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<目次>
1. ステマ規制に基づく初の行政処分
2. ステマ規制導入に至る経緯
3. ステマ規制の概要
(1) ステマ規制の対象となる表示
(2) 要件①:事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示(事業者の表示)であること
(3) 要件②:一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難であると認められるもの
(4) ステマ規制違反の効果
4. おわりに

1. ステマ規制に基づく初の行政処分

 2024年(令和6年)6月6日、消費者庁は、医療法人社団祐真会に対し、同法人がクリニックに来院した者に行わせたウェブサイト上の口コミ投稿欄での表示が、景品表示法のいわゆるステマ規制に違反するとして、同規制に基づく初の行政処分を行いました。
 SNSの投稿やレビューサイトの口コミは、一見すると事業者の広告や宣伝ではなく、消費者やインフルエンサーなどの表示に見えます。しかし、こういった表示の中には、実は事業者自身が行ったと評価できる表示が含まれています。このように、事業者自身の広告であるにもかかわらず広告であることを隠すことが、いわゆるステルスマーケティング(ステマ)と言われています。
 今回の事例では、医療法人社団祐真会は、インフルエンザワクチン接種のために同法人が運営するクリニックに来院した者に対し、Googleマップ内の同法人が開設・運営するクリニックの口コミ投稿欄に高評価をつけることを条件にワクチン接種費用を割り引くことを伝え、これによって複数の来院者が口コミ投稿欄に「★★★★★」(星5)を投稿し、ウェブサイト上に一定期間その旨が表示されました。
 消費者庁は、当該投稿による表示は同法人の表示と認められるものであるが、一般消費者が同法人の表示であることを判別することが困難であり、景品表示法第5条第3号(ステルスマーケティング告示)で禁止されている不当な表示に該当するとして、同法人に対し、同法第7条第1項の規定に基づき、措置命令を行いました。
 2023年(令和5年)10月に導入された景品表示法のいわゆるステマ規制に基づいて行政処分が行われたのは、今回が初めてです。

 以下、景品表示法においてこのようなステマ規制が導入されるに至った経緯及びステマ規制の概要について説明します。

2. ステマ規制導入に至る経緯

 近年の消費生活のデジタル化の進展に伴い、インターネット広告市場は著しく拡大し、新聞、雑誌、ラジオ、テレビの広告市場規模を上回るほどとなっています。そのような状況の中、広告主が自らの広告であることを隠したまま広告を出稿するなどの、いわゆるステルスマーケティングの問題がより一層顕在化しています。
 しかしながら、従来の景品表示法に基づく規制では、①優良誤認(商品又は役務の内容が著しく優良であると示す表示:第5条第1号)又は②有利誤認(取引条件が著しく有利であると一般消費者に誤認される表示:第5条第2号)に該当しない限り、ステルスマーケティングのように、実際は事業者の表示であるにもかかわらず、中立的な第三者の表示であるかのように装う表示を規制することができませんでした。
 この点、EUや米国においては、既にステルスマーケティングに対する法規制が存在し、その法規制に基づいた法執行も行われている一方、上記のとおり、日本においては法規制の整備が不完全な状況となっており、日本は「ステマ天国」であるとも指摘されていました。
 これらを踏まえ、令和4年12月28日、消費者庁が開催したステルスマーケティングに関する検討会は、「ステルスマーケティングに関する検討会報告書」を公表しました。同報告書は、ステルスマーケティングをめぐる以上のような実態・状況を踏まえ、ステルスマーケティングについて景品表示法による規制の必要性があり、景品表示法第5条第3項に基づく告示として新たに指定することが妥当であること、その際、事業者の予見可能性を高めるための運用基準の策定が必要であることを指摘しました。
 これを受けて、令和5年3月28日、景品表示法第5条第3項に基づく告示として、内閣総理大臣により、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」(以下「ステマ告示」といいます。)が指定されるとともに、同日、消費者庁長官により、「『一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示』の運用基準」(以下「運用基準」といいます。)が定められました。ステマ告示は、令和5年10月1日から施行されています。

