〒100-6114
東京都千代田区永田町2丁目11番1号
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セミナー
事務所概要・アクセス
事務所概要・アクセス
1. 規制の枠組みと執行について
1.1. 日本における環境法の枠組みと主要な環境規制はどのようなものですか?
1.2. 日本の主な環境規制当局はどこですか?また、規制当局はどのように環境法令規制を執行していますか?
2. 許認可について
2.1.日本における環境法の許認可制度の枠組みはどのようなものですか?
2.2.環境法の許認可は、国内の事業者間で譲渡できますか?また、譲渡できる場合、その手続はどのようなものですか?
2.3.許認可に関して、規制当局に対してはどのような不服申立ての権利がありますか?
3. 環境影響評価について
日本においては、特定のプロジェクトについて環境影響評価(EIA)が義務付けられていますか?義務付けられている場合、環境影響評価(EIA)の主な要素は何ですか?環境影響評価(EIA)に関して異議申立てができますか?
4. 土壌汚染について
4.1.日本における土壌・地下水汚染の責任を決定し、配分するための枠組みはどのようなものですか?
4.2.土壌・地下水汚染の可能性がある土地を調査する義務があるのはどのような場合ですか?規制当局に調査報告書を提出する義務はありますか?
4.3.土地が汚染されていることが判明した場合、または汚染物質が近隣の土地に移動していることが判明した場合、かかる汚染を規制当局に報告する義務はありますか?
4.4.過去の汚染の影響を受けた土地の所有者は、その汚染を引き起こした前の所有者に対して私的な損害賠償請求権を有するのでしょうか?
5. 廃棄物について
5.1.日本において廃棄物を規制する主な法令は何ですか?
5.2.廃棄物の排出事業者は、廃棄物をオフサイトで処理または処分するために処理業者に引き渡した後、廃棄物に関して何らかの責任を負いますか(例えば、処理業者が倒産したり、廃棄物を適切に処理または処分しなかったりした場合など)?
5.3.特定の製品(包装/電子機器など)の排出事業者は、廃棄物の引き取りに関してどのような義務を負っていますか。
6. アスベストおよびその他の有害物質について
所有する土地や建物で発見されたアスベストやその他の有害物質に関して、施設の所有者/占有者はどのような義務を負いますか?
7. 製品規制について
日本における製品規制(例:REACH、CLP、TSCA及び同等の制度)には、どのようなものがありますか?関連する規定の概略を簡潔に説明してください。
8. エネルギーについて
日本において、エネルギーに関してどのような規制がありますか?
9. 気候変動について
9.1.日本における温室効果ガスの排出削減(排出量取引制度など)や再生可能エネルギー(風力発電など)の利用拡大に関連する主要な政策、原則、目標、法令にはどのようなものがありますか?
9.2.日本は、包括的な「ネット・ゼロ」または低炭素化目標を掲げていますか?掲げている場合、この目標を達成するためにどのような法的措置がとられていますか?
9.3. 日本において、企業は気候変動計画を策定・公表する義務を負っていますか?また、かかる計画の要件は何ですか?
9.4. 日本では、製品や企業が「グリーン」、「サステナブル」あるいは類似の用語を用いることをどの程度規制していますか?グリーンウォッシング疑惑に関する規制当局はどこですか?
9.5. 独占禁止法や気候変動問題に関して特別な取り決めはありますか?
9.6. 過去3年間で、気候変動訴訟に関して注目すべき判決はありましたか?
9.7. 日本のコミットメント(国際条約会議であれ、より一般的なものであれ)に照らして、近い将来、気候変動に関する大幅な法改正や改革が予想されますか?
10. 責任
10.1. 会社による環境法違反・環境汚染について、(a)会社自身、(b)会社の株主、(c)会社の取締役、(d)親会社、(e)会社に資金を貸した団体(銀行など)、(f)その他の団体はどの程度責任を負いますか?
10.2. (a) 買主は、資産売却/株式売却において、資産売却/株式売却前の環境債務を引き受けることができますか? (b) 日本において、資産売却/株式売却後に売主は環境債務を保持し続けますか?
10.3. 取引において売主にはどのような環境情報開示義務がありますか?日本では、環境デューデリジェンスは一般的ですか?
