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2024.04.12

新しいヘルスケアビジネスを検討するにあたっての留意点-③株式会社によるヘルスケア分野への参入と非営利性-

<目次>
1. はじめに
2. ヘルスケア分野における非営利性
3. 株式会社などの営利法人が医療機関を買収する場合の留意点
4. 株式会社などの営利法人が医療機関に対してサービスを提供する場合の留意点
5. 最後に

1. はじめに

 近年、高い成長期待を期待して異業種の株式会社などの営利法人がヘルスケア分野に参入することが増えている。株式会社などの営利法人によるヘルスケア分野参入に際しては、既存の医療機関を買収する、医療機関と提携する、あるいは医療機関に対してサービスを提供するという形態などが考えられる。しかし、このような場面において、医療ないし介護分野に求められる非営利性という原則との調整が大きな問題となる事例も散見される。
 そこで、本記事においては、株式会社などの営利法人によるヘルスケア分野への参入と非営利性の関係性について述べたい。

2. ヘルスケア分野における非営利性

 非営利性に関して医療法は明文をもって定めているわけではないが、以下の規定が非営利性の根拠であると解されている。

営利目的での病院等の開設禁止(医療法7条7項) 
剰余金の配当の禁止(医療法54条)

 まず、①営利目的での病院等の開設が禁止されている(医療法7条7項)。これは、病院等の医療機関が営利を目的として開設されてしまうと、利益重視の病院経営となるおそれがあり、それは患者のためにならないことから禁止されているものである。また②剰余金の配当(医療法54条)も同様に禁止されている。これは、利益重視ではない、適切な病院経営がなされることを目的として定められた規定である。

 株式会社などの営利法人によるヘルスケア分野参入において上記非営利性との関係が問題となりうる場面としては、主に以下の場合が考えられる。
① 株式会社などの営利法人が医療機関の買収等により医療機関の経営に関与することを検討する場合
② 株式会社などの営利法人が医療機関に対してサービスを提供することを検討する場合

 以下では、上記場面における留意点等について述べる。

3. 株式会社などの営利法人が医療機関を買収する場合の留意点

 一般に法人が、医療機関を買収等することによって医療機関の経営に関与する方法としては、①医療機関の開設者となる方法、②開設者である医療法人社団の社員(医療法人社団の買収を前提とする)となる方法、が考えられるが、株式会社などの営利法人については、医療機関の非営利性の観点から、上記①②のいずれも医療法により認められていない。
 すなわち、①株式会社などの営利法人が医療機関の開設者となる方法については、厚生労働省による平成5年2月3日付け「医療機関の開設者の確認及び非営利性の確認について」(最終改正平成24年3月30日、以下「平成5年2月3日通達」という。)が、医療機関の開設許可の審査の際における留意点について以下のとおり定めている。

  • 医療法第7条に定める開設者とは、医療機関の開設・経営の責任主体であり、原則として営利を目的としない法人又は医師(歯科医業にあっては歯科医師。以下同じ。)である個人であること。
  • 開設・経営の責任主体とは以下の内容を包括的に具備するものであること。
    ① 開設者が、当該医療機関を開設・経営する意思を有していること。
    ② 開設者が、他の第三者を雇用主とする雇用関係(雇用契約の有無に関わらず実質的に同様な状態にあることが明らかなものを含む。)にないこと。
    ③ 開設者である個人及び当該医療機関の管理者については、原則として当該医療機関の開設・経営上利害関係にある営利法人等の役職員を兼務していないこと。
    ④ 開設者である法人の役員については、原則として当該医療機関の開設・経営上利害関係にある営利法人等の役職員を兼務していないこと。
    ⑤ 開設者が、当該医療機関の人事権(職員の任免権)及び職員の基本的な労働条件の決定権などの権限を掌握していること。
    ⑥ 開設者が、当該医療機関の収益・資産・資本の帰属主体及び損失・負債の責任主体であること。
  • 開設申請者が名義上の開設者で第三者が医療機関の開設・経営を実質的に左右するおそれがあるとの指摘、情報等がある場合には、その指摘等の内容も含め申請書 類のみならず実態面の各種事情を十分精査の上判断すること。

 次に②開設者である医療法人社団の社員(医療法人社団の買収を前提とする)となる方法については、医療法は医療法人社団における社員の資格について定めを置いていない。もっとも、厚生労働省による平成28年3月25日付け「医療法人の機関について」(以下「平成28年3月25日通達」という。)において、社団たる医療法人の社員には、自然人だけでなく法人もなることができるが、営利を目的とした法人(株式会社等)は社員になることはできないと明確に定められている。

 以上から明らかなとおり、株式会社などの営利法人が医療機関を買収等することにより医療機関の経営に関与するに際しては、非営利性の原則に抵触しないスキームを検討する必要があるが、ここでのポイントは、上記のとおり、医療機関の開設及び医療法人社団の社員について、営利法人が開設者や社員となることが禁止されているだけで、非営利法人が開設者や社員であることは認められているという点である。
 平成5年2月3日通達において、営利を目的としない法人であれば医療機関の開設者となることが可能であることが明確にされており、また、平成28年3月25日通達において、営利を目的としない法人であれば医療法人社団の社員となることが可能であることが明確にされた点である。そこで、株式会社などの営利法人が医療機関を買収等することにより医療機関の経営に関与するスキームとして、非営利法人を関与させることが考えられる。具体的には、株式会社において非営利型の一般社団法人等を設立し、当該一般社団法人等が医療機関の開設者となる方法や、当該一般社団法人等が社団たる医療法人の社員となる方法である。

