〒100-6114
東京都千代田区永田町2丁目11番1号
山王パークタワー12階(お客さま受付)・14階
東京メトロ 銀座線:溜池山王駅 7番出口(地下直結)
東京メトロ 南北線:溜池山王駅 7番出口(地下直結)
東京メトロ 千代田線:国会議事堂前駅 5番出口 徒歩3分
東京メトロ 丸の内線:国会議事堂前駅 5番出口
徒歩10分(千代田線ホーム経由)
セミナー
事務所概要・アクセス
事務所概要・アクセス
2023年3月に、公正取引委員会から、「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法上の考え方」が公表され、翌年に改定版(※1)が公表されました(以下、改定後のものを「本ガイドライン」といいます。)。本ガイドラインの概要については、連載「SDGs・ESGへの取組と独占禁止法・下請法①【目次】【グリーンガイドラインの概要】」で説明したとおりですが(※2)、資源循環(サーキュラーエコノミー)や脱炭素(カーボンニュートラル)への取組みについて、独占禁止法(不公正な取引方法、優越的地位の濫用等)や下請法違反(※3)となる場合があります。
本稿では、優越的地位の濫用行為が問題となる事例(連載2の(1))のうち、購入・利用強制と経済上の利益の提供要請について解説します。
連載全体の目次は以下のとおりです。
【連載】 1. グリーンガイドラインの概要(リンク) 2. ケーススタディ (1) 優越的地位の濫用行為が問題となる事例 a. 購入・利用強制(※本稿) b. 経済上の利益の提供要請(※本稿) c. 取引対価の一方的決定 d. 単独の取引拒絶 (2) 事業者間の共同取組が問題となる事例 a. 共同での情報発信 b. 情報交換 c. 自主基準の設定 d. 標準化活動 (3) 取引先の事業活動に対する制限等が問題となる事例 a. 選択的流通 b. 単独の取引拒絶 c. 共同ボイコット 3. おわり |
※1 公正取引委員会「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法上の考え方」(2024年4月24日改訂版)
※2 同「概要版(1枚紙)」(2024年4月24日)も参照
※3 下請法改正について、猿倉健司・堀田稜人「下請法2025年改正検討案の現在(3月11日改正案を受けた改訂版)」(牛島総合法律事務所ニューズレター、2025年3月12日)
事業者が、資源循環や温室効果ガス削減を目的として、取引の相手方に対して、取引の対象となる商品又は役務の品質等に関して、従前と異なる条件を設定するケース |
独占禁止法上、「事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない」とされており(第19条)、「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に」特定の類型行為(後述)を行うことは「不公正な取引方法」に該当します(第2条第9項第5号)。
事業者がどのような取引条件で取引するかについては、基本的に、取引当事者間の自主的な判断に委ねられており、従前と異なる条件の設定を行ったことをもって、直ちに独占禁止法上問題となるものではありません(本ガイドライン51頁)。
もっとも、脱炭素への取組として温室効果ガス削減という社会公共的な目的で取引条件を設定・変更する場合であっても、事業者が、自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して行われるものである場合には、正常な商慣習に照らして不当なものであると認められ、優越的地位の濫用行為として独占禁止法上問題となる場合があります。
なお、優越的地位の濫用に関する解釈や定義については、公正取引委員会のガイドライン(以下、「優越的地位の濫用ガイドライン」(※4)といいます。)もご確認ください。
※4 公正取引委員会「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(2017年6月16日改正版)
また同様に、取引条件を設定・変更することが下請法に違反する場合もあります。
独占禁止法は、「継続して取引する相手方(中略)に対して、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること」を優越的地位の濫用行為となる類型としています(第2条第9項第5号イ)。
同規定における「当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務」には、自己の供給する商品又は役務だけでなく、自己の指定する事業者が供給する商品又は役務が含まれます。また、「購入させる」という要件には、その購入を取引の条件とする場合や、その購入をしないことに対して不利益を与える場合だけではなく、事実上、購入を余儀なくさせていると認められる場合も含まれます(優越的地位の濫用ガイドライン第4の1(7~8頁))。
このような行為は、購入・利用強制を禁止する下請法第4条第1項第6号にも違反するおそれがあります(下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準(以下、「下請法運用基準」といいます。)(※5)第4の6)。