3. ステマ規制の概要

(1) ステマ規制の対象となる表示

 ステマ規制の対象となる「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」とは、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示(以下「事業者の表示」といいます。)であるにもかかわらず、事業者の表示であることを明瞭にしないことなどにより、一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難となる表示をいいます。
 景品表示法によるステマ規制でこのような「事業者の表示」が規制される趣旨は、以下のとおりです。
 すなわち、一般消費者は、事業者の表示であると認識すれば、表示内容に、ある程度の誇張・誇大が含まれることはあり得ると考え、商品選択の上でそのことを考慮に入れることになります。一方、実際には事業者の表示であるにもかかわらず、第三者の表示であると誤認する場合、その表示内容にある程度の誇張・誇大が含まれることはあり得ると考えないことになり、この点において、一般消費者の商品選択における自主的かつ合理的な選択が阻害されるおそれがあります。
 そのため、ステマ告示は、一般消費者に事業者の表示ではないと誤認される、又は誤認されるおそれがある表示を、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがある不当な表示として規制しています(運用基準第1)。
 ステマ規制の対象となる表示について、ステマ告示は、以下のとおり指定しています。

 事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの

このように、ステマ告示によれば、

 ①事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であること
 ②一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの

という2つの要件を満たした場合に、ステマ規制に違反することとされています。

(2) 要件①:事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示(事業者の表示)であること

 ステマ告示における要件①の「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」(事業者の表示)とは、顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品・サービスの品質、規格、その他の内容や価格等の取引条件について行う表示のことです。
 事業者の表示と判断されるのは、事業者がその表示内容の決定に関与したと認められる場合です。逆に言うと、客観的な状況に基づき、当該表示が第三者の自主的な意思による表示内容と認められる場合は、事業者の表示に該当しないこととなり、ステマ告示の規制対象外となります。
 事業者自身が表示を直接作成せず、第三者に表示の作成を依頼・指示する場合であっても、事業者が第三者の表示内容の決定に関与している場合には、事業者の表示となります。例えば、以下のような場合が考えられます(運用基準第2の1(2)ア)。

(ア)事業者が第三者に対して当該第三者のSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)上や口コミサイト上等に自らの商品又は役務に係る表示をさせる場合。
(イ)EC(電子商取引)サイトに出店する事業者が、いわゆるブローカー(レビュー等をSNS等において募集する者)や自らの商品の購入者に依頼して、購入した商品について、当該ECサイトのレビューを通じて表示させる場合。
(ウ)事業者がアフィリエイトプログラムを用いた表示を行う際に、アフィリエイターに委託して、自らの商品又は役務について表示させる場合。
(エ)事業者が他の事業者に依頼して、プラットフォーム上の口コミ投稿を通じて、自らの競合事業者の商品又は役務について、自らの商品又は役務と比較した、低い評価を表示させる場合。

 これに対し、事業者が第三者の表示に関与したとしても、客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められるものであれば、事業者の表示には当たりません。例えば、以下のような場合が考えられます(運用基準第2の2(1))。

