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事務所概要・アクセス
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<目次>
1.就業環境の整備に関する規制
2.募集情報の的確表示義務
(1)広告等
(2)義務の対象となる募集情報の事項
(3)留意点
3.妊娠、出産若しくは育児又は介護に対する配慮義務
(1)配慮の内容
(2)配慮を行うに当たって望ましい事項
(3)望ましくない取扱い
4.ハラスメント対策に係る体制整備義務
(1)講ずべき措置の内容
(2)その他特定業務委託事業者が行うことが望ましい取組の内容
5.中途解除等の事前予告・理由開示義務
(1)事前予告義務
(2)理由開示義務
6.小括
2024年11月1日、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(以下「フリーランス保護法」といいます。(※1))が施行されます。
本ニューズレターでは、同法の規制のうち、労働法類似の規制である就業環境の整備に関する規制について、解説します。すでにパブリックコメントが行われているため、それに対する考え方についても、以下において一部言及しています(「パブコメNo. xxx」と表記しています)。
なお、同法については、以下のニューズレターにおいても解説しています(ただし、解説当時の情報に基づくものです)。
(※1)「フリーランス新法」「フリーランス保護新法」との略称が用いられることもありますが、本ニューズレターにおいては「フリーランス保護法」といいます。
フリーランス保護法の就業環境の整備に関する規制は以下の4つです。
①募集情報の的確表示義務(同法12条)
②妊娠、出産若しくは育児又は介護に対する配慮義務(同法13条)
③ハラスメント対策に係る体制整備義務(同法14条)
④中途解除等の事前予告、理由開示義務(同法16条)
特定業務委託事業者は、広告等により、その行う業務委託に係る特定受託事業者(以下、特定業務受託事務従事者も含め、「フリーランス」といいます。)の募集に関する情報を提供するときは、当該情報について虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示をしてはならないこと、及び、その情報を正確かつ最新の内容に保つことが義務付けられています(フリーランス保護法12条)。
特定業務委託事業者が自ら募集に関する情報を提供する場合だけではなく他の事業者に委託して行う場合も上記義務の対象であるため、留意が必要です(指針2頁、パブコメNo.3-1-4)。
募集情報の提供方法である「広告等」とは、①新聞、雑誌その他の刊行物に掲載する広告、②文書の掲出又は頒布、③書面の交付、④ファクシミリ、⑤電子メール等、⑥テレビやラジオ、インターネット上のオンデマンド放送や自社のホームページ、クラウドソーシングサービス等が提供されるデジタルプラットフォーム等です(厚生労働省関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則(以下「省令」といいます。)1条、指針3頁)。
なお、上記義務は、特定の一人の事業者を相手に業務委託を打診する場合については対象外ですが、一つの業務委託に関して二人以上の複数人を相手に打診する場合については対象になるため、この点も留意が必要です(パブコメNo.3-1-1、3-1-2)。
義務の対象となる募集情報の事項は以下のとおりです(同法施行令2条)。
指針(5頁ないし7頁)によれば、虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示の具体例として以下などが挙げられているため、留意が必要です。
禁止事項 | 具体例 |
---|---|
虚偽の表示 | <該当する例> ・実際に業務委託を行う事業者とは別の事業者の名称で業務委託に係る募集を行う場合 ・契約期間を記載しながら実際にはその期間とは大幅に異なる期間の契約期間を予定している場合 ・意図して実際には存在しない業務に係る募集情報を提供した場合 <該当しない例> ・当事者間の合意に基づき、募集情報から実際の契約条件を変更することとなった場合 ※ただし、募集情報から実際の契約条件を変更することが常態化している場合であれば、募集情報が的確に表示されていない可能性が高い(パブコメNo.3-1-18)。 |
誤解を生じさせる表示 | <該当する例> ・関係会社を有する者が業務委託を行う予定の者を当該関係会社と混同させるような表示をする場合 ・報酬額等について、実際の報酬額等よりも高額であるかのように表示する場合 |
特定業務委託事業者は、6か月以上の期間の継続的業務委託について、フリーランスからの申出に応じて、当該フリーランスが妊娠、出産、育児または介護と両立しつつ業務に従事することができるよう必要な配慮をすることが義務付けられています(フリーランス保護法13条1項)。
この6か月の期間の算定の考え方については、フリーランス保護法の施行予定日、施行令等の案の公表の2(1)①の1か月の期間の算定の考え方と同様ですので、ご参照下さい。
なお、6か月未満の業務委託の場合であっても、特定業務委託事業者は上記配慮をする努力義務を負います(同条2項)。
