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2025.12.09

日本で新規化学物質を製造・輸入する場合の化審法・労安衛法規制―PFAS規制の強化を契機に―

<目次>
1. 化審法における新規化学物質の製造・輸入に関する届出の要否
(1) 新規化学物質の意義および届出
(2) 通常新規化学物質の届出の例外
(3) 低生産量新規化学物質に関する審査の特例
2. 労安衛法における新規化学物質の製造・輸入に関する届出および有害性の調査
3. 化審法および労安衛法における届出の概要
(1) 化審法における通常新規化学物質の届出
(2) 化審法における三大臣の確認を行う場合の手続
(3) 労安衛法における新規化学物質の届出
4. 罰則
5. おわりに

 科学技術の発展に伴い、日々新しい化学物質が研究・開発されており、令和6年度には、約319件の新規化学物質の届出がされました(※1)。近時は全世界的にPFAS規制が強化されていることに伴い、新規化学物質の製造等について加速しているという背景もあります。
 日本国内で新規化学物質を製造・輸入する場合には、以下のように化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(以下「化審法」といいます。)及び労働安全衛生法(以下「労安衛法」といいます。)いずれの手続も必要となる場合があり、また、その例外も複数存在するなど、非常に複雑な制度設計となっています。
 そこで、本稿では、日本国内で新規化学物質を製造・使用等する場合における規制について、化審法及び労安衛法を中心に概観します。

(※1) 経済産業省産業保安・安全グループ 化学物質管理課 化学物質安全室「化審法の施行状況(令和6年度)

1.化審法における新規化学物質の製造・輸入に関する届出の要否

(1) 新規化学物質の意義および届出

 新規化学物質を製造・輸入しようとする者は、厚生労働大臣、経済産業大臣および環境大臣(以下、これらを総称して「三大臣」といいます。)への届出(これを「通常新規化学物質の届出」といいます。)が必要です。化審法4条1項、2項または同法5条8項の規定による三大臣からの通知を受けた後でなければ、新規化学物質の製造・輸入をすることができません(化審法3条1項本文、6条本文)。
 化審法に定める新規化学物質は、化審法2条6項で定められており、化学物質のうち、既存化学物質や化審法で規制される第一種特定化学物質等の一定の類型の化学物質を除外する方法で定義されています。既存化学物質に該当するか否かは、「NITE化学物質総合情報提供システム(NITE-CHRIP)」等のサイトで確認することができます。
 なお、「製品」に当たるものは化審法の対象外であるため、基本的に届出は不要となります。製品とは、①固有の商品性状を有するものであって、その使用中に組成や形状が変化しないもの(成型品)、②必要な小分けがされた状態であり、表示等の最小限の変更により、店頭等で販売されうる形態になっている混合物(小分けされた混合物)をいいます(※2)。

(※2) 猿倉健司「<シリーズ>【弁護士からみた環境問題の深層/第50回】PFAS 規制と実務上の論点―含有製品の取扱いと汚染対応―」環境管理2025年2月号4頁

 もっとも、通常新規化学物質の届出には、例外が定められており、以下の場合には通常新規化学物質の届出は不要となります(※3)。

(※3) 猿倉健司「ケーススタディで学ぶ環境規制と法的リスクへの対応」(第一法規、2024年)162頁

(2) 通常新規化学物質の届出の例外

 通常新規化学物質の届出の例外として、化審法3条1項ただし書各号には、以下のように定められており、1号から6号までのいずれかに該当すれば、通常新規化学物質の届出は不要となります。なお、以下の4号から6号に該当する場合には、通常新規化学物質の届出に代わって、三大臣の確認が必要となります。