第三者が事業者の商品又は役務について、SNS等に当該第三者の自主的な意思に基づく内容として表示(複数回の表示も含む。)を行う場合。
事業者が第三者に対して自らの商品又は役務を無償で提供し、SNS等を通じた表示を行うことを依頼するものの、当該第三者が自主的な意思に基づく内容として表示を行う場合。
アフィリエイターの表示であっても、事業者と当該アフィリエイターとの間で当該表示に係る情報のやり取りが直接又は間接的に一切行われていないなど、アフィリエイトプログラムを利用した広告主による広告とは認められない実態にある表示を行う場合。
ECサイトに出店する事業者の商品を購入する第三者が、自主的な意思に基づく内容として当該ECサイトのレビュー機能を通じて、当該事業者の商品等の表示を行う場合。
ECサイトに出店する事業者が自らの商品の購入者に対して当該ECサイトのレビュー機能による投稿に対する謝礼として、次回割引クーポン等を配布する場合であっても、当該事業者(当該事業者から委託を受けた仲介事業者を含む。)と当該購入者との間で、当該購入者の投稿(表示)内容について情報のやり取りが直接又は間接的に一切行われておらず、客観的な状況に基づき、当該購入者が自主的な意思により投稿(表示)内容を決定したと認められる投稿(表示)を行う場合。
第三者が、事業者がSNS上で行うキャンペーンや懸賞に応募するために、当該第三者の自主的な意思に基づく内容として当該SNS等に表示を行う場合。
事業者が自社のウェブサイトの一部において、第三者が行う表示を利用する場合であっても、当該第三者の表示を恣意的に抽出すること(例えば、第三者のSNSの投稿から事業者の評判を向上させる意見のみを抽出しているにもかかわらず、そのことが一般消費者に判別困難な方法で表示すること。)なく、また、当該第三者の表示内容に変更を加えること(例えば、第三者のSNSの投稿には事業者の商品等の良い点、悪い点の両方が記載してあるにもかかわらず、その一方のみの意見を取り上げ、もう一方の意見がないかのように表示すること。)なく、そのまま引用する場合。
事業者が不特定の第三者に対して試供品等の配布を行った結果、当該不特定の第三者が自主的な意思に基づく内容として表示を行う場合。
事業者が特定の第三者(例えば、事業者が供給する商品又は役務について会員制(一定の登録者に対して一定の便益を付与する制度等)を設けている場合における会員)に対して試供品等の配布を行った結果、当該特定の第三者が自主的な意思に基づく内容として表示を行う場合。
事業者が表示内容を決定できる程度の関係性にない第三者に対して表示を行わせることを目的としていない商品又は役務の提供(例えば、単なるプレゼント)をした結果、当該第三者が自主的な意思に基づく内容として表示を行う場合。

(3) 要件②:一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難であると認められるもの

 ステマ告示の要件②の「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である」かどうかに当たっては、一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっているかどうか、逆にいえば、第三者の表示であると一般消費者に誤認されないかどうかを表示内容全体から判断することになります(運用基準第3)。
 一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっていないものとしては、(a) 事業者の表示であることが記載されていないものと、(b) 事業者の表示であることが不明瞭な方法で記載されているものとに分けられます(運用基準第3の1)。

(a) 事業者の表示であることが記載されていないもの
事業者の表示であることが全く記載されていない場合。
事業者がアフィリエイトプログラムを用いた表示を行う際に、アフィリエイトサイトに当該事業者の表示であることを記載していない場合。
(b) 事業者の表示であることが不明瞭な方法で記載されているもの
事業者の表示である旨について、部分的な表示しかしていない場合。
文章の冒頭に「広告」と記載しているにもかかわらず、文中に「これは第三者として感想を記載しています。」と事業者の表示であるかどうかが分かりにくい表示をする場合。あるいは、文章の冒頭に「これは第三者としての感想を記載しています。」と記載しているにもかかわらず、文中に「広告」と記載し、事業者の表示であるかどうかが分かりにくい表示をする場合。
動画において事業者の表示である旨の表示を行う際に、一般消費者が認識できないほど短い時間において当該事業者の表示であることを示す場合(長時間の動画においては、例えば、冒頭以外(動画の中間、末尾)にのみ同表示をするなど、一般消費者が認識しにくい箇所のみに表示を行う場合も含む。)。
一般消費者が事業者の表示であることを認識できない文言を使用する場合。
事業者の表示であることを一般消費者が視認しにくい表示の末尾の位置に表示する場合。
事業者の表示である旨を周囲の文字と比較して小さく表示した結果、一般消費者が認識しにくい表示となった場合。
事業者の表示である旨を、文章で表示しているものの、一般消費者が認識しにくいような表示(例えば、長文による表示、周囲の文字の大きさよりも小さい表示、他の文字より薄い色を使用した結果、一般消費者が認識しにくい表示)となる場合。
事業者の表示であることを他の情報に紛れ込ませる場合(例えば、SNSの投稿において、大量のハッシュタグ(「#」)を付した文章の記載の中に当該事業者の表示である旨の表示を埋もれさせる場合)。

