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事務所概要・アクセス
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<目次>
1. はじめに
2. EUの企業サステナビリティ・デューディリジェンス指令(CSDDD)の概要
(1) 適用対象企業
(2) 人権・環境DD実施義務など
(3) 人権・環境DD実施義務などを怠った場合の制裁
(4) 適用開始時期
(5) ガイドライン等の公表見込み
3. 日本企業に今から求められる対応
(1) CSDDDの適用開始を見据えた人権DDの見直し・強化
(2) CSDDDが適用される取引先への対応方針の検討
2024年7月25日、EUの企業サステナビリティ・デューディリジェンス指令(Directive on Corporate Sustainability Due Diligence。以下「CSDDD」といいます。)が正式発効しました。
CSDDDは、一定のEU域内企業及びEU域外企業に対し、人権・環境DDの実施等を義務付けようとするものです。2026年7月までに、EU各加盟国が本指令に基づく国内法を整備し、2027年7月より、当該国内法の適用が開始されます(CSDDD37.1)。
CSDDDは、EU域外企業も対象としているため、例えば以下のようなかたちで日本企業もその影響を受けることになります。
なお、具体的な規制内容を規定するのは、上記のとおりCSDDDではなく、一定のルールに従い特定されるEU各加盟国の国内法です(CSDDD2.6, 2.7)。EU各加盟国がCSDDDの内容よりも厳格又は詳細な規定を設けることがあり得ますので(CSDDD4.2)、日本企業は、EU各加盟国のうち、自社がどの国の法律の適用を受けるか、あるいはどの国の法律の影響を事実上受けることになるのかを確認しておく必要があります。
以下では、CSDDDの概要を説明するとともに(後記2参照)、CSDDDの正式発効により日本企業に今から求められる対応を解説いたします(後記3参照)。
CSDDDの適用対象企業は、以下のとおりとされております。
EU域内企業 (CSDDD2.1) | ① 前会計年度における全世界での純売上高が4億5000万ユーロ超であり、かつ、平均従業員数が1000人超の企業 ② 連結で①の要件を満たすグループの最終的な親会社 など(※1)(※2) | 6000社程度に適用される想定 (CSDDD FAQ 4.1) |
EU域外企業 (CSDDD2.2) | ③ 前会計年度におけるEU域内での純売上高が4億5000万ユーロ超の企業 ④ 連結で③の要件を満たすグループの最終的な親会社 など(※1)(※2) | 900社程度に適用される想定 (CSDDD FAQ 4.1) |
したがって、日本企業であっても、自社又は連結ベースの売上高が、EU域内で4億5000万ユーロを超えるような場合には、CSDDDの適用対象企業になります。
(※1) EU域内でフランチャイズ又はライセンス契約を締結している企業又はグループの最終的な親会社であり、前会計年度におけるEU域内のロイヤリティが2250万ユーロを超え、かつ、前会計年度における当該企業又はグループの全世界の純売上高が8000万ユーロを超える企業も、対象企業です。
(※2) 条件を連続して2会計年度で満たす必要があります(CSDDD2.5)。
CSDDDは、基本的には、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」やOECD「責任ある企業行動のためのOECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス」等と同様の対応を求めております。すなわち、リスクベースの対応(リスクが高い領域を優先した対応)を求めており、またここにいうリスクは、経営に対するリスク(いわゆる財務的なインパクト)ではなく、人権・環境に対するリスクであるとされております。
対象となる人権・環境への負の影響の具体的内容はCSDDDのANNEXに列挙されており、生命への権利侵害、拷問、プライバシー侵害、思想・良心の自由の侵害、労働者の住居の利用制限、児童の健康・教育を受ける権利の侵害や性的搾取・誘拐等、強制労働、結社・集会の自由等の侵害、雇用における不合理な差別的取扱い、土壌・水質・大気汚染、個人・コミュニティ等の土地・資源・生存手段を奪われない権利の侵害を含みます。
また、人権・環境DDの実施対象となるサプライチェーンの範囲は、①サプライチェーンの上流(CSDDD3.1.(g)(i))、②サプライチェーンの下流のうち、製品の流通、輸送及び保管に関連するものです(輸出管理の対象となるものは含まれません。)(CSDDD3.1. (g)(ii))。ただし、金融業界については、②サプライチェーンの下流は適用対象外です(CSDDD前文26)。
