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2024.11.05

企業法務の観点から注目される最近の主な裁判例(2024年9月・10月)

牛島総合法律事務所 訴訟実務研究会

<目次>
1. 商事法
2. 民事法・民事手続法
3. 労働法
4. 知的財産法
5. 下請法

 裁判所ウェブサイトや法務雑誌等で公表された最近の裁判例の中で、企業法務の観点から注目される主な裁判例を紹介します(2024年9月・10月)。
 東京高判令和6年7月31日(東京機械の主要株主に対する短期売買利益提供請求事件)(下記1(1))は、東京機械製作所が、主要株主であり同社に買収を仕掛けた投資会社の子会社であった投資ファンドに対し、同社株式の短期間売買で利益を得たとして、約19億円の支払いを求めた事案です。同社の請求を認めた東京地裁判決(※)に対し、投資ファンドが控訴していましたが、東京高裁は、東京地裁の判決は結論において相当であるとして、控訴を棄却しました。
 東京地判令和6年3月27日(ナガホリの株主総会決議取消請求事件)(下記1(3))は、東証スタンダード市場に上場しているY社の株主であるX社が、Y社に対し、Y社の定時株主総会に際し、①Y社がX社に対して株主名簿の開示を遅滞したこと、②Y社が招集通知の際に公表・送付した補足資料においてX社の提案した取締役候補者等について不当な印象操作を行ったことにつき、招集の手続又は決議の方法が著しく不公正であったと主張し、総会決議の取消しを求めた事案です。東京地裁は、①Y社が株主名簿の閲覧謄写請求に理由が無いとして仮処分命令申立事件等においてこれを争ったとしても、専らX社の委任状勧誘行為を妨害する目的に出たなどの訴権の濫用とも言うべき特別な事情が無い限り、正当な権利行使であり、決議の方法が著しく不公正と評価することはできないと判示しました。また、②Y社取締役会が株主提案に対する意見を表明することは、社会通念上許容される相当な範囲を超えない限り、適法であるとし、招集の手続又は決議の方法が著しく不公正であったとは認められないと判示しました。会社といわゆる「物言う株主」との間で対立が生じた場合の総会決議の効力について、具体的事情をもとに判断を下したものであり、参考となります。
 東京地判令和6年5月13日(AGCグリーンテック事件)(下記3(2))は、大手ガラスメーカーの子会社Y社の一般職の女性従業員Xが、Y社が総合職(大部分が男性)に対してのみ社宅制度の適用を認め、一般職(大部分が女性)にこれを認めていないことが、男女雇用機会均等法の禁じる男女差別であるとして、Y社に対し損害賠償請求等を行った事案です。東京地裁は、Y社の社宅制度の運用が同法の禁じる「間接差別」(=①性別以外の事由を要件とする措置であって、②他の性の構成員と比較して、一方の性の構成員に相当程度の不利益を与えるものを、③合理的な理由がないときに講ずること)に該当すると認め、Y社に対し、約378万円の賠償を認めました。本件は、間接差別が実際の裁判で認定された初めての事案とみられ、従業員の処遇に関する制度設計や運用
を見直す上で参考となります。
 東京地判令和6年4月24日(みずほ銀行元行員の地位確認等請求事件)(下記3(4))は、大手都市銀行であるY銀行に勤務していたXが、Y銀行から長期間の自宅待機命令を受けた上、不当に懲戒解雇されたとして、Y銀行に対し、労働契約上の権利を有することの確認及び損害賠償請求等を行った事案です。東京地裁は、XがY銀行の業務命令に従わず欠勤を繰り返していたなどとして解雇の有効性を認めましたが、約4年半もの長期間の自宅待機命令は実質的にみて社会通念上許容される限度を超えた違法な退職勧奨であり、不法行為が成立するとして、Xの請求を330万円の慰謝料等の限度で認めました。
 東京地判令和6年5月16日(AIの発明者該当性に関するダバス事件)(下記4(1))は、Xが、特許協力条約に基づく国際出願を行った上、特許庁長官に対し提出した国内書面(特許法184条の5第1項)において、発明者の氏名として、「ダバス、本発明を自律的に発明した人工知能」と記載したところ、特許庁長官は、Xが発明者の氏名として自然人を記載すべき旨の補正に応じなかったため、特許出願を却下する処分を行ったため、Xが当該処分の取消しを求めた事案です。東京地裁は、特許法に規定する「発明者」は自然人に限られると判示し、Xの請求を棄却しました。本件は、人工知能(AI)が特許法にいう「発明者」に該当しないと初めて判断した裁判例です。東京地裁は、AI発明に係る制度設計は、国民的議論による民主主義的なプロセスに委ね、立法論として幅広く検討して決めることが相当と指摘した上、まずは我が国で立法論としてAI発明に関する検討を行って可及的速やかにその結論を得ることが特に期待されている旨付言しており、今後の動向が注目されます。