11.保険
日本では、どのような環境リスクを保険でカバーできますか?また、どのような種類の環境保険が一般的ですか?実務上、環境保険は定期的に加入していますか?
12. 報告及び監査
12.1.環境情報の公開登録はどの程度行われていますか?日本において、その情報は公的機関が保管していますか?もし保管している場合、当事者はどのような手続によってこの情報にアクセスできますか?
12.2. 日本の公的機関には、環境情報を要求する当事者に対する開示義務がどの程度ありますか?
12.3. 日本の事業者は、温室効果ガスの公的な報告義務の対象となっていますか?
13.更新/改正
過去3年間に、日本の環境法において重要な改正がありましたか?また、近い将来、大幅な改正又は大幅な改正に関する重要な提案はありますか?
我々は、日本の環境法およびそれに関する規制をまとめ、日本で事業を行う企業や日本への参入を計画している企業向けに、Legal500上で実務的な考慮事項も含めて記事を掲載しました。
以下のとおり、当該記事においてはトピックごとに詳細が記載されており、許認可、環境影響評価、汚染された土地や公害、廃棄物、アスベストやその他有害物質、製品規制、エネルギー、気候変動、企業の責任、保険、報告・監査、及び規制内容の更新や法改正等が含まれています。
日本の環境関連法は、以下のとおり、トピックごとに細分化されています。なお、下記は一例に過ぎません。
・水:水質汚濁防止法(水濁法)、下水道法
・土壌:土壌汚染対策法(土対法)
・大気:大気汚染防止法、ダイオキシン類対策特別措置法
・化学物質:化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)、化学物質排出把握管理促進法(化管法、PRTR法)
・ESG:地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)、エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律(省エネ法)、フロン抑制法
・廃棄物:廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃掃法)、PCB廃棄物特別措置法
・リサイクル:対象品ごとに例えば、プラスチック資源循環促進法、包装容器リサイクル法など複数存在。
さらに、日本には、自治体ごとに多数のローカルルール(条例、通知・通達、ガイドライン等)が存在しています。都道府県レベルだけではなく、市区町村レベルでも独自のローカルルールを定めていることがあるため、非常に複雑になっています。
また、国の法令とは異なる内容のローカルルールも多く、ローカルルールの方が法令と比べて厳しいことも多いため注意が必要です。
日本の環境規制は、国が制定する法律と、地方自治体が制定する条例に大別されます。条例は、地方自治体の実情に応じて、法律よりも規制範囲が広い場合や、規制基準が厳しい場合があります。なお、この場合、企業はいずれのルールも遵守しなければならないことに注意が必要であす。
企業が環境関連の法令・条例に違反した場合、許認可の取消しや改善命令などの行政処分がされます。許認可の取消し、改善命令等は、地方自治体が主体となって処分をするのが一般的です。
日本の環境法制においては、トピックごとに法律が制定され、各法律において、事業の種類ごとに許認可の枠組みが規定されています。
許認可を与える主体は、都道府県であることが多いです。例えば、廃掃法に基づく産業廃棄物処理業の許可などが挙げられます。これに対し、廃掃法に基づく広域認定制度やプラスチック資源循環促進法に基づく認定制度等など、企業において許認可を得ることなくビジネスを進められるようにする特例もあり、そのような特例の場合、許認可の主体は、環境省であることが多くなっています。
なお、許認可の取得にあたっては、要件を満たすビジネススキームの検討や、行政との事前協議を行っておくことが、非常に重要となります。
許認可は各事業者が取得するものであり、基本的にその地位のみを他の事業者に譲渡することはできません。
しかし、M&Aの際に一定の手続を経た上で許認可の譲渡が可能となる場合があります。
たとえば、許認可が合併・会社分割により承継会社に承継されるか否かは、それぞれの許認可の根拠法令によって定められています。
具体的には、分割会社に許認可が自動的に承継される場合、会社分割について都道府県知事の認可を受けることによって許認可が承継される場合(例:廃棄物処理施設の許可)、承継が認められない場合があります。