指針(13頁ないし16頁)によれば、以下のとおり、特定業務委託事業者は4段階の配慮をするべきものとされています。
①配慮の申出の内容等の把握
②配慮の内容又は取り得る選択肢の検討
③配慮の内容の伝達及び実施
④配慮の不実施の場合の伝達・理由の説明
配慮の具体例(上記②及び③)としては、介護のために特定の曜日についてはオンラインで就業したいとの申出があった場合は、一部業務をオンラインに切り替えられるよう調整することなどです。
上記配慮を行うに当たっては、フリーランスが申出をしやすい環境を整備しておくことが重要です。
具体的には、配慮の申出が可能であることや、配慮を申し出る際の窓口、担当者、手続等を周知することなどが望ましいとされています。
指針(18頁ないし21頁)において、以下の①及び②が「望ましくない取扱い」として指摘されているので、留意が必要です。
①フリーランスからの申出を阻害すること(例:申出に際して膨大な資料を提出させる手続とすることなど)
②フリーランスが申出をしたこと又は配慮を受けたことのみを理由に契約の解除その他の不利益な取り扱いを行うこと(不利益な取扱いの例:報酬不払い・減額、給付内容の変更、やり直し、取引数量の削減、停止など)
上記②の不利益な取扱いを行う場合、禁止行為(同法5条)にも該当し得ます。
なお、上記「望ましくない取扱い」自体はフリーランス保護法13条に定められているものではなく、これを行ったことが同条違反になるものではありませんが、このような取扱いがあった場合、労働局による調査等が行われることがあり得るため、留意が必要です(パブコメNo.3-2-33)。
特定業務委託事業者は、フリーランスに対して業務委託における①セクシャルハラスメント、②妊娠、出産等に関するハラスメント、③パワーハラスメントが行われることのないよう、フリーランスからの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講じることが義務付けられています(フリーランス保護法14条1項)。
また、特定業務委託事業者は、フリーランスがハラスメントに関する相談を行ったこと又は当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、そのフリーランスに対し、業務委託に係る契約の解除その他の不利益な取扱いをすることが禁止されています(同法14条2項)。
これらの義務は、前記3とは異なり、6か月以上の期間の継続的業務委託でなくても適用される義務です。
指針(41頁ないし53頁)によれば、業務委託におけるハラスメント防止のために特定業務委託事業者が講ずべき措置は以下の①ないし④のとおりです。
講ずべき措置 | 具体例 |
---|---|
①特定業務委託事業者の方針等の明確化及びその周知・啓発 | ・特定業務委託事業者の就業規則等において、業務委託におけるハラスメントを行った者に対する懲戒規定を定め、労働者に周知・啓発すること ・社内報や自社ホームページなどに業務委託におけるハラスメントを行ってはならない旨の方針を記載して、労働者に対して研修、講習等を実施すること |
②相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備 ・相談窓口をあらかじめ定め、フリーランスに周知すること ・相談窓口担当者が相談に適切に対応できるようにすること ※特定業務委託事業者の労働者向けの相談窓口をフリーランスも活用できるようにすることも可能。 | <相談窓口設置の例> ・外部の機関に相談対応を委託すること、相談対応の担当者をあらかじめ定めること、相談に対応するための制度を設けること <フリーランスへの周知の例> ・業務委託契約に係る書面やメール等に相談窓口の連絡先を記載すること、フリーランスが定期的に閲覧するイントラネット等において相談窓口を掲載すること <相談窓口担当者の適切な対応の例> ・相談窓口担当者向けのマニュアルを作成、マニュアルに基づいて対応すること |
③業務委託におけるハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応 | (i)事案に係る事実関係を迅速かつ正確に把握すること (ii)業務委託におけるハラスメントが生じた事実が確認できた場合、速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと(※2) (iii)業務委託におけるハラスメントが生じた事実が確認できた場合、行為者に対する措置を適正に行うこと(※3) (iv)業務委託におけるハラスメントに関する方針を周知・啓発する等の再発防止に向けた措置を講ずること |
④上記①ないし③と併せて講ずべき措置 | ・相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨を労働者及びフリーランスに周知すること ・フリーランスがハラスメントに関する相談をしたこと、事実関係の確認等に協力したこと、労働局などに対して申出をして適当な措置をとるべきことを求めたことを理由として、業務委託に係る契約の解除その他の不利益な取扱いをされない旨を業務委託契約に係る書面やメール等やフリーランスが閲覧するイントラネット等において定め、フリーランスに周知・啓発すること |
