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事務所概要・アクセス
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<目次>
1. はじめに
2.下請法の主な改正点
(1)「下請」等の用語の見直し(題名、新改正法案第2条8項、同第9項等)
(2)下請法の適用基準の追加(新改正法案第2条8項、同第9項)
(3)買いたたき規制の見直し(新改正法案第5条第2項第4号)
(4)下請代金等の支払条件に関する見直し(新改正法案第5条1項第2号)
(5)物流分野における下請法の適用対象取引の拡大(新改正法案第2条第5項、同第6項)
(6)下請法の執行に係る省庁間の連携の拡大(新改正法案第5条1項第7号、同第8条、同第13条等)
(7)その他
3.まとめ
令和6年7月以降、下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」といいます。)の見直しを検討するために設置された「企業取引研究会」(以下「本研究会」といいます。)が計6回にわたり開催され、同年12月25日に同研究会の検討結果をまとめた「企業取引研究会報告書」が公表されました(※1)。
その後、政府は、同報告書の検討結果等を踏まえてパブリックコメントを実施し、令和7年3月11日に「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律案」を閣議決定しました(※2)(※3)。政府は、2025年通常国会において、同法案の成立を目指すとされており、同法案が成立した場合には、公布日から1年以内に施行されるとされています。
当職らの扱う案件においても改正法下で下請法違反となる事案は多いことから、実務で留意すべき点は多いと思われます。以下では、下請法の主な改正点について紹介します。
※1企業取引研究会「企業取引研究会報告書」
※2公正取引委員会・中小企業庁「「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律案」の閣議決定等について」
※3「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」の法案及び理由(公正取引委員会HPより)
下請法における「下請」という用語は、発注者と受注者が対等な関係ではないという語感を与えるとの指摘や、発注者側も「下請」という用語を用いなくなってきていることを踏まえて、「下請」等の用語の見直しが行われることとなりました。
これまで「下請法」と略されてきた「下請代金支払遅延等防止法」という名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(以下「新改正法案」といいます。)と改められることが検討されています(※4)。また、下請法の下で使用されてきた用語も以下のとおり改正することが検討されています。
下請法 | 新改正法案 | |
親事業者 | → | 委託事業者 |
下請事業者 | → | 中小受託事業者 |
下請代金 | → | 製造委託等代金 |
※4下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律案新旧対照条文(公正取引委員会HPより)
現行の下請法は、下請法の適用対象となる取引の範囲を、下記(ア)及び(イ)のとおり、①事業者の資本金の額と②取引内容(製造委託、修理委託、情報成果物作成委託又は役務提供委託)の2つの要件から定めています(※5)。
しかしながら、会社法における資本金制度の柔軟化や減資手続が緩和されたことに伴い、事業規模の大きな事業者であっても少額の資本金で会社設立されている事例、減資を行うことで親事業者の対象から外れる事例や逆に取引先に増資を求めることで下請事業者の対象から外す事例など、下請法の適用を意図的に免れる「下請法逃れ」が見られると指摘されていました。
親事業者(委託事業者) | 下請事業者(中小受託事業者) | ||
① | 資本金3億円超 | → | 資本金3億円以下(個人を含む) |
② | 資本金1千万円超3億円以下 | → | 資本金1千万円以下(個人を含む) |
親事業者(委託事業者) | 下請事業者(中小受託事業者) | ||
③ | 資本金5千万円超 | → | 資本金5千万円以下(個人を含む) |
④ | 資本金1千万円超5千万円以下 | → | 資本金1千万円以下(個人を含む) |
新改正法案では、恣意的な下請法の脱法行為を防止するために、上記ア(ア)及び(イ)の事業者の資本金基準と取引内容基準に加えて、「従業員数」を新改正法案の対象となる事業者の範囲を画するための新基準として用いる改正が検討されています。
具体的には、以下の基準を、新改正法案の適用基準として追加することが検討されています。かかる改正により、大幅に新改正法案の適用のある取引が増加することになります。
委託事業者(親事業者) | 中小受託事業者(下請事業者) | ||
⑤ | 常時使用する従業員数が300人超 | → | 常時使用する従業員数が300人以下 |
委託事業者(親事業者) | 中小受託事業者(下請事業者) | ||
⑥ | 常時使用する従業員数が100人超 | → | 常時使用する従業員数が100人以下 |
現行の下請法第4条第1項第5号は、親事業者が「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること。」を「買いたたき」として禁止しています。もっとも、近年の労務費、原材料価格、エネルギーコスト等の上昇局面や生産量が減少する場合において、単価等の見直しをせずに下請代金を据え置く行為は、それだけでは直ちに下請代金が引き下げられる場合にあたらないこともあるため、「買いたたき」の要件に当たらない場合もあり、下請事業者の経営を圧迫しているとの指摘がなされていました。
新改正法案では、委託事業者(親事業者)と中小受託事業者(下請事業者)との間で実行的な価格交渉がなされることを確保するという観点から、現行の下請法第4条第1項第5号の「買いたたき」規制とは別途、中小受託事業者(下請事業者)の給付に係る費用の変動等が生じた場合において、中小受託事業者(下請事業者)から委託事業者(親事業者)に対して価格協議の求めがあったにもかかわらず、協議に応じなかったり、価格協議において中小受託事業者(下請事業者)が求めた事項について必要な説明・情報を提供せず、一方的に製造委託等代金(下請代金)の額を決定して、中小受託事業者(下請事業者)の利益を不当に害する行為を禁止する禁止規定を新設することが検討されています。