CSDDDが求める具体的な対応は以下のとおりです(CSDDD5.1等)(※3)。
(i) | 人権・環境DDの企業方針及びリスク管理システムへの統合(CSDDD7) | 企業に重大な変更が発生した際には不当に遅滞することなく更新し、また少なくとも24か月に1回、企業方針の見直し及び(必要に応じた)更新をする必要があります。 |
(ii) | 実際のまたは潜在的な負の影響の特定及び評価(CSDDD8) | いわゆる人権・環境DDを規定するものです。 具体的には、関連するリスクファクターを参考に、以下の対応をすることが求められています(CSDDD8)。 ➢ 人権侵害リスクの高い事業を特定するため、自社、子会社、取引先等の事業をマッピングすること ➢ マッピングの結果を踏まえ、人権侵害リスクの高い事業について、詳細なアセスメントを行うこと すべての負の影響に同時に対応することが不可能な場合には、人権・環境侵害の深刻度や発生可能性を考慮し、対応の優先順位付けをすることが可能です(CSDDD9)。 |
(iii) | 潜在的な負の影響の防止及び軽減(CSDDD10) 実際の負の影響の停止及び最小化(CSDDD11) | 企業が講じるべき具体的な措置は、以下のとおりです。 【特定した潜在的な負の影響について(CSDDD10.2, 3, 4, 5)】 ① 予防行動計画及びタイムラインの作成及び実施 ② ビジネスパートナーに対する契約上の保証の要請 ③ 財務的又は非財務的な投資、調整及び更新 ④ 事業計画、全体的な戦略及び運用の修正又は改善 ⑤ ビジネスパートナーに対する支援の提供 ⑥ 他の事業体との協力 ⑦ ビジネスパートナーとの協議、能力開発や管理・財政的な支援へのアクセスの提供 【特定した実際の負の影響について(CSDDD11.3, 4, 5, 6)】 上記①ないし⑦に加え、悪影響の中和や最小化、救済の提供 企業は、上記の措置を講じてもなお、潜在的な負の影響を防止又は適切に軽減できなかった場合、最後の手段(last resort)として、ビジネスパートナーとの新規契約締結や既存関係の延長を控える必要があります(CSDDD10.6, 11.7)。 また、企業は、以下の場合には、最後の手段(last resort)として、取引関係を終了する必要があります(CSDDD10.6, 11.7)(※) ① 強化された予防行動計画が奏功すると合理的に期待される場合に、当該計画を採用及び実施したにもかかわらず、これが奏功しなかった場合で、潜在的な悪影響が深刻な場合。 ② そもそも強化された予防行動計画が奏功すると合理的に期待できない場合で、潜在的な悪影響が深刻な場合。 このように、取引終了は、人権への負の影響を防止・軽減するための計画等による改善が見込めない場合に初めて実施することが想定されることに留意する必要があります。 (※) ただし、取引関係を一時的に停止又は終了する前に、その悪影響が、防止又は適切に軽減できなかった悪影響よりも明らかに深刻であると合理的に予想できる場合には、取引関係を停止又は終了する必要はありません。 |
(iv) | 実際の負の影響に対する救済(CSDDD12) | - |
(v) | ステークホルダーとの有意義なエンゲージメント(CSDDD13) | - |
(vi) | 通知メカニズム及び苦情処理手続の確立及び維持(CSDDD14) | - |
(vii) | 人権・環境DDの有効性の監視(CSDDD15) | - |
(viii) | 人権・環境DDに関する年次報告書の公表(CSDDD16) | 企業に重大な変更(※)が発生した際には不当に遅滞することなく、また少なくとも1年に1回、さらに新たなリスクが生じる可能性があると信じるに足る合理的な理由があるときはいつでも、実施する必要があります(CSDDD前文61)。 (※) 重要な変更の例としては、会社が新しい経済セクターや地理的領域で事業を開始したり、新製品の生産を開始したり、悪影響が大きくなる可能性のあるテクノロジーを使用して既存の製品の生産方法を変更したり、リストラや合併や買収を通じて企業構造を変更したりする場合が考えられます(CSDDD前文61)。 |
CSDDDに基づく人権・環境DD実施義務などを怠った場合、企業の前会計年度の全世界売上高の一定割合(少なくとも5%)を上限とする罰則が課せられることになります(CSDDD27.3, 4)。
