等を記録、閲覧又は転送するもの
②診療予約や受付、会計業務等医療機関における一般事務作業の負担軽減等を目的とした院内業務支援プログラム
③医療機関に医療機器の保守点検や消耗品の交換の時期等を伝達するメンテナンス用プログラム
(3)使用者(患者や健康な人)が自らの医療・健康情報を閲覧等することを目的とするプログラム
①個人の健康記録を保存、管理、表示するプログラム 医療機器等から取得したデータ(血糖値、血圧、心拍数、体重等)を使用者が記録(収集及びログ作成)し、そのデータを医療関係者、介助者、家族等と共有したり、オンラインのデータベースに登録、記録したりすることを可能にするもの(経時的表示や統計処理をした数値の表示を含む。)
②スポーツのトレーニング管理等の医療・健康以外を目的とするプログラム使用目的が競技力の向上、体力の向上等を目的として個人の適切な運動強度の設定や運動量の管理等のために用いられ、疾病の診断や病態の把握、疾病の兆候の検出を目的としていないもの(診断等に用いることが可能な情報を用いる場合を含む。)

 糖尿病を伴う複数疾患を有する高齢者に対する栄養療法支援アプリは、治療目的であることが明らかであるため、上記①要件を満たす。

 次に上記④であるが、医療機器は患者へのリスクの高さに応じてクラスIからクラスIVに分類されているため、検討しているヘルスケアアプリがクラスⅠに該当するかどうかの判断が必要となる。
 この点については、厚生労働省が作成した「プログラムの医療機器該当性判断事例」(最終改正:令和5年3月31日)が参考になる。例えば、「汎用コンピュータ等を使用して視力検査及び色覚検査を行うためのプログラム(一般医療機器の「視力表」や「色覚検査表」をデジタル化し、同等の機能を発揮するプログラム)」は(機能の障害等が生じた場合でも人の生命及び健康に影響を与えるおそれがほとんどないものとして医療機器に該当しないとされている。実際に、クラスⅠ該当性の判断が難しい場合は、以下の要素から判断する必要がある(ガイドライン9頁)。

a)医療機器プログラムにより得られた結果の重要性に鑑みて疾病の治療、診断等にどの程度寄与するのか。
b)医療機器プログラムの機能の障害等が生じた場合において人の生命及び健康に影響を与えるおそれ(不具合があった場合のリスク)を含めた総合的なリスクの蓋然性がどの程度あるか。

 糖尿病を伴う複数疾患を有する高齢者に対する栄養療法支援アプリについては、患者から得るデータ内容によって提案する治療方針の内容が異なってくるため、医療機器プログラムにより得られた結果が疾病の治療、診断等に相当程度寄与し、医療機器プログラムの障害により利用者(糖尿病を伴う複数疾患を有する高齢者)の生命・健康に影響が生じた場合、当該利用者へのリスクは大きいといえるため、上記④を満たす。
 実際に、医療機器プログラム事例データベースにおいて、糖尿病を伴う複数疾患を有する高齢者に対する栄養療法支援アプリは、糖尿病を伴う複数疾患を有した患者に対する栄養療法のため、食事療法に関する最適なデータを算出し、推奨される指導方針を提案する治療プログラムであること、及びデータ算出や提示する結果で治療方針が大きく異なるなど、患者へのリスクがあるプログラムであることを理由として医療機器に該当するとされている。

4. 最後に

 以上のとおり、医療機器該当性の判断は困難であり、特に医療機器プログラムについてはリスクの程度についての判断が必要となってくる。医療機器該当性についての判断を誤り、結果として無許可で業として製造等を行ってしまうと刑罰の対象となりうるため(薬機法84条4号)、ヘルスケアアプリの医療機器該当性の判断は慎重に行う必要がある。

以上

特集記事「新しいヘルスケアビジネスを検討するにあたっての留意点」
第1回 医行為該当性
第2回 広告規制
第3回 株式会社によるヘルスケア分野への参入と非営利性
第4回 医療機器該当性(本記事)