例外事由の概要解説
1号外国において新規化学物質の届出をし、その新規化学物質が化審法における規制対象とならないものである旨の通知を受けた者から当該の新規化学物質を輸入しようとするとき外国の製造者または輸出者が化審法7条1項の新規化学物質の届出をし、第一種特定化学物質相当の化学物質に該当しない旨の判定・通知を受けた場合には、その届出者から判定・通知に係る物質を輸入しようとする際に、再度通常新規化学物質の届出をする必要はないということである。
2号試験研究のために新規化学物質を製造・輸入しようとするとき「試験研究のため」とは、研究所、大学、学校などにおける試験、検査、研究、実験、研究開発等の用にその全量を供するために化学物質を製造・輸入することをいう。
3号試薬として新規化学物質を製造・輸入しようとするとき研究所、大学、学校などにおける試験、検査、研究、実験、研究開発等の用にその全量を供するために化学物質を製造・輸入することが想定されており、単に「試薬」の表示が付されているだけでは足りない。
4号予定されている取扱い方法等からみて、その新規化学物質による環境の汚染が生じるおそれがないものとして、政令で定める場合に該当する旨の三大臣の確認を受けて製造・輸入しようとするとき中間物、閉鎖系等用途、輸出専用品等であって、新規化学物質による環境汚染を防止するための必要な措置が講じられていることが必要である(化審法施行令3条1項)。
5号
(少量新規化学物質)
申出を行う者の年間の製造・輸入予定数量が1トン以下の場合であり、かつ、既に得られている知見等から判断して、その新規化学物質による環境の汚染が生じて人の健康に係る被害または生活環境動植物の生息もしくは生育に係る被害を生ずるおそれがあるものでない旨の三大臣の確認を受け、その確認に係る数量以下のその新規化学物質を当該年度において製造・輸入するとき新規化学物質の構造からの類推等による一定の評価から判断して、第一種特定化学物質に相当する性状(難分解性、高蓄積性、人への長期毒性または高次捕食動物への慢性毒性)を有するものではない旨の確認を行うことが想定されている。QSAR(定量的構造活性相関)による推計等を踏まえ、化学物質審議会委員の意見も聴いた上で、確認される。
6号
(低懸念高分子化合物)
その新規化学物質が、高分子化合物であって、これによる環境の汚染が生じて人の健康に係る被害または生活環境動植物の生息もしくは生育に係る被害を生ずるおそれがないものとする旨の三大臣の確認を受けて、その新規化学物質を製造・輸入するとき「新規化学物質のうち、高分子化合物であって、これによる環境の汚染が生じて人の健康に係る被害又は生活環境動植物の生息若しくは生育に係る被害を生ずるおそれがないものに関する基準」(平成21年12月28日厚生労働省、経済産業省、環境省告示第2号)によって判断される。

(3) 低生産量新規化学物質に関する審査の特例(化審法5条)

 前述のとおり、化審法3条1項ただし書各号の例外に該当しない場合には、デフォルトルールである通常新規化学物質の届出が必要となり、事前審査の対象となります。もっとも、化審法5条では、年間製造・輸入予定数量が10トン以下の新規化学物質(以下「低生産量新規化学物質」といいます。)について、三大臣が「難分解性だが、高蓄積性ではなく、毒性不明」という判定をした場合、毎年三大臣に対して確認を行うことを前提に、当該低生産量新規化学物質を製造・輸入等をすることができます(化審法5条4項、6条2号)。この制度を利用することにより、毒性が不明な化学物質についても、三大臣の確認・監視のもと、製造・輸入を行うことができるようになります。
 なお、「難分解」、「高蓄積ではない」という要件の意義については、専門家の意見や国際的な動向等を踏まえ決定される運用となっており、化審法に詳細な基準は設定されていません。

