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2023.08.15

カーボンニュートラル・SDGsへの取り組みに関する独占禁止法上ガイドラインのポイント

1. はじめに
(1) 事業者によるSDGs・ESGへの取組み
(2) 2023年独禁法ガイドライン
2. ガイドライン案の概要と留意点
(1) 共同の取組みが独占禁止法上問題となるケース
(2) 取引先の事業活動に対する制限・取引先の選択が独占禁止法上問題となるケース
(3) 各取組みが優越的地位の濫用行為となるケース

1.はじめに

(1) 事業者によるSDGs・ESGへの取組み

近時においては、地球規模での課題として企業を取り巻く環境の変化も著しく、SDGs(サステナビリティのための目標)、ESG(Environment・Society・Governance)への取り組みが注目されています。
エネルギーの脱炭素化に関連しては、企業活動における温室効果ガスの削減や省エネルギーを目的として、様々な法律によって国や自治体への定期報告が求められます。かかる報告を怠ると行政処分や罰則を受けることもあります。
これらの対応では、国内および子会社を有する海外での規制についての検討も必要不可欠となり、各国において上記各規制の対象となるのかということを把握しなければなりません。(※)

※猿倉健司「環境リスクと企業のサステナビリティ(SDGs・ESG)」(牛島総合法律事務所 特集記事・2023年3月29日)、同「新規ビジネスの可能性を拡げる行政・自治体対応 ~事業上生じる廃棄物の他ビジネス転用・再利用を例に~」(牛島総合法律事務所 特集記事・2023年1月25日)、同「条例改正対応におけるリスクや留意点と、条例管理をサポートする『条例アラート』」(BUSINESS LAWYERS・2022年7月14日)、同「東京都条例その他の脱炭素・温暖化対策条例における排出量削減義務と報告制度」(BUSINESS LAWYERS・2022年7月5日)、同「環境・廃棄物規制とビジネス上の盲点」(牛島総合法律事務所 ニューズレター・2023年4月10日)

(2) 2023年独禁法ガイドライン

令和5年3月に、公正取引委員会から、「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法上の考え方」が公表されました(以下「本ガイドライン」といいます。)。

※公正取引委員会「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法上の考え方」、同「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法上の考え方  概要版」、「「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法上の考え方」(案)に対する意見の概要及びそれに対する考え方

本ガイドラインは、グリーン社会(環境負荷の低減と経済成長の両立する社会)の実現に向けて、事業者や事業者団体が様々な取組(たとえば、温室効果ガス削減・エネルギー使用量削減・使用プラスチック削減等に向けた取組)を行う中で、事業者間の公正かつ自由な競争を制限し、独占禁止法上問題となる可能性もあることから、事業者等の取組に対する法適用及び執行に係る透明性及び事業者等の予見可能性を一層向上させること等を目的として、公表されたものです(本ガイドライン1~2頁)。
本ガイドラインは、主に温室効果ガスの削減に向けた事業者の取組を念頭に、約80の想定例を取りあげ、「独占禁止法上問題とならない行為」、「独占禁止法上問題となる行為」及び「独占禁止法上問題とならないよう留意を要する行為」の三つに大別し、独占禁止法上の問題についての判断枠組みや判断要素を説明しています。
以下、本稿においては、脱炭素・グリーン社会の実現という観点から特殊性が認められるものを中心に、実務上よく問題となる事例について、解説します。

なお、公正取引委員会からは、平成13年6月26日に「リサイクル等に係る共同の取組に関する独占禁止法上の指針」も公表されていますので、あわせてご確認ください。

2.本ガイドライン案の概要と留意点

(1) 共同の取組が独占禁止法上問題となるケース(本ガイドライン5頁以下)

事業者や事業者団体は、温室効果ガス削減・エネルギー使用量削減・使用プラスチック削減等を目的として、自主基準の設定、共同研究開発等について共同の取組を実施することがあります。
以下のように、事業者等の共同の取組が競争制限効果のみをもたらす場合、当該取組は原則として独占禁止法上問題となります。

  • 価格等の重要な競争手段である事項について制限する行為
  • 新たな事業者の参入を制限する行為
  • 既存の事業者を排除する行為

これに対して、事業者等による共同の取組に競争制限効果が見込まれる場合には、これによる競争促進効果も含めて総合的に考慮したうえで、独占禁止法上問題となるか否かを検討することになります。
以下、自主基準の設定、業務提携を行うケースについて紹介します。

ア.自主基準の設定(本ガイドライン10頁以下)

事業者等が、温室効果ガス削減・エネルギー使用量削減・使用プラスチック削減等を目的として、商品又はサービスの種類、品質、規格等に関連して推奨される基準を策定するなど、自主的な基準を定めることが考えられます。
以下のような場合には独占禁止法上問題となることがあるとされています。