一般的に、行政法に基づく不服申立権があります。実務上、許認可の付与に対する不服申立ては、行政事件訴訟法に基づく行政訴訟を通じて裁判所に訴えを提起する場合や、行政不服審査法に基づく行政不服申立てを通じて行われます。
ただし、行政不服申立てが認容されるハードルは高く、またその手続を進めるためには高い専門性が求められるため、専門性の高い弁護士や有識者とのコネクションが重要です。加えて、実務的には、意に沿わない許認可がなされないように、あらかじめ行政と協議しておくことがより重要です。
日本では、環境影響評価法に基づくEIA制度が適用されています。同法の対象となるのは、道路、河川、鉄道、発電所、一定の開発事業など13種類のプロジェクトで、その規模が一定の基準値以上のものがEIA制度の対象となります。
EIA制度は、(i) 計画、(ii) 環境アセスメント方法の決定、(iii) 環境アセスメントの実施、(iv) 環境アセスメント結果についての意見聴取及び住民・都道府県知事・市町村長・環境大臣の各意見を踏まえた評価書の作成、(v) 環境保全措置等の結果についての報告の公表といった非常に煩雑なプロセスを経て行われます。それぞれの過程において、都道府県知事・市町村長、周辺住民などが強く反対し、事業が中止に追い込まれるケースも散見されます。
環境影響評価法自体は、特定の異議申し立て制度を規定していません。しかし、他の法律に基づき、EIAの特定の措置に対して異議申立てがなされる可能性はあります。
土壌汚染には土対法が適用されます。土壌汚染については、一次的には対象地の所有者に責任が帰属し、調査や土壌汚染対策等の義務が課されることがあります。ただし、一定の場合には、当該汚染の原因者がかかる責任を負うことがあります。
具体的には、土壌汚染の程度を調査し、その結果を都道府県知事に報告しなければならなりません。土壌汚染の程度が一定の基準を超える場合は、汚染の除去その他の方法により対策しなければなりません。
地下水汚染には水質汚濁防止法等が適用されます。地下水汚染については、地上で工場を運営する者が一定の義務を負っており、具体的には、工場設置時の届出、地下水汚染を避けるための措置の実施、定期検査等があります。さらに、事業場から排出される排水中の水質汚濁物質の濃度を一定未満に抑えなければならない場合があります。
事業者が地下水汚染を拡散させた場合、これによって汚染された土地の土壌汚染対策費用や汚染によって生じた健康被害について、その事業者が不法行為に基づく責任を負うことがあります。
汚染を拡散させた者と土地や地下水が汚染された者、健康被害を受けた者との間における責任の所在や分担は、不法行為(民法709条)の枠組みで行われます。なお、水濁法には損害賠償に関する特例があり、事業者は汚染拡散の過失がなくても責任を負うことがあります。
土壌について、土壌汚染対策法では、以下の場合に土壌汚染状況調査を実施する必要があります。
| ① | 有害物質を使用する特定施設の使用を廃止する場合 |
| ② | 一定の面積以上の土地の形質変更を行うための届出を行った後に、当該土地に土壌汚染のおそれがあると都道府県知事が認める場合 |
| ③ | その他に土地に土壌汚染のおそれがあると都道府県知事が認める場合 |
地方自治体では、上記①~③とは異なる独自の調査契機を定めている場合や、②の対象面積を加重したローカルルールを定めている場合があります。
また、地方自治体によっては、法律や条例に基づかない独自の自主調査を行った場合に、その結果の報告を義務付ける条例を定めていることがあります。
都道府県知事が土壌汚染による人の健康被害のおそれがあると認めた場合、土地の所有者等は、指定調査機関に土壌汚染の調査を実施させ、その結果を都道府県知事に報告しなければなりません。
水質について、水質汚濁防止法では、特定地下浸透水を浸透させる者および排出水を排出する者は、定期的に、排出水または特定地下浸透水の汚染を測定し、その記録を保存しなければなりません。
土対法に基づく調査を行った場合、事業者は、調査結果を都道府県知事に報告しなければなりません。
他方で、事業者が任意に自主調査を実施した結果は、原則として行政に報告する義務はありません。ただし、地方自治体によっては、自主調査の結果の報告を義務づけるローカルルールを設けている場合があります。