2.労安衛法における新規化学物質の製造・輸入に関する届出および有害性の調査

 労安衛法においても、新規化学物質を製造・輸入する事業者は、あらかじめ厚生労働大臣の定める基準に従い、有害性の調査を行った上で届出をする必要があります(労安衛法57条の4第1項柱書)。労安衛法にいう「新規化学物質」とは、同条3項により名称が公表された化学物質および労安衛法施行令18条の3に規定された化学物質(天然に産出される化学物質や放射性物質等)以外の化学物質をいいます。なお、①合金、②固有の使用形状を有するもの(合成樹脂製の什器、板、管、棒、フィルム等)、③混合物のうち、混合することによってのみ製品となるものであって、当該製品が原則として最終の用途に供される物(顔料入り合成樹脂塗料、印刷用インキ、写真感光用乳剤)などは「化学物質」に当たらないため、届出は不要とされています(厚生労働省「労働安全衛生法に基づく新規化学物質届出手続きQ&A」)。
 新規化学物質の製造・輸入をする場合には、労安衛法と化審法の双方の届出が必要となる場合がありますが、実務上、労安衛法の新規化学物質の届出においては、化審法の届出書類等の写しを添付することにより、記載事項の一部を省略することができるという取扱いがなされています(平成24年11月12日基安化発1112第1号「労働安全衛生法に基づく新規化学物質の届出等の手続の簡素化について」)。
 労安衛法上の新規化学物質の届出には、有害性の調査の結果を示す書面を添付する必要があります(労衛則34条の3)。新規化学物質の有害性の調査は、①変異原性試験、②化学物質のがん原性に関し変異原性試験と同等以上の知見を得ることができる試験、または③がん原性試験のうちのいずれかを行う必要があり(同条第1項1号)、試験を実施する基準についても通達で定められています(労働安全衛生法第五十七条の四第一項の規定に基づき厚生労働大臣の定める基準(昭和六十三年労働省告示第七十七号))。もっとも、以下の場合には有害性の調査が不要となります(労安衛法57条の4第1項ただし書)。この他に政令で定める場合も調査が不要となります(労安衛法施行令18条の4)。
 

例外事由の概要
1号当該新規化学物質に関し、厚生労働省令で定めるところにより、当該新規化学物質について予定されている製造または取扱いの方法等からみて労働者が当該新規化学物質にさらされるおそれがない旨の厚生労働大臣の確認を受けたとき。
2号当該新規化学物質に関し、厚生労働省令で定めるところにより、既に得られている知見等に基づき厚生労働省令で定める有害性がない旨の厚生労働大臣の確認を受けたとき。
3号当該新規化学物質を試験研究のため製造・輸入しようとするとき。
4号当該新規化学物質が主として一般消費者の生活の用に供される製品(当該新規化学物質を含有する製品を含む。)として輸入される場合で、厚生労働省令で定めるとき。

(※4) 猿倉健司・上田朱音・加藤浩太「化学物質管理に関する労働安全衛生関連法令の改正(2022年~2024年施行)のポイント」(牛島総合法律事務所ニューズレター、2024年3月)、猿倉健司・加藤浩太「2025年版労働安全衛生規則の最新改正動向と企業実務への影響」(Manegy、2025年10月)】

3.化審法および労安衛法における届出の概要

(1) 化審法における通常新規化学物質の届出

 通常新規化学物質の届出は、「予備審査」と「審議会」の2段階で行われます。予備審査では、独立行政法人製品評価技術基盤機構のサイト(https://www.nite.go.jp/chem/kasinn/kashinrenraku.html)で新規届出登録を行った上で、予備審査用資料をNITE化学物質管理センター安全審査課に提出する必要があります。予備審査が終了すると、審議会での審議が行われ、その後判定通知がされます。審議会での審議に先立ち、審議会用資料および届出書を提出する必要があります。
 三大臣は、新規届出等から3ヶ月以内に届出に係る新規化学物質が化審法4条1項各号に該当するかを判定し、その結果を通知することとされています(化審法4条1項)。同項2号ないし6号に該当するとの判定であれば、製造・輸入が可能となります。
 通常新規化学物質の届出には、それぞれ「予備審査用資料提出期限」および「届出日」が定められており、その期限を過ぎると次回以降の受付となります。そのため、このような手続を見越したスケジュールを設定することが必要です。
 なお、上記1(3)の低生産量新規化学物質に関する審査の特例を利用する場合には、通常新規化学物質の届出と同時に申出を行う必要がありますが(化審法5条1項)、低生産量新規化学物質の申出は、受付期間が限定されているため、注意が必要です。

