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2025.09.25

2023年盛土規制法の施行状況に見る自治体対応の留意点【前編】2023年盛土規制法の施行状況と条例規制

<目次>
1. はじめに
(1) 熱海市伊豆山の大規模土石流災害の発生(盛土規制の背景)
(2) 従来の規制制度とその課題
(3) 国の法令による規制の必要性と盛土規制法の制定
2. 盛土の欠陥による民事責任・刑事責任
3. 盛土規制法の施行状況
(1) 規制区域の指定状況
(2) 監督処分・改善命令等の状況
(3) 摘発事例
(4) その他

1.  はじめに

 令和5(2023)年5月26日に通称盛土規制法が施行され、現在までその運用がなされていますが、各自治体の条例も含めて必ずしも適切にその遵守がなされていない状況にあります。
 本ニューズレターでは、前編・後編に分けて、令和5(2023)年施行の盛土規制法の概要および同法に関連する民事・刑事責任、同法の施行状況に見る自治体対応の留意点について解説します。

(1) 熱海市伊豆山の大規模土石流災害の発生(盛土規制の背景)

 令和3(2021)年7月3日、記録的な大雨の影響により、熱海市伊豆山の伊豆山神社南西で大規模な土石流が発生し、土石流によって多数の民家が押し流され、28人が死亡するという事故が発生しました。土砂災害の原因は、不適切に造成された盛り土であったとされています。
 土石流の発生場所は、森林法上の地域森林計画対象の民有林で、1haを超える盛土等の開発行為を行う際には知事の許可が必要とされていましたが、土石流の発生現場の盛土は1ha以下であったため規制の対象外でした。

(2) 従来の規制制度とその課題

 土地の開発やこれに伴う盛土については、宅地の安全確保、森林機能の確保、農地の保全等を目的とした各法律(砂防法、森林法、宅地造成等規制法等)によってそれぞれ規制されてきました。
 しかしながら、各法律による対応には限界があり、盛土等の規制が必ずしも十分でないエリアが存在していました(※)。例えば、都市計画法上の開発許可による盛土等の造成行為は、一定の範囲で規制されていますが(都市計画法29条)、規制対象についての面積要件があり、都市計画区域外では1ha以上の土地(都市計画法29条2項、同施行令22条の2)が対象とされるなど、規制の及ばないエリアが生じていました。また、開発対象区域を分割して、規制を潜脱する行為も問題になっていました。
 ※ 各法令による規制については、国土交通省大臣官房参事官吉田信博「盛土規制法について」(令和4年7月)11頁、12頁参照

 なお、建設発生土(残土・土砂)は、異物や有害物質が混入していないような場合、通常は、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(廃掃法)の対象となる廃棄物ではないとされ、また、汚染されていないものは「土壌汚染対策法」の対象外とされています。

 他方で、一部の自治体では条例により盛土や土砂埋立行為を規制しています(一般財団法人地方自治研究機構「土砂埋立て等の規制に関する条例(盛土規制条例)」等参照)。

千葉県土砂等の埋立て等による土壌の汚染及び災害の発生の防止に関する条例平成10年1月1日施行
神奈川県土砂の適正処理に関する条例平成11年10月1日施行
(「土砂埋立の許可」及び「土砂搬入禁止区域の指定」制度につき、令和7年3月廃止)
福岡県土砂埋立て等による災害の発生の防止に関する条例平成14年7月1日施行
(令和7年5月廃止)
埼玉県土砂の排出、たい積等の規制に関する条例
(改正後:埼玉県土砂の堆積による土壌の汚染の防止に関する条例
平成15年2月1日施行
(令和7年7月改正)
(兵庫県)産業廃棄物等の不適正な処理の防止に関する条例平成15年12月15日施行
広島県土砂の適正処理に関する条例平成16年9月25日施行
(令和7年7月改正)
大阪府土砂埋立て等の規制に関する条例平成27年7月1日施行
(令和6年4月廃止)
奈良市土砂等による土地の埋立て等の規制に関する条例令和2年4月1日施行
(令和7年4月廃止)
(宮城県)土砂等の埋立て等の規制に関する条例令和2年4月1日施行
(令和7年5月廃止)
京都市土砂等による土地の埋立て等の規制に関する条例令和2年6月1日施行
(令和6年6月改正)
神戸市の神戸市土砂の埋立て等による不適正な処理の防止に関する条例令和2年11月1日施行
(令和6年4月改正)
山梨県土砂の埋立て等の規制に関する条例令和4年4月1日改正施行
(令和7年4月廃止)
新潟県盛土等の規制に関する条例令和4年7月1日施行
(令和7年7月廃止)
静岡県盛土等の規制に関する条例
(改正後:盛土等による環境の汚染の防止に関する条例
令和4年7月1日施行
(令和7年5月改正)
長野県土砂等の盛土等の規制に関する条例令和5年1月1日施行