地方自治体は、土壌汚染レベルが所定の基準に適合しない土地を指定区域として指定し、その旨を公示することになっています。区域指定された場合、土地の所有者は汚染除去計画を作成し、その計画に従った土壌汚染対策を実施し、その結果を都道府県知事に報告しなければなりません。必要な汚染の対策を実施した場合、区域の指定は解除されます。
売買等により土地を取得した場合において、想定していなかった環境基準値を超過する土壌汚染が存在することが判明したときは、土地の買主は、売主に対し、債務不履行(民法562条)を理由として損害賠償請求をすることができるほか、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求をすることができます。
また、土地の所有者は、土対法に基づき、汚染原因者に対して汚染除去に要した費用の支払を求償することができます。その場合、請求する賠償費用に、汚染除去計画の作成に要した費用を含めることができます。ただし、土壌汚染が存在することを理由として土地の売買代金を低く設定した場合などには、汚染原因者が既にかかる費用を負担したとみなされるため、土地の所有者(買主)は汚染原因者に対してその費用を求償することはできません。
主たる法律は廃掃法であり、産業廃棄物の管理・処理に関するルールが定められています。そのほか、ローカルルールに基づく報告・公表制度もあります。
また、廃棄物をリサイクルする場面で適用される規制は、リサイクル対象の品目や素材によって法律が細分化されているため、非常に複雑となっています。
事業者は、事業活動に伴って生じた廃棄物を自ら適正に管理する責任があります。また、事業者は、産業廃棄物の管理を第三者に処理委託している場合であっても、その産業廃棄物を管理する責任があり、その管理責任は産業廃棄物を排出した事業者に残ります。また、排出事業者は、産業廃棄物の発生から最終処分までの一連の管理過程を通じて、産業廃棄物が適正に管理されるよう必要な措置を講じなければならないとされています。
この点、廃棄物の適正な管理過程を担保するために、廃棄物の処理を委託した者から廃棄物収集運搬業者や処理業者まで廃棄物が適切に引き渡され、適切に処理されたかどうかを確認する制度として、マニフェスト制度があります。また、排出事業者は、産業廃棄物の管理を第三者に委託している場合であっても、その産業廃棄物を管理する責任があり、不適切な処理が行われた場合には行政処分(措置命令など)を受ける可能性がある点に注意が必要です。
製品の製造者は、原則、同製品が廃棄物となった場合でも、その引取義務を負いません。
ただし、廃棄物の種類によっては、事業者が再商品化義務を負う場合があります。品目によって、例えば、以下の義務を負うことになります。
| ① | 再商品化義務(品目:容器包装、法律「容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律」) |
| ② | 回収・リサイクル義務(品目:パソコン及び小型二次電池、法律「資源の有効な利用の促進に関する法律」) |
| ③ | 回収・引渡し・再商品化義務(品目:家庭用電気機器、法律「特定家庭用機器再商品化法」) |
アスベストが含有される建材を使用した建物の所有者、当該建物を占有しているテナント等は、アスベストに暴露されていたことなどによって健康被害を被った建物の利用者等に対して、不法行為責任(民法717条)を理由に損害賠償責任を負うことがあります。また、アスベストが含有される土地・建物の所有者は、その買主に対し、契約不適合責任又は契約時の説明義務違反を理由に損害賠償責任を負うことがあります。実際に、民事賠償として約60億円の対策費用の支払いを命じる判決が出された例があります。さらに、建物を賃貸するオーナーは、テナントに対して、賃貸人としての説明義務や契約上の義務に違反したとして損害賠償責任を負うことがあります。
日本における代表的な製品規制には化審法があります。
化審法では、既存化学物質(第一種特定化学物質、第二種特定化学物質、監視化学物質、優先評価化学物質、一般化学物質)に関する規制と、既存化学物質リストに収載されていない新規化学物質についての製造、輸入、使用等に関する規制が規定されています。
例えば、第一種特定化学物質に指定された化学物質については、製造または輸入が原則として禁止されます。第一種特定化学物質を製造または輸入するためには許可を取得する必要があるほか、取扱基準への適合や表示等が必要となります。
