〒100-6114
東京都千代田区永田町2丁目11番1号
山王パークタワー12階(お客さま受付)・14階

東京メトロ 銀座線:溜池山王駅 7番出口(地下直結)

東京メトロ 南北線:溜池山王駅 7番出口(地下直結)

東京メトロ 千代田線:国会議事堂前駅 5番出口 徒歩3分

東京メトロ 丸の内線:国会議事堂前駅 5番出口
徒歩10分(千代田線ホーム経由)

ニューズレター
Newsletter

2025.03.19

医療法人社団スマイルスクエアに対するステルスマーケティング規制(ステマ規制)に基づく行政処分事例~景品表示法の執行状況~

<目次>
1. はじめに
2. 事案の概要
3. スマイルスクエアに対する行政処分の内容
4. 留意点
5. おわりに

1. はじめに

 令和7年(2025年)3月17日、消費者庁は、医療法人社団スマイルスクエア(以下「スマイルスクエア」といいます。)に対し、スマイルスクエアが経営する「スマイル+さくらい歯列矯正歯科二子玉川」と称する診療所(以下「本件診療所」といいます。)において供給する歯列矯正サービスに係る表示について、景品表示法のいわゆるステルスマーケティング規制(ステマ規制)に違反するとして、行政処分(措置命令)を行いました(※1)。
 令和5年10月に景品表示法のいわゆるステマ規制が施行された後、ステマ規制に基づいて行政処分が行われたのは、①令和6年6月の医療法人社団祐真会の事例(※2)、②同年8月のRIZAP株式会社の事例(※3)、③同年11月の大正製薬株式会社の事例(※4)に続き、今回が4例目となります。
 景品表示法によるステマ規制の内容の詳細及び上記①の医療法人社団祐真会の事例については、2024年6月17日付けニューズレター「ステルスマーケティング規制(ステマ規制)に基づく初の行政処分事例~景品表示法の執行状況~」において、また、上記③の大正製薬株式会社の事例については、2024年11月15日付けニューズレター「大正製薬に対するステルスマーケティング規制(ステマ規制)に基づく行政処分事例~景品表示法の執行状況~」において、それぞれ説明していますので、ご参照いただければ幸いです。
 以下、スマイルスクエアに対する今回の行政処分の内容及び留意点等について、ご説明します。

 ※1 2025年3月18日「医療法人社団スマイルスクエアに対する景品表示法に基づく措置命令について」(消費者庁)
 ※2 2024年6月7日「医療法人社団祐真会に対する景品表示法に基づく措置命令について」(消費者庁)
 ※3 2024年8月9日「RIZAP株式会社に対する景品表示法に基づく措置命令について」(消費者庁)
 ※4 2024年11月13日「大正製薬株式会社に対する景品表示法に基づく措置命令について」(消費者庁)

2. 事案の概要

 スマイルスクエアは、歯列矯正を受けるために本件診療所に来院した者に対し、Googleマップ内の本件診療所のプロフィールにおける口コミ投稿欄の評価として、「★★★★★」(星5)と併せて感想を投稿すること、又は「★★★★★」(星5)を投稿することを条件に、5,000円分のQUOカードを提供すること又は歯列矯正サービスの治療費の総額から5,000円を割り引くことを伝えました。
 これによって、令和6年5月から同年9月までの間、Googleマップ内の本件診療所のプロフィールにおける口コミ投稿欄に、「★★★★★」(星5)の投稿が9件表示されました。

3. スマイルスクエアに対する行政処分の内容

 消費者庁は、スマイルスクエアが来院者の口コミ投稿による表示内容の決定に関与しており、当該投稿による表示はスマイルスクエアの表示と認められるものであること、表示内容全体から一般消費者にとってスマイルスクエアの表示であることを判別することが困難であり、景品表示法第5条第3号(ステルスマーケティング告示)で禁止されている不当な表示に該当することを認定し、スマイルスクエアに対し、同法第7条第1項の規定に基づき、概要以下の内容の措置命令を行いました(※5)。

