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2025.06.20

建設業における下請保護規制(下請法と建設業法等)(第Ⅰ部)~建設業における下請保護規制の概要

<目次>
1. 建設業に係る下請取引の適正を図るための規制
(1) 下請法
(2) 建設業法
(3) 独占禁止法
2. 下請法と建設業法の規制内容(概要)
(1) 両者の規制の比較
(2) 建設業法に固有の規制
3. 建設業法上の行政処分その他の権限
(1) 指導、助言、勧告等
(2) 公表等
(3) 今後の方針等

1.建設業に係る下請取引の適正を図るための規制

(1) 下請法

 建設工事の下請負については、下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」といいます)の適用対象である役務提供委託から「建設業を営む者が業として請け負う建設工事の全部又は一部を他の建設業を営む者に請け負わせること」が除外されています(下請法2条4項)(※1)。
 これに対して、建築工事に伴う設計業務、地質調査業務、測量業務、建設コンサルタント業務、建設資材販売・製造業務等は、建設業法2条1項でいう建設工事(土木建築に関する工事で同法別表第一の上欄に掲げる土木一式、建築一式、大工、左官など29種類の工事)に当たりませんので、建設業法ではなく下請法による規制を受けることになります(※2)。

(※1)下請法は2025年5月23日公布の改正法(2026年1月1日施行。以下「2025年改正下請法」といいます)により、「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」と名称が変更されます。2025年改正下請法施行後は「下請」という用語も使用されなくなり、「親事業者」、「下請事業者」、「下請代金」の用語は、それぞれ「委託事業者」、「中小受託事業者」、「製造委託等代金」となる予定ですが、本稿では特に言及ない限り、2025年改正下請法施行前の下請法に沿って説明するため、用語も2025年改正下請法施行前のものを記載します。2025年改正下請法に関する詳細は、猿倉健司他「2025年/中小受託法(改正下請法)の成立(5月16日改正法案の成立を受けた改訂版)」(牛島総合法律事務所ニューズレター)をご参照ください。
(※2)公正取引委員会ウェブサイト「よくある質問コーナー(下請法)」(2025年4月10日閲覧)「1 下請法の適用範囲について(1)全般(建設工事)Q1 」参照。たとえば、設計業務は下請法2条3項及び6項3号の「情報成果物作成委託」、監理業務は同法2条4項の「役務提供委託」に当たるものと考えられます。

(2) 建設業法

 下請法が、取引内容や取引当事者の資本金額によって同法の適用対象を定めているのに対して、建設業法は、下請契約の当事者の資本規模による区分は概括としてはありません。
 もっとも、建設業法は、原則として建設業(元請、下請その他いかなる名義をもってするかを問わず、建設工事の完成を請け負う営業。建設業法2条2項)を営もうとする者すべてが適用対象となる(※3)一方で、さらに発注者から受注した建設工事を下請に出す場合の下請代金額によって区分して、一般建設業許可及び特定建設業許可の制度を設け、特定建設業許可を受けた者でなければ請け負った一件の建設工事を施工するために下請代金額が政令で定める金額以上(※4)となる下請契約を締結することを禁止しています(建設業法3条1項1号、2号)。また、許可を受けた建設業者に対して、下請負契約の形式や規制内容を定めています。

(※3)政令で定める軽微な建設工事(①建築一式工事にあっては1500万円未満、又は延べ面積が150㎡未満の木造住宅工事、②建築一式工事以外の建設工事にあっては500万円未満の工事)のみを請け負うことを営業とする者は建設業法の許可の適用除外となります(建設業法3条1項ただし書き、建設業法施行令1条の2第1項)。
(※4)各下請負人に発注する工事代金の合計額(消費税を含む)が5000万円以上(許可を受けようとする建設業が建築工事ある場合は8000万円)(建設業法施行令2条。令和7年2月1日施行改正後の金額。)

(3) 独占禁止法

 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」といいます)は、下請法の適用除外とされる建設工事の下請負にも適用されます。公正取引委員会は、「建設業の下請取引に関する不公正な取引方法の認定基準」(※5)を定め、不公正な取引方法として10項(完成確認の検査、目的物の引渡し受領、代金支払、割引困難な手形の交付、不当に低い請負代金の禁止、減額、不当な使用資材等の購人強制の禁止、早期相殺等)を規制しています(※6)。

(※5)公正取引委員会「建設業の下請取引に関する不公正な取引方法の認定基準」(昭和47年4月1日公正取引委員会事務局長通達第4号)
(※6)国土交通省ウェブサイト上のリンク 国土交通省(令和6年12月)「建設業法令遵守ガイドライン(第11版)-元請負人と下請負人の関係に係る留意点-」(以下「国交省ガイドライン」といいます)90頁以下参照。

2.下請法と建設業法の規制内容(概要)

(1) 両者の規制の比較

 下請法と建設業法における下請保護規制について、両者を比較するうえで重要なものを中心に表にまとめます。これらの規制内容の詳細については、別稿(猿倉健司「建設業における下請保護規制(下請法と建設業法等)(第Ⅱ部)下請法と建設業法の相違点」牛島総合法律事務所特集記事)をご参照ください。
 