また、企業は、故意又は過失により、潜在的な負の影響の防止、実際の負の影響の停止に関する義務に違反した結果、国内法で保護される自然人又は法人の法的利益に損害が生じた場合、民事責任を負うことになります(CSDDD29.1)(ただし、企業は、自社のサプライチェーンに属するビジネスパートナーのみによって引き起こされた損害については責任を負いません。)。また、労働組合、非政府の人権・環境団体等が、被害者からの権限付与を受けて各国法に定める条件の下で、被害者に代わって訴訟提起をすることも可能です(CSDDD29.3.(d))。
CSDDDの適用開始時期は以下のとおりです。
EU域内企業 (CSDDD37.1(a)(b)(e)) | 前会計年度の全世界での純売上高が15億ユーロ超、 かつ、平均従業員数が5000人超の場合 | 2027年7月26日 |
前会計年度の全世界での純売上高が9億ユーロ超、 かつ、平均従業員数が3000人超の場合 | 2028年7月26日 | |
前会計年度の全世界での純売上高が4億5000万ユーロ超、かつ、平均従業員数が 1000人超の場合 | 2029年7月26日 | |
EU域外企業 (CSDDD37.1(c)(d)(e)) | 前会計年度のEU内での純売上高が15億ユーロ超の場合 | 2027年7月26日 |
前会計年度のEU内での純売上高が9億ユーロ超の場合 | 2028年7月26日 | |
前会計年度のEU内での純売上高が4億5000万ユーロ超の場合 | 2029年7月26日 |
欧州委員会は、CSDDDに関連して以下の資料を公表予定です(CSDDD18, 19)。
① 2027年1月26日まで:モデル契約条項に関するガイダンス
② 2027年1月26日又は7月26日まで:DD義務の履行についての一般的なガイドライン、セクター別または特定の悪影響に関するガイドライン
自社がCSDDDの適用対象企業である場合には、CSDDDに則った対応ができるよう、可及的速やかに、人権DDの体制の強化(仮に人権DDが未実施であれば実施に向けた速やかな体制整備)を進める必要があります。
この点、CSDDDのガイドライン等の公表までにはまだ時間がありますが(上記2(5)ご参照)、CSDDDのガイドラインの公表を待たずに、人権DDの体制の強化を進めるべきです。CSDDDは、基本的には国連「ビジネスと人権に関する指導原則」やOECD「責任ある企業行動のためのOECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス」等と概ね同様の人権DDの実施を求めるものですので、CSDDDの各規定やFAQ、国連やOECD等が公表している各種ガイドラインや実例等を参照して人権DDの体制を強化していくことにより、CSDDDへの対応が可能となります。
なお、自社がCSDDDの適用対象企業に該当しなくても、例えば以下の場合においては、人権リスクが顕在化した場合の経営リスク等を考慮して、CSDDDと同水準の取組みを自主的に進めることが考えられます。
また、上記の場合には、ステークホルダーからCSDDDに則った取組みを行うことが事実上求められることも十分想定されます。
(※4) CSDDDの適用対象企業は、人権リスクの高い企業との間では、そもそも取引関係を構築しないという対応をする可能性があります。
(※5) 将来的にはCSDDDの適用対象の拡大が見込まれております。
自社の取引先(直接の取引先である場合だけでなく、間接的な取引先も含み得ます。)がCSDDDの適用対象企業である場合、かかる取引先から、CSDDDに沿った人権・環境DDの一環として、①自社に対し人権・環境に関する質問票が送付されてきたり、②人権・環境に対する潜在的な負の影響を防止するためなどとして、取引先の企業方針や負の影響への対応策の遵守が求められる可能性があります(※6)。
上記2(2)のとおり、CSDDDの適用対象企業は、取引先における人権・環境に対する負の影響について、所定の措置を講じてもなおこれを是正等できない場合には、取引関係を停止・終了する必要があります。逆に言えば、自社がCSDDDの適用対象企業の取引先である場合に、CSDDDに沿った対応を実施できなければ、取引関係を停止・終了されるリスクがあるということです。
このようなリスクが現実化しないように、日本企業は、とりわけ、CSDDDの対象企業と直接又は間接の取引関係を有し、かつ、当該取引関係が自社にとって特に重要なものである場合等には、自社のサプライチェーンにおける人権・環境問題について、CSDDDの内容を踏まえた検討を速やかに開始すべきと考えられます。
(※6) CSDDDにおいて企業が取引先に求める対応は、その内容が公平・合理的・非差別的なものでなければならず、必要に応じて金銭的なものも含めた各種支援を提供しなければならないとされています(CSDDD10.5)。したがって、取引先からの要請等があっても、自社のリソース等を無視した過大な負担を強いられるわけではありません。
以上