なお、温室効果ガス削減・エネルギー使用量削減・使用プラスチック削減等に向けた取組みを行う中で、取引先に対して、製造過程における各排出の削減を要請したり、使用部品等を仕様として設定するなどの取組の実施を要請することが、事業者間の公正かつ自由な競争を制限し、独占禁止法上問題となる可能性もあることにも留意が必要です(※6)。
※6以上について、猿倉健司著「ケーススタディで学ぶ環境規制と法的リスクへの対応」(第一法規株式会社、2024年)、同「カーボンニュートラル・SDGsへの取り組みに関する独占禁止法上ガイドラインのポイント(2024年4月改定版)」(牛島総合法律事務所ニューズレター、2024年)もご参照。
現行の下請法の下では、下請代金は手形等(手形、ファクタリング等の一括決済方式又は電子記録債権)により支払うことが認められています。
しかし、政府は令和3年の閣議決定(※7)において約束手形の利用廃止を目標に掲げていることに加えて、電子記録債権や一括決済方式により下請代金の支払をする場合、下請代金の全額を現金で下請事業者が受領するまでの期間が下請事業者の給付の受領日から起算して60日を超えることが多いという問題点が指摘されていました(※8)。
※7令和3年6月18日付「成長戦略実行計画」26頁
※8現行の下請法第2条の2第1項は、親事業者が下請事業者の給付を受領した日(役務提供委託の場合は,下請事業者がその委託を受けた役務の提供をした日)から起算して、60日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、下請代金の支払期日を定められなければならないと規定しています。
新改正法案では、製造委託等代金(下請代金)の支払いについて、①支払手段として手形払いは認めないとすること、②金銭以外の支払手段(電子記録債権、ファクタリング等)は、支払期日までに製造委託等代金(下請代金)の満額の現金と引き換えることが困難であるものは認めないとする改正が検討されています。
平成15年に行われた下請法改正では、下請法の対象取引として役務提供委託(下請法第2条第4項)が追加され、これに伴い運送サービス分野でも元請運送事業者と下請運送事業者の間の取引は下請法の対象取引となりました。もっとも、同改正では、発荷主から運送事業者への運送業務の委託は下請法の適用対象とはされず、発荷主と運送事業者の取引は独占禁止法第2条第9項に基づく「物流特殊指定」(※9)として規制対象となっているものの、買いたたき等の件数は依然として高止まりしている状況にあります。さらに、近年では、発荷主と運送事業者間において、下請代金の買いたたきや、契約では定められていない荷役を無償で行うことの強制、長時間の荷待ちを余儀なくされる等の問題点があることが指摘されていました。
※9「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」(平成16年3月8日公正取引委員会告示第1号)
新改正法案では、事業者が、業として行う販売、業として請け負う製造若しくは修理の目的物たる物品、作成の目的物たる情報成果物が記載等された物品の販売等をした場合において、取引の相手方に対する運送の行為の全部又は一部を他の事業者に委託する行為を「特定運送委託」として新改正法案の適用対象とする改正が検討されています。
下請法違反に該当する行為に対しては、同法に基づく勧告権限(第7条)を有する公正取引委員会、公正取引委員会に対して勧告を求める措置請求(第6条)を行う権限を有する中小企業庁のみならず、各業界の取引実態に精通している事業所管省庁とも連携して、厳正に対処していくことが必要となります。
現行の下請法では、下請事業者が親事業者の下請法違反に該当する行為について情報提供を行った場合の報復措置禁止規定(同法第4条第1項第7号)が設けられていますが、各事業所管省庁に対して情報提供を行った者への保護規定は現状設けられていませんでした。
新改正法案では、中小受託事業者(下請事業者)が下請法違反該当行為を申告しやすい環境を確保するために、報復措置禁止の対象となる申告先として、製造委託等の取引に係る各事業を所管する大臣を追加する改正が検討されています。また、新改正法案の施行に関して公正取引委員会、中小企業庁長官又は製造委託等の取引に係る各事業を所管する大臣(以下「公正取引委員会等」といいます。)が、必要があると認める場合に、委託事業者に対して指導及び助言をする権限が新たに規定されました。加えて、関係省庁間の連携を拡大するため、公正取引委員会等は、新改正法案の施行に必要な限度において、委託事業者(親事業者)又は中小受託事業者(下請事業者)に関する情報で、製造委託等に関する取引を公正にし、又は中小受託事業者(下請事業者)の利益の保護のために特に必要と認められるものを相互に提供することを可能とし、さらに公正取引委員会は関係行政機関の長に対して情報提供その他必要な協力を求めることができる規定を新設することが検討されています。
上記(1)ないし(6)以外にも、①新改正法案の対象取引となる「製造委託」の対象物に、これまでは対象物に含まれていなかった木型、治具等も追加すること(新改正法案第2条第1項)、②支払代金が減額された場合に、減額された代金分の支払についても遅延利息の対象とすること(新改正法案第6条第2項)、③現行の下請法第3条に基づき交付が義務付けられている書面につき、中小受託事業者(下請事業者)の承諾なくして電磁的方法により提供することができるようにすること(新改正法案第4条)、④委託事業者(親事業者)が新改正法案第5条に規定する禁止規定に違反した場合に、かかる違反行為が既に是正されていたとしても、公正取引委員会が再発防止策を勧告できるようにすること(新改正法案第10条)、等についても検討されています。
新改正法案では、令和6年12月25日に公表された「企業取引研究会報告書」等を踏まえた具体的な下請法の改正案が明らかとなりました。同法の改正が行われた場合、法案の公布日から1年以内に施行することとされているため、同法の適用対象となる事業者におかれましては、新改正法案への対応が必要となります。今後は、新改正法案の成立につきまして、その動向を注視する必要があります。
以 上