化審法では、化学物質の分類が細分化されており、規制内容も多様となっています。加えて、規制対象となる化学物質や規制内容が頻繁に改正されます。そのため、意図せずに行政から違反行為を指摘されるリスクは高く、仮に行政から違反行為を指摘された場合は、速やかに違反行為の原因調査と再発防止策を検討し、行政処分を免れるために協議・交渉を開始することが重要です。
省エネ法は、一定規模以上の事業者に対し、エネルギーの使用状況等を定期的に報告し、省エネルギーや非化石燃料への転換に関する取組の見直しや計画の策定を義務づけています。
この法律は、一定規模以上の事業者に対し、エネルギーの使用の状況について主務大臣に報告する義務付け、その取組が不十分な場合には、合理化計画の作成について指導、助言及び指示を行うことを定めています。
また、エネルギー使用者に対する間接的な規制として、機械装置等(自動車、家電製品、建材を含む)の製造業者や輸入業者にも適用され、機械装置等のエネルギー消費効率目標の達成を義務付け、効率改善がない場合には勧告を行うことになっています。
2021年10月に閣議決定された「地球温暖化対策計画」の中で、日本は、2030年度に温室効果ガス排出量を2013年度比で46%削減することを目指すと発表しました。
また、温対法は、各事業者に対し、事業活動に伴い発生する温室効果ガスの排出量の削減を目的として、事業で使用する設備についてできる限り温室効果ガスの排出の量を少なくする方法で使用するよう努めなければならない努力義務を課しています。
一方、東京都の条例では、各事業所に対して特定温室効果ガスの削減義務を法律で定め、違反した場合の制裁を定めています。削減義務を履行するには、実際に排出量を削減する方法と、他の事業者から排出枠を購入する方法があります。
さらに現在、事業者にさらなる温室効果ガス削減義務を課し、排出枠取引を導入するための国内法や規制が検討されています。2023年10月には、東京証券取引所において、日本の地球温暖化対策のための排出削減・吸収量認証制度に基づき認証された温室効果ガスの排出削減・吸収量を取引するための炭素クレジット市場が開設されました。
省エネ法は、一定規模以上の事業者にエネルギー使用状況の定期報告を義務付け、省エネルギーや非化石燃料への転換に関する取組の見直しや計画の策定を促進する法律です。2022年の改正では、非化石エネルギー源を含むあらゆるエネルギー源の使用の合理化、非化石エネルギー源への転換を義務付けるとともに、電力需要の適正化を促しています。定期報告書を提出しなかったり、虚偽の報告をした場合は、50万以下の罰金が科されます。
また、温対法は、温室効果ガスの排出の抑制を図ることを目的として、温室効果ガスを多量に排出する事業者に、毎年自らの温室効果ガスの排出量を算定し、国に報告することを義務付けています。報告をせず、又は虚偽の報告をした場合には、20万円以下の過料が科されます。温対法及びこれに対応するローカルルールについては、下記9.6を参照してください。
企業には、気候変動計画を策定する義務はありません。国が策定した気候変動計画については、上記9.1をご参照ください。
環境省が2008年に1月16日に公表した環境表示ガイドライン(2013年3月改定)においては、環境に関する表示の方法について規定されています。例えば、「環境に安全」「環境にやさしい」「地球にやさしい」「無公害」「グリーン」などのような、曖昧な表現によって環境への配慮を大まかにほのめかす表現は避ける必要があります。
なお、グリーンウォッシングに対する独立した規制当局はありません。
グリーン社会の実現に向けた事業者の取組みは、個々の事業者の価格・数量、顧客・販路、技術・設備等を制限することにより、事業者間の公正かつ自由な競争を制限する効果のみを有する場合には独占禁止法に違反する場合があります。公正取引委員会は、2023年3月31日、「独占禁止法に基づくグリーン社会の実現に向けた企業等の活動に関する指針」(「グリーンガイドライン」)を公表し、2024年4月24日にはグリーンガイドラインを改定し、判断の枠組みや判断について説明しています。
グリーンガイドラインでは、独占禁止法上の行為を「問題がないもの」「問題があるもの」「問題がないために審査が必要なもの」に大別することで、その要因を明らかにしました。例えば、事業者が、温室効果ガス削減等を目的として、サプライチェーンの下請事業者に対して、当該目的を達成するための取組みや、商品・サービスの改良等を要請する反面で、事業者に生じるコスト上昇分を考慮することなく、一方的に、著しく低い対価での取引を要請する場合には、独占禁止法上の優越的地位の濫用(独占禁止法2条9項5号)や、下請法上の買いたたき(下請法4条1項5号)に当たり問題となることがあります。