企業法務の観点から注目される最近の主な裁判例(2024年1月・2月)

1. 商事法

(1) 東京高判令和6年7月31日(資料版商事法務486号144頁)

東京機械製作所からの主要株主に対する短期売買利益提供請求事件控訴審判決

(2) 東京地判令和6年4月9日(金融・商事判例1698号8頁)

弁護士資格を有することを前提に就任した取締役が、自ら担当していた会社買収の業務に関し対象会社の財務状態の調査や情報提供等を怠ったことなどについて、買収に伴って対象会社の債務につき連帯保証した後に代位弁済をした者(当該取締役の就任先の会社の代表取締役)との関係で、会社法429条1項および民法709条に基づき損害賠償責任を負うとされた事例

(3) 東京地判令和6年3月27日(金融・商事判例1700号32頁)〔ナガホリ事件〕

招集の手続または決議の方法が著しく不公正なときに当たらないとされた事例

(4) ①東京高判令和6年3月6日、②東京地判令和6年3月28日〔東芝不正会計事件〕

(①②事件)東芝の元役員・会計監査人(監査法人)に対する損害賠償請求訴訟係属中のキャッシュ・アウトに伴う株主の原告適格の帰趨(資料版商事法務485号173頁)
(②事件)株式併合と代表訴訟の原告適格等の帰趨(金融・商事判例1700号20頁)

(5) 東京地判令和6年3月14日(金融・商事判例1698号22頁)

1 高齢の女性に対し新興国通貨の為替相場の変動によって適用される利率や早期償還該当性、元本毀損の有無が決まる仕組債の購入を勧誘した証券会社に、適合性原則違反の違法があるとされた事例
2 償還金がドル建てで元本が保証されている商品について、外国債券を購入した経験がある高齢の女性に対し取引勧誘した証券会社に、適合性原則違反または説明義務違反があったとはいえないとされた事例

(6) 東京高判令和6年2月14日(金融・商事判例1699号28頁)

1 ソーシャルレンディングにおけるウェブサイト上の募集画面中の資金使途について、金融商品取引業等に関する内閣府令117条1項2号所定の虚偽表示等があったとされた事例
2 ソーシャルレンディングに係る募集を行う第二種金融商品取引業者が、取得勧誘の際の使途の表示の適確性について確認すべき義務を負い、その違反に基づき投資家との関係で不法行為責任を負うとされ、投資家の損害についての過失相殺が否定された事例

(7) 東京地判令和5年10月6日(金融・商事判例1699号38頁)

株主間契約に係る解除事由が認められなかった事例

(8) 東京高判令和5年9月28日(判例タイムズ1522号123頁)

1 株主総会で行われた株式併合決議について、決議の方法が著しく不公正なものであるとされた事例
2 株主総会で行われた株式併合決議について、それ以前の株主総会でされた定款変更決議の法的瑕疵を根拠として決議の方法が著しく不公正なものであるということはできないとの主張が排斥された事例

2. 民事法・民事手続法

(1) 東京高判令和6年5月22日(金融・商事判例1699号20頁)

自動継続特約の付されていない定期預金に関し、銀行による消滅時効の援用が認められた事例

(2) 札幌高判令和6年3月14日(判例タイムズ1524号51頁)

1 同性間の婚姻を認めていない民法及び戸籍法の婚姻に関する諸規定は、憲法13条に違反すると認めることはできないが、憲法24条1項・2項及び14条1項に違反するとした事例
2 同性間の婚姻を認めていない民法及び戸籍法の婚姻に関する諸規定を改廃しないことが、国家賠償法1条1項の適用上、違法であると認めることはできないとした事例

(3) 横浜地判令和5年12月15日(判例タイムズ1523号188頁、裁判所ウェブサイト)

マンションの敷地の一部である斜面地が崩落した事故について、マンションの住民及び管理組合との関係でマンションの販売会社、設計会社及び販売代理店の不法行為責任を否定した一方、マンションの管理組合との関係でマンション管理会社は、条理上、斜面地の崩落防止のための助言を行うべき義務及び斜面地の安定保護を損なうような行為を避ける義務を怠ったとして不法行為責任を認めた事例自動継続特約の付されていない定期預金に関し、銀行による消滅時効の援用が認められた事例