※5 公正取引委員会「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」(2024年5月27日最終更新)
取引上の地位が相手方に優越している事業者が、温室効果ガス削減等を目的として、取引の相手方に対し、特定の仕様を指示して商品の製造又は役務の提供を発注する際に、当該商品又は役務の内容を均質にするため又はその改善を図るため必要があるなどの合理的な必要性から、当該取引の相手方に対して当該商品の製造に必要な原材料や当該役務の提供に必要な設備を購入させる場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとならず、独占禁止法上問題とはなりません(本ガイドライン53頁、優越的地位の濫用ガイドライン第4の1(2)(8頁))。
●(本ガイドライン想定例62 仕様に定められた原材料等の購入要請) ➢ 商品Aの製造販売業者Xは、商品Aの廃棄に伴い排出される温室効果ガスの削減等のため、新たな商品Aは、自然界で分解される原材料Bを用いた部品を主に用いて製造することとした。Xは、新たな商品Aは原材料Bを用いていることを宣伝することで一般消費者向けの販売促進につなげたいと考えているところ、商品Aの製造に用いられる部品Cの製造を委託している取引の相手方Yに対して、原材料Bを必ず調達し、これを用いて部品Cを製造することを仕様として指示した。 ➢ Xは、新たな商品Aに用いられる部品Cの製造を発注するに当たって、Yに対して当該仕様を明確に示した上で、Yにおいて原材料Bを調達するために上昇したコストを踏まえ、十分な価格改定交渉を行った。 |
これに対して、取引上の地位が相手方に優越している事業者が、温室効果ガス削減等を目的として、取引の相手方に対し、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務の購入を要請する場合であって、当該取引の相手方が、それが事業遂行上必要としない商品若しくは役務であり、又はその購入を希望していないときであったとしても、今後の取引に与える影響を懸念して当該要請を受け入れざるを得ない場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり、独占禁止法上問題となります(本ガイドライン53頁、優越的地位の濫用ガイドライン第4の1(1)(8頁))。
●(本ガイドライン想定例63 取引の相手方にとって必要ではない商品の購入要請) ➢ 商品Aの製造販売業者Xは、温室効果ガス削減のため、商品Aの製造過程において自社が排出する温室効果ガスを測定するシステムを導入した。 ➢ Xは、商品Aの部品の製造を委託している取引の相手方が、既に同等のシステムを導入済みであるなど当該システムを新たに導入する必要がないにもかかわらず、商品Aの部品の製造に当たり、当該システムを導入しなければ今後発注しない旨を示唆し、自己の指定する事業者が提供する当該温室効果ガス測定システムを購入させた。 |
事業遂行上必要でない商品・サービスの購入を要請するケースとしては、上記本ガイドライン想定例63のケースのほか、既に導入しているサービスでも対応可能なケースや既に同等の性能の機器・設備を保有しているケースなどが考えられ、この場合には下請法違反のおそれもあります(公正取引委員会・中小企業庁「下請取引適正化推進講習会テキスト」(令和6年11月)(※6)76頁③、171頁6-3)。
※6 公正取引委員会・中小企業庁「下請取引適正化推進講習会テキスト」(2024年11月)
独占禁止法は、「継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること」を優越的地位の濫用行為となる類型としています(第2条第9項第5号ロ)。
同規定における「経済上の利益」の提供とは、協賛金、協力金等の名目のいかんを問わず行われる金銭の提供、作業への労務の提供等をいうこととされています(優越的地位の濫用ガイドライン第4の2(10頁))。
このような行為は、不当に経済上の利益提供を要請することを禁止する下請法第4条第2項第3号にも違反するおそれがあります(下請法運用基準第4の7)。
事業者が、温室効果ガス削減等を目的として、取引の相手方に対し、経済上の利益の提供を要請する場合、当該経済上の利益が、それを負担することによって得ることとなる直接の利益の範囲内であるものとして、当該取引の相手方の自由な意思により行われる場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとならず、独占禁止法上問題とはなりません(本ガイドライン54頁)。
なお、ここでいう「直接の利益」とは、経済上の利益を提供させることが、取引の相手方が販売する商品の売上げ増加、取引の相手方による消費者ニーズの動向の直接把握につながる場合など実際に生じる利益をいい、経済上の利益を提供することにより将来の取引が有利になるというような間接的な利益を含みません(優越的地位の濫用ガイドライン第4の2(1)注9(10頁))。そのため、経済上の利益を提供することにより将来の取引が有利になるということのみを理由に経済上の利益提供の要請を受諾することには問題が生じる場合があります。