  • 自主基準の設定が、競争手段を制限し需要者の利益を不当に害する場合
  • 自主基準の設定が、事業者間で不当に差別的であるなどの場合
  • 自主基準の設定により、特定の商品等の開発や供給を制限して競争手段を制限することで、需要者の利益を不当に害する場合
  • 差別的な内容の自主基準の設定や自主基準の利用の制限により、多様な商品又はサービスの開発・供給等に係る競争を阻害することとなる場合
  • 自主基準の強制がなされる場合
  • 自主基準の設定に付随して、価格等の重要な競争手段である事項について制限する行為が行われた場合

(参考となる想定例)

  • 想定例16 :自主基準の設定に伴う価格等の制限行為
  • 想定例17 :事業者間の競争に影響を与える可能性がある自主基準の厳格な運用
  • 想定例18 :一部の事業者に対して差別的な内容を含む商品又はサービスの規格の設定
  • 想定例19 :温室効果ガス排出量の削減目標の設定に伴う設備等の利用制限

イ.業務提携(本ガイドライン13頁以下)

温室効果ガス削減・エネルギー使用量削減・使用プラスチック削減その他の施策等を目的とする業務提携は、提携当事者間の事業活動の一体化が進むことにより、その内容や市場の状況によっては、本来提携当事者間で期待される競争が失われることで、独占禁止法上問題となる場合もあります。
業務提携には、以下のような類型があります。

【共同研究開発】

温室効果ガス削減・エネルギー使用量削減・使用プラスチック削減等等の技術を生み出すため、競争関係にある事業者と共同で基礎研究、応用研究又は開発研究を行い、その技術を用いて新たな製品を開発。

(参考となる想定例)

  • 想定例22 :価格等の制限を伴う共同研究開発

【技術提携】

事業者それぞれが所有する温室効果ガス削減・エネルギー使用量削減・使用プラスチック削減等に資する技術のクロスライセンスやパテントプール、マルティプルライセンスを通じて、各事業者が製品の製造等に際して必要な技術の補完(技術提携)。

【標準化活動】

事業者が、温室効果ガス削減・エネルギー使用量削減・使用プラスチック削減等に資する新たな商品又はサービスについての規格を共同で策定し、広く普及を進める活動を実施(標準化活動)。

(参考となる想定例)

  • 想定例26 :価格等の制限を伴う標準化活動)

【共同購入】

温室効果ガス削減・エネルギー使用量削減等のため、原材料・部品・設備について、同様に当該原材料等を必要とする競争者と共同で調達(共同購入)。

【共同物流】

温室効果ガス削減・エネルギー使用量削減等のため、自己の商品の供給に当たって、特定の地域向けの配送の共通化や特定の地域における物流施設の共同利用(共同物流)。

【共同生産及び OEM

温室効果ガス削減・エネルギー使用量削減・使用プラスチック削減等のため、事業者が、特定の商品に関し、共同出資会社を設立するなどして共同生産・OEM。

(参考となる想定例)

  • 想定例34 :生産設備等の稼働制限を伴う共同生産等

【販売連携】

温室効果ガス削減・エネルギー使用量削減等のため、商品又はサービスの販売事務や販売促進活動等の共同での実施(販売連携)。

(参考となる想定例)

  • 想定例37 :価格等の制限を伴う販売促進活動の共同実施等

【データ共有】

特定の商品の製造における温室効果ガス排出量・エネルギー使用量を業界全体で収集・共有する取組や、削減技術を自社で開発するために、特定のサービスを供給する際に生じる使用エネルギー量・温室効果ガス排出量を複数の競争者と共同で収集・共有(データ共有)。

 (参考となる想定例)

  • 想定例40 :価格等の共有を伴う温室効果ガス削減に向けた取組のために必要なデータの共同での収集・利用

(2) 取引先の事業活動に対する制限・取引先の選択が独占禁止法上問題となるケース(本ガイドライン32頁以下)

事業者等が、温室効果ガス削減・エネルギー使用量削減・使用プラスチック削減等を目的として、取引先の販売商品、販売地域、販売先、販売方法等を制限する行為や、取引先との取引を打ち切る行為を行うことがあります。

ア.取引先の事業活動に対する制限(本ガイドライン33頁以下)

取引先の事業活動に対する制限としては、①取引先に対する自己の競争者との取引や競争品の取扱いに関する制限、②販売地域に関する制限、③選択的流通、④小売業者の販売方法に関する制限などがあります。
以下そのいくつかのみを紹介します。

【取引先に対する自己の競争者との取引や競争品の取扱いに関する制限】

事業者が、温室効果ガス削減・エネルギー使用量削減・使用プラスチック削減等に向けた取組の中で、マーケティングの一環として、取引先事業者と取引するに当たり、自己の競争者との取引等の制限を行うことが考えられます。

  • 取引先事業者に対し自己の競争者と取引しないよう拘束する条件を付けて取引する行為
  • 取引先事業者に自己の競争者との取引を拒絶させる行為
  • 取引先事業者に対し自己の商品と競争関係にある商品の取扱いを制限するよう拘束する条件を付けて取引する行為