下請法建設業法
(1)契約時の書面の作成・交付義務
(元請負人・下請負人ともに)
(2)契約時の書類の作成・保存義務
(元請負人・下請負人ともに)
(3)下請代金の支払期日を定める義務・支払遅延の禁止
(4)受領拒否の禁止
(法定の期間内での検査完了・受領義務)
(5)返品の禁止
(6)不当に低い下請代金の禁止(減額の禁止)
(不当な金額変更拒絶や減額、赤伝処理も含まれ得る)
(7)物品購入・役務利用の強制の禁止
(8)有償支給原材料等の対価の早期決済禁止
(9)割引困難な手形の交付禁止
(10)不当な経済上の利益の提供要請の禁止
(11) 不当な給付内容の変更・やり直しの禁止
(12)報復措置の禁止

(2) 建設業法に固有の規制

以上の他、建設業法においては、以下のような下請負人保護のための規制があります。

  • 下請契約の締結の制限(建設業法16条)
  • 著しく短い工期の禁止(建設業法19条の5)
  • 見積条件の提示及び一定の見積期間の設定義務(建設業法20条4項)
  • 工期等に影響を及ぼす事象に関する情報の提供・通知義務(建設業法20条の2)
  • 一括下請負の禁止(建設業法22条)
  • 下請負人からの意見聴取義務(建設業法24条の2)
  • 下請代金のうち労務費に相当する部分を現金で支払うよう適切に配慮する義務(建設業法24条の3第2項)

3.建設業法上の行政処分その他の権限

(1) 指導、助言、勧告等

 国土交通大臣は、毎年「下請取引等実態調査調査票」による定期調査を実施しており、事業者はこれに対して回答する義務があります(建設業法31条1項に基づく報告徴収)。国土交通大臣・都道府県知事は、違反行為等に対して、指導、助言、勧告等を行うことができます(同41条1~3項、19条の6等)。
 また、調査の結果、建設業法等違反の事実が認められる場合には、国土交通大臣・都道府県知事による監督処分が行われます(同28条、29条)。監督処分には、指示処分、営業停止処分、許可の取消処分があります。指示処分(同28条1項、2項、4項)の対象となる行為は、同条項各号に列挙されているもののほか、建設業法の規定に違反した場合です。
 営業停止処分(同28条3項、5項)は、28条1項・2項の各号のいずれかに該当するとき、又は同項の指示に従わないとき、1年以内の期間を定めてその営業の全部又は一部の停止が命じられます。許可の取消処分(同29条)は、許可基準を満たさなくなった場合のほか、28条1項各号のいずれかに該当し情状特に重い場合、又は営業停止の処分に違反した場合が対象となります(※7)。
 国土交通大臣・都道府県知事・中小企業庁長官(※8)は、許可を受けた建設業者が建設業法上の下請保護規定(建設業法19条の3、19条の4、24条の3第1項、24条の4、24条の5、24条の6第3項、4項)に違反している事実があり、その事実が独占禁止法19条の不公正な取引方法禁止規定に違反していると認めるときは、公正取引委員会に対し、措置請求をすることができます(建設業法42条1項、42条の2)。

(※7)国土交通省「建設業者の不正行為等に関する監督処分の基準」(最終改正令和5年3月3日国不建第578号)参照。
(※8)中小企業庁長官は、建設業の許可権限をもつ監督官庁とは異なりますが、建設業者である下請負人が中小企業者であり、また、その利益を保護するために特に必要があると認めるときは、報告徴収や立入検査の権限があり、調査の結果、上記の建設業法上の下請保護規定に違反する事実があり、その事実が独占禁止法19条の不公正な取引方法禁止規定に違反していると認めるときは、公正取引委員会に対する措置請求権限があります(建設業法42条の2)。

(2) 公表等

 公正取引委員会は、下請法に基づく勧告(下請法7条)をしたときは親事業者名を含む事件の概要を原則として公表しています(※9)。
 これに対し、建設業法上、建設業法では、発注者への勧告については公表権限が明文化されています(同法19条の6)が、建設業者に対するこれらの行政指導や指示・営業停止・許可取消の監督処分を行った場合の公表権限は明文化されていません。ただし、建設業法上、監督官庁は当該処分の公告等をしなければならないとされており(建設業法29条の5)、また、監督処分の内容は、指示処分も含め、国土交通省ネガティブ情報等検索サイトで公表されています。またこれらをホームページ上で公表している自治体もあります(※13)。

(※9)公正取引委員会ウェブサイト「下請法勧告一覧」(2025年4月15日閲覧)。
(※10)兵庫県ウェブサイト(2025年4月17日閲覧)「建設業法に基づく監督処分について」「監督処分情報の公表について」参照。

(3) 今後の方針等

 政府は、注文者による一方的な指値発注や請負代金の減額の有無など、請負代金や工期に関する取引内容について 実地調査等を行う「建設Gメン」の体制を拡充し、調査対象の拡大や調査内容の拡充を図るとともに、違反行為に対しては、建設業許可部局から指導監督を行うことにより、請負代金や工期の適正化を推進していくことを表明しており、注意が必要と思われます(※11)。

(※11)中央建設業審議会(令和6年3月27日開催)配付資料、国土交通省「(資料1)最近の建設業を巡る状況について【報告】」39頁参照。

以上