①スマイルスクエアは、次に掲げる事項を速やかに一般消費者に周知徹底すること
 ア 当該表示は、スマイルスクエアが自己の供給する歯列矯正サービスの取引について行う表示(事業者の表示)であると認められること
 イ 当該表示は、一般消費者が事業者(スマイルスクエア)の表示であることを判別することが困難であると認められる表示に該当すること
②スマイルスクエアは、歯列矯正サービス又はこれと同種のサービスの取引に関し、再発防止策を講じ、これを役員及び医療従事者に周知徹底すること
③スマイルスクエアは、今後、歯列矯正サービス又はこれと同種のサービスの取引に関し、当該表示と同様の表示を行わないこと
④スマイルスクエアは、上記①に基づいて行った周知徹底及び上記②に基づいてとった措置について、速やかに消費者庁長官に報告すること

※5 2025年3月18日「医療法人社団スマイルスクエアに対する景品表示法に基づく措置命令について」(消費者庁ウェブサイト)

4. 留意点

 冒頭で述べたとおり、2023年10月に導入されたいわゆるステマ規制に基づき、消費者庁は、継続的に行政処分を行っており、今後もステマ規制の執行を継続していくものと考えられます。
 とりわけ今回のスマイルスクエアの事例について注目されるのは、ステマ規制に基づく初めての行政処分事例である令和6年6月の医療法人社団祐真会の事例と極めて類似している点です。いずれの事例においても、医療法人が運営する診療所に来院した者に対し、Googleマップ内の口コミ投稿欄に高評価を投稿することを条件にサービスの割引等の提供を申し出て、これによって複数の来院者が口コミ投稿欄に「★★★★★」(星5)を投稿したことがステマ規制に違反すると認定されました。
 この点、ウェブサイト上の口コミ投稿欄に「★★★★★」(星5)を付けることを条件にサービスを割引価格で提供することがステマ規制に違反することについては、「ステルスマーケティングに関するQ&A」(消費者庁ウェブサイト)においても、以下のとおり明確に指摘されています。

Q6 当社では、一般消費者に対し当社のサービスを利用した後に、予約サイトの口コミ投稿を行うことを条件として、サービスを割引価格で提供することを検討しています。この場合、当該口コミ投稿が、告示に違反することはありますか。
口コミ投稿について、サービスに対する評価として「星5(☆☆☆☆☆)」を付けることを条件としている場合はどうですか。
A  前段の場合、口コミ投稿の内容についての指示は含まれていません。また、一般消費者の口コミ投稿を促進する目的で、サービスを割引価格で提供するという程度の関係の下であって、割引程度の対価であることも踏まえれば、表示内容の決定に関与しているとはいえません。
したがって、当該口コミ投稿は、通常、「事業者の表示」には当たらず、告示に違反しないと考えられます。
一方で、後段の場合、口コミ投稿に当たって、「星5(☆☆☆☆☆)」を付けることが条件とされており、事業者は表示(投稿)の内容を決定しているといえるため、「事業者の表示」に当たると考えられます。したがって、「事業者の表示」であることを明瞭にしなければ、告示に違反します。なお、口コミ投稿に当たって、「星5」ではなく、サービスの品質や内容、価格等の取引条件について推奨するコメントをすることが条件とされている場合も同様です。

 したがって、スマイルスクエアとしては、来院者に「★★★★★」(星5)を付けることなどの口コミ投稿を依頼することが、景品表示法のステマ規制に該当するリスクが高いと判断できる可能性は十分にあったように思われます。

5. おわりに

 一般消費者においては、医療機関の提供するサービスの質を客観的に判断する手段に乏しいため、その性質上、過去に当該医療機関を受診した第三者の口コミに頼りたいと考えるのも無理のないところであり、このことが、医療機関においてステマ規制違反の口コミ投稿を依頼する動機につながり得るものと考えられます。
 実際、今回の事例も、過去に行政処分が行われた医療法人社団祐真会の事例と極めて類似し、かつ、消費者庁のQ&Aにおいて明確に注意喚起されていたケースに該当するものであり、類型的にステマ規制違反が行われやすい事例であるといえます。
 医療機関に限らず、広告の一環として自社の顧客等に対して口コミ投稿を依頼しようとする企業においては、当該依頼に応じて顧客等が行う表示がステマ規制に違反し、行政処分の対象となるリスクが無いか、弁護士に相談するなどして慎重に検討する必要があると考えられます。

以上