 例えば、京都市条例(京都市土砂等による土地の埋立て等の規制に関する条例)は3000㎡以上の埋立てを、奈良市条例(奈良市土砂等による土地の埋立て等の規制に関する条例)は500㎡以上かつ高さ1m超の埋立てを、神戸市条例(神戸市の神戸市土砂の埋立て等による不適正な処理の防止に関する条例)は1000㎡以上かつ高さ1m超の埋立てを、それぞれ市長の許可の対象としています。また、奈良市および神戸市の条例は、保証金の預託義務づけの規定を置いています。
 しかしながら、条例による規制は全国一律の規制ではないため、規制の甘い区域に問題が偏在するという事態が生じました。
 また、条例は法律ほどの強力な規制や罰則を定めることに抑制的で、実効性がないという問題もありました(※)。
 ※ 地方自治法14条3項により、条例で定めることができる制裁は、2年以下の拘禁・禁錮、100万円以下の罰金、拘留、科料もしくは没収の刑または5万円以下の過料に限定されています。
 ※ 行政対応の留意点については、猿倉健司「新規ビジネスの可能性を拡げる行政・自治体対応 ~事業上生じる廃棄物の他ビジネス転用・再利用を例に~」(牛島総合法律事務所特集記事)、「条例改正対応におけるリスクや留意点と、条例管理をサポートする『条例アラート』」(BUSINESS LAWYERS・2022年7月14日)、猿倉健司・堀田稜人「新規ビジネスの法令適合性審査・行政対応の各制度」(牛島総合法律事務所特集記事)参照

 なお、盛土規制法の施行に伴い、条例を廃止する自治体と、条例を維持または改正した上で維持する自治体があります。後者については、災害の防止については盛土規制法、生活環境の保全については盛土条例で規制するという区分けをしている自治体がいくつか存在しています。

(3) 国の法令による規制の必要性と盛土規制法の制定

 そこで、危険な盛土等を全国一律の基準で包括的に規制する法制度の創設が必要とされ、宅地造成等規制法を抜本的に改正することとなりました。
 法律名・目的も含めた抜本的な改正となり、法律名は「宅地造成等規制法」から「宅地造成及び特定盛土等規制法」に改正され(通称「盛土規制法」)、また、目的規定についても「宅地造成に伴う崖崩れ」の防止から「宅地造成、特定盛土等又は土石の堆積に伴う崖崩れ」の防止へと改正されました。
 盛土規制法は、国土交通省・農林水産省の共管法とされ、令和4(2022)年5月20日に成立し、令和5(2023)年5月26日に施行されました。同月29日には、「宅地造成、特定盛土等又は土石の堆積に伴う災害の防止に関する基本的な方針」が発表されています。

盛土規制法には、以下の(1)ないし(4)の4つのポイントがあります。
(1) スキマのない規制
(2) 盛土等の安全性の確保
(3) 責任の所在の明確化
(4) 実効性のある罰則の措置

これらの内容については、本ニューズレター後編で解説しますのでそちらをご覧ください。

2. 盛土の欠陥による民事責任・刑事責任

 盛土の欠陥により第三者の生命・身体・財産に損害を与えた場合、当該第三者から損害賠償請求や刑事告訴等がなされることがあります。

3. 盛土規制法の施行状況

 盛土規制法が施行されて2年が経過した現在の施行状況は以下のとおりです。

(1)規制区域の指定状況

 令和7(2025)年6月1日現在、盛土規制法に基づく規制区域は、47都道府県のうち38の都道府県、20の指定都市のうち19の指定都市、62中核市のうち54の中核市で指定が完了しています。
※「宅地造成及び特定盛土等規制法に基づく規制区域の指定状況

(2)監督処分・改善命令等の状況

 令和5(2023)年度においては、監督処分・改善命令等がされた例はなかったのに対し、令和6(2024)年度においては複数の監督処分・改善命令等がされました。具体的な実施状況は以下のとおりです。

・ 法20条5項に基づく緩和代執行:1件
・ 法22条2項に基づく勧告   :17件
・ 法23条1項に基づく改善命令 :1件
・ 法23条2項に基づく改善命令 :1件
・ 法25条に基づく報告徴収   :8件

 令和5(2023)年度は、盛土規制法が同年5月26日に施行されたばかりであったため、監督処分・改善命令等がされなかったものと推察されますが、令和6(2024)年度には複数の監督処分・改善命令等がされていますので、比較的厳格に運用されているものと思われます。
 ※ 国土交通省都市局都市安全課・林野庁森林整備部治山課・農林水産省農村振興局農村政策部農村計画課「宅地造成及び特定盛土等規制法施行状況調査結果(調査対象:令和6年度)

(3)摘発事例

 福島県は、令和6(2024)年6月、福島県西郷村の民有地に許可なく違法な盛り土を造成し、福島県の改善命令に従わなかったとして、埼玉県在住の男性を刑事告発し、これを受けた福島県警は、令和6(2024)年12月20日、盛土規制法違反の疑いで男性を書類送検したと報じられました。
 盛土規制法違反の容疑で書類送検されるのは全国で初めてとのことです。

(4)その他

 令和6(2024)年4月に施行された改正再エネ特措法は、関係法令の違反事業者等に対し、早期の違反解消を促すため、FIT/FIP交付金を一時停止する措置が新設されました。
 令和6(2024)年11月25日、経済産業省は、発電設備の設置場所にて行われる宅地造成について、災害を防止するための必要な措置が講じられていないなど盛土規制法違反状態にある事業者に対して、FIT/FIP交付金の一時停止措置を行いました。 ※ 経済産業省「FIT/FIP交付金の一時停止措置を行いました

 経緯としては、自治体の通報を受け、経済産業省が令和6(2024)年度に設置した調査チームの現地調査で盛土規制法違反が判明したと報じられています。太陽光パネルを設置する際には宅地造成をすることになるため、盛土規制法への対応も必要になります。盛土規制法上の監督処分・改善命令等のみならず、FIT/FIP交付金の一時停止措置という重大な不利益があることから、同法の義務を正確に把握し、適切に対応することが重要です。

以 上

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