市場における有力な事業者が、取引先事業者に対する自己の競争者との取引や競争品の取扱いに関する制限を行う場合など、市場閉鎖効果が生じる場合には、独占禁止法上問題となります。各事項の重要性は個別具体的な事例ごとに異なり、事業者の事業内容等に応じて、各事項の内容も検討する必要があります。

【選択的流通】

事業者が、自社の商品を取り扱う流通業者に関して一定の基準を設定し、当該基準を満たす流通業者に限定して商品を取り扱わせようとする場合、当該流通業者に対し、自社の商品の取扱いを認めた流通業者以外の流通業者への転売を禁止すること(選択的流通)が考えられます。

(参考となる想定例)

  • 想定例45 :温室効果ガス削減に係る一定の基準を満たした流通業者のみに対する商品の供給
  • 想定例46 :安売り業者への販売禁止を目的とした選択的流通

イ.取引先の選択(本ガイドライン40頁以下)

【単独の取引拒絶】

事業者が、自己のサプライチェーン全体におけるエネルギー使用量・温室効果ガス削減を目的として、 独自の判断で、自社が設定した一定の削減目標を達成することができない事業者と取引しないことを決定するなど、合理的な範囲で行われる単独の取引拒絶は、独占禁止法上問題とならないとされています。
これに対して、独占禁止法上の違法行為の実効を確保するための手段として取引を拒絶する場合や、競争者を市場から排除するなどの独占禁止法上不当な目的を達成するための手段として取引を拒絶する場合、独占禁止法上問題となります。

(参考となる想定例)

  • 想定例49 :温室効果ガス削減に係る一定の基準を満たさない取引先事業者との取引の打切り
  • 想定例50 :温室効果ガス削減に係る商品の仕様を満たさない取引先事業者との取引の打切り

【共同ボイコット】

事業者が競争者や取引先等と共同して取引拒絶等を行うことにより、事業者が市場に参入することが著しく困難となり、又は市場から排除されることが考えられます(共同ボイコット)。

(3) 各取組が優越的地位の濫用行為となるケース(本ガイドライン45頁以下)

事業者が、温室効果ガス削減・エネルギー使用量削減・使用プラスチック削減等を目的として、取引先に対して、製造過程における各排出の削減を要請したり、使用部品等を仕様として設定するなどの取組の実施を要請することがあります。
事業者が、自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、各取組みによるコストの上昇を考慮することなく、既存の価格条件のまま据え置きとすることを一方的に要請する行為や、省エネルギー・温室効果ガス削減を理由として経済上の利益を無償で提供させる行為は、正常な商慣習に照らして不当なものであると認められる場合には、優越的地位の濫用として独占禁止法上問題となります。

ア.購入・利用強制

取引上の地位が相手方に優越している事業者が、温室効果ガス削減・エネルギー使用量削減・使用プラスチック削減等を目的として、取引先に対し、当該取引に係る商品又はサービス以外の商品又はサービスの購入を要請する場合であって、当該取引の相手方が、それが事業遂行上必要としない商品若しくはサービスであり、又はその購入を希望していないときであったとしても、今後の取引に与える影響を懸念して当該要請を受け入れざるを得ない場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり、独占禁止法上問題となります。

(参考となる想定例)

  • 想定例58 :取引の相手方にとって必要ではない商品の購入要請

イ. 経済上の利益の提供要請

取引上の地位が相手方に優越している事業者が、温室効果ガス削減・エネルギー使用量削減・使用プラスチック削減等を目的として、取引先に対し、経済上の利益の提供を要請する行為は、負担の内容、根拠、使途等が当該取引の相手方との間で明確になっておらず、当該取引の相手方にあらかじめ計算できない不利益を与えることとなる場合や、当該取引の相手方が得る直接の利益等を勘案して合理的であると認められる範囲を超えた負担となり当該取引の相手方に不利益を与えることとなる場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり、独占禁止法上問題となります。

(参考となる想定例)

  • 想定例63 :取引の相手方から収集したデータの一方的な自己への帰属

ウ.取引の対価の一方的決定

取引上の地位が相手方に優越している事業者が、温室効果ガス削減・エネルギー使用量削減・使用プラスチック削減等を目的として、取引先に対し、当該目的を達成するための取組や、商品又はサービスの改良等を要請する場合において、当該取引の相手方に生じるコスト上昇分を考慮することなく、一方的に、著しく低い対価での取引を要請する場合であって、当該取引の相手方が、今後の取引に与える影響等を懸念して当該要請を受け入れざるを得ない場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり、独占禁止法上問題となります。

(参考となる想定例)

  • 想定例65 :従来品より温室効果ガス排出量を削減した仕様に基づく発注における対価の一方的決定

エ.その他の取引条件の設定等

取引上の地位が優越している事業者が、温室効果ガス削減・エネルギー使用量削減・使用プラスチック削減等を目的として、取引先に対し、一方的に、取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施する場合に、当該取引の相手方に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなるときは、独占禁止法上問題となります。

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