(4) 東京高判令和5年11月15日(判例タイムズ1522号65頁、裁判所ウェブサイト)

宗教法人とその信者との間で締結された不起訴の合意が、合理性、相当性を欠き、信者に著しく不利益な内容といえるなどとして、公序良俗に反し無効であるとされた事例

(5) 仙台高判令和5年10月25日(判例タイムズ1522号73頁、裁判所ウェブサイト)〔旧優生保護法国家賠償請求訴訟〕

旧優生保護法による強制優生手術を受けた原告の国家賠償請求において、平成29年法律第44号による改正前の民法724条後段の不法行為による損害賠償請求権の期間の制限につき、除斥期間ではなく消滅時効を定めた規定と解し、この規定による権利の消滅についての被告国の主張が権利の濫用にあたるとした事例

(6) 東京高判令和5年6月28日(判例タイムズ1523号143頁、裁判所ウェブサイト)

いわゆる被差別部落があった地域を記載した著作物の出版等について、「人間としての尊厳を保ちつつ平穏な生活を送ることができる人格的な利益」の侵害を理由に差止め等が認められた事例

(7) 東京高判令和5年4月18日(判例タイムズ1522号94頁)

芸能人養成スクールを退学等する場合に入学時諸費用を返還しないとする学則について、消費者契約の解除に伴う損害賠償の額等を定める条項に該当し、消費者契約法9条1項所定の平均的損害の額を超える部分があると認めて差止請求を一部認容した事例

3. 労働法

(1) 最一判令和6年10月31日(裁判所ウェブサイト)

大学の教員の職が大学の教員等の任期に関する法律4条1項1号所定の教育研究組織の職に当たるとされた事例

(2) 東京地判令和6年5月13日労働判例1314号5頁〔AGCグリーンテック事件〕

総合職のみ利用可能な社宅制度の直接・間接差別該当性

(3) 水戸地判令和6年4月26日(WEB労政時報4085号10頁、裁判所ウェブサイト)〔大津漁業協同組合事件〕

個人的な目的によるものではなく、およそ合理性を欠いていたとはいえない捜査機関への告発は、解雇の客観的合理的な理由とはならない

(4) 東京地判令和6年4月24日金融・商事判例1701号34頁

1 被告による約4年半にわたる自宅待機命令が違法な退職勧奨に当たり不法行為を構成するとされた事例
2 被告による解雇が有効とされた事例

(5) 東京高判令和6年2月28日(労働判例1311号5頁)〔JR東海(年休)事件〕

年休取得申請に対する時季変更権行使の違法性

(6) 東京地判令和6年2月19日(WEB労政時報4084号16頁)〔ビーラインロジ事件〕

基礎賃金の範囲を誤り、給与体系変更に伴う不利益を十分説明しないまま労働者の同意を取得しても、自由な意思に基づく同意とは認められない

(7) 東京高判令和6年2月8日(労働判例1313号38頁)〔野村證券・野村ホールディングス事件〕

派遣法40条の6第1項2号の適否

(8) 東京地判令和5年12月19日(労働判例1311号46頁)〔小田急電鉄(懲戒解雇)事件〕

懲戒解雇と退職金請求の可否

(9) 東京高判令和5年11月30日(労働判例1312号5頁)〔日本産業パートナーズ事件〕

競業避止条項および退職金減額規定の有効性



4. 知的財産法

(1) 東京地判令和6年5月16日(判例時報2601号90頁、裁判所ウェブサイト)〔ダバス事件〕

AI(ダバス、発明を自律的に発明した人工知能)が、特許法にいう「発明者」に該当しないとされた事例

(2) 東京地判令和5年11月30日(判例タイムズ1522号247頁、裁判所ウェブサイト)

「エンリケ」という名称等の使用がパブリシティ権を侵害するとされた事例

(3) 大阪高判令和5年4月27日(判例時報2602号86頁、裁判所ウェブサイト)

量産衣料品の生地に用いるデザイン案として作成され、後に量産品の布団に用いられた絵柄の著作物性を否定した事例

5. 下請法

(1) 東京地判令和6年2月15日(金融・商事判例1698号36頁)

下請代金支払遅延等防止法の買いたたき行為および独占禁止法の優越的地位の濫用を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求が認められなかった事例

                                                以上

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