●(本ガイドライン想定例64 取引の相手方に対する協賛金の提供要請) ➢ 家電製品等の製造販売業者Xは、温室効果ガス削減のため、省エネ製品の開発及び製造販売に積極的に取り組むとともに、競争者や異業種の事業者との間で、消費者に対し脱炭素に向けたライフスタイル変革を普及啓発する活動を行うコンソーシアムを運営している。当該コンソーシアムに参加する事業者には、一定の協賛金の支払が要請されている。 ➢ Xは、取引の相手方から、当該コンソーシアムに自社も参加したい旨の申出があったため、参加者に要請されている協賛金について、取引の相手方が合理的範囲の負担であるとして提供するか判断できるよう、負担金額や使途等について事前に説明し、取引の相手方における検討の結果、協賛金の支払とともにコンソーシアムに参加してもらうこととした。 |
●(本ガイドライン想定例65 取引の相手方にとって直接の利益となるデータ共有) ➢ 商品Aの製造販売業者Xは、サプライチェーン全体において排出される温室効果ガスの削減に向けて排出量の見える化を行うこととした。そこで、Xは、サプライチェーン内の各取引段階における排出量データを集約するプラットフォームを構築し、取引の相手方に対して、その取引先事業者の排出量データも含め、リアルタイムで当該プラットフォームに排出量データを提供することを要請した。 ➢ 当該データは、各社が前記温室効果ガス削減に向けた取組を検討するために非常に有益であるところ、Xは、営業秘密等に関係し各社が共有を望まないデータを除き、データを提供した各社がプラットフォーム上に集約された排出量データへ自由にアクセスできるようにした。取引の相手方がXに対して排出量データを提供するに当たって必要なプログラムは、Xが提供することとしており、取引の相手方において特段のコストは発生しない。 |
これに対して、取引上の地位が相手方に優越している事業者が、温室効果ガス削減等を目的として、取引の相手方に対し、経済上の利益の提供を要請する行為は、負担の内容、根拠、使途等が当該取引の相手方との間で明確になっておらず、当該取引の相手方にあらかじめ計算できない不利益を与えることとなる場合や、当該取引の相手方が得る直接の利益等を勘案して合理的であると認められる範囲を超えた負担となり、当該取引の相手方に不利益を与えることとなる場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり、独占禁止法上問題となります。
●(本ガイドライン想定例66 温室効果ガス削減等を名目とした金銭の負担要請) ➢ 運送業務Aの提供事業者Xは、自己の利益を確保するため、自己の提供する運送業務Aの一部を委託している取引の相手方に対して、バリューチェーン全体において排出される温室効果ガスの削減のために用いるという名目で、取引額に応じた一定の「温室効果ガス削減対策費」を提供させることとした。 ➢ Xは、「温室効果ガス削減対策費」の算出根拠や具体的な使途を明確にせず、徴収した費用を当該取引の相手方の直接の利益となる活動のために用いていなかった。 |
●(本ガイドライン想定例67 発注内容に含まれない廃棄物回収等の役務の提供要請) ➢ 小売業者Xは、自社の廃棄物排出量を削減するため、納入業者に対して、あらかじめ契約で定められていないにもかかわらず、納入した商品の梱包材をその場で回収する業務に無償で従事させた。 ➢ 当該納入業者による梱包材の回収業務は、自社以外が納入した商品に関する場合もあり、また、梱包材を回収することによって、その後の廃棄や再利用のために当該納入業者にとって一定の負担が生じ、当該納入業者の利益となるものではなかった。 |
●(本ガイドライン想定例68 取引の相手方から収集したデータの一方的な自己への帰属) ➢ 商品Aの製造販売業者Xは、サプライチェーン全体において排出される温室効果ガスの削減に向けて排出量の見える化を行うこととした。そこで、Xは、サプライチェーン内の各取引段階における排出量データを集約するプラットフォームを構築し、取引の相手方に対して、当該取引の相手方の排出量データについて、無償又は当該データを提供するに当たって当該取引の相手方において発生するコストに見合った適正な額を下回る対価により、リアルタイムで当該プラットフォームに提供することを要請した。 ➢ 当該データは、各社が温室効果ガス削減に向けた取組を検討するために非常に有益であるにもかかわらず、Xは、当該取引の相手方による当該プラットフォーム上のあらゆるデータへのアクセスを拒否し、自社における取組の検討にのみ用いた。 |
その他、資源循環(サーキュラーエコノミー)や脱炭素(カーボンニュートラル)への取組を名目として、下請企業に対して「協賛金」「協力金」などを要求する行為は、下請代金の減額(下請法4条1項3号)にあたるおそれもあります。この場合、委託事業者と下請事業者の間で合意があったとしても違反となります(公正取引委員会・中小企業庁「下請取引適正化推進講習会テキスト」(令和6年11月)53頁)。
また、下請事業者に対して、資源循環(サーキュラーエコノミー)や脱炭素(カーボンニュートラル)に資する技術指導や試作品の製造その他研究開発を無償で行うように要請することも、不当な経済上の利益の提供要請として問題となります(公正取引委員会・中小企業庁「下請取引適正化推進講習会テキスト」(令和6年11月)82頁)。
以 上