2019年5月、横須賀市において建設を計画する大型石火力発電所について、周辺住民ら48名が、当該発電所に係る環境影響評価に瑕疵があるとして環境影響評価書確定通知の取消しを求める行政訴訟を提起しました。東京地裁(第一審)が2023年1月27日に下した判決及び東京高裁(控訴審)が2024年2月22日に下した判決では、いずれも環境影響評価について国のガイドラインの条件を満たしているとして違法性はないと結論付けています。2024年10月23日、最高裁判所は、住民からなされた上告棄却の決定を行い、控訴審の判決が確定しました。
省エネ法と温対法では、エネルギー使用量、ガスの排出量について一定の規制がなされていますが、その同法内での規制が厳しくなることは予想されます。特に、上記9.1のとおり、温対法は、各事業者に対し、事業で使用する設備についてできる限り温室効果ガスの排出の量を少なくする方法で使用する努力義務を課していますが、努力義務から義務へと義務の内容が変更される可能性があります。
また、現在、排出量取引に関する国の法律は存在していませんが、上記9.1のとおり、ローカルルールで排出量削減義務と排出量取引制度が規定される可能性があります。なお、下記13(iii)にあるように、政府も排出量取引の導入を検討しています。
加えて、国際的な批判が高まり、政府が石炭火力発電を段階的に廃止するなどの措置を取る可能性もあります。その場合、さまざまな法律や規制の変更が行われる可能性が考えられます。
| (a). | 会社は、行政処分による事業の停止、事業許可の取消などの責任を負う可能性があります。他方で、刑事責任については、刑法に規定されている各罰規定が役職員に適用され、その罰則が法人にも適用されると規定されている場合には会社も同時に責任を負います。 |
| (b). | 株主が直接責任を負うことは、原則としてありません。 |
| (c). | 取締役は、環境法違反に関与した場合や、当該環境法違反を防止するための社内体制の構築を怠った場合に、取締役としての義務を果たしていないこと(任務懈怠)を理由に、会社に対して損害賠償責任を負う可能性があります。 |
| (d). | 親会社の取締役が直接責任を負うことは原則としてありません。ただし、親会社の取締役は、親会社の資産である子会社の株式の資産価値を維持し、親会社に損害を与えないように子会社をある程度管理する義務があると考えられます。この義務に違反した場合、親会社に対して損害賠償責任を負う可能性があります。 なお、廃掃法では、親会社の役員が子会社の役員を兼務している場合に、子会社の廃掃法上の許可が取り消されると、親会社の廃掃法上の許可も取り消されることがあります。 |
| (e). | 原則として、銀行などの債権者は法的責任を負いません。 |
上記4.1をご参照ください。
資産を売却しても、売主は環境債務を保持し続けるのが原則です。例外的に、環境債務の請求権者が同意した場合には、契約により買主が環境債務を引き受けることができます。これに対して、土対法上の責任は、土地の所有権移転によって買主に移るとされています(土地の所有者等が土対法に基づく汚染除去措置を講ずる義務を負います。)。
環境債務は当該企業が負い、その株式を保有する親会社は原則として責任を負わないため、環境債務を有する企業の株式を売却した場合に環境債務が買主に移転することはありません。
日本において、土地・建物の取引を行う際に情報開示やデューデリジェンスを行う法律上の義務はありません。
不動産取引においては、売主が認識している、又は認識しうる環境汚染に関する情報を告知せずに不動産を売却した場合、買主は説明義務違反等を理由に、売主に対して損害賠償請求ができる場合があります。なお、現在、土対法の改正により、土地の所有者等を変更する場合に所有者に地歴調査の実施を義務づけることが検討されています。
M&A取引においては、対象企業の環境関連対応についてデューデリジェンスを実施することが一般的です。例えば、対象企業が工場を運営している場合には、その保有する資産に土壌汚染、大気汚染または水質汚染が存在する可能性があります。また、対象工場を操業するために遵守する必要がある数多くの環境規制や各種の手続を漏れなく履行することが必要となります。たとえば、会社が取り扱っている化学物質の製造、管理・保管等の規制が遵守されているかを確認することが必要となります。また、これとは別途、工場所在地のローカルルールについても確認する必要があります。