4. 株式会社などの営利法人が医療機関に対してサービスを提供する場合の留意点

 株式会社などの営利法人が医療機関に対してサービスを提供する場合としては、例えば、医療機関に対してオンライン診療用のシステムなどのサービスを提供する場合などが考えられる。
 まず、一般論ではあるが、株式会社などの営利法人が医療機関に対してサービスを提供することで医療機関の人事権を掌握することになる場合(医療法7条7項参照)、実質的に剰余金の配当となるような報酬を対価とするサービス(医療法54条)、サービスに対する報酬が実質的に患者紹介の対価となるような場合(保険医療機関及び保険医療養担当規則2条の4の2第2項)は、そのようなサービスの提供は非営利性の観点から許されない。
 非営利性については数多くの通達等が出されているところ、かかる通達等に鑑みると、株式会社などの営利法人が医療機関に対してサービスを提供するに際しては、主に以下の点に留意する必要があると考えられる。

人事権などを掌握しないこと
対価についてサービスに見合った対価とすること
患者紹介とならないような内容とすること

 まず、上記①人事権などを掌握しないこととの関連では、上記のとおり平成5年2月3日通達が、「開設者が、当該医療機関の人事権(職員の任免権)及び職員の基本的な労働条件の決定権などの権限を掌握していること」を開設許可の条件としており、それを実質的に有名無実化させるような株式会社などの営利法人による医療機関の人事権を掌握するようなサービス提供は禁止されることに留意する必要がある。同様に、平成5年2月3日通達は「開設申請者が名義上の開設者で第三者が医療機関の開設・経営を実質的に左右するおそれがあるとの指摘、情報等がある場合には、その指摘等の内容も含め申請書類のみならず実態面の各種事情を十分精査の上判断すること」と定めているため、株式会社などの営利法人が医療機関に対してサービスを提供する場合においては、医療機関の経営を実質的に左右するような関与は控えるべきである。例えば、理事長との間で経営に関する契約を締結し、間接的に医療機関の経営に関与することは問題となり得ることに留意が必要である。

 また、上記②対価についてサービスに見合った対価とすることとの関連では、上記のとおり平成5年2月3日通達において、医療機関が必要とする土地・建物を賃借する際には、賃料が医療機関の収入の一定割合とするものではないことが求められているところ、これは、賃料を医療機関の収入の一定割合とすると、実質的には剰余金の配当となるため、非営利性の趣旨に反するとしているものとされている。かかる条件は、不動産の賃料以外にも妥当すると考えられるため、医療機関に対してオンライン診療用のシステムなどのサービスを提供して報酬を得るような場合においても、当該サービス料を医療機関の収入の一定割合とすることを合意することは非営利性の観点から許されないとされていることに留意する必要がある。

 上記③患者紹介とならないような内容とすることとの関連では、保険医療機関との関係では、「保険医療機関及び保険医療養担当規則」(療担規則)にも留意する必要がある。療担規則2条の4の2第2項は、患者の自由な医療機関の選択の確保及び健康保険事業の健全な運営の確保という観点から「保険医療機関は、事業者又はその従業員に対して、患者を紹介する対価として金品を提供することその他の健康保険事業の健全な運営を損なうおそれのある経済上の利益を提供することにより、患者が自己の保険医療機関において診療を受けるように誘引してはならない」と定める。さらに、厚生労働省は平成26年7月10日付け「疑義解釈資料の送付について(その8)」の別添5において、以下のとおり述べる。
① 患者紹介とは、保険医療機関等と患者を引き合わせることであり、保険医療機関等に患者の情報を伝え、患者への接触の機会を与えること、患者に保険医療機関等の情報を伝え、患者の申出に応じて、保険医療機関等と患者を引き合わせること等も含まれる。患者紹介の対象には、集合住宅・施設の入居者だけでなく、戸建住宅の居住者もなり得るものである。
② 経済上の利益とは、金銭、物品、便益、労務、饗応等を指すものであり、商品又は労務を通常の価格よりも安く購入できる利益も含まれる。経済上の利益の提供を受ける者としては、患者紹介を行う仲介業者又はその従業者、患者が入居する集合住宅・施設の事業者又はその従業者等が考えられる。

 株式会社などの営利法人が医療機関に対してサービスを提供する場合、患者紹介とならないような内容とすることに留意が必要である。例えば、現在医療ツーリズムが注目されているが、医療機関が医療ツーリズムについて事業会社に通訳費用等の名目で対価を支払うなどする場合においては、実質的に患者紹介の対価と判断されないように留意する必要がある。

5. 最後に

 これまで述べてきたように、非営利性については数多くの通達等が出されており、株式会社などの営利法人がヘルスケア分野に参入する際には、非営利性の原則に抵触しないよう、慎重な検討が求められる。

特集記事「新しいヘルスケアビジネスを検討するにあたっての留意点」
第1回 医行為該当性
第2回 広告規制
第3回 株式会社によるヘルスケア分野への参入と非営利性(本記事)