(2) 化審法における三大臣の確認を行う場合の手続

 通常新規化学物質の届出に代わり、化審法3条1項ただし書4号ないし6号に定める三大臣の確認を行う場合の手続は、各号により異なります。

(3) 労安衛法における新規化学物質の届出

 上記2のとおり、新規化学物質を製造・輸入しようとする事業者は、あらかじめ、厚生労働大臣の定める基準に従って有害性の調査を行い、①新規化学物質の名称、②有害性の調査の結果、③その他の事項を厚生労働大臣に届け出なければならないとされています(労安衛法57条の4第1項柱書)。
 具体的には、様式第四号の三による届書(※)に、(a) 有害性の調査の結果を示す書面、(b) 当該有害性の調査が同条第二項の厚生労働大臣が定める基準を具備している試験施設等において行われたことを証する書面、および (c) 当該新規化学物質について予定されている製造または取扱いの方法を記載した書面を添付する必要があります(労衛則34条の4)。
 より詳細な必要書類や届出の方法については、厚生労働省「労働安全衛生法に基づく新規化学物質製造(輸入)届」に記載されています。

※ 様式第4号の3(第34条の4関係)

4. 罰則

 化審法3条1項の規定に違反して新規化学物質を製造・輸入した者は、化審法の罰則としては2番目に重い、1年以下の拘禁または50万円以下の罰金に処せられ、またはこれを併科されます(化審法58条1号)。また、法人については、5000万円以下の罰金に処せられます(化審法61条2号)。
 また、化審法6条の規定に違反した者も、化審法3条1項の規定に違反した場合と同様、1年以下の拘禁または50万円以下の罰金(または併科)に処せられます(化審法58条2号)。また、法人についても、5000万円以下の罰金に処せられます(化審法61条2号)。

5. おわりに

 以上のように、日本において新規化学物質を製造・輸入する場合に求められる新規化学物質の届出やその例外については非常に複雑になっているため、新規化学物質を製造・輸入する場合には、専門家に意見を聞くなどして、新規化学物質の届出が必要になるのか、届出の例外事由に該当するのかを慎重に判断することが重要です。  なお、化審法の規制については、猿倉健司「ケーススタディで学ぶ環境規制と法的リスクへの対応」(第一法規、2024年)162頁以下、猿倉健司「事業者の盲点となりやすい化学物質の製造・輸入・保管等の規制のポイント(PCB、トリクロロエチレン等の主要規制を例に)」(BUSINESS LAWYERS・2022年10月26日)、労安衛法については、猿倉健司・上田朱音・加藤浩太「化学物質管理に関する労働安全衛生関連法令の改正(2022年~2024年施行)のポイント」(牛島総合法律事務所ニューズレター、2024年3月)、猿倉健司・加藤浩太「2025年版労働安全衛生規則の最新改正動向と企業実務への影響」(Manegy、2025年10月)も参照してください。

関連文献

環境省「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律【逐条解説】」(平成29年改正版)

以上

関連情報

論文

化審法の規制

論文
「ケーススタディで学ぶ環境規制と法的リスクへの対応」(第一法規、2024年)162頁(猿倉健司)
記事
「事業者の盲点となりやすい化学物質の製造・輸入・保管等の規制のポイント(PCB、トリクロロエチレン等の主要規制を例に)」(BUSINESS LAWYERS・2022年10月26日)(猿倉健司)(リンク
記事
2025年版労働安全衛生規則の最新改正動向と企業実務への影響」(Manegy、2025年10月)(猿倉健司・加藤浩太)(リンク

セミナー実績

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