近年では、より一般的にESG事項を把握することが一般的になってきています。これは、対象ESG関連課題、対応体制の整備、改善計画など、ESG関連リスクを把握するためです。以前よりも環境デューデリジェンスの需要は増えていますが、規制内容や調査内容は専門性が高く、法務の面から環境デューデリジェンスを実施できる弁護士は限られています。
環境デューデリジェンスの結果は、買収価格や、表明保証や先行条件などの契約条件に反映されます。
保険は、環境汚染による損害に特有のリスク、すなわち修復費用、使用不能による損害、長期にわたって広がった環境汚染による損害などをカバーするために存在します。工場や研究施設など、環境への影響が大きい、あるいは環境汚染を引き起こす可能性が高い施設では、保険にいるところもあります。
例えば、環境汚染賠償責任保険等があります。拡大した汚染に起因する第三者賠償事故や行政の命令等による汚染浄化費用を補償するための保険です。
土壌汚染や地下水汚染等は頻繁に問題になり、対策費用が莫大になることもあるため大きな環境リスクの一つです。保険等でリスクを回避することも検討に値します。昨今ESGなど環境保全に対する意識が高まっており、環境リスクが顕在化することが予想され、環境保険に対する需要が増加するものと思われます。
環境情報の公開については、法律毎に独自のルールがあります。
個別法で定められているもの(例:温対法、土体法)以外の情報開示については、政府が保有するすべての情報の開示は「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」(情報公開法)で規定されており、環境関連情報の公開もその手続に従って行われています。他方で、非開示となる場合も同法で規定されています。
また、地方公共団体においても、条例で情報公開法と同様の情報公開手続が定められているのが一般的であることから、ローカルルールの確認も必須となります。
上記のとおり、土対法上、要措置区域または形質変更時要届出区域に指定された土地の情報については、誰でも閲覧することができます。
さらに、温対法では、2020年度以前の温室効果ガスの排出量に関する情報(事業者の名称、所在地、事業内容、温室効果ガスの種類毎の算定排出量等)について開示請求することができます(2021年度以降については、開示手続なく公開されます。)。これに対して、報告を行った事業者は、報告した排出量の情報が公にされることにより自らの権利利益が害されるおそれがあると考えるときは、開示を行わないよう請求することができます。
また、情報公開法に基づく開示請求があった場合、開示に適さない情報として法令に定める類型に該当するものは非開示となりますが、かかる類型に該当しない場合には原則として開示されることになります。
上記9.2をご参照ください。
以下のとおり、日本の環境法は頻繁に改正されており、定期的に改正の有無を確認することが極めて重要です。また、ローカルルールについては、国の法令よりも成立・改正の頻度が高いため注意が必要です。なお、以下は一例となります。
最近改正された環境法令は以下のとおりです。
| (a) | プラスチック資源の再資源化の促進に関する法律 |
| (b) | 特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律 2023年4月から、PRTR制度の指定化学物質が拡大、変更されます。 |
| (c) | 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律施行規則 |
| (d) | 労働衛生安全法 同法の改正法は2025年4月以降に施行されます。2026年4月以降は、リスクアセスメントが必要となる対象化学物質が拡大され、約2900物質以上となる予定です。 |
また、今後改正が予定されている法規命令は以下のとおりです。
| (i) | 水質基準に関する省令の改正 現在、PFOSおよびPFOAについて、法的拘束のある水質基準を設定することが検討されています。 |
| (ii) | 土壌汚染対策法の改正 |
| (iii) | 排出枠取引の導入 2027年度から運用予定の「排出枠取引」については、二酸化炭素の排出量が年間10万トン以上の企業が取引への参加義務を負うことになる予定であり、大手の電力、鉄鋼、化学、自動車等の分野から、300~400程度の企業が対象になる見込みです。 |