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セミナー
事務所概要・アクセス
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<目次>
1.指導の概要
(1)取引条件の明示義務違反
(2)期日における報酬支払義務違反となるおそれ
2.指導を踏まえた対応等
3.(参考)勧告の場合にも公表リスクあり
4.小括
2024年11月1日、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(以下「フリーランス保護法」といいます。(※1))が施行されました。
今般、同法施行後初めて、同法第22条(※2)に基づく指導が行われたので、解説します。
なお、同法については、以下のニューズレターにおいても解説しています(ただし、解説当時の情報に基づくものです)。
(※1)「フリーランス法」「フリーランス新法」「フリーランス・事業者間取引適正化等法」との略称が用いられることもありますが、本ニューズレターにおいては「フリーランス保護法」といいます。
(※2)第22条「公正取引委員会及び中小企業庁長官並びに厚生労働大臣は、この法律の施行に関し必要があると認めるときは、業務委託事業者に対し、指導及び助言をすることができる。」
2025年3月28日、公正取引委員会は、フリーランス保護法第22条に基づき、45名の事業者に対して、契約書や発注書の記載、発注方法、支払期日の定め方等の是正を求める指導を行ったことを発表しました。(※3)
この指導は、フリーランスとの取引が多い業種であるゲームソフトウェア業、アニメーション制作業、リラクゼーション業及びフィットネスクラブの事業者について集中的に調査を行った結果として行われたものです。
指導の対象となった主な事例は、①取引条件の明示義務違反(同法第3条違反)及び②期日における報酬支払義務違反となるおそれ(同法第4条違反のおそれ)に関するものです。特に、①取引条件の明示義務違反については、発表された事例の大半がこれに該当していました。
以下の(1)及び(2)では、上記①及び②のそれぞれについて、具体的に違反又は違反のおそれがあると指摘された事項を概観します。
(※3)公正取引委員会「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律に基づく指導について」、公正取引委員会「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律に基づく指導について(指導概要)」
「指導の対象となった主な事例」(※3参照)における指摘事項は以下のとおりです。
(※4)発注事業者(業務委託事業者)は、共通事項がある場合(基本契約を締結している場合)に、あらかじめ共通事項を示したときは、その共通事項を個々の発注の都度明示する必要はないものの、個々の発注における3条通知には、あらかじめ明示した共通事項との関連性を記載する必要があります(公正取引委員会規則第3条、解釈ガイドライン13頁)。なお、共通事項の明示にあたり、当該共通事項が有効である期間を併せて明示する必要があるため(解釈ガイドライン13頁)、この点も留意が必要です。
(※5)発注事業者(業務委託事業者)は、「業務委託をした場合」に「直ちに」取引条件の明示を行わなければなりません(同法第3条1項)。「業務委託をした場合」とは、発注事業者(業務委託事業者)とフリーランス(特定受託事業者)との間で業務委託をすることについて合意した場合をいい、「直ちに」とは、すぐにという意味であり、一切の遅れを許さないことをいいます(解釈ガイドライン7頁)。
「指導の対象となった主な事例」(※3参照)における指摘事項は以下のとおりです。
(※6)上記公正取引委員会の発表資料(※3参照)において、給付を受領した日から60日以内に報酬を支払わない場合、期日までの報酬支払義務違反となるおそれがあることが指摘されています。
上記1(1)及び(2)の指導の対象となった事項は、いずれも、契約書又は発注書の記載によって事前に対応することができた事項です。他方で、フリーランスとの契約書又は発注書において、上記各指摘事項と同様の定め方になっている例はまだあるものと存じます。
発注事業者においては、フリーランス保護法の規制に適合した契約書又は発注書のひな型を整備することや、契約書等のレビューの過程で同法に違反していないかをチェックすることが重要です。
同法の解釈・運用については、同法、同法施行規則等のほか、解釈ガイドライン、Q&A、パブリックコメント、さらに定期的に更新される公正取引委員会のyoutube配信など、確認するべき資料が多岐にわたるため、弁護士から適宜助言を受けて検討するべきものと考えられます。
なお、今回はフリーランス保護法第22条に基づく指導であり、勧告や命令ではないため、罰金刑や公表に直結するものではありません。もっとも、発表資料(※3参照)では、公正取引委員会は、同法に違反する疑いのある行為を行っている事業者やその業種に関する情報収集を積極的に行っている旨が記載されており、近時、公正取引委員会は下請法違反の勧告・公表も行っていることから、留意が必要です。
フリーランス保護法違反は勧告、命令(勧告にしたがわない場合)の対象となり、命令がなされた場合には公表されることがあります(同法第8条、第9条、第18条、第19条)。
2024年10月1日、公正取引委員会は、取引の適正化に関する規制違反に係る対応について、概要以下を発表しました。(※7)
特に、「勧告を行った場合」においても、事業者名等を公表する方針が示されたことは重要です。発注事業者においては事業者名等が公表されるリスクは重大であるため、勧告に至らないようにする必要があります。
今回の指導の前に行われた調査の結果、同法第5条の禁止行為(買いたたきの禁止等)の事実は認められておりませんが、仮に禁止行為の事実が認められていれば、勧告に至っていた可能性があります。発注事業者においては、上記対応方針に鑑み、フリーランスとの取引における適法性について十分に留意する必要があります。
(※7)公正取引委員会「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律第2章違反事件に係る公正取引委員会の対応について」
(※8)同法第6条1項は、フリーランス(特定受託事業者)が同法違反の事実を公正取引委員会等に申し出ることができる旨の規定であり、同条3項は、発注事業者(業務委託事業者)が当該申出を理由として、当該フリーランスに対して取引の数量の削減、取引の停止その他の不利益な取扱いをしてはならない旨の規定です。
公正取引委員会等のフリーランス保護法違反に対する対応の動向については今後も十分に注意する必要があります。発注事業者においては、まずはフリーランスとの契約書及び発注書の記載事項につき、同法の規制からみて漏れがないようにすることが重要と考えられます。
以 上