 これに対し、一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっているもの、すなわち、表示内容全体から、事業者の表示であることが分かりやすい表示となっている場合は、ステマ規制の対象となるものではありません。表示内容全体から、事業者の表示であることが分かりやすい表示となっている場合とは、例えば、以下の場合が考えられます(運用基準第3の2(1))。

「広告」、「宣伝」、「プロモーション」、「PR」といった文言による表示を行う場合。
「A社から商品の提供を受けて投稿している」といったような文章による表示を行う場合。

 一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭であるもの又は社会通念上明らかであるものは、ステマ告示の対象となりません。例えば、以下のような場合が考えられます(運用基準第3の2(2))。

放送におけるCMのように広告と番組が切り離されている表示を行う場合。
事業者の協力を得て制作される番組放送や映画等において当該事業者の名称等をエンドロール等を通じて表示を行う場合。
新聞紙の広告欄のように「広告」等と記載されている表示を行う場合。
商品又は役務の紹介自体が目的である雑誌その他の出版物における表示を行う場合。
事業者自身のウェブサイト(例えば、特定の商品又は役務を特集するなど、期間限定で一般消費者に表示されるウェブサイトも含む。)における表示を行う場合。
事業者自身のSNSのアカウントを通じた表示を行う場合。
社会的な立場・職業等(例えば、観光大使等)から、一般消費者にとって事業者の依頼を受けて当該事業者の表示を行うことが社会通念上明らかな者を通じて、当該事業者が表示を行う場合。

(4) ステマ規制違反の効果

 ステマ告示に違反した場合、事業者に対して、措置命令が行われ、その内容が公表されますが、課徴金は課せられません。また、ステマ告示の対象となるのは、商品・サービスを供給する事業者(広告主)であり、以下の者は対象となりません(※)。

・広告・宣伝の表示の制作に関与しただけの者(例:広告代理店、インフルエンサー、アフィリエイター)
・表示を掲載しただけの者(例:新聞社、出版社、放送局)
・ただ単に商品・サービスを陳列して販売している者(例:小売業者)
・取引の場を提供している者(例:オンラインモール運営事業者)

 ステマ告示違反による措置命令の内容としては、例えば、以下のようなものが考えられます。

・違反した表示の差止め
・違反したことを一般消費者に周知徹底すること
・再発防止策を講ずること
・その違反行為を将来繰り返さないこと

 なお、表示内容について優良誤認表示(第5条第1号)又は有利誤認表示(第5条第2号)が認められる場合には、ステマ告示違反に加え、優良誤認表示又は有利誤認表示として、景品表示法上の措置を受けることになります。

※ 消費者庁「景品表示法とステルスマーケティング~事例で分かるステルスマーケティング告示ガイドブック~」(令和5年6月)

4. おわりに

 冒頭で述べたとおり、2023年10月に導入されたいわゆるステマ規制に基づいて行政処分が行われたのは、今回が初めてです。消費者庁は、ステマ規制に関する今回の処分をきっかけに、今後、ステマ規制の執行を強化する可能性があります。この点、2024年2月末以降、消費者庁が、客観的根拠に乏しい「顧客満足度No. 1」表示等につき、短期間に10件以上の行政処分を相次いで出したことも記憶に新しいところであり、十分に注意する必要があります。
 企業としては、自社のビジネスの過程にステマ規制に違反する可能性を含むものがないか、上記①及び②の要件に照らして具体的かつ慎重に検討し、そのような可能性があると判断した場合には、弁護士に相談するなどして早急に対応する必要があると考えられます。

以 上

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