(※2)被害者に対する配慮のための措置の具体例は、被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、被害者の就業場所変更または行為者の配置転換、行為者の謝罪、被害者の取引条件上の不利益の回復、被害者のメンタルヘルス不調への相談対応等の措置です。
(※3)行為者に対する措置の具体例は、規定等に基づく懲戒その他の措置のほか、あわせて、事案の内容や状況に応じ、関係改善の援助、行為者の謝罪等です。
業務委託に係る契約締結前の者は上記体制整備義務の対象にはならないものの、指針(53頁及び54頁)において、特定業務委託事業者は、業務委託に係る契約交渉中の者に対する言動についても、上記(1)と同様の方針を併せて示すことが望ましいとされています。
特定業務委託事業者は、6か月以上の期間の継続的業務委託について、その契約の解除又は契約期間満了後の不更新をしようとする場合には、フリーランスに対し、少なくとも30日前までに、その予告をすることが義務付けられています(フリーランス保護法16条1項)。予告は書面交付、ファクシミリ、電子メール等の送信のいずれかの方法によります(省令3条1項各号)。
ただし、一定の例外事由に該当する場合については上記義務が課されません(同法16条1項但書。後記ウ参照)。
事前予告義務の対象となる「契約の解除」(契約期間満了後の不更新を含みます)とは、特定業務委託事業者からフリーランスに対する一方的な意思表示に基づく契約の解除をいい、フリーランスからの一方的な意思表示に基づく契約の解除は含まれません。
また、特定業務委託事業者とフリーランスとの間の業務委託契約において、一定の事由がある場合に事前予告なく契約を解除することができる旨の条項を定めている場合であっても、直ちに同法16条1項の事前予告は不要とならず、後記ウの例外事由に該当しない限り、「契約の解除」に該当し事前予告を要すると考えられています(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方(以下「解釈ガイドライン」といいます。)43頁参照)。業務委託契約において、このような条項を定めている例は少なくないため、留意が必要です。
なお、事故等があり調査が必要な場合や契約違反があった場合など業務委託の一時停止をする場合については、一定の場合には上記事前予告義務の対象にならないと考えられており、今後その内容がQ&A等において示される予定です(パブコメNo.3-4-28)。
事前予告義務の対象となる「契約期間の満了後に更新しない」(=契約期間満了後の不更新)とは、継続的業務委託に係る契約が満了する日から起算して1か月以内に次の契約を締結しないことをいいます。業務委託の性質上一回限りであることが明らかである場合などは、事前予告義務の対象にならないと考えられています(解釈ガイドライン43頁及び44頁参照)。
事前予告義務が課されない例外事由は以下のとおりです(同法16条1項但書、省令4条各号、解釈ガイドライン45頁ないし47頁参照)。
①災害その他やむを得ない事由により予告することが困難な場合
②再委託の場合に、元委託の契約の全部または一部が解除され、再委託の業務の大部分が不要となった場合など直ちに当該再委託業務に係る契約の解除をすることが必要であると認められる場合
③基本契約に基づいて業務委託を行う場合又は契約の更新により継続して業務委託を行うこととなる場合に、契約期間30日以下の単発の業務委託に係る契約を解除しようとする場合
④フリーランスの責めに帰すべき事由により直ちに契約の解除をすることが必要であると認められる場合
⑤基本契約を締結している場合であって、フリーランスの事情により概ね6か月以上の相当な期間において当該基本契約に基づく業務委託をしていない場合
上記④のフリーランスの責めに帰すべき事由については、同法16条の保護を与える必要のない程度に重大又は悪質なものをいうとされています。たとえば、業務委託に関連して盗取、横領、傷害等刑法犯等に該当する行為のあった場合、経歴・能力を詐称した場合、フリーランスが契約上定められた給付及び役務を合理的な理由なく全く又はほとんど提供しない場合、契約に定める業務内容から著しく逸脱した悪質な行為を故意に行い、当該行為の改善を求めても全く改善が見られない場合などです(解釈ガイドライン47頁参照)。
より具体的には、フリーランスが反社会的勢力であることが判明した場合等、特定業務委託事業者との間の信頼関係を喪失させ、又は特定業務委託事業者の信用を失墜させるもの等である場合には、上記④に該当する可能性が高いとされています(パブコメNo.3-4-39等)。
特定業務委託事業者は、上記予告の日から契約が満了する日までの間に、フリーランスから契約の解除又は不更新の理由の開示を請求された場合には、遅滞なくその理由の開示をすることが義務付けられています(同法16条2項)。理由開示の方法は上記(1)の予告の方法と同様です。
理由開示義務についても、例外事由が定められています(同項但書、省令6条各号)。具体的には、①第三者の利益を害するおそれがある場合、②他の法令に違反することとなる場合です。
発注事業者においては、2024年11月1日のフリーランス保護法施行に向けて必要な準備をするべきものと考えられます。今後もQ&A等の更新が予定されていますので、引き